2007年11月24日土曜日

Interview with - 奥田民夫

ロック・バンド、UNICORNのデビューから今年でちょうど20年。その20周年を祝うがごとく今年に入り、初となるソロとしてのベスト盤。井上陽水氏との共作アルバム。そして、この10月には、UNICORN/ソロ時代と2種、それぞれ2枚組のトリビュート盤がリリースされ、巷ではちょっとした祝福ムードに湧いている、奥田民生。そんな彼がオリジナル・シングルを久々に発売。民生=独特のマイペース・ノンポリ感漂う楽曲が数多なイメージがあったのだが、今回の新曲2曲は、それをくつがえす、妙にドッシリとした<期待を背負う男>感が楽曲全体からかもし出されている。奇しくも、ちょうど20年前にUNICORNがデビュー(1987年10月21日デビュー)した次の日、その新作の事を中心に色々と話を伺った。


■今年に入り、初となるソロとしてのベスト盤を出したり、2月には井上陽水さんとのアルバムを出したり、この10月にはトリビュート・アルバムが2種出たりしていますが、ご本人的にはこの盛り上がりをどう見ておられますか?

奥田民生:単純に嬉しいですよ。まあ、ベスト盤やトリビュート盤といった類は、自身の今までの音楽活動の“ごほうび的” に思っていて(笑)。トリビュート盤にしても、期待通りの人もいれば、意外なアプローチもあったりと、色々なアーティストの様々な解釈や消化を面白く聴かさせてもらったし。やっつけ的なものは一曲も無く、貴重な時間を僕なんかの為に、しかもみんな頭を使ってくれて、ホントありがたかったですね。

■ちなみに20年前は、今の自分はどうなっていると思ってました?

奥田民生:何も思ってなかったな。元々将来のことなんて考えるタイプじゃなかったし。“音楽活動は続けていきたいな・・・”とは思っていたけど、それに際して特に具体的なビジョンも無く。運動選手みたいに選手生命も無いですからね、この仕事は。それこそ当時は、もう 3日後までのスケジュールしか気にしてなくて(笑)。その繰り返しですよ、この20年。得たものもあれば、失ったものもあったし…。

■その得たものとは、例えば?

奥田民生:体重が増えたり(笑)。最初の頃出来ていなかったものも、徐々に出来るようになったり。色々な体験や経験をして、色々なものが見えたり、分かってきましたからね。

■逆に失ったものは?

奥田民生:やっぱり体力かな(笑)。あと、肌の艶や、爽やかな汗の感じとか(笑)。

■とは言え、非常に良い歳の取り方をしてますよ、民生さんの場合。遊ぶ時は遊び、キメる時はキチンとキメる、みたいな。

奥田民生:常にメリハリをつけようとは意識していて。音楽を仕事にしている以上、例え苦労していても、苦労している様に見せちゃいけないし。自分的には「これはこんなに頑張って作りました」と語るタイプじゃないですからね。それを言っちゃうと、そういった先入観が楽曲に付いちゃうし。僕はそれがイヤで。なので、どれも「プップと出ました」と、あえてニュートラルな姿勢で語ってます。

■確かに今までの民生さんの楽曲には、そのようなスタンスの楽曲が多かったんですが、それに比べ今作の「無限の風」、「明日はどうだ」と、今までの民生さんの楽曲には見られなかった、いわゆる<男の背負うもの>を感じさせる楽曲が並びましたね。

奥田民生:今回はたまたまですよ、たまたま。今、並行して作っているアルバムは、相変わらずこの2曲をくつがえす曲も沢山あるし(笑)。なので、「今はこういったモードなんですか?」と聞かれると、「全然」と答えるしかなくて(笑)。アルバムを聴いたら、いつも通りのバランスに、きっと、“な~んだ、やっぱり”と思いますよ。特に今回の「無限の風」の方は、星野(仙一=野球日本代表監督)さんに向けて作りましたからね。これで楽曲がふざけてたら、星野さんに怒られますから(笑)。

■では、この曲は星野JAPANに捧げているところも?

奥田民生:ありありですね。“星野さんはこんな男なんじゃ?”と僕なりの星野像をイメージして作りましたから。なので、僕が作って歌ってはいるけど、感覚的には僕だけの歌とは思ってなくて。

■とは言え、独特の民生さんの歌い方も良い感じにサウンドに絡んでいて、なんとなくフツフツとしたエモーショナルさを感じたんですよ。

奥田民生:歌に関しては、あまり着飾ったりテクニカルな歌い方が好きじゃないんで、あえていつも通り朴訥な歌い方をしてみました。サウンドにも非常にマッチしていると思うし。

■演奏面も全体的にドッシリと坦々としつつ、所々エモーショナルになる。そのメリハリも効いてますね。

奥田民生:ギターをもう一本入れるというスタイルは、ここ最近ほとんどとってないんで、曲の在り方としてはシンプルにせざるおえない所もあって。そんな中、メリハリをつけたら、こんな形になったというか。“ライブではこうなるだろう”も想定して作ったし。“このフォーマットで!”と決めたら、そのフォーマットで出来る最大限のプレイとアレンジをした結果です。

■カップリング曲の「明日はどうだ」ですが、これは聴いていて気が楽になる人も多そうですね。

奥田民生:内容的にはあまり無いですよ(笑)。“なんだ、結局は行き当たりバッタリじゃねぇか!”って、ツッこまれるのがオチの曲で。自分的にも、“激しい演奏の中、こんな優柔不断なことを歌わなくても…”って思いますもん(笑)。“結局、決まってなくてもいいんじゃないの?”って歌ですから。“右か左かハッキリせい!”って人には受けが悪いでしょうね(笑)。

■こちらはかなりの疾走感とドライブ感のある曲ですが、なんでもこの曲はニューヨークで録られたとか?

奥田民生:そうなんですよ。ここ最近ニューヨークで録っていて、去年スティーヴ・ジョーダンのバンド“The Verbs”を一緒に演った面々と録りました。そのThe Verbsと並行してのレコーディングだったんで、ノリノリ感は上手く出てるんじゃないかな。レコーディングもサクッと早くて。曲に向かっての一直線感があって、かなり一丸性を感じてましたからね。

■で、3曲目にはPUFFYの2人に提供した「オリエンタル・ダイヤモンド」のデモ音源が…。

奥田民生:この曲こそ、「明日はどうだ」のスタジオや参加メンバーの豪華さとは真逆で。僕が1人で自宅で全ての楽器からエンジニアリングまでやりました。

■自宅ですか、これ?

奥田民生:もう、今やここまで録れるんですよ。“機材の進歩は凄いなぁ”と。向こう側の注文的も、“派手な曲を書いてくれ”だったんで、疾走感や荒々しさを前面に表してみました。まあ、ここまでライブ感を出したのも、“こんな感じだよ”というのを上手く伝える為で。

■作詞は井上陽水さんですが、彼の今回の歌詞を歌ってみていかがでした?

奥田民生:言葉の意味がどうであれ、歌った時のスピード感と歌っての気持ち良さは相変わらず凄いなと。もう、歌詞カードを見てもしょうがないんですよ、この曲は。是非、曲自体を聴いて欲しい。まあ、僕もよく韻は踏みますが、僕の場合は韻というよりは駄洒落。いや、おやじギャグの一種ですからね(笑)。

■最後に今作の聴きどころを教えて下さい。

奥田民生:やはり、日本、ニューヨーク、そして自宅と、全部場所も違うし、メンバーも違う所ですね。全て1人の人間から生まれた音楽ですが、そこに携わる人達や場所によって、こんなにも各曲違うところを是非聴いて欲しいですね。