2008年6月16日月曜日

interview with - Micro

昨年は自身のレーベル“PRIMARY COLOR RECORDZ”を立ち上げ、縁の深いアーティストが参加したファースト・ソロアルバム『Laid Back』をリリースしたMicro。彼の名を世に知らしめたDef Techは、同作発表後の9月に解散。その後、初の作品となるシングル『踊れ』が到着した。RIZEの金子ノブアキと、Def Tech時代からMicro作品に欠かせないギタリストNagachoとのセッションで生み出された本作は、3人の才気が随所でスパークしあった生々しいバンドサウンド。気になる新曲のことや、今後の展望について、じっくりと話を聞いた。


■新曲『踊れ』の話の前にちょっとおさらいを。今振り返ると、ファーストアルバムは自分にとってどんな1枚だったと思いますか?

Micro:あのときはまだMicro of Def Tech名義で、自分のなかで第1章から第2章に移り変わる転換期というか。完全なソロというよりは、Def TechのMicroというポストを空けておきながら勝負していた感じですね。で、今回のシングルからやっとMicroの人生、第2章の始まりだなって思ってます。今度のアルバムはだれをフィーチャーすることもなく、本当にソロとして独り立ちするんだっていう気持ちで作ってますし、そう意味では原点回帰。そんな思いでやってますね。


■新曲はいつぐらいに、どういうふうに作り始めたんですか?

Micro:今年の年頭ですね。あっくん(金子ノブアキの愛称)と一緒に5~6曲作ったんです。そのセッションが肝でしたね、(サウンドが)ロック調になるっていうのは。僕ひとりだと打ち込み中心で、きっともっとゆったりとするから。


■ソロとしてひとりでやっていくんだという気持ちになったとき、敢えて金子さんやNagachoさんといった身近な仲間に頼らないという選択肢もあったと思うんですが。

Micro:うーん。彼らの参加に僕がノーと言うチョイスはなかったですね。むしろ、僕より僕のことを考えてくれてるっていうのがわかったし。どうやって2008年をやっていくかって考えていたときに、あっくんからは「ソロになったときに、お前は毒を盛りまくれる」「裏切りまくれる」って言われたんです。その思いが新曲のサビの“ダダーダ、ダダーダ、ダダーダ”という激しいドラムにつながっていて。そもそも、僕から「あっくん、やろうよ」なんて尊敬しすぎてて軽々しく言えないですよ(笑)。遊び仲間、飲み仲間ではあるけれど、こと音楽のフィールドに立つときは、僕は何歩も下がって、末座から「よろしくお願いします」っていう気持ちでいますから。


■新曲『踊れ』は、どういう思いから書いたんですか?

Micro:僕の音楽の原点には2001年のテロ事件があって。あれを目の前で見ていなかったら、僕は音楽をやっていないんです。あの無力感、悲しみから、どこまで逆に振り切っていけるのかっていうのが今にいたるまでの僕のテーマ。ネガティブからどれだけポジティブに切り替えられるか。そのダイナミズムがテーマであり、それを反映した曲を作るっていう。で、このインターバルに、ボブ・マーリィ、尾崎豊、ジョン・レノン、サブライムとか、先に亡くなったスーパースターたちをもう一度おさらいしてみたんです。この人たちの“死んでも残る音楽”って何なんだろ? って。(尾崎豊の)『I LOVE YOU』とかスタジオですげえ歌いましたよ、何かもらえないかなと思って(笑)。爆音で『僕が僕であるために』(『十七歳の地図』収録)とか何回も聴いて、そこから最後の“フレー、フレー”が出てきたんですけど。


■おさらいして見つけた彼らの共通点は?

Micro:人の苦しみを抜く音楽をやってるんだなって。自分とか時代に対しての不平不満を吐き出すことで、それと同じ思いを持っている人たちの気持ちを表現している曲が残っているなって。彼らがモノを発信しているときは、あまり笑ってないなって思ったんですよね。人間なんだから、ステージで盛り上がってこうこつ感でいっぱいだったら「気持ちいい、イエーイ!」ってなっていてもいいけど、だれひとりそうじゃなくて。ボブとかずっと苦しそうで、ずっとその苦しみから逃れるための表現方法を探してたのかなって。


■歌詞には“愛の反対は憎しみじゃなくて、無関心というあきらめなのです”というマザー・テレサの言葉が出てきます。それが印象に残りました。

Micro:そのメッセージは“KIDS SAVER”(※編集部注1)のテーマソングとして書いた2曲目の『Yukiyanagi 雪柳~We're watching you~』にもつながっていて。おれの友だちにも「おれなんか」「私なんか」って言う子は多いんですね。わかっているけど何もできない。無関心っていうより、見てるけど見てないふりをするっていう。愛憎っていう言葉があるくらいだから、みんな愛と憎しみが反対だと思ってるかもしれないけど、無関心って憎むより怖いことだなって。そこがなおざりになっていることが多いと思うんです。


■『踊れ』は1曲のなかにさまざまな曲調が詰まっていますよね。柔らかな雰囲気から始まったかと思ったら、サビでサンバドラムが躍動し、その後はミクスチャーラップになって、最後の間奏部では非常に穏やかでオーガニックなサウンドが顔を出す。最初から、こういうコントラストのついた曲を作ろうと思っていたんですか?

Micro:そうですね。あっくんとの曲作りはそういうのが原点になっているし、彼とふたりなら僕は1曲に3曲も4曲分も詰め込んでいける。それがふたりでやるメリット。僕はワンループで走り続けちゃう感じだし、直球しか投げられないから、基本的に(笑)。


※編集部注1 / いじめや不登校、虐待を受けている子どもを救い、守るためのプロジェクト。俳優の浅野忠信や建築家の安藤忠雄らが発起人。Microもそのひとり


■ソロとしてリスタートする今、『踊れ』のような、1曲のなかにさまざまな面を持つ曲が生まれて良かったなと思ってます?

Micro:そうですね。驚きがいっぱいあるから。僕がひとりで(ドラゴンボールの)悟空と悟飯とゴテンクスみたいな。でも、最終的には野沢雅子さん、みたいな(笑)(※編集部注2)。そういうのをやっていきたいですね。ひとり1キャラっていうか、その1キャラクターの濃さのままでは通せない自分がいて。そうすると、器用貧乏といわれたとしても、とにかく全力でラップして、全力で歌って、全力で語っていくしかない。それが逆に僕にしかできないことでもあるのかなって。多重人格者の音楽だけど(笑)、でもおれがひとりいて、そこにおれのなかのもうひとりを出していかないと、おれが聴いててもつまらないっていう感じなんですよね。


■本作リリース後、今年はどういう展開をしていきたいですか?

Micro:夏の終わりにソロツアーも決まったし、夏フェスも3年前に出演したサマソニのビーチステージにもう1回原点回帰という思いで立てることになったし。作ってはぶっ壊してっていうのが僕の性に合うんで、ソロになって、とにかく新しいものにチャレンジしていきたいですね。あと、今年は “PRIMARY COLOR RECORDZ”で勝ちたいんですよ。そのためには、まず前半戦はおれがいくしかないと思ってます。まず、とにかくおれが突き抜けないと。屋台骨がしっかり支えないと、ほかが成り立たないっていうのがあるしね。まずは多くの人に共感できる音楽を届けたいですね。


※編集部注2 / 悟空と悟飯は親子。ゴテンクスは悟飯の弟子のトランクスとのフュージョン(融合)人格。野沢雅子は3人の声を担当