2007年11月23日金曜日

interview with - スガシカオ

 初のベストアルバム『ALL SINGLES BEST』が大ヒット。デビュー10周年を迎え、その独創的な才能があらためてクローズアップされているスガ シカオから、ニューシングル『フォノスコープ』、そして、今年2月の武道館ライブの模様を収めたライブDVD『Shikao & The Family Sugar~FAN-KEY PARADE '07~ in 日本武道館』が届けられた。ライブへのモチベーションの高まり、“歌詞”に対する自負。この2作から、スガ シカオの現在がはっきりと見えてくる。


■まずはライブDVDのことからお聞きしたいのですが、まさに“デビューから10年の集大成”という作品ですよね。

スガ:武道館のときは、けっこうヘベレケだったんだけどね(苦笑)。インフルエンザにかかっちゃって、かなり厳しい戦いを強いられたので。まあ、武道館を成功させるっていうのは大きな目標でもあったわけで、それはしっかり実現できたんじゃないかな、と。伝説的なライブというか、来てくれた人たちに“あの場所にいられて良かったな”って感じてもらえるようなライブだったと思うし。


■その手ごたえは、映像からも伝わってきます。あれだけいいライブができると、10年間頑張ってきたなって思ったりします?

スガ:いや、そんなふうには思わないですけどね。武道館ライブで、とりあえずは(10周年のイベントが)落ち着いたというか……。まだいろいろ続いてるから、ぜんぜん休まる感じはしないんですけど。


■ニューシングル『フォノスコープ』からも、ここからまた攻めていこうという気合いを感じました。ベーシックはファンクなんだけど、サビではポップに展開していくという。

スガ:そうそう、“ファンキーに始まって、ポップに開いていく曲がやりたい”っていうところからスタートした曲だったので。けっこう荒技ですけどね(笑)。ここのところディスコだとかロックだとか、そういうのが多かったから、しっかりファンキーなヤツをやりたいなっていう気持ちもあったし。あとね、ライブで盛り上がる曲をやりたいんだよね、とにかく。ライブがイメージできないものはやりたくないんですよ、今のモードとして。


■なるほど。

スガ:昔は違ってたんですけどね。どっちかっていうと音源至上主義だったというか、とりあえず作ってから、さて、どうやってライブでやろうかって考えるっていう。最近は作ってるときから、これは盛り上がりそう! みたいな。


■“誰かの言葉で もう迷ったり 失ったりしたくない”という歌詞もかなりポジティブだし、精神的にどんどん開いていってるのかも。

スガ:そんなに良くないんですけどね、精神状態は。なんというか……明るくいこう、と思ってるんじゃなくて、ディープなところに行きたくないんですよ。マイナスなものを作ると、自分がそっちに引っ張られそうな気がするんですよね、今。『TIME』(2004年リリースの6枚目のアルバム)のときなんか、そのせいでツアーをやるのもつらくなっちゃったから。


■『フォノスコープ』という言葉は、辞書に載ってないですよね?

スガ:僕の造語なので。これはですねえ、言葉の真意をのぞける望遠鏡っていうイメージなんですよ。“この曲、スガさんっぽくないですね”でも何でもいいんだけど、何かを言われると、いろいろと深読みしちゃうクセがあるんです。そこに尾ひれが付いていって、自爆するっていう習性が昔からあって(笑)。そういうときに“その言葉って、ホントはどういう意味なの?”っていうのがわかる、ドラえもん的な道具があればいいなっていう。


■言葉を重ねれば重ねるほど、何を言いたかったのかわからなくなるってこと、ありますよね。特に恋愛中は。

スガ:相手の話を聞いてるときも、そうじゃないですか。どんどん話してくれるんだけど、ますますわかんなくなるっていう。そういう話をそのまま書いたんですよ、この歌詞。耳をすませば、聞きたくないところばかりが聞こえてきて、ホントに知りたいことは聞こえてこないっていう。


■なるほど。でも、ホントにあったら便利ですかね?“フォノスコープ”。

スガ:どうでしょうね……。それはそれでダメかもね(笑)。


■今回のシングルは、4曲をとおして“気持ちを上げていきたい”っていうテーマで貫かれてないですか? 2曲目の『坂の途中』にも“休まないでのぼること 君ならできるよ”っていうラインがあって。

スガ:そう……ですね。まあ、新曲は(『フォノスコープ』『SPEED』の)2曲なんだけど。『坂の途中』はもともと、ラジオ局のキャンペーンソングとして書いたんですよ。もともとは弾き語りだったんですけど、それだと少しモノクロっぽくなりすぎるんで、今回はカラー写真っぽくリアレンジさせてもらいました。


■3曲目の『SPEED』も、ブッ飛んだ疾走感が印象的。

スガ:これはちょっとディープですけどね。小説(雑誌「SWITCH」に連載された、初の連載小説「SPEED」)の内容ともつながってるから、(歌詞は)覚悟して書きました。とにかくテーマが重いんで。


■テーマというと、死生観とか“生きてる実感とは?”とか……?

スガ:そうです。生きているスピードっていうか。


■生きてる実感って得にくいですよね、特に今の時代って。

スガ:うん、時代のせいなのか、人間っていうのがそもそもそういう生き物なのかはわかりませんが。何で生きてるんだろうな、っていうことですよ、つまり。それが小説のテーマだったので。


■スガさんのなかで、その問いに対する答えは見つかりましたか?

スガ:見つかってないですよ。わかんないんじゃないですか、きっと。


■そうですよね……。4曲目の『Hop Step Dive』は『PARADE』(2006年にリリースされた7枚目のアルバム)の収録曲ですが、最近「マイナビ転職」のテレビCMソングとしてオンエアされてますね。

スガ:もともとは、僕の周りにすごくヘコんでる人がいて、その人に向けて応援ソングを書くとしたら……というところから作った曲なんですよ。その曲を(CMソングに)選んでもらったんですけど、「マイナビ転職」の人にいわせると、僕は転職のカリスマだそうですよ(笑)。


■仕事を辞めて、プロのミュージシャンになるという夢をかなえたわけですから。

スガ:僕の場合、ありえない年齢でデビューしてるからね。あきらめずに頑張れば……っていうところでしょうね、きっと。デビューのときの年齢は27とか28が限界っていわれてるなかで、僕は30才でデビューしてるわけだから。だれもが失敗するだろうって思ってたんだけど、それなりにうまくいって、それが(転職を目指す人の)勇気につながることもあるんじゃないですか。


■この10年間で、あのときはキツかったなっていう時期はありますか?

スガ:……やっぱり、スランプだったときかな。最初のレコード会社との契約がなくなって、宙ぶらりなままリリースの計画もなく、しかも曲が書けないっていう。山にこもりましたからね、いい曲が書けるまで。


■では逆に、あのときはすばらしかった! っていう体験というと?

スガ:うまくいったライブのエンディングは、いつもそう思うよ。なんていうか、世界の時間が止まってる感じがするんだよね。最後にバーンと音を鳴らすじゃない? 僕が合図してバッと音を切ったらライブが終わるわけだけど、その間の何秒間……5秒もないくらいかな……っていうのは、ホントにいいんですよね。


■それは実際に体験してみないとわからないですね……。楽曲、音楽に対する責任感も強くなってるのでは?

スガ:責任感は昔からありましたよ、もちろん(笑)。でも、最近は歌詞とかもちゃんと考えてますけどね。


■と、いうと?

スガ:たとえば、日本の歌詞の歴史を前に進めてる人っていうのが、2007年の今10人いると仮定して、僕はその10人に入って、責任を負おうと思ってるんですよ。しょうもない歌詞は書かないようしたいなっていう。


■これからの日本の音楽のために?

スガ:そういうわけでもないんですけど、その自覚があるかどうかは大事だと思いますね。注目されてるっていう自負もあるし、だったらちゃんと責任をもってヒドい歌詞を書いていこう、と。(歌詞で)ここには触れてはいけないっていうところがあって、だれかがそれを壊さなくちゃいけないんだったら、僕が壊そうと思ってますね。