2007年11月3日土曜日

Interview with - ASIAN KUNG-FU GENERATION

約1年ぶりのニューシングル『アフターダーク』のリリースとともに、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新しいシーズンがいよいよ幕をあける。ここ数年、日本のロックバンド・シーンをリードし、海外のバンドや若い世代との交流をとおして磨き上げてきた、センスとスキルと勢いとをダイレクトに詰め込んだ会心の一撃だ。バンドの現在位置、シーンの現状、楽曲制作、そしてきたるべきツアーに臨む気持ちまで、充実感あふれる4人の生の声をお届けしよう。


■去年までとは違って、今年はかなり余裕を持って制作に取り組んでいるのではないですか?

後藤:今年は、そうですね。わりとゆったり曲を作ったりしながら、リリースの予定を何も立てずにやっていたので。制作が短期間だと、精神的に入り込みすぎちゃうというか、スイッチがオンのままで3か月とか暮らしちゃうから、消耗がすごくて。『ファンクラブ』とか、作ってるときはそんなに大変だとは思わなかったけど、終わってからドッと疲れたので。今はリフレッシュの時間もあるし。精神的にゆとりがあります。


■恒例の“NANO-MUGEN FES.”も、今年はやらなかったですね。

後藤:はい。まぁちょっと、このままやり続けるとわれわれのスタッフがイベンターになってしまいそうなので(笑)。難しいですね、なかなか。夏フェスに出たかったというのもあるし、アルバムを腰を据えて作りたかったので、“NANO-MUGEN FES.”をやると精神的にも体力的にもキツイかなという判断だったんですけど。


■価値の高いフェスですからね。日本のバンドと海外のバンドとの交流の場でもあるし、あの場所をひとつのきっかけにストレイテナーやELLEGARDENが広く知られるようになったわけだし。大事に続けてほしいと思ってます。

後藤:まぁいろんなところに分断があると思うし、洋楽と邦楽とかね。そういうものの架け橋になればいいかなというのはあるので、そういうことも含めて、また新しい挑戦や課題はあると思うし、これからもやっていけたらいいねという話はしてます。ただ、その前に自分たちの表現自体がしっかりしていかないといけない。それがないと何を言ってもしょうがないし、自分たちが作っているものが良くなければだれも聴いてくれないから。まぁでも、シーンに対する責任感はそんなにあるわけじゃなくて、自分がいいと思う楽しい方向になってくれればいいなと思うだけで、はっきり言えば自分たちのためですよ。これが文化的にちゃんと根付いていけば、われわれはその恩恵をすごく受けますからね。ぼーっとしてたら、音楽があまり必要とされないものになってしまう可能性があるんですよね。CD自体が、まぁいいじゃんレンタルでとか、携帯で聴けるじゃんとか。そうなるのも寂しいなと思うし、もうちょっと根付いてほしいなとは思う。そのためには、シーンが盛り上がって見えたほうがいいと思うし。そう見えないと、飛びついてくれない人たちもいるしね。広げるのも掘るのも、両方やんないといけない。そこはちゃんと葛藤(かっとう)しながらやりたいと思ってます。


■そして1年ぶりのニューシングル『アフターダーク』がついに出ます。これはどんなふうに?

後藤:スタジオに行ったら、山ちゃんがすごい暗いベースを弾いていて、潔に「こうたたいてほしい」というめちゃくちゃなリクエストをしているところに居合わせて(笑)。何かおもしろいなと思ったんですよ。暗いベースラインだけど、こういうところから広がったらおもしろいなというのがあったし。ベースラインをギターに置き換えて、そこにベースで別のコードを当てればいいんじゃないの? って。基本的に山ちゃんの曲だから、「リズムはどうしたい?」ということを聞きながら作っていった。

山田:喜多くんが風邪を引いて休んでる日で、全員で演奏ができないから、ネタを探そうと思ったんですよ。さっき言ったみたいに、ベースラインをギターに置き換えて、別のコードを乗せればおもしろいかなというアイデアまではありました。まぁ確かに、最初は“山ハード”とかいう仮タイトルをつけられたし(笑)。でもそれに、メロディーがさらっと乗っちゃったのがビックリです。バックの演奏はわりと好き勝手なことをやりつつ、メロディーがちゃんと責任をとってるから、すごくポップに聴こえる。よくできた曲だなと思います。

後藤:今までのなかでは、めちゃめちゃやってる部類に入る演奏だから。よくできたよね。


■確かに。ドラマー的にはどう?

伊地知:僕にとっては暗いというか、ハードに聴こえたんですよ。僕、ハードロックとかメタルが大好きなんで、これは楽しいことになりそうだなと。もっとハードにしたいと思って、Bメロ(※サビへと展開する部分)の決め決めのリズムが出てきたりして、だんだんできていきました。


■ギタリストとしても楽しい曲でしょう。

喜多:そうですね。潔が言ったBメロのところとか、演奏していてカッコイイ気分になれる。

後藤:ほんとに? ほんとに楽しめる? ライブでも。

喜多:……すごい忙しいけどね(笑)。ギター的には。


■次は詞について。今までにない新しさをすごく含んでいるので、深く聞きたいところなんですけど。

後藤:宮沢賢治の「よだかの星」をモチーフにしてます。みんなにばかにされていたよだかという鳥が、空高く舞い上がって星になる話があるんですけど。夕方、街のなかを鳥が飛んでいくイメージが何かいいなと思って。Bメロのところとか、いろいろ意味はあるんだけど……。街角、甘いにおい、よだれが出てきて、だけど遠くから聞こえてくるのはだれかの鳴き声、それは仲間なんじゃないか? とか、ちょっと意味深な。そこで“血のにおい”とかそういう言葉が出てきてしまうのは、どうしても時代ですね。あまり感覚的なものに逃げないで考えて書いているというか、それなりの考察があるんですけど。でも最後の“進め”があれば、いいっちゃいいんですよ。


■強い言葉ですよね。最後にたった1行“進め”と。

後藤:それが書ければ良かった。やっぱり、何かをやり遂げたような気になるのは良くないというか、自分たちがやってきたことに酔っていてもしょうがない。これから何をやるか? が、いつだって大事なわけで。それは年をとればとるほど身につまされるというか、だんだん刻一刻と、これから生きていく時間より生きていた時間のほうが増えていく、というかね。どこまで生きられるかわからないけど、ミュージシャンとして、こういうバンド形態で、こういう曲想でやっていくのであれば、完全に折り返し地点を過ぎてるはずだし。そういう意味で、今しかできないことはたくさんあるから、焦りもあるし。“進まなければならない”というのは、年をとるごとに自覚が強くなりますね。自分を奮い立たせてる曲ではあります。


■暗闇のあと、ですからね。すごく前向きなイメージがある。

後藤:でもこれは、闇のあとというよりは“陽が暮れたあとに”ということなんですよ。僕のなかでは、夜明けはまだ来ない。わりとみんな、夜明けを感じてくれてるみたいで、ジャケットもそういう感じですけど。でも、もう少しで夜明けだということは自分でも感じているので。


■そして12月からはツアーが始まります。この前はアリーナツアーだったけど、あえてZeppとかクアトロでやるのはどんな意図が?

後藤:このぐらいがいちばんやりやすいんですよね。もうちょっと狭くてもいいぐらい。

山田:前回のツアーは、今までの活動の総括的なことをやったので。それ以降にいっぱい曲もできてるし、初お披露目できるものもあると思うし、うまいバランスでできたらいいなと思ってます。あとオープニングアクトもあって、みんなすごいバンドなので。


■OGRE YOU ASSHOLE、lostgae、OCEANLANEの3バンドがサポートしてくれますね。楽しみです。

喜多:アリーナツアーとか、今年の夏フェスとか、広い場所が多かったじゃないですか。そういうところでどうやったら伝わるかな? と思って 1本1本やってきたんで、不安はないです。フェスよりも時間は長いから、体力作りはしっかりやらなきゃいけないけど、絶対に楽しませることができる自信はあります。

後藤:でもメンタル面がね。

伊地知:ジャムセッションをしてるときにはすごくいいギターを弾くんですけどね。

後藤:メンタル面が日本でいちばん弱いギタリストですね(笑)。

喜多:頑張ります!

伊地知:バンド自体が、メンタル面がちょっと弱いので(笑)。でもたぶん、今回のツアーでそれが吹っ切れるんじゃないかと思います。アジカン、レベルが上がったなと。そう言わせたいので、楽しみにしていてください。