2007年11月25日日曜日

Interview with - L'Arc~en~Ciel (ken)

今回のL'Arc~en~Cielのニューアルバム『KISS』 は、あえてファン以外の、それも“最近突出したロックを聴いてないなぁ”と感じている人にオススメしたい。なんたってここには、とびきりR&Rでピースフ ルなクリスマスナンバーも、エッジを研ぎ澄ました人力ドラムンベースもすべてが並列してるうえに、未体験のサウンドスケープが展開されてるのだから。果た してラルクはなぜこんなにすさまじいアルバムを作るに至ったのか。アルバム、そして現在のバンドを象徴する代表的なシングル『MY HEART DRAWS A DREAM』『DAYBREAK'S BELL』の作曲者でもある、ギターのkenに経緯を話してもらった。


■今回、曲出しミーティングをしたときにどんなアルバムになりそうな予感がありましたか?

ken:メンバー4人で“このアルバムのコンセプトをこうしよう”とか“音質をこうしよう”とか……個別にはあると思うんですけど……全員 でしゃべることはなく。で、まぁ今回はいつもよりさらに個人で作ってくるデモが、より思いがわかる部分まで突き詰めたレベルで作ってあったんですよね。だ から、そこをさらにプッシュできるというか、そこにそれぞれの曲の色がなかったら、みんなでこんなアレンジがしたいっていうときに、色づけからしなきゃい けない気がするんですけど、色がもうあるんで、それをもっとさらに濃くしよう、濃くすればいいんだなっていうのは個々の曲が出てきたときに感じましたね。


■kenさんの作曲したナンバーはシングルになってる曲も多いですが、リリースの順番でいくと『MY HEART DRAWS A DREAM』はどれぐらい完成したデモで持っていったんですか?

ken:だいたい、そのシンセとかギターもほぼ(CDになったものと)一緒ですよね。で、ベースラインとかドラムの“ここにこんなんを入れたいな“っていうのもデモに入れて上げましたけど。


■なんかオソロシイ曲ですよね、これ(笑)。

ken:そうですか(笑)?


■パブロフの犬状態です。イントロが流れただけでダメです(笑)。

ken:(笑)。ヨダレ出ちゃいます?


■もう、脱力するし、同時に力わくし、みたいな変な状態に(笑)。

ken:あー、なんかわかります。そういう気分って、好きな音楽聴いたときになったりするじゃないですか? で、その曲作ってるときも……2年前かな? 前作の『AWAKE』 を引っさげたツアーと、「ASIALIVE2005」っていうのを連チャンでやって。その前まで、音楽を聴くことにちょっと飽きてたとこもあるかもしれな いんです。CD聴いてもラジオから流れてくるものも、わりと“へー……(興味ない感じ)”みたいな。でも、そのライブをとおして、“あれっ? ちょっとお もしろいことができそうな気がする”って思えたんですよ。で、“いや、絶対ある。驚けるよ、これ”って思ってツアーが終わったんです。そこからしばらく休 憩のときに、もうなんだろ? 自分がホントに心の底から驚けるものを作りたいなと思って。“なんかいいなぁ”とか“悲しいなぁ、良い曲だなぁ”とかそうい う意味じゃなくて、驚ける曲以外はもう作んない! みたいな気分だったんです。そのときにパッと『MY HEART DRAWS A DREAM』のイントロ、メインのメロディーができてきて、パッと書きました。

■言葉が意味を内包して音楽化するってこういうことか? と思いました。hydeさんが「夢を描くよ」って歌う、その音自体が夢を描いてるというか。

ken:うん(笑)。あと、そのツアーのときに感じたもうひとつの要素として、僕、その……洋楽とかを聴いて、ある種言葉を知らずに音だけ を聴いて“カッコいい!”なんて言ってたんですね。ラルクやってるのにある種、邦楽スッ飛ばしたままだったんです。やっぱ自分たちで言葉を吐くほうの音楽 をやっているとは気付いてるハズなんですけど、意識が薄かったと思うんです。でも、そのツアーをとおして、ライブしながら音聴こえるじゃないですか? そ のとき、hydeの言葉がどんどん入ってくるワケですね。言葉って、曲を作って演奏するとか、レコーディングするとか、いわば“曲にする”っていうときに すごい重要だなって。そーれは……“なんで今ごろ気付いてんだろう?”みたいな感じだったですけど(笑)。


■15年たって(笑)。

ken:15年たって(笑)。それでその『MY HEART DRAWS A DREAM』を書いて、hydeの詞が乗ってそこでホントに思ってた驚きがきて。“あ、やっぱ驚かしてくれたよ”と思って、すごいうれしかったですよね。


■それはうれしいでしょうね。ところで、そのkenさんの“驚きたい”っていうテーマは、音楽を聴いてもおもしろくないっていうところからきてたんですよね。もうちょっと具体的に聞いてもいいですか?

ken:いや、うーんとね、ちょっとまぁヒップホップが大流行だったじゃないですか? もう何をどうしてもヒップホップがキテるときは、メ ロディーがある音楽をすること自体、メロディーがあることが悪、みたいな空気を感じてたんですよね。で、時間がたって、いいものというかマインドがすばら しいものはすばらしく聴こえるし、そうじゃないものは淘汰(とうた)されて、フツウのメロディーがある音楽と一緒の感覚の扱いに世間がなったと思うんです よ、去年ぐらいから……。何、質問されたんでしたっけ(笑)?


■(笑)。いや、でも皮肉なことですよね、その後、歌モノ・ヒップホップ全盛になりましたからね。

ken:あ……だから、そういうときが過ぎて、よけいラクになりましたね。ヒップホップもかっこいいのは大好きですよ。あと、ロックとかの “激しい”の意味を、ある側面から“こうしとけば激しく聴こえる”っていうフォーマットができちゃってた時期もあったと思う。オリジナルじゃなくても、す ごい迫力があるものはいいと思うんだけど、“そうしとけばいい”っていうのが流れてきた瞬間に楽しめない気持ちはありましたね。


■じゃあ、ないんなら自分が作ってやろうって気持ちも?

ken:L'Arc~en~Cielというバンドにいるというところと、ちょうどアルバムを作るというところで、それはそうだったかもしれないです。

■で、このアルバムはホントに一気に聴けちゃうんですが、なんなんでしょうね? この明るさというか前向きさというか。

ken:うーんと、その、まぁ直接聞いたんじゃなくてhydeがインタビューに答えてる雑誌読んで気付いたんですけど(笑)。


■遠まわしなバンドですね(笑)。

ken:hyde自体は、ポップなことにかかわってたんだよね?(スタッフに聞く)斜め読みだから、何がポップなことかはちょっとわかんな いですけど、“ポップなことを意識してた”みたいなことを言ってたので、その部分の要素がアルバムのそこの部分を増幅してるんじゃないでしょうかね。


■15周年のライブのとき、hydeさんはMCで“歌うことがすごく楽しくなった”とおっしゃってましたけど。

ken:ねぇ? けどあれね、本心なのか本心じゃないのかぜんっぜんわかんないんですよね、正直。


■えー(笑)?

ken:まぁ本心だとは思うんですけど、あぁいうとき冗談とか言うから。でもたぶんすごいとこまで行っちゃったんじゃないですか? 確かに 15周年……その前からも思ってたんですけど……やっぱ言葉が刺さってくるし。今回もやっぱ言葉が刺さる歌だったんですよね。だからそこの巧みさっていう のを楽しんでんのかな? って気はします。


■確かに『Hurry Xmas』みたいにかわいらしい曲でも、言葉はすごく入ってくるし。

ken:何の要素がそうしてるかはわかんないですけど、“これはポップだろうな”“これはコアなもんだろうな”っていうものが、同じ土俵の上に並んで見える感じというか。それはおもしろい気分です、うん。


■では今回、ご自身の曲以外で、すごく育っていった曲とか3人に驚かされた曲といえば?

ken:最初に言ったとおり、デモの段階でカタチは見えてたんで、すごい変化した曲っていうのは、そこまでないかもね?


■じゃ、曲が出てきた段階でびっくりした曲は?

ken:やっぱ『Hurry Xmas』ですね(笑)。で、最初この曲はストリングスとかのアレンジは入ってなかったんですけど、ビートとかジャズの空気っていうのはもう入ってたん で、“おいおいやったことないじゃん”“ええ~っ?”みたいな(笑)。しかもhydeが“クリスマスソングだ”って言った瞬間に余計“そうかー”って。


■おもしろいんですけど、この曲、キリスト教的なクリスマスを全然感じないんです。

ken:はははは。


■もっと自由な架空の楽団っぽくて。

ken:そうですね。やんちゃさは求めてたし、パーティーとしてのクリスマスへの思いの曲だとは思うし。


■クリスマスの定石に落ちそうで落ちてないところに“やられたなぁ”と(笑)。あとほかにびっくりした曲ありますか? けっこう出てくる人から、出てくるべくして出た曲ばかりですか?

ken:あとは……『SEVENTH HEAVEN』もびっくりしましたね。


■完全に確信犯じゃないですか? 今回hydeさんは。

ken:かもしんないですね(笑)。最初は打ち込みでいきそうな空気っていうのが漂うデモだったんで、“そうきたか~”って。でもやっぱり バンドはすっごいアレンジを頑張るか、ロックだ! っていう何かを注入していかないと、それこそデスクトップのミュージシャンと一緒になっていく時代なの で。その辺は出していかないといけないなとは思いますね。

■それにしても、自分が楽しんで驚いてというのが大前提だとしても、その本気感がすごいんですね、今回。

ken:だから本気で臨まないと自分らが驚けない年になっちゃったってことじゃないですかね。


■いろんなことに対して×をつけることのほうが多くなるのかもしれませんね、“もう見た”みたいな。

ken:そうそう。“もう見た”“これ何年前にやった”“知ってる”ってなっちゃう。


■だからといって、やってないジャンルとかで新しさを出すんじゃなくて、自分も変化していってるということを素直に表現してる感じですね。

ken:まさにそのとおりですね。なんか言葉で説明できないんですけど……、驚くこだわりはここであって、見た目のここじゃなくてっていう気分はありました。……何もわかんないですね、この説明じゃ(笑)。


■(笑)。でもそれがL'Arc~en~Cielっていうバンドのユニークさだと思います。じゃあ最後にすごくカジュアルな質問を。アルバムもできて、プロモーションも忙しくて、またツアーも始まりますけど、kenさんは普段は何してるんですか?

ken:普段ですか? ……何してる?(スタッフに聞く)ギター弾いてるよね? とにかく弾いてる。


■そんなに探求を(笑)。

ken:ちょこっと練習するとダメなとこが見つかるんですよね。で、それをやって練習してるうちにまた見つかる、と。で、どんどん自分の思ってるところへ近づいて行くのが止まらないんですよね。それが楽しいんだと思います。うん。そんなんばっかりです。それと散歩ぐらいで。


■散歩はめい想できますからね。

ken:散歩、ぼんやりできますよね、うん。


■そうですか。ところで今、『Hurry Xmas』弾けます(笑)?

ken:大丈夫ですよ、もちろん(笑)。