心あるミュージシャンの2作目のアルバムには、型破りな好作が多かったりする。1作目はいわゆる自己紹介。偏らないように、誤解されないように、バランスを取りつつキチンとまとめていく。そんな、ある意味礼儀正しいあいさつが済んだところで、次に見せるのは“実は、こんなとこもある人間なんですけどね……”という普段着姿のキャラクター。だから場合によっては3枚目の横顔をチラ見できたり、意外にマニアな部分を知ったりと1作目からは伺い知れない “素”に触れることもできる。
Aqua Timezのセカンドアルバム『ダレカの地上絵』は、まさにそういう作品だ。『一瞬の塵』『ピボット』『秋の下で』などなど、知らなかった彼らがここにはたくさんいる。自己紹介後だからこその、肩の力を抜いて自分たちの音楽を自由に奏でているAqua Timez。その“やんちゃ”ぶりも耳に楽しい好作だ。
■今回の制作は、かなり忙しいなかでのことだったんじゃないですか?
mayuko:前作(『風をあつめて』)は、2か月間レコーディングに集中することができたんですけど。今回は間にツアーがあったりしつつだったんで、わりと頭の切り替えが大変でしたね。
太志:ライブの日はレコーディングのことなんてもちろん考えられないし。ライブが終わったところで、ライブの余韻に浸ってるから考えないし。次の日は移動で疲れるから、また考えないし。で、そうやってどんどん歌詞は書かないし(笑)。最終的には時間との戦いになるんですけどね。でもそこで妥協はしたくないから、ギリギリまでネバってましたね、今回も。
■“こういうアルバムにしたい”みたいな、何かビジョンのようなものはありましたか?
太志:バンドってことにこだわりたかったですね。5人でやってる意味、みたいなことに。
TASSHI:前回は自分の演奏にこだわってたとこがあったんですけど。今回は曲の世界観や、バンドとしての音にこだわったというか。
太志:こだわり方が変わったと思うんですよ。自分らがイメージしているような音に仕上がるかどうか、そこをいちばん気にしてたんで。
■そのせいか、聴いた印象が前作とだいぶ違いますね。今作のほうがやんちゃというか。
太志:前のはカチッとしてますよね、今思うと。それはたぶんビビッてたからだと思うんですよ。でも今は少し余裕も出てきたから、遊ぶこともできるっていう。今回のど真ん中の曲が『小さな掌』だとしたら『ピボット』とか『乱気流』は完全に針が振り切れてるし。そういうことも、今だからできた気がするんです。
■そこが前作と最も違うところですか。
太志:そうですね。やっぱり1枚目のフルアルバムって、自分らのことを知ってもらえる半面、“こういうバンド”って決めつけられることでもあるから。誤解のないように全部出したい、と思ったし。だからこそ、カチッとしたアルバムになったんだろうなって。だけど今回は、そういったとこから離れて作ったんで、遊べたんだと思うんですよね。
■ところで皆さんにとって今回のアルバムはどんなものとして感じられますか? また特に印象に残っている曲はどの曲になりますか?
大介:印象に残っている曲は『一瞬の塵』。この曲、レコーディングしてるときは理想としてる音になっているかどうか、まったく見えなかったんですよ。それがミックスダウンのときに“これ、これ”っていう音になってるのがようやくわかって、ホッとした(笑)。で、アルバムは、音の面で1歩先に進めた気がしますね。
TASSHI:『秋の下で』ですね。音質のこだわりがいちばんよく表現できたかな、と思える曲だから。あとアルバムに関しては、やっとロックアルバムになったと思いますね。
■ちなみに前作はロックアルバムではない?
TASSHI:あれはポップアルバム。バリエーションには富んでたんですけど、やや起伏に欠けたところがあって。ロックアルバムと呼ぶには、うまく振り切れなかったという感じかなと。
太志:TASSHIはそこらへんに非常にこだわりがあるんで(笑)。で、僕は『一瞬の塵』。この曲、今までのAqua Timezのなかでいちばんカッコいい曲だと思う。シングルじゃ絶対できない曲だから。ぜひ聴いてほしいなって思う曲でもあって。そしてそういう曲がけっこうあるところが、このアルバムのいいところでもあると思いますね。
OKP-STAR:基本は僕も『一瞬の塵』なんですけど……。今日は『ガーネット』にしてみますか(笑)。これはもう暗いというか、寂しいというか、そこが好きですねぇ。静と動をすごく意識しながら弾いた曲でもあるんですけど、中途半端に両方混じってるのが、とにかくイヤだった曲ですね。でも今回のアルバムは、そういう意味でいうと全体的に静と動みたいなものがハッキリ出た1枚になってるかもしれない。
mayuko:日によって気になる曲も変わるんですけど……、今日は『僕の場所』にします(笑)。この曲ってなんか安らぐというか、安らぎながら開けた希望も見えるとこが、アルバムの最後を飾るにふさわしい曲になったなぁって。しかもこれ、生のハープの音も入ってるんですけど、その音色がすごく美しくて、感動した曲でもありますね。そしてアルバムは、とっても流れのいいものになったと思いました。
■それ、ありますね。本当に流れがスムーズだと思いました。
mayuko:曲間決めるのも、かなり何回もみんなで聴いたりして。
太志:流れは大事なんで。僕ら、いろんなアプローチの曲をやるでしょ。だからこそちゃんと考えないと、なかなかいい感じでハマらないっていう。今回もそこらへんはすごい考えましたね。
太志:あと今回、歌詞に関しては“あなた”とか“君”とかが増えたと思う。前は“僕”とか“私”が多かったし、自分のなかの葛藤(かっとう)ばっかり書いてたんだけど。人と向き合うことでしか、自分を知ることもできないってわかったので。だって孤独だって、人と向き合ったときに生まれてくるものじゃないですか。だれにも向き合わずに逃げてるだけじゃ、自分のこともわかんないっていうか。『小さな掌』が特にそういうことを書いた曲なんですけど、自分と向き合うより人と向き合うことのほうがずっと難しいよ、みたいな。
■一見、自分と向き合うことのほうが試練のように思えますけどね。
太志:そうなんですよ。自分と向き合って悶々(もんもん)としてるのってすごくつらそうに見えるけど、実は外に出て人と向き合ってるほうがずっと大変で勇気のいることだったりして。しかもおれとか、自分と向き合うってことを、外に出たくない逃避として使っちゃったりするから。もうなかば癖になってるんで。でもそれじゃダメだっていうのを今回はかなり歌ってるんですよ。
■それは自分と向き合うことを歌った次のステップとして、そうなったわけですか?
太志:そうそう。たとえば『僕の場所』って曲もすごい昔の曲なんだけど、今のおれが歌うべき歌だと思ったし。でも今回の歌詞は人と向き合うってところで書いたものばかりだから、すごく健全だと思う、歌詞として。
■するとアルバムタイトルの『ダレカの地上絵』というのも、そこらへんからのネーミングですか?
太志:これはジャケットの絵ともかかわってくることなんだけど。なんていうか、大きく見たときの人間、みたいな。大っきなとこから見たら、人間って同じようなことで悩んで、悲しんで、喜んで、だと思うんですよ。
■それを“ナスカの地上絵”になぞらえて。
太志:そう。空から見たら絵になってるわけじゃないですか、あの地上絵も。何となく、そのイメージがあって。
■それにしても去年から今年にかけて、怒とうのような日々だったのでは?
太志:相当濃かったですね(笑)。でも、いい曲を作りたくてそれを路上で歌ってて、あのときの気持ちをどれだけ強く持っていられるかが大事だなって。こうして言いながら、自分に言い聞かせてるんですけど。結局、そこが崩れたら、全部崩れていくんだと思うし。きっと曲を作りたいと思って、作った曲を聴かせたいと思って、そういう情熱を持っていられる人がずっと音楽を続けているんだと思うんですよね。
■しかし今年ももう11月ですね。あっという間の1年で。
太志:ですね。だけど冬になりかけのこの時期って、すごい好きで。空気がヒンヤリしてくると、人恋しくなるでしょ。その寂しい感じが、すっごく好き。特に夕方が好き。日射しも、なんか気まずそうじゃん(笑)。強いのと弱いのと、どっちでいこう……? みたいな。その気まずそうな感じもまた好きなんですよね。全然関係ない話で申し訳ないけど(笑)。
2007年11月22日木曜日
interview with - Aqua Timez