2007年11月12日月曜日

intervie with - 絢香

 絢香としては久々のリリースとなる新曲『Jewelry Day』は、過ぎ去った日々への単なる郷愁ではなく、むしろ今の自分にとって糧となっている強い思いをつづった、彼女自身の強い意志を明確に感じる楽曲に仕上がっている。彼女自身が、2006年のデビュー以来怒とうのような日々を経てきたからこそ、感じるリアリティーとでもいおうか。単なるラブソングという言葉では片づけることができないほど、美しくまっすぐな楽曲だ。そんな絢香自身にこの新曲に秘めた思いを語ってもらった。


■この1年の状況の変化はすさまじいものがあったんじゃないですか? まさしく怒とうの日々というか。

絢香:そうですね。ずっとなりたいって思い続けてきたものだったりはしたんですけど、まさかこんな日々が続くとは……ってぐらい怒とうのような毎日で。歌をやりたいっていう思いだけだったんですよね。じゃあ、それがかなったとき、どんな毎日を過ごすんだろうってところまでは想像もしてなかったものですから。例えば、私ひとりの仕事の流れのなかでも、いろんな人がつながってお仕事を進めていくので、そういう部分も驚きだったし、いろいろと学んだ1年でもありましたね。


■コブクロとのコラボレーションだとか、ホントに短期間で広がっていきましたもんね。テレビドラマの主題歌とかもそうですけど、ひとつひとつを見ればデビュー前に“あんなふうにやれたらいいな”っていうあこがれの対象だったかもしれませんけど、実際は数珠つなぎのように続いたわけですもんね。あまりの忙しさに記憶がない、とかそういう状況だったんじゃないですか?

絢香:記憶は常にあるんですけど(笑)、でも立ち止まる余裕のない感じだったんで、とにかくもうがむしゃらに……明日、明日、明日っていう。もうそれすらできないこともありましたけどね。明日のことを考えなきゃいけないのに、その先を見てあせってしまうこともありましたし。


■そんななかでも楽曲はしっかり制作し続けてきたわけですが。

絢香:そこはしっかりやっておかないと逆に何にもできなくなってしまうので。リリース予定はなくても、制作活動だけは必ずやってたんですよ。だからそのスタンスは変えずにいてホントに良かったなと。忙しい日は特に思いましたね。あせらずに済んだこともありましたし。


■去年の怒とうの日々のなかで、音楽やってて良かったなって思う瞬間みたいなものはありましたか。

絢香:瞬間瞬間でそう思うことはありましたね。あとはいろんなアーティストの方たちとの出会いも大きかったですし。先輩アーティストの方からアドバイスをいただいたり。同じ立場に立たないとわからないことってあるんですよね、やっぱり。そういうことが聞けたりしたのは自分にとっても大きいことでした。


■安藤美姫さんとの共演もありましたし。

絢香:お互い忙しい時期ではあったんですよね。安藤選手は安藤選手でトリノがあったり、お互い大事な時期でもあったんで、ゆっくり話したりはできなかったんですけど、ライブを見に来てくれたりとか、そういう行き来はあって。やっぱりすごい刺激になるんですよね。彼女が頑張ってる姿とかを見ると私は私でパワーをもらったし。


■そういうことができたのも、がむしゃらに頑張ってきた自分へのご褒美、みたいな思いってありましたか。

絢香:そういうのもありましたけど、とにかく彼女に対して“おめでとう!”って気持ちのほうが強かったですよ。それだけであの場所に行ったというか。普段はライブとかでもみんなにパワーを与えたいっていう思いが強いほうなんですけど、あの日はひとりの人に“おめでとう!”って気持ちを伝えたいっていう。新鮮でしたね、そういう意味でも。


■でもたった1年なんですよね(笑)、デビューして。

絢香:そうなんですよね。自分でもそう思います。


■それだけ濃密な活動を続けてきたんですよね。そんななか、新曲が出るんですが。映画(「ラストラブ」)の主題歌なんですよね。

絢香:はい。でも曲自体は映画の話をいただく前からあった曲で、1年ぐらい前にできあがっていたんですけど。お話をいただき、映像を見せていただいたときに、この曲の世界観とリンクしているなぁって思ったんですよ。ぴったりだなぁと。もちろん書き下ろすっていうことの楽しさもあるんですけど、偶然のリンクが決め手になったというか。


■映画自体はすごく大人っぽいイメージですよね。

絢香:ですよね。田村正和さんと伊東美咲さんの、親子ほど年の離れたふたりの物語ですけど、男女の恋愛だけじゃなくて、人と人との愛情の形というか、そういう深い物語なので。そこに私自身も共感したんですよ。今回の曲は“キラキラとした、宝石のような日々”っていう、そういうニュアンスを伝えたくて、言葉を紡いでいったんですけど。なんかこう…… 過ごしてきた道や時間って、人それぞれ全然違うんですけど、だれにでもあって、そしていい思い出ばかりじゃないし、つらかったり悲しかったりするのって当たり前だと思うんですよ。


■確かにそうですね。

絢香:でも、そのとき与えられた試練を理解できないまま抜け出してしまうことのほうが多いような気がするんですよね。でも、時間がたって、 “あのときつらかったな”って振り返ってみるのって悪いことじゃないというか。あのときの意味ってこうだったのかなって……そうなったときにやっとつらい日々もキラキラと輝くような気がするんです。この曲って、つらい日々を思い返すなかにも気づく幸せな日々があるっていう歌なんですけど、それってすごく大事なことだと思うし、過ごしてきた日々と今って切っても切れないものだと思うし……。だからこそ振り返る時間に意味があるというか。私自身もね、去年全速力で走ってきて、今ようやく少し振り返る時間が持てたっていうこともあるので。


■じゃあ、今この曲を歌う意味ってすごくありますよね。

絢香:ありますねぇ。書いてはいたけど、ホントに振り返れてるかっていえば、そのときはそんな余裕はなかったと思うし。タイミングとしては、ホントに今って感じですね。


■映画の話があったとはいえ、まさにジャストタイミングですよね。今の心情そのまま、というか。

絢香:本当にそう思いますよ。また、そう感じられる自分も幸せだなって。つらいときやしんどいときって必然だと思うんですよ。絶対に意味があると思うし、そういうときって「これは何かがある」と思いながら過ごすことにしているので。


■例えば絢香さんにとって、そういうつらい時期ってあったりしたんですか?

絢香:17才のときに大阪を出てきたことが自分にとっては大きなことで。家族と離れて暮らすのも初めてだったし。すごい不安だったし寂しかったんですけど、離れてみてわかることってありますよね。普段はそばにいるからあまり意識することすらなかったものの大切さというか。そういう意味では得たもののほうが大きかったですよね。だから東京出てきたばかりのころはつらかったですよ。だれに何を相談したらいいのかもわからなかったですし。どうしていいのかわからなかった時期がありましたね。


■でも、音楽だけは続けようと。

絢香:ですね。そのために東京に出てきたので。


■そのつらさを克服するための努力みたいなものってありましたか?

絢香:努力ってほどのものではなかったですけど、感じたことを言葉として書きとめておこうってことは意識して続けてましたね。そのとき感じたことはその瞬間しか感じることができないものじゃないですか。


■そうやって思ったり感じたりすることが後々歌詞を書くときのヒントになったりすることってあるんじゃないですか?

絢香:ありますね。やっぱりそのときに思ったことって曲に出てくるんで、とにかく形にしますね。私の場合、アンテナを張りたくなくても張ってしまうんですよ。いくら休みの日で友だちと遊んでいても、何か感じてしまったら書きたいって思ってしまうし、きれいな景色を見たら言葉が出てくるし。だから仕方がないんでしょうね(笑)。逆に書かなきゃって思ったら、書けなくなってしまうタイプかもしれませんけど。


■いつもは自然に言葉が出てきてしまうんですか?

絢香:わりと日々過ごすなかで、残しておいたりとか……とにかくメモですね。いざ形にするときにそれが生きるというか。人と話していて感じたことがあれば書きたくなってしまうし、腹が立つことがあればそれはそれで書きたくなりますし(笑)。


■やっぱりそういうことはあるんですか?

絢香:もちろんありますよ。人間ですから(笑)。