2007年11月28日水曜日

interview with - B'z

 実績の積み重ねでゆっくりと成熟しながらも、常に未来を力強く切り開いていく、目のさめるようなフレッシュネスを保ち続けているB'z。2007年9月21日より結成20周年目に突入した彼らが、16枚目となるオリジナル・ニューアルバム『ACTION』 をリリースする。名声や記録に決して寄りかかることをせず、音楽的冒険心と大いなるチャレンジ精神で次々と金字塔を打ち立ててきた彼ららしく、新作は全 17曲収録という圧巻! のフルボリューム。しかもバリエーションが豊富で、ベクトルも多彩。未来へ向けてのさらなる“攻め”のアティテュードが明確に表 れた、重厚かつ痛快な1枚だ。


■“コンセプト、テーマを立てない”というのが、B'zのアルバム制作に対する基本的なスタンスですけれども。今作はこれまで同様、新しく曲ができるたびに録っていく、という形だったのでしょうか?

松本:そうですね。去年、映画(「俺は、君のためにこそ死ににいく)」)のために『永遠の翼』を書き下ろしたところがアルバムに向けてのスタート、だったんですけれど。そこから“できた曲から順番に”という形です。ただ、今回は時間もたっぷりあったので、ゆっくりと時間をかけてやりました。

稲葉:あまりペースを詰めすぎないようにして、そのなかでコンスタントに結果を出しながら進めていった、という感じです。


■その“ゆっくり”のなかで、どのように流れや向かう所を考えながら進めていったのですか?

松本:今回は、ここ何作かでやってきたジャムセッションではなくて、東京で完ぺきにデモを作り込んでしまってロスには(楽器の)ダビングだ けに行く、というやり方に変えたんです。実は年明けに一度、何曲ぶんかのメロディーを持ってロスに行ったんですよね。で、参加してくれるミュージシャンた ちと一緒にスタジオに入ってセッションしながら曲を形にしていこう、と思っていたんですけれど……芳しい結果が出なくて。正直、ドン底に近い気分になるぐ らい結果が出なかったんです。

稲葉:ケミストリーが起きなかった、というか。たぶん、何かがかみ合ってなかったんだと思うんですけれど。

松本:で、 一度すべてをフラットにして、東京に戻ってプリプロダクション(※編集部注)からやり直したんです。そこでまず、新しい曲からトライしていって、そのあと にロスに持っていった曲から選び抜いたものを形にして。その作業を5月までやって、そこから再びロスにレコーディングのために行きました。


■リスタートしてからはスムースに?

松本:ええ。初日からもう、フルコーラスを1日で形にして、といういつものペースになって。そこからすぐ、波に乗りました。

稲葉:アレンジの段階で詞のアイデアも生まれたし。良いリスタートを切れましたね。


※編集部注 / レコーディング前に曲の構成やアレンジを詰める作業のこと


■東京での制作のなかで、フックになった楽曲というのはどの曲だったのでしょうか。

松本:『黒い青春』、『純情ACTION』……。

稲葉:『パーフェクトライフ』とかも“おもしろいな”っていう話をしながらやっていました。


■けっこうクセのある曲が挙がってきますね。それはやはり、B'z自身が今回の制作において自分たちにとって刺激のある曲を求めていた、ということの表れでもあるのでしょうか?

松本:うん、それはあるでしょうね。もう、長い間活動してきてますからね。だから今回は、曲の構成が今までのB'zとは違って、複雑という かいろんなセクションが出てくる……。そういうのはもう、ホント意識的にやっていましたから。アレンジを固めていくときにも、2番までいったらその場で違 うセクションの歌のメロディーも創ったりもしていたし。とにかく、“AメロBメロCメロ(※編集部注)を繰り返して間奏、そしてコーラスを続けて終わり” みたいなものは絶対にやりたくなかったので。


■『光芒』とか、最後にまったく色の違う大サビが出てきますし。そういうことですよね?

稲葉:はい。あのセクションは、あとから考えて作りましたから。

松本:『光芒』は、やっていくうちにどんどん大作になっていたんです。これは楽しかったですね、やっていて。あと、“シャッフルの曲がやりたいな”と思って創り始めた『HOMETOWN BOYS' MARCH』も、予想以上におもしろい展開の曲にできたと思います。


■では、再びロスに向かってからのミュージシャンたちとの作業のなかで、新しくアイデアが生まれて広がっていった楽曲というのもあったのでしょうか?

稲葉:『トラベリンメンのテーマ』ですね。最高に笑いましたよ、これは(笑)。

松本:ものすごく分厚い、“ビートルズがどのようにレコーディングしてきたか”っていうことが書かれている本があるんですけど。これがもう、エンジニアの人以外には全然おもしろくない本なんだけど(爆笑)。それをジェイ・バウムガードナー(エンジニア)が持ってきて。で、シェーン・ガラース(ドラムス)も大好きなんですよ、そういうのが。だから、この曲はその本に書いてあるリンゴ・スターの ドラムのマイキングを参考にして、ドラムのマイクの位置を決めて。しかも、ショーン・ハーレー(ベース)がまた、ヘフナーのバイオリン・ベースを持ってき て……。ですから、この曲のリズムセクションはビートルズ・スタイルで録ったんです(笑)。でも、すっごく音がいいんですよ、これ。

稲葉:スピーカーからフィードバックの音が出た瞬間、シェーン自身バカ受けしてた(笑)。でもそうやって、みんなが前向きなアイデアを持ってのぞんでいたので、ロスでのレコーディングの現場もとてもいい感じでしたね。


※編集部注 / Aメロ:歌いだしの部分、Bメロ:サビへと展開する部分、Cメロ:Bメロの次にくるメロディー


■ところで、今回のアルバムは、ギターサウンドの重めのものが比較的少ない印象を受けたのですが。全体的に軽やかというか。

松本:アルバムをとおして? いや、そうでもないと思いますけど。


■音色やフレーズはすごく繊細に響いてくるんですけれど、そのぶん重戦車級のリフものとかが……。例えば、『MONSTER』とか『BIG MACHINE』みたいなタイプのアプローチが見当たらないような気がしたんです。

稲葉:ゴンゴンゴン! ってやつですね(笑)。

松本:あぁ、なるほど。でもそれは、けっこうキャッチーに聴 こえてる、ってことじゃないですか。同じぐらいの音質で、『黒い青春』にはローがずっと入ってるし。『純情ACTION』にもけっこう重い音が入ってるん ですよね。ただ、今回はギターの録り方を変えてみましたし、アンプも僕のではなくてジェイが持ってきたのを使ったりとかもしてるので。だから、音は以前と はちょっと違いますよね。あと、アルバムをとおして“変わらなきゃ”っていう意識があったので。あまり自分だけで固まらないでとか、いろんなことにトライ してみるとか……そういう部分が表れてるんじゃないかな。


■そして、歌詞についてなんですけれども。“陰日向”でいうと、“陰”のほうで必至に生き抜いている人物が描かれたものが中心になっている印象を受けたのですが。

稲葉:それは、自分の状況がそういうふうに書かせる状況にあったからだと思うんですけれど。“光”という言葉が最初から道しるべとしてあっ たわけではないんですが、後半になって“光に向かってもがき苦しむ”とか“突き進む”“葛藤(かっとう)する”っていう場面が多いことに自分でも気がつい て。で、“光”というのが(全体的な)テーマなんだな、と。それで、それをタイトルにもしたいなと思っていたんですけど、最終的には“光に向かって何かし らのアクションを起こす”というイメージから“ACTION”という言葉がアルバムタイトルになったんですよね。だから……光に向かっている、ということ は陰にいるっていうことだから、今のその指摘はすごい正しいと思います。


■今おっしゃった“自分の状況”にあったその背景、というのは?

稲葉:それはもう、普通に話してたりニュース見てたり……そういう状態はいっぱいあるので、今だから歌うっていうことではないんですけど。 いつの時代もそうなので。それに、特に答えっていうのもないし。で、結局自分も答えをあまり提示できないので“どうしようかな”とも思ってましたし。でも 『光芒』の最後で、“結局本人は光のところに出られるかわからないんだけれど、それに向かっている姿がだれかにとっての光になればいいんじゃないか”とい う結論に達しまして。うん、そこでアルバムを作っている自分のなかで……解決じゃないですけど、ある種の結論も得られたな、って。書いてるときはそんなに 思ってなかったんですけど、できあがって聴いてその部分にくると“たしかに!”と思ったりするので。