2007年11月30日金曜日

interview with RIP SLYME

前作『EPOCH』から約1年ぶりに、待望の6thアルバム『FUNFAIR』がいよいよリリースされる。“移動遊園 地”との意味を持つ今作は、まさに遊園地に一歩足を踏み入れると誰もが童心に戻り、無邪気に楽しむことができる、ワクワク度120%の作品となっている。 それにしても、RIP SLYMEの遊園地には、さまざまなアトラクションが満載! ヒップホップを基軸にしつつも、一括りではカテゴライズできないジャンルレスな15曲、15 個のアトラクションが収録されており、いい意味で、今作は前作以上に雑多な感じ、バラエティ色がより色濃くなったアルバム作品といえるだろう。今回はメン バーを代表して、PESとRYO-Zの2人にインタビュー。これぞエンターティナーな、息のあった2人の爆笑トークをお楽しみあれ。

■アルバムを聴き終えて、まず思ったのが改めてRIP SLYMEすごいなと。

RYO-Z・PES:いやいやいやいや。とんでもございません。

■そんな謙虚な。とにかく聴いていて心地よかったというのが、素直な感想なんですけど。今作の制作は、いつぐらいから取り掛かられていたんですか?

PES:4月ぐらいからちょろちょろっと動きはじめて、夏には大体出来上がってましたね。

RYO-Z:今回は通常よりも立ち上げが早かっただけに、締め切りも早かったんですよ。でも、それを可能な限り伸ばしていって。で、結局、ギリギリになったんですけどね(笑)。

■でも、そこまで早い進行って珍しくないですか?

PES:この夏に出したシングルの「熱帯夜」は、昨年のタイミングでできていたし、アルバム曲の「I・N・G」なんか も、昨年の「ブロウ」というシングルのときだし、「Tales」も12月ぐらいに作った曲で。すでに今年始まった時点で3曲が出来上がっていたから、後は イメージ固めぐらいで。

RYO-Z:アルバムタイトルの『FUNFAIR』も、早い段階でDJ FUMIYA君が遊園地っていうワードを出してきたんで、それに乗っかって、じゃあ、“移動遊園地=『FUNFAIR』”にしようかと。作るうえでの指針 として、そういうのがあると早いですよね。そこから逸脱しないように向かっていけますから。

■まさにタイトルの『FUNFAIR』は、RIP SLYMEを象徴するタイトルですね。バラエティに富んだ選曲、構成になってますし。

RYO-Z:でも、実際「ジェットコースター」とか「メリーゴーランド」っていう曲があるわけではないんですけど(笑)。1枚聴いたムードがそういう風に感じてもらえるようにと思って。

PES:最初の頃は、アッパーなテンポのものが多かったので、スローな曲も入れようと、それぞれ作ってこようよという話になったら、そのあとのミーティングで、案の定スローな曲ばかりになって(笑)。

RYO-Z:まさにシーソーゲームだね(笑)。今回は見極め的なことも逆に早い段階で、ジャッジも淘汰されていって。で、かなりたくましい、強い曲たちが残っていき、それらがギュッと詰まったのがこのアルバムと。

PES:最終的に、いろんな楽曲がバランスよく入ったよね。でも、相変わらず前のアルバムから入れようって入らなかった曲があって。

RYO-Z:あ~~! あれは手出しちゃいけないね。

PES:パンドラだね(笑)。

RYO-Z:いっそのこと「パンドラ」って曲名にしたいぐらいだね(笑)。

■入らなかった理由はどうして? 個性が強すぎるとか?

PES:トラック力も結構あるし、悪くはないんだけど、今回も残念ながら落選で。でも、ほっといたら危ないから、できるだけ早く出したほうがいいんだけどさ(笑)。

PES:でも、もしかしたらワインみたいに熟成される曲かもしれないし。

RYO-Z:いい感じのビンテージ感が。作ったのは2006年だから、ボジョレーヌーボだったら、今頃飲み頃なんだけどね(笑)。

■また今作は曲順も絶妙ですよね。もう、はじまりから一気に世界に引き込まれていって、思い切りアトラクションを楽しんで、最後はちょっと切なさも感じられるという。起承転結がハッキリしていて。

RYO-Z:実は最初は、イントロダクションも6パターンぐらいあって。そこから強い2パターンに絞られて、で、結構僕 とPES君はもう1つのほうがいいんじゃないの? って言っていたんだけど、いろいろ話し合って、これに落ち着いて、結果よかったなと。もう一個は、 ちょっと怖い感じだったんだよね。華やかさはどっちもあったんだけど、CD壊れたんじゃない? っていう、ガチャガチャガチャってなるシーケンスだったん で、オープニングから混乱を呼ぶんじゃないかということで、最終的に聞きやすさをとったという。

■今作はそういう意味では、スリリングな楽曲も多いですね。ちなみに楽曲ごとにみなさんがイメージしてるアトラクションみたいなものって、あったりするんですか?

PES:これは何ニーランドの何ブの海賊とか、何ラッシュマウンテンとか。何急ハイランドとか(笑)。

RYO-Z:何ニーランドって(笑)。

PES:最初は乗り物っぽいとか、これはなんであれはなんでってなんていうのもあったけど、“遊園地”ってテーマの時点で、「熱帯夜」「I・N・G」「Tales」の3曲が出来てたんで、そんなにアトラクションにしばられることもないだろうって。

■今作にはモンパチ(MONGOL800)さんとのコラボ作品「Remember」も収録されていたりと、アルバムならではの面白い試みも、たくさんなされていますね。

RYO-Z:ILMARI君がモンパチのメンバーと仲良くなって、「何かやれたらいいね~」的な感じで、2人でデモテー プを作ったりしてたんですよ。で、それを俺らにも聴かせてくれって、フライング気味で聴いてみたらこれはいいぞ、ぜひアルバムに! みたいな。それでモン パチのメンバーに東京にきてもらって、駆け足で作っていって。

PES:あと、今回は初めてフィメールのラッパーの子とか、RIPじゃない人たちが作った曲も混ざっていたりして。俺たち自身もフレッシュな感覚を味わえたし、聴いている人も新鮮じゃないかと。俺たちらしくて俺たちらしくない、俺たちらしくないのに俺たちらしいみたいな。

■ちなみにモンパチさんが東京にきたときは、みなさんでおもてなしをされたんですか?

PES:おもてなしをしようと思ったら、すぐ清作くんにもてなされました(笑)。

RYO-Z:清作くんのほうが東京事情に詳しくて。面目ない感じでしたね(笑)。

PES:おっしゃれ~なバーに連れて行ってもらってね、清作くんはこんなところでお酒飲んでるんかい? 

RYO-Z:いいね~。僕らもこれからそうしようって。

PES:名刺なんかもらってきちゃったりして(笑)。

■皆さんこそオシャレなバーや、芸能人御用達の隠れ家みたいな店に行かれてそうなイメージがありますけど。

PES・RYO-Z:いやいやいや。

PES:僕は最近、もっぱら家飲みなんですけど。芸能人がたくさんいるお店なんて行ってみたいもんだね~。

RYO-Z:触れてみたいもんだね~。できれば写真を1枚!(笑)。

PES:本当だよ。この間、勝どき橋にあるデニーズに行ったとき、このデニーズおしゃれだねって言ってたぐらいだからね(笑)。

RYO-Z:僕らはデニーズレベルだからね(笑)。おかわりコーヒーだけで何時間もねばりますからね(笑)。

■いい意味で、バリエーション豊富な料理があるデニーズと今作、RIP SLYMEの楽曲って共通するものがあるんじゃないかと。誰もが気軽に楽しめるという部分でも。今やトップアーティストのみなさんにも関わらず、そういう感覚を今でも持ちあわせているところが、素敵だなと思いますよ。

RYO-Z:まあ、言ってもワインは飲みますけど(笑)。

PES:RYO-Z君おしゃれやね~。やるね~。

RYO-Z:でも、そのワインはコンビニで買ってくるんだけどね(笑)。田崎真也コレクションはおすすめ! ほんとトップアーティストの仲間入り果たしたい! なのに、なかなかどうして。

PES:ギリギリぶっちぎらないところにいるのが、俺らだよね(笑)。

RYO-Z:結局飲みも5人で集まっちゃったりして(笑)。まさにそれを重ねて、このアルバムですから! 酒と男と女と遊園地ですから!(笑)。

■でも、そうはいっても、ラグジュアリー感、おしゃれ感がちゃんとある、親しみやってやすいんだけど、下町の遊園地って感じとは違うかなと。

RYO-Z:僕、完全に下町生まれ、下町育ちなんで。セレブっぽい奴、友達にいないですし(笑)。

PES:いてもただの顔見知り(笑)。まあ、「熱帯夜」のPVとか、「I・N・G」でネクタイなんかしめちゃったりして、エグゼクティブなムードを出しちゃったりはしてるけど。

RYO-Z:それはあるね。でもさ、毎回そうだけど、今みたいな出来立てほやほや期って比較的、まだまだあれやれたら、この曲こうできたのにな、っていうのがあるじゃん。で、しばらくしてライブとか、こうしたインタビューを通して、曲がどんどん自分たちのものになっていって、曲に対する解釈も深まっていくんだけど、今回のアルバムは、出来立てほやほや期の今の段階でも、すでにみんなのうなずきが“う~ん”ってすごく大きいんだよね。まあ、時間かけて作った甲斐があるのかなと。

■現時点で、みなさんにとって今作は最高傑作だと。

RYO-Z:「ハイ!」とここは言い切っときましょう。でも、前のアルバムの立場いつも考えちゃうんですけどね(笑)。

PES:末っ子は一番かわいいからね(笑)。

RYO-Z:いいね~その表現。まあ、どの子もかわいいことには変わりないんだけど。

PES:でも、唯一長男だけは…

RYO-Z:断然出来悪いな(笑)。

■でも、今作は今のみなさんの愛情をたっぷりと受けて…

RYO-Z:すくすくと。

PES:正味、一番金もかけて育ててますからね(笑)。

RYO-Z:手塩にかけて。ビールを混ぜて、おいしいお肉に仕上げました。

PES:牛かいな(笑)。

■相変わらず音を楽しんでいるなっていうのが、今作からも伝わってきたのですが。音楽を作る作業って、産みの苦しみがある人が多いと思うんですけど、今回はいかがでしたか?

PES:多少はありましたけど、今回は比較的安産でしたね。まあ、早くから力んだからね(笑)。いつもは時間に追われて、スケジュールを先に決めてから、アルバム作業に取り掛かるんだけど、今回はかなり前から準備してたこともあって、結構同時進行でいけたというか。とはいっても、最後はギリギリだったけどね。

■詰めの段階、最終作業で時間がかかったと?

PES:ずっとダラダラしていたのが、最後の一週間で一気にどうにかしようと。夏休み(の宿題)と一緒ですよ(笑)。

RYO-Z:俺なんて始業式から(宿題)スタートしたからね(笑)。夏休みは寝なくていいし、いつ起きてもいいし。そのころからずっと無計画な生きかたしてるな、俺(笑)。

■メンバーみなさん無計画派だったりするんですか?

RYO-Z:メンバーもみんなそんな感じじゃない?

PES:だね。

RYO-Z:でも、俺、結婚してるのに無計画はまずいよな(笑)。

PES:そうだよ。俺は無計画と豪語しても、誰にも迷惑かかんないからいいけど。

RYO-Z:家族計画っていうもんな~(しみじみ)。改めないとな。

PES:これから、これから。でもさ、前作に比べると、今回はみんなでミーティングしたりとか、コミュニケーションを密にとって、次に何をしようとか、計画性が若干出てきたよね。

■ちなみにつねに先陣きって提案されたり、召集される方はいらっしゃるんですか?

PES:そのつどそのつど、だよね。

RYO-Z:気づいた人が、これやっといたほうがいいんじゃねえって。

PES:例えば、SUさんだったらライブのことだったり、DJ FUMIYAだったら音的なこととか。今回は特にいい感じで、分業が進んでいたよね。

RYO-Z:よりほったらかし関係になってたよね。とにかく任せたことに関しては、根拠のない反論はしないという。

PES:「これ、何か嫌だじゃ」許さないよね(笑)。

■暗黙のルールみたいな(笑)。

RYO-Z:それはあったね。このアルバムを聴いた人も、とにかく根拠のない反論だけは許しませんので(笑)。まあ、無理に聴いてくださいとは言わないですけど、一回耳にしてくれたら、楽しめるんじゃないかと。

PES:あんま深く考えず、気軽に聴いて、自由に楽しんでもらえたらと思います。

2007年11月29日木曜日

interview with - Dragon Ash

パンク、ハードコア、ヒップホップ、ドラムンベース、エレクトロニカ、ラテンなどなど。さまざまな音楽要素を飲み込みながら、アルバムごとにガラリとそのサウンドを進化させてきたDragon Ash。ダブルミリオンを記録した1999年のアルバム『Viva La Revolution』で大きな注目を集めたときも、メディアへの露出は最低限。そんな独自のスタイルを貫き、音楽的にもスタンス的にも、常にオルタナティブな道を歩み続けてきた彼ら。2007年、デビュー10周年の記念すべき年に完成した7作目のアルバム『INDEPENDIENTE』。スペイン語で“孤高”を意味するタイトルが付けられたその作品は、まさにこの10年の歩みなくしては完成しなかった1枚だ。


■Dragon Ashは今年でデビュー10周年を迎えるわけですが、当初はKj+桜井誠+IKUZONEの3ピースバンドとしてスタートしたんですよね。

Kj:そうですね。もっと前はサク(桜井)とおれと、女の子がベースをやってたんですけど。で、いろいろあってサクとおれのふたりでドラムンベース(ドラム+ベース)になって。で、IKUZONEがベースで入って、(自分が)ギター&ボーカルをやることになって……。


■その後も、アルバムごとにサウンドやスタイルを発展させながら、7人編成のバンドとなる現在に至るわけで。そんな10年のなかで、“正直このときはピンチだった”っていう瞬間はありましたか? はたから見てると、『HARVEST』が出る前の時期がそうだった気がするんですけどね。ちょうど土下座の看板(※編集部注)のころとか。

桜井:あ~、懐かしいね(笑)。それより何より、『陽はまたのぼりくりかえす』を出して売れなかったら、“じゃあもう辞めよっか”って話になってたよね。

Kj:そうだよね。あっちのほうが全然ピンチだよね。完全に解散方向だったからね。あのときは危なかった、マジで(笑)。『Buzz Songs』がある程度売れたっていうか、一定のラインを超えたので、良かったっていうか。


■そういえば、『陽はまたのぼりくりかえす』を出してすぐぐらいのときに、それまで「ライブはキライ」って言ってたKjが、「初めてライブが楽しいと思った」って言ってたのを覚えてますね~。

Kj:ああ~。仙台のライブだったかな? あれ、普通に公園でやってる“祭り”だったんだよね(一同爆笑)。

桜井:大阪のライブでは『六甲おろし』のSEで出て、ドン引きされたからね(笑)。あのころ、“ブラボーナイト”ってイベントではもう、ダントツで人気なかったし(一同爆笑)。

Kj:いやもう、マジ任せてよ(笑)。“ブラボー~”はvol.3ぐらいまで出たからね。みんな卒業していくのにずっといっから(笑)。「またDragonいるなぁ」って(爆笑)。


※編集部注:『LILY OF DA VALLEY』(2001年)から、『HARVEST』(2003年)の間にリリースされる予定だった新作が完成せず、メンバー全員が謝罪の土下座をする巨大なビルボードが渋谷の駅前に登場した。

■ここまでの話からすると、やはりバンドのターニングポイントとなった作品といえば……。

Kj:やっぱり『Buzz songs』じゃないですかね。あと、『HARVEST』 かな。曲の作り方とかフォーマットとか、(今も)ベースにあるのは『Buzz songs』のときの感じだし。ライブで共感できるようになる曲をやり出して、共感してくれる人たちが増えて、ワンマンライブで充実した時間を過ごせるよ うになってきて。そのころからBOTSくんもバンドに参加するようになったし。いろんなことがあそこから良いふうに転がったっていうか。


■初期Dragon Ashのサウンドフォーマットが完成した1枚であり、今も多くのフォロワーが生まれ続けてる1枚でもありますしね。

Kj:うれしいことですよね。


■そんなふうに進化しながら歩んできたDragon Ashですが、日本の音楽シーンにおいてどういうスタンスにいると自分たちではとらえていますか?

DRI-V:同じようなバンドがいないっていうところで言えば、やっぱり特別なバンドだと思いますけどね。

ATSUSHI:純粋に、飽くなき追求をし続けてるバンドなんじゃないでしょうかね。(音楽性やスタイルは)いろいろ変わってきたと思うんですけど、Dragon Ashとしての太い柱は変わってないっていうか。

HIROKI:おれはもともとバンドに入る前から、カッコいいっていうか、日本の音楽シーンのなかでも、ハイクオリティーな音楽を作ってるバンドだなぁって思ってはいましたけどね。

BOTS:まぁ、 日本のチャート番組とかに出てくる人たちに比べて、テレビに出てないとか、露出が少ないっていうところでは、やっぱ異質なイメージがあるかもね。でも チャートの上位にいる人たちのなかにも、クリエイティブな志を持ってやってる人は超いっぱいいると思うし……。でもおれが思うDragon Ashの、主に降谷建志の作る曲のいいところは、日本人がやるとけっこうダサくなっちゃいがちなところを、すごくスマートに、カッコ良く、聴きやすくする 感じじゃないかなぁって。だから(露出が少なくても楽曲が)チャートに入ってくるんじゃないかなぁって思うんだよね。

桜井:紅白も出たことないしね(笑)。『Viva La Revolution』 が売れて、わりとあれはメディアが持ち上げて、みたいなとこがあったじゃないですか。別におれらが(積極的にメディアに)出たわけじゃなくて、結果的にあ あいう形になったと思うんですけど。でもそのあとも全然テレビとかにも出ないし、「何なの、この人たちは」みたいな。親からもそう言われ(一同爆笑)。だ からいまだに、「ヒップホップっぽいことやってる人たちでしょ?」って言われたりもするし。そのわりには、チャートとかをとおして一般リスナーの耳にも (新曲が)入ってたりして。まぁ、それはそれでいいんじゃないかと思いますけどね。


■そして、ついに7作目のアルバム『INDEPENDIENTE』が完成しましたね。今作でも、前作『Rio de Emocion』からの流れを感じる“ラテン”の要素が大きな役割を果たしていると思うのですが。

IKUZONE:別にこちとらラテンの血なんて流れちゃござんせんってことなんだけど(笑)、(演奏してても)イイなって思うから、自然と そうなったってことなんだろうね。リズム隊としては、求められるものは相当シビアではあるんだけど。でもそれはそれで別に毎度のことなんで、楽しんでやっ てますからね。

桜井:だってさ、アレンジとかは違うけど、昔の曲とかとけっこう共通点はある感じがするんだよね。使ってる楽器とかによってカラーがラテンとかに寄ってるだけであって。芯(しん)はそんなに変わってないんじゃないのって。

Kj:まぁでも、メロっぽい(メロディが立ってる)感じは確実にするよね。シングルほどじゃないし、もっとリズムを強調してるとは思うけど。


■“歌”が映える曲が多いですもんね。

BOTS:あと、『Rio de Emocion』以降、音が有機的になってきてると思うんだよね。


■てことは、音の質感的には『Rio de Emocion』である程度の基盤ができていたっていうことなんですかね?

BOTS:今回に関してはね。


■そういう意味でも『INDEPENDIENTE』は『Rio de Emocion』の延長線上にあるアルバムだとして、作り手として前作以上に飛躍したと思う点はどこですか?

桜井:それはもうね、アルバム買って聴き比べてもうらうのがいちばんですよね。決定的に違うからね(笑)。

BOTS:度肝を抜かれるからね(笑)。

ATSUSHI:覚悟しといたほうがいいと思うよ。


■ちなみに今回、前作にも参加されていた武田真治さんがサックスで、新たにフィーチャリングでケツメイシの大蔵さんが参加されてますよね。

Kj:今回ゲストはそのふたりだけですね。それ以上のフィーチャリングは(時間的に)できないっていう感じだったから。いやもう、全然アイデアもいっぱいあるし、いろいろやりたいとは思ってたし、思ってるけど、(時間的に)限界でしたね。


■それなら、ぜひそれを次のアルバムで実現してもらいたいところなのですが……。

Kj:うん、そうッスね。


■そして、そこへ続くDragon Ashの“今後”が、なるべく近いうちにスタートするといいなぁって思いますけどね。

Kj:それはどうでしょうね。それはちょっと、軽率な発言はできないなって感じですねぇ。


Dragon Ashの“今”が反映されている点ではもちろんですが、『INDEPENDIENTE』は、日本のポピュラー音楽シーンにおいても、すごくハイクオリティーなアルバムだと思うんです。楽曲の構成といい、サウンドのセンスといい、もはや別格といってもいいぐらいに。

Kj:おお~っ。うれしい。ほめられたぁ(笑)。


■ほめてます(笑)。日本のメジャーシーンにおいて、『INDEPENDIENTE』=“孤高”の存在だなと改めて思える1枚というか。

BOTS:あれぇ~。

Kj:おおっ、すげー。おれ、マジやってて良かったぁ~。なぁ? サク! いや、マジでやってて良かったなぁ? デビュー前に切られそうになってたからなぁ(一同大爆笑)。

桜井:ギリギリ土俵際でしたからね。

Kj:おれはもう、「サクとでなきゃやれない」っつって。

桜井:ほんと、ヤバかったです(笑)。


■そんなことも乗り越えてきたからこそ今のDragon Ashがある、と(笑)。ところで、3月からは待望の全国ツアー「Dragon Ash Tour~DEVELOP THE MUSIC~」がスタートしますよね。久々のツアーはどんな内容になりそうですか?

桜井:うちのバンドは、アルバムを出すと(その際のツアーでは)ほぼアルバムの曲を全部やるというスタイルを貫いておりますので、また新し い形で(新曲を)お届けするという感じじゃないでしょうか。詳しくは見てのお楽しみですが。まぁ、そこらへんの意気込みはもう、うちの代表の千葉(DRI -V)から。

Kj:広報の千葉から……(小声で)猪(ちょ)突?

BOTS:ほら、今年はイノシシ年だし、(小声で)猪(ちょ)突猛……。

DRI-V:猛……“千葉”?

BOT今すぐ保存S:はい、猪(ちょ)突猛“千葉”いただきました! ということで、今年は猪(ちょ)突猛“千葉”の勢いで頑張っていきます。Dragon Ashでした~。

桜井:猪(ちょ)突猛“千葉”っつったら本当に行きたくなってくるよね!

Kj:間違いなくみんな来るよ(笑)。

2007年11月28日水曜日

interview with - B'z

 実績の積み重ねでゆっくりと成熟しながらも、常に未来を力強く切り開いていく、目のさめるようなフレッシュネスを保ち続けているB'z。2007年9月21日より結成20周年目に突入した彼らが、16枚目となるオリジナル・ニューアルバム『ACTION』 をリリースする。名声や記録に決して寄りかかることをせず、音楽的冒険心と大いなるチャレンジ精神で次々と金字塔を打ち立ててきた彼ららしく、新作は全 17曲収録という圧巻! のフルボリューム。しかもバリエーションが豊富で、ベクトルも多彩。未来へ向けてのさらなる“攻め”のアティテュードが明確に表 れた、重厚かつ痛快な1枚だ。


■“コンセプト、テーマを立てない”というのが、B'zのアルバム制作に対する基本的なスタンスですけれども。今作はこれまで同様、新しく曲ができるたびに録っていく、という形だったのでしょうか?

松本:そうですね。去年、映画(「俺は、君のためにこそ死ににいく)」)のために『永遠の翼』を書き下ろしたところがアルバムに向けてのスタート、だったんですけれど。そこから“できた曲から順番に”という形です。ただ、今回は時間もたっぷりあったので、ゆっくりと時間をかけてやりました。

稲葉:あまりペースを詰めすぎないようにして、そのなかでコンスタントに結果を出しながら進めていった、という感じです。


■その“ゆっくり”のなかで、どのように流れや向かう所を考えながら進めていったのですか?

松本:今回は、ここ何作かでやってきたジャムセッションではなくて、東京で完ぺきにデモを作り込んでしまってロスには(楽器の)ダビングだ けに行く、というやり方に変えたんです。実は年明けに一度、何曲ぶんかのメロディーを持ってロスに行ったんですよね。で、参加してくれるミュージシャンた ちと一緒にスタジオに入ってセッションしながら曲を形にしていこう、と思っていたんですけれど……芳しい結果が出なくて。正直、ドン底に近い気分になるぐ らい結果が出なかったんです。

稲葉:ケミストリーが起きなかった、というか。たぶん、何かがかみ合ってなかったんだと思うんですけれど。

松本:で、 一度すべてをフラットにして、東京に戻ってプリプロダクション(※編集部注)からやり直したんです。そこでまず、新しい曲からトライしていって、そのあと にロスに持っていった曲から選び抜いたものを形にして。その作業を5月までやって、そこから再びロスにレコーディングのために行きました。


■リスタートしてからはスムースに?

松本:ええ。初日からもう、フルコーラスを1日で形にして、といういつものペースになって。そこからすぐ、波に乗りました。

稲葉:アレンジの段階で詞のアイデアも生まれたし。良いリスタートを切れましたね。


※編集部注 / レコーディング前に曲の構成やアレンジを詰める作業のこと


■東京での制作のなかで、フックになった楽曲というのはどの曲だったのでしょうか。

松本:『黒い青春』、『純情ACTION』……。

稲葉:『パーフェクトライフ』とかも“おもしろいな”っていう話をしながらやっていました。


■けっこうクセのある曲が挙がってきますね。それはやはり、B'z自身が今回の制作において自分たちにとって刺激のある曲を求めていた、ということの表れでもあるのでしょうか?

松本:うん、それはあるでしょうね。もう、長い間活動してきてますからね。だから今回は、曲の構成が今までのB'zとは違って、複雑という かいろんなセクションが出てくる……。そういうのはもう、ホント意識的にやっていましたから。アレンジを固めていくときにも、2番までいったらその場で違 うセクションの歌のメロディーも創ったりもしていたし。とにかく、“AメロBメロCメロ(※編集部注)を繰り返して間奏、そしてコーラスを続けて終わり” みたいなものは絶対にやりたくなかったので。


■『光芒』とか、最後にまったく色の違う大サビが出てきますし。そういうことですよね?

稲葉:はい。あのセクションは、あとから考えて作りましたから。

松本:『光芒』は、やっていくうちにどんどん大作になっていたんです。これは楽しかったですね、やっていて。あと、“シャッフルの曲がやりたいな”と思って創り始めた『HOMETOWN BOYS' MARCH』も、予想以上におもしろい展開の曲にできたと思います。


■では、再びロスに向かってからのミュージシャンたちとの作業のなかで、新しくアイデアが生まれて広がっていった楽曲というのもあったのでしょうか?

稲葉:『トラベリンメンのテーマ』ですね。最高に笑いましたよ、これは(笑)。

松本:ものすごく分厚い、“ビートルズがどのようにレコーディングしてきたか”っていうことが書かれている本があるんですけど。これがもう、エンジニアの人以外には全然おもしろくない本なんだけど(爆笑)。それをジェイ・バウムガードナー(エンジニア)が持ってきて。で、シェーン・ガラース(ドラムス)も大好きなんですよ、そういうのが。だから、この曲はその本に書いてあるリンゴ・スターの ドラムのマイキングを参考にして、ドラムのマイクの位置を決めて。しかも、ショーン・ハーレー(ベース)がまた、ヘフナーのバイオリン・ベースを持ってき て……。ですから、この曲のリズムセクションはビートルズ・スタイルで録ったんです(笑)。でも、すっごく音がいいんですよ、これ。

稲葉:スピーカーからフィードバックの音が出た瞬間、シェーン自身バカ受けしてた(笑)。でもそうやって、みんなが前向きなアイデアを持ってのぞんでいたので、ロスでのレコーディングの現場もとてもいい感じでしたね。


※編集部注 / Aメロ:歌いだしの部分、Bメロ:サビへと展開する部分、Cメロ:Bメロの次にくるメロディー


■ところで、今回のアルバムは、ギターサウンドの重めのものが比較的少ない印象を受けたのですが。全体的に軽やかというか。

松本:アルバムをとおして? いや、そうでもないと思いますけど。


■音色やフレーズはすごく繊細に響いてくるんですけれど、そのぶん重戦車級のリフものとかが……。例えば、『MONSTER』とか『BIG MACHINE』みたいなタイプのアプローチが見当たらないような気がしたんです。

稲葉:ゴンゴンゴン! ってやつですね(笑)。

松本:あぁ、なるほど。でもそれは、けっこうキャッチーに聴 こえてる、ってことじゃないですか。同じぐらいの音質で、『黒い青春』にはローがずっと入ってるし。『純情ACTION』にもけっこう重い音が入ってるん ですよね。ただ、今回はギターの録り方を変えてみましたし、アンプも僕のではなくてジェイが持ってきたのを使ったりとかもしてるので。だから、音は以前と はちょっと違いますよね。あと、アルバムをとおして“変わらなきゃ”っていう意識があったので。あまり自分だけで固まらないでとか、いろんなことにトライ してみるとか……そういう部分が表れてるんじゃないかな。


■そして、歌詞についてなんですけれども。“陰日向”でいうと、“陰”のほうで必至に生き抜いている人物が描かれたものが中心になっている印象を受けたのですが。

稲葉:それは、自分の状況がそういうふうに書かせる状況にあったからだと思うんですけれど。“光”という言葉が最初から道しるべとしてあっ たわけではないんですが、後半になって“光に向かってもがき苦しむ”とか“突き進む”“葛藤(かっとう)する”っていう場面が多いことに自分でも気がつい て。で、“光”というのが(全体的な)テーマなんだな、と。それで、それをタイトルにもしたいなと思っていたんですけど、最終的には“光に向かって何かし らのアクションを起こす”というイメージから“ACTION”という言葉がアルバムタイトルになったんですよね。だから……光に向かっている、ということ は陰にいるっていうことだから、今のその指摘はすごい正しいと思います。


■今おっしゃった“自分の状況”にあったその背景、というのは?

稲葉:それはもう、普通に話してたりニュース見てたり……そういう状態はいっぱいあるので、今だから歌うっていうことではないんですけど。 いつの時代もそうなので。それに、特に答えっていうのもないし。で、結局自分も答えをあまり提示できないので“どうしようかな”とも思ってましたし。でも 『光芒』の最後で、“結局本人は光のところに出られるかわからないんだけれど、それに向かっている姿がだれかにとっての光になればいいんじゃないか”とい う結論に達しまして。うん、そこでアルバムを作っている自分のなかで……解決じゃないですけど、ある種の結論も得られたな、って。書いてるときはそんなに 思ってなかったんですけど、できあがって聴いてその部分にくると“たしかに!”と思ったりするので。

2007年11月27日火曜日

interview with - BONNIE PINK

 BONNIE PINKが、オリジナルとしては約2年ぶりにニューアルバム『Thinking Out Loud』をリリース。前作『Golden Tears』や『A Perfect Sky』 に参加していたスウェーデンのプロデューサーチーム、バーニング・チキンと作り上げた本作は、シンプルなロックサウンドを基調とした、ハンドメイド感たっ ぷりの味わい深い逸品に仕上がった。アルバム制作秘話や昨年のブレイク時の心境、秋に控えた初武道館公演まで、今のBONNIE PINKのモードをたっぷりと聞きました。


■新作はどんなイメージで作ったんですか?

BONNIE PINK:乱暴に言っちゃうとロックというか。私の荒削りな部分、きれいにこざっぱりまとまってはいない作品。素の顔やダークサイド。そういうものを素直に表現した曲が入ってるんです。


■曲作りはいつごろから?

BONNIE PINK:今年の1月、2月と病気で寝込んでいて、そのあと病み上がりで書いた曲たちなんですよ。だから歌詞の内容は、いつ もよりちょっと疲れてるかも(笑)。でも、「ブルーだ……」って落ち込むんじゃなくて、「ブルーだ!」って暴れるような。そっちのほうに持って行きたいな と思って作ったんです。


■『Water Me』以外は、バーニング・チキンがプロデュース。彼ら3人とは年齢が近くて共通言語が多いとか。

BONNIE PINK:ですね。あと、プログラミングも幅広く駆使する人たちなんだけど、バンド活動もしている人たちなので、バンドで作 り出すグルーヴみたいなものを今回は特に大切にしてもらいました。それに私が提示するアイデアってどこかどうしても女性的な気がしていて。なので、男性目 線であったり、日ごろバンドをやってる人たちの発想とか、私にないものを彼らに求めたんです。


■実際、音にはハンドメイド感があるし、シンセやドラムの音色に70~80年代のテイストも感じました。

BONNIE PINK:そうですね。温故知新っていう感じ。何が良くて、何を取り入れて、何を削ってっていう話は毎日していましたし、わりと時間と頭脳を駆使して(笑)、どの曲も録ってる。スウェーデン人の感性と私の感性がいい感じにブレンドされたんじゃないかなって思ってます。


■スウェーデンには2か月滞在されたそうですが、レコーディング中にハプニングはありました?

BONNIE PINK:スウェーデン人って、基本エコなんでほとんどの人が自転車通勤なんですね。そしたら彼らのふたりが自転車を同じ週 に3台盗まれちゃったり(苦笑)。あとはメンバーのひとりの持病が再発しちゃうとか、スタジオの1階部分に空き巣が入るとか。私も最後のほうで、キャベツ を切ってて親指をブスッと切っちゃって。出血で「ふぅ~」ってなってた(笑)。だから、「ハプニング続きだね、わはは」って言いながらアルバム作ってまし た(笑)。

■本作には『A Perfect Sky』以降のシングル曲を収録。その曲が別バージョンで収められているのもうれしいですね。

BONNIE PINK:この曲はBONNIE PINKの 最近の代表曲になりましたけど、それがどのオリジナルアルバムにも属してないっていうのはすごく違和感があって。でも、シングルをそのまま入れるのもしの びないなと思って、ひと粒で2度おいしい感じにしようと思ったんです。後半はオリジナルなんですが、前半はリアレンジをして雄大なストリングスの上にメロ ディーがただよってるというか、そういうサウンドにした。また違った雰囲気で聴けるんじゃないかって思ってます。


■『Broken hearts,citylights and me just thinking out loud』はどんな思いで書いた曲なんですか?

BONNIE PINK:これは向こうに行ってから書いた曲で。街の雑踏のなかで孤独を感じることってあると思うんですけど、そんな 「あぁ、人は人だなぁ」みたいなことをボソッと言ってる自分を書いてるんです。結局、街はそんな人だらけっていうか。みんなそうなんじゃないの? ってい う。だからどうしなきゃいけないとかも言ってないし、わりとクールな視線で。


■どうしてそういう曲を書こうと?

BONNIE PINK:昨今、人とかかわるのが苦手な人が増えてるという印象があって。職種にもよるけど、家のなかで生活が完結している 人が増えてたりとか、孤独率が上がっている気がするんです。で、それをそのまま描写してるんですけど、今は自分から意識しないと勝手に孤独になっていくよ うな街の仕組みができてる気がしていて。もっと人と付き合っていくことに能動的になったほうがいいんじゃないかなって。それをみんなにも感じてほしくて、 この曲のタイトルの最後のフレーズをアルバムタイトルにしたんです。自分で思ってることをひとり言で終えるんじゃなくて、とりあえず外に発して、だれかに 聴き取ってもらって、それを連鎖させていくっていう。もっとloudに、louderにしていったほうが人とつながれて気持ち良くなれるんじゃないかって いう願いが入ってるんです。


■実際、BONNIE PINKさんは思いを外に出せるタイプなんですか?

BONNIE PINK:昔に比べて出すのは上手になりました。昔は気をつかいすぎてすごい疲れてたんです。だけど、気をつかっても相手は 私が気をつかってることに気づいてないことが多いなってことに気づいて(笑)。1998年から2000年までニューヨークに滞在してたんですけど、そこで 自分らしく生きる大切さや思ったことを口に出す必要性を学んだし、それ以降はもっとラクにいこう、もっと人に甘えていこうと思うようになった。気をつかう ときとリラックスするときの切り替えが上手になってきたっていう感じですね。

■昨年は、映画「嫌われ松子の一生」で映画初出演、その主題歌『LOVE IS BUBBLE』、『A Perfect Sky』とヒットが続きました。それを受けて、心境の変化はありましたか?

BONNIE PINK:映画の曲は、撮影の半年前の2004年末に書いていたんですね。で、資生堂のCMソングの話が来たのが2005年 の末。それまで、人からこういうのを書いてくださいとか、そういうオファーを受けたことがあまりなかったので、すごくうれしかったんですよ。その期待に応 えたいっていうのもあるし、作家魂をくすぐられたというか。ソングライターとして求めてもらえるところまで来たんだっていう自信がついたところはあります ね。


■ベスト盤『Every Single Day-Complete BONNIE PINK(1995-2006)-』で初めてBONNIE PINKの音楽に触れた人も多いと思います。そこで、ライブなどに関して、どこか新しいスイッチが入ったところはありますか?

BONNIE PINK:そうですね。去年のツアーとかは曲に対する反応の違いに客層の変化を肌で感じたし。だからこそ、ライブはやりがい があるなって思いました。初めて聴く人にどれだけ印象を残せるかっていう。そういう意味では、ここにきてすごく新鮮。それまでの自分はコンサバになってた かもしれないから、そういう自分のマインドを入れ替えるいいきっかけになったと思うし、初心に帰れた気はしました。


■ところが、そうやって走ってきたら、今年1~2月に病気で寝込んじゃったと。

BONNIE PINK:そう(笑)。“紅白歌合戦”前に風邪をひいちゃって。紅白もギリギリだったんですけど、終わってホッとしたんで しょうね、打ち上げではしゃぎすぎて風邪をこじらせたんですよ(笑)。元日から声ガラガラで熱出して。とにかくせきが1日中止まらないんです。で、ずっと せきをしてるもんだから声帯も壊しちゃって。痙攣性(けいれんせい)発声障害を併発して、要はしゃべり声がふるえるんですよ。


■いつでもビブラート?(笑)

BONNIE PINK:そう(笑)。話すのも歌うのも音程のコントロールがきかない。で、医者にとにかくしゃべるなって言われて。ずっと家にこもっていて、何にもできなかった。一応、曲作り期間だったんだけど、作曲どころじゃないっていうか。もう「死んじゃうんじゃね?」みたいな(笑)。


■でも、結果的にオフが取れてリフレッシュもできたんじゃないですか? 災い転じて福となす、っていう。

BONNIE PINK:全然! ただの災い(笑)。遅れてきた大殺界って感じでした。「去年で終わってるはずなのに、なんで1月に来ん の!」みたいな。悔しいですね、2か月ロスした感じがして。まあ、こうやって話せるようになっただけハッピーですけど、あのときは、「私このまま半年くら いダメかもな」って思ってたんですよ。「最悪、歌手生命も……」とか。もう暗ーくなってたんです(苦笑)。


■じゃあ、明るい話をしましょう(笑)。スウェーデン滞在中に行ったインターネットライブはどうでした?

BONNIE PINK:楽しかったですね。ただ、お客さんが目の前にいないので不思議な感覚もありましたよ。どういうふうに見えてるかわからない状態でやってるから、必要以上に画面に手を振ったり、とりあえずいっぱい笑顔作っとくみたいな(笑)。


■『Thinking Out Loud』の初回盤にはその模様を収録したDVDが付きます。見どころは?

BONNIE PINK:見どころは、ヤンス・リンドゴード(バーニング・チキンのメンバー)が興奮しすぎてヘッドフォンがどーんと落ち たっていう(笑)。でも、それくらい盛り上がってたんですよ。無我夢中になってた。演奏した曲数は少なかったですけど、きっと楽しんでもらえたと思います し、この特典映像で見られなかった人にも楽しんでもらいたいです。


■ライブといえば、9月から全国ツアーが始まります。どんなステージになりそうですか?

BONNIE PINK:アルバムがわりと男気があるので、過去のそういうたぐいの曲もピックアップしてやろうかなと。去年のバンドメンバーにもうひとりギターを追加するので、ギターがフィーチャーされた曲が多くなりそうな気がしますね。


■ファッションのイメージでいうと、スカートよりはジーンズみたいな。

BONNIE PINK:うん。今回はジャケットもジーンズなんでね。今回、気分がジーパンだったんですよね。なんかマニッシュな感じとい うか、最近はモノトーンのなかに原色がばーんと一発入ってるっていうか、そういうのが気分なんです。だから足開いて座ってもOK、みたいな(笑)。そうい う気分でいこうかなって。


■ここのところのビジュアルにはフェミニンな感じがありましたが、かつてのBONNIE PINKのイメージに戻しつつあるんですか?

BONNIE PINK:そうですね。また違う波が来てて。最近は、女らしいとか、意外とかわいらしいもの好きとか、そういうふうに言われ ることも多くて。でも、それだけじゃないんで、そうじゃない部分をそろそろ出していかないと。かわいいほうへかわいいほうへ行っちゃうと、自分に違和感を 覚えるんですよ。だから、バランス良く進めていかないと。


■さて、ツアーは初の武道館公演でファイナルを迎えます。武道館に対する意気込みは?

BONNIE PINK:まだそんなにピンと来てないですね。「武道館だ、どうしよう!?」みたいな緊張感はまだ全然ないんですよ。でも、 バーニング・チキンをゲストに呼ぶのは決まっているし、ツアーの締めでもあるので、いろんな顔をそこで出したいなって。来た人に「いやぁ、楽しかった な」って帰ってもらえるような内容にしようと思ってます。普段使わないくせにスタンドマイクをあえて置いて、永ちゃんみたいにやってみるとか(笑)。あ と、とりあえず一発目に叫んでみます、ブドーカーン!! って(笑)。

2007年11月26日月曜日

Interview with - YUKI

 携帯電話のCMで流れる『ビスケット』とともに、そのキュートで元気な姿を久しぶりに見せてくれたYUKIが、8月8日、約1年ぶりとなるCDシングル『星屑サンセット』 をリリースした。YUKI初のドラマ主題歌となるこの曲は、TBS系ドラマ「パパとムスメの7日間」の主題歌としてオンエア中。かけがえのない大切な瞬間 が、キラキラと輝きながらエネルギッシュに駆け抜けるこの曲は、YUKIならではのポップさとせつなさを持ちながらも、これまでと違った肌触りを感じさせ る、YUKIの新たなスタート地点となる曲だ。


■『ビスケット』が配信されたと思ったら、あっという間に新曲のリリースですね。

YUKI:本当ですね。最近思うんですけど、自分が作りたいなと思う気持ち、作らなければいけない状況が目の前にあると、燃えちゃうタチみ たいです。それが、良くも悪くもインターバルがあまりなくやれているんです。だから、マイペースでやっているつもりなんですけど、けっこう止まらずにやっ ているみたいですね。この間もスタッフに、あまり私がゆっくりしているイメージがないって言われました。集中してやるときの切り替えが、たぶんすごいんで すね(笑)。


■この曲は、ドラマの主題歌ですが、曲はどういうふうに作り始めたんですか?

YUKI:主題歌のお話をいただいて、そこから曲を選んでいきました。ドラマのプロデューサーの方が、『ふがいないや』みたいに疾走感がある感じで、まだ青い果実のような歌がいいなというリクエストをしてくださったので、やりやすかったですね。


■ドラマの台本も先に読んでいたんですか?

YUKI:第1話の脚本と、原作の本をいただいて、原作を読んだあとに脚本を読んだら、そのまま上手にドラマになっていて、ちゃんと絵が見 えるようになっていたので、そこから歌詞は書いていきました。だから、かなりドラマに寄り添っていますね。でも、リクエストがありつつも、“YUKI”の シングルとして新しいものを作らないと私も納得いかないし、聴いている人たちも納得いかないと思うんです。そう思って、いちばん私の歌が響くところ、つま りメロディーがいいこと、という部分を重視しました。いいメロディーでありつつ、これは今まで私があまり歌ったことのないメロディーだと思います。


■ドラマのストーリーから、どういうふうに歌詞の世界を広げていったんですか?

YUKI:原作を読んだときにいちばん私が印象深かったのは、冒頭とラストの、パパが小さいころの娘のことを思うというシーンなんです。一 緒に海に行ったり、花火をしたり。娘の成長によって、どんどん家族は離ればなれになっていくんですけど、家族が共有し合っているものって何かなと思ったと き、夕焼けだったんです。夕焼け、花火、海。そういう一緒に見た風景なのかなと思ったんです。しかもそれは子どもが幼いころの、まだ家族が小さな集合体で いられるときの風景。でもそれは長かったようで、振り返ってみると一瞬なんです。夕焼けとか、流れ星とか、その家族との時間とか。この曲で書いているの は、そういう“一瞬のもの”なのかなと思います。


■『星屑サンセット』というのは、夕焼けが星屑のようにキラキラしているということなんですか?

YUKI:そうですね。「たったひとつの光」という言葉がサビにあるんですけど、10年、20年の間に通り過ぎていく流れ星というか、“願 いをかけたい!”と思う星や光は見逃してしまっていることも多いと思うんです。でも、大人になっていくと、それにすごく注意深くなっていく。子どものとき は自分のことで精一杯でまわりのことが見えないんですけど、大人になるにつれて、どんどん自分以外の人のことも、世界が広くなって見えていくんです。その ときに見つけられる光というのは、実は人生のなかに何回も出てこないと思うんです。


■それは具体的にいうと、どういうものなんですか?

YUKI:人生の大きな出来事に出合うときや、最愛の人に出会うとき。ターニングポイントっていうのかな。何年かに一度現れる希望の星。人 は、どんどん思いやりとかを覚えて、いい人間になろうと頑張っていくんだと思うんですけど、そういう努力をしている人にだけ見える光なんです、希望の光 は。


■そしてこの曲は、主人公の女の子が一生懸命走っているように、すごくキラキラしていますよね。それでいて、せつない部分もあったり。

YUKI:そうですね。この女の子が走らせてしまったんです。何かを成し遂げたり、たとえば文化祭とかで、みんなで作ったものを壊すときの あの悲しい感じって、今の16才にもあると思うし、その感じは出したいなと思ったんです。やっぱり流れ星に願いをかけるのは、ずっと昔からいつまでたって もあるような光景であってほしいし、夕焼けにちゃんと気づくような人類でいてほしい(笑)。100年後、私はいないけど、そういうふうであってほしいなと 思います。


■このドラマは家族がテーマですが、YUKIさんが思う家族って、どんなものですか?

YUKI:このドラマのお話も、コメディータッチでおもしろい話だったんですけど、私がひかれたのは、家族のぎこちない感じなんです。そう いう違和感のある関係はもともと私も感じていて、素肌にラップを巻かれた感じというか、いちばん近くていちばんイヤな存在というか。親子の、愛しているが ゆえの不器用な感じとか、大事に思っていることを伝えられない感じというか。


■そうですよね。恋愛の“愛”とは違いますよね。

YUKI:やっぱり日本の家族で、「愛してるよ」とは言わないですよね。「アイ・ラブ・ユー」を無理やり日本語にしただけで、言葉に出すのとは違うことだと思うんです、家族に対しての思いって。日本語で家族への愛を表現するのはすごく難しい。ひとことでは言えないんです。


■でも、この話のように、お父さんと中身が入れ替わったらとんでもないですよね(笑)。

YUKI:絶対ムリ! 1週間は長いですよ。私もあまり父としゃべらないから、この主人公の子のことはよくわかります。一緒にテーブルに 座っていても話すことがないし、向こうもしゃべりづらいんですよね、きっと。でも、それで嫌いだとか好きだとか、そういうのではない。その微妙なところが 私としては苦手なんです(笑)。


■親子って不思議な関係ですよね。

YUKI:このお話も、お父さんと娘だから成り立つんです。お父さんってかわいいでしょ。私ぐらいの年になると、男性を頼りにしたいという ことよりも、守ってあげなきゃとか、かわいらしいなとか、どちらかというとそういう目線になっているんです(笑)。そう思うと、このドラマの娘と父親のや りとりを見ていても、やっぱり彼女のほうがしっかりしていて、女ってこうなのかな、って思います。


■それにしてもテンションの高い曲ですよね。パワーが凝縮されてる。

YUKI:レコーディングがすごく楽しかったからだと思うんです。曲を作っているときがいちばん楽しいんです。そのテンションが曲のなかに 入ってしまうんだと思います。今は、新しい人たちとやるのもすごくおもしろくて、いろいろとアレンジを進めていくやりとりも楽しいんです。コンピュータだ けどフィジカルな感じ、というのを今目指していて、この曲はかなりそんな感じになっていると思うし、これからもっとなっていくと思います。これはかなり自 分のなかでも新しいんです。


■今回、音を作るときに、いちばん考えたところはどこですか?

YUKI:最初は、もっと80年代の感じがあって、もっとキラキラしていて、トゲや毒が何もない、かわいらしい感じだったんですけど、こう いう世界観であまりかわいらしすぎるほうにいってほしくないなと思ったんです。でも、今回新しくやってくれたエンジニアの中村くんが、ベースとベードラ (※編集部注)を前面に出してくるミックスをしていて、それがこういう情景と不思議にミックスされていておもしろくなりました。単純に、歌をもっと前に出 したい、いい歌を聴きたいなと思ったんです。今は、前衛的なものやざん新なものよりも、メロディーと詞がきちんと聴こえて、いい曲で、それでいてどこかは み出しているようなものをやりたいなと思います。歌入れのときも、歌っているとすごく力がわいてきて、私の持つエネルギーを歌に表そうと思って頑張りまし た。


■はい、めちゃめちゃ表れてます(笑)。しかも歌だけでなく、すべての音がパワフルですよね。

YUKI:そうですね。今はひとつひとつの音の個性を出していきたいと思っているんです。音をひとつひとつ、前よりももっと大事にできるよ うになってきたんだと思います。今回はかなりギリギリなスケジュールだったんですけど、その締めきりのある時間のなかで、奇跡は生まれるんですよね。


■そして、2年3か月ぶりのライブが決定しました! しかも大阪城ホールと日本武道館です。

YUKI:はい。本当にお待たせしました! 私もすごく楽しみです。大きな会場だと、ホールマジックというのがあって、ライブハウスとはま た違う魔法がかかって、音もすごく気持ちいい音で聴けるし、曲のメニューも最大限で見せられるんです。このライブでは、もちろん5年分のシングル曲もやろ うと思っているんですけど、私としては、5才の誕生日という気持ちが大きいんです。ハッピーバースデー、YUKI! なライブにしようと思っています。


■YUKIの5年分のものを見せつつ、最新のものも見せつつ。

YUKI:そうですね。もちろん新曲もやるだろうし。最近いただくファンレターが、中学生からとかすごく若くて、きっと初めて見る人も多い と思うんです。そういう人たちにも、震えるようなライブってこうなんだ! というようなライブのすごさを、10代の大事なときに見てほしいですね。そして 自分でも楽しみたいですね。


※編集部注 / ベースドラム、またはバスドラム。西洋音楽に使われる最も大きな太鼓

2007年11月25日日曜日

Interview with - L'Arc~en~Ciel (ken)

今回のL'Arc~en~Cielのニューアルバム『KISS』 は、あえてファン以外の、それも“最近突出したロックを聴いてないなぁ”と感じている人にオススメしたい。なんたってここには、とびきりR&Rでピースフ ルなクリスマスナンバーも、エッジを研ぎ澄ました人力ドラムンベースもすべてが並列してるうえに、未体験のサウンドスケープが展開されてるのだから。果た してラルクはなぜこんなにすさまじいアルバムを作るに至ったのか。アルバム、そして現在のバンドを象徴する代表的なシングル『MY HEART DRAWS A DREAM』『DAYBREAK'S BELL』の作曲者でもある、ギターのkenに経緯を話してもらった。


■今回、曲出しミーティングをしたときにどんなアルバムになりそうな予感がありましたか?

ken:メンバー4人で“このアルバムのコンセプトをこうしよう”とか“音質をこうしよう”とか……個別にはあると思うんですけど……全員 でしゃべることはなく。で、まぁ今回はいつもよりさらに個人で作ってくるデモが、より思いがわかる部分まで突き詰めたレベルで作ってあったんですよね。だ から、そこをさらにプッシュできるというか、そこにそれぞれの曲の色がなかったら、みんなでこんなアレンジがしたいっていうときに、色づけからしなきゃい けない気がするんですけど、色がもうあるんで、それをもっとさらに濃くしよう、濃くすればいいんだなっていうのは個々の曲が出てきたときに感じましたね。


■kenさんの作曲したナンバーはシングルになってる曲も多いですが、リリースの順番でいくと『MY HEART DRAWS A DREAM』はどれぐらい完成したデモで持っていったんですか?

ken:だいたい、そのシンセとかギターもほぼ(CDになったものと)一緒ですよね。で、ベースラインとかドラムの“ここにこんなんを入れたいな“っていうのもデモに入れて上げましたけど。


■なんかオソロシイ曲ですよね、これ(笑)。

ken:そうですか(笑)?


■パブロフの犬状態です。イントロが流れただけでダメです(笑)。

ken:(笑)。ヨダレ出ちゃいます?


■もう、脱力するし、同時に力わくし、みたいな変な状態に(笑)。

ken:あー、なんかわかります。そういう気分って、好きな音楽聴いたときになったりするじゃないですか? で、その曲作ってるときも……2年前かな? 前作の『AWAKE』 を引っさげたツアーと、「ASIALIVE2005」っていうのを連チャンでやって。その前まで、音楽を聴くことにちょっと飽きてたとこもあるかもしれな いんです。CD聴いてもラジオから流れてくるものも、わりと“へー……(興味ない感じ)”みたいな。でも、そのライブをとおして、“あれっ? ちょっとお もしろいことができそうな気がする”って思えたんですよ。で、“いや、絶対ある。驚けるよ、これ”って思ってツアーが終わったんです。そこからしばらく休 憩のときに、もうなんだろ? 自分がホントに心の底から驚けるものを作りたいなと思って。“なんかいいなぁ”とか“悲しいなぁ、良い曲だなぁ”とかそうい う意味じゃなくて、驚ける曲以外はもう作んない! みたいな気分だったんです。そのときにパッと『MY HEART DRAWS A DREAM』のイントロ、メインのメロディーができてきて、パッと書きました。

■言葉が意味を内包して音楽化するってこういうことか? と思いました。hydeさんが「夢を描くよ」って歌う、その音自体が夢を描いてるというか。

ken:うん(笑)。あと、そのツアーのときに感じたもうひとつの要素として、僕、その……洋楽とかを聴いて、ある種言葉を知らずに音だけ を聴いて“カッコいい!”なんて言ってたんですね。ラルクやってるのにある種、邦楽スッ飛ばしたままだったんです。やっぱ自分たちで言葉を吐くほうの音楽 をやっているとは気付いてるハズなんですけど、意識が薄かったと思うんです。でも、そのツアーをとおして、ライブしながら音聴こえるじゃないですか? そ のとき、hydeの言葉がどんどん入ってくるワケですね。言葉って、曲を作って演奏するとか、レコーディングするとか、いわば“曲にする”っていうときに すごい重要だなって。そーれは……“なんで今ごろ気付いてんだろう?”みたいな感じだったですけど(笑)。


■15年たって(笑)。

ken:15年たって(笑)。それでその『MY HEART DRAWS A DREAM』を書いて、hydeの詞が乗ってそこでホントに思ってた驚きがきて。“あ、やっぱ驚かしてくれたよ”と思って、すごいうれしかったですよね。


■それはうれしいでしょうね。ところで、そのkenさんの“驚きたい”っていうテーマは、音楽を聴いてもおもしろくないっていうところからきてたんですよね。もうちょっと具体的に聞いてもいいですか?

ken:いや、うーんとね、ちょっとまぁヒップホップが大流行だったじゃないですか? もう何をどうしてもヒップホップがキテるときは、メ ロディーがある音楽をすること自体、メロディーがあることが悪、みたいな空気を感じてたんですよね。で、時間がたって、いいものというかマインドがすばら しいものはすばらしく聴こえるし、そうじゃないものは淘汰(とうた)されて、フツウのメロディーがある音楽と一緒の感覚の扱いに世間がなったと思うんです よ、去年ぐらいから……。何、質問されたんでしたっけ(笑)?


■(笑)。いや、でも皮肉なことですよね、その後、歌モノ・ヒップホップ全盛になりましたからね。

ken:あ……だから、そういうときが過ぎて、よけいラクになりましたね。ヒップホップもかっこいいのは大好きですよ。あと、ロックとかの “激しい”の意味を、ある側面から“こうしとけば激しく聴こえる”っていうフォーマットができちゃってた時期もあったと思う。オリジナルじゃなくても、す ごい迫力があるものはいいと思うんだけど、“そうしとけばいい”っていうのが流れてきた瞬間に楽しめない気持ちはありましたね。


■じゃあ、ないんなら自分が作ってやろうって気持ちも?

ken:L'Arc~en~Cielというバンドにいるというところと、ちょうどアルバムを作るというところで、それはそうだったかもしれないです。

■で、このアルバムはホントに一気に聴けちゃうんですが、なんなんでしょうね? この明るさというか前向きさというか。

ken:うーんと、その、まぁ直接聞いたんじゃなくてhydeがインタビューに答えてる雑誌読んで気付いたんですけど(笑)。


■遠まわしなバンドですね(笑)。

ken:hyde自体は、ポップなことにかかわってたんだよね?(スタッフに聞く)斜め読みだから、何がポップなことかはちょっとわかんな いですけど、“ポップなことを意識してた”みたいなことを言ってたので、その部分の要素がアルバムのそこの部分を増幅してるんじゃないでしょうかね。


■15周年のライブのとき、hydeさんはMCで“歌うことがすごく楽しくなった”とおっしゃってましたけど。

ken:ねぇ? けどあれね、本心なのか本心じゃないのかぜんっぜんわかんないんですよね、正直。


■えー(笑)?

ken:まぁ本心だとは思うんですけど、あぁいうとき冗談とか言うから。でもたぶんすごいとこまで行っちゃったんじゃないですか? 確かに 15周年……その前からも思ってたんですけど……やっぱ言葉が刺さってくるし。今回もやっぱ言葉が刺さる歌だったんですよね。だからそこの巧みさっていう のを楽しんでんのかな? って気はします。


■確かに『Hurry Xmas』みたいにかわいらしい曲でも、言葉はすごく入ってくるし。

ken:何の要素がそうしてるかはわかんないですけど、“これはポップだろうな”“これはコアなもんだろうな”っていうものが、同じ土俵の上に並んで見える感じというか。それはおもしろい気分です、うん。


■では今回、ご自身の曲以外で、すごく育っていった曲とか3人に驚かされた曲といえば?

ken:最初に言ったとおり、デモの段階でカタチは見えてたんで、すごい変化した曲っていうのは、そこまでないかもね?


■じゃ、曲が出てきた段階でびっくりした曲は?

ken:やっぱ『Hurry Xmas』ですね(笑)。で、最初この曲はストリングスとかのアレンジは入ってなかったんですけど、ビートとかジャズの空気っていうのはもう入ってたん で、“おいおいやったことないじゃん”“ええ~っ?”みたいな(笑)。しかもhydeが“クリスマスソングだ”って言った瞬間に余計“そうかー”って。


■おもしろいんですけど、この曲、キリスト教的なクリスマスを全然感じないんです。

ken:はははは。


■もっと自由な架空の楽団っぽくて。

ken:そうですね。やんちゃさは求めてたし、パーティーとしてのクリスマスへの思いの曲だとは思うし。


■クリスマスの定石に落ちそうで落ちてないところに“やられたなぁ”と(笑)。あとほかにびっくりした曲ありますか? けっこう出てくる人から、出てくるべくして出た曲ばかりですか?

ken:あとは……『SEVENTH HEAVEN』もびっくりしましたね。


■完全に確信犯じゃないですか? 今回hydeさんは。

ken:かもしんないですね(笑)。最初は打ち込みでいきそうな空気っていうのが漂うデモだったんで、“そうきたか~”って。でもやっぱり バンドはすっごいアレンジを頑張るか、ロックだ! っていう何かを注入していかないと、それこそデスクトップのミュージシャンと一緒になっていく時代なの で。その辺は出していかないといけないなとは思いますね。

■それにしても、自分が楽しんで驚いてというのが大前提だとしても、その本気感がすごいんですね、今回。

ken:だから本気で臨まないと自分らが驚けない年になっちゃったってことじゃないですかね。


■いろんなことに対して×をつけることのほうが多くなるのかもしれませんね、“もう見た”みたいな。

ken:そうそう。“もう見た”“これ何年前にやった”“知ってる”ってなっちゃう。


■だからといって、やってないジャンルとかで新しさを出すんじゃなくて、自分も変化していってるということを素直に表現してる感じですね。

ken:まさにそのとおりですね。なんか言葉で説明できないんですけど……、驚くこだわりはここであって、見た目のここじゃなくてっていう気分はありました。……何もわかんないですね、この説明じゃ(笑)。


■(笑)。でもそれがL'Arc~en~Cielっていうバンドのユニークさだと思います。じゃあ最後にすごくカジュアルな質問を。アルバムもできて、プロモーションも忙しくて、またツアーも始まりますけど、kenさんは普段は何してるんですか?

ken:普段ですか? ……何してる?(スタッフに聞く)ギター弾いてるよね? とにかく弾いてる。


■そんなに探求を(笑)。

ken:ちょこっと練習するとダメなとこが見つかるんですよね。で、それをやって練習してるうちにまた見つかる、と。で、どんどん自分の思ってるところへ近づいて行くのが止まらないんですよね。それが楽しいんだと思います。うん。そんなんばっかりです。それと散歩ぐらいで。


■散歩はめい想できますからね。

ken:散歩、ぼんやりできますよね、うん。


■そうですか。ところで今、『Hurry Xmas』弾けます(笑)?

ken:大丈夫ですよ、もちろん(笑)。

2007年11月24日土曜日

Interview with - 奥田民夫

ロック・バンド、UNICORNのデビューから今年でちょうど20年。その20周年を祝うがごとく今年に入り、初となるソロとしてのベスト盤。井上陽水氏との共作アルバム。そして、この10月には、UNICORN/ソロ時代と2種、それぞれ2枚組のトリビュート盤がリリースされ、巷ではちょっとした祝福ムードに湧いている、奥田民生。そんな彼がオリジナル・シングルを久々に発売。民生=独特のマイペース・ノンポリ感漂う楽曲が数多なイメージがあったのだが、今回の新曲2曲は、それをくつがえす、妙にドッシリとした<期待を背負う男>感が楽曲全体からかもし出されている。奇しくも、ちょうど20年前にUNICORNがデビュー(1987年10月21日デビュー)した次の日、その新作の事を中心に色々と話を伺った。


■今年に入り、初となるソロとしてのベスト盤を出したり、2月には井上陽水さんとのアルバムを出したり、この10月にはトリビュート・アルバムが2種出たりしていますが、ご本人的にはこの盛り上がりをどう見ておられますか?

奥田民生:単純に嬉しいですよ。まあ、ベスト盤やトリビュート盤といった類は、自身の今までの音楽活動の“ごほうび的” に思っていて(笑)。トリビュート盤にしても、期待通りの人もいれば、意外なアプローチもあったりと、色々なアーティストの様々な解釈や消化を面白く聴かさせてもらったし。やっつけ的なものは一曲も無く、貴重な時間を僕なんかの為に、しかもみんな頭を使ってくれて、ホントありがたかったですね。

■ちなみに20年前は、今の自分はどうなっていると思ってました?

奥田民生:何も思ってなかったな。元々将来のことなんて考えるタイプじゃなかったし。“音楽活動は続けていきたいな・・・”とは思っていたけど、それに際して特に具体的なビジョンも無く。運動選手みたいに選手生命も無いですからね、この仕事は。それこそ当時は、もう 3日後までのスケジュールしか気にしてなくて(笑)。その繰り返しですよ、この20年。得たものもあれば、失ったものもあったし…。

■その得たものとは、例えば?

奥田民生:体重が増えたり(笑)。最初の頃出来ていなかったものも、徐々に出来るようになったり。色々な体験や経験をして、色々なものが見えたり、分かってきましたからね。

■逆に失ったものは?

奥田民生:やっぱり体力かな(笑)。あと、肌の艶や、爽やかな汗の感じとか(笑)。

■とは言え、非常に良い歳の取り方をしてますよ、民生さんの場合。遊ぶ時は遊び、キメる時はキチンとキメる、みたいな。

奥田民生:常にメリハリをつけようとは意識していて。音楽を仕事にしている以上、例え苦労していても、苦労している様に見せちゃいけないし。自分的には「これはこんなに頑張って作りました」と語るタイプじゃないですからね。それを言っちゃうと、そういった先入観が楽曲に付いちゃうし。僕はそれがイヤで。なので、どれも「プップと出ました」と、あえてニュートラルな姿勢で語ってます。

■確かに今までの民生さんの楽曲には、そのようなスタンスの楽曲が多かったんですが、それに比べ今作の「無限の風」、「明日はどうだ」と、今までの民生さんの楽曲には見られなかった、いわゆる<男の背負うもの>を感じさせる楽曲が並びましたね。

奥田民生:今回はたまたまですよ、たまたま。今、並行して作っているアルバムは、相変わらずこの2曲をくつがえす曲も沢山あるし(笑)。なので、「今はこういったモードなんですか?」と聞かれると、「全然」と答えるしかなくて(笑)。アルバムを聴いたら、いつも通りのバランスに、きっと、“な~んだ、やっぱり”と思いますよ。特に今回の「無限の風」の方は、星野(仙一=野球日本代表監督)さんに向けて作りましたからね。これで楽曲がふざけてたら、星野さんに怒られますから(笑)。

■では、この曲は星野JAPANに捧げているところも?

奥田民生:ありありですね。“星野さんはこんな男なんじゃ?”と僕なりの星野像をイメージして作りましたから。なので、僕が作って歌ってはいるけど、感覚的には僕だけの歌とは思ってなくて。

■とは言え、独特の民生さんの歌い方も良い感じにサウンドに絡んでいて、なんとなくフツフツとしたエモーショナルさを感じたんですよ。

奥田民生:歌に関しては、あまり着飾ったりテクニカルな歌い方が好きじゃないんで、あえていつも通り朴訥な歌い方をしてみました。サウンドにも非常にマッチしていると思うし。

■演奏面も全体的にドッシリと坦々としつつ、所々エモーショナルになる。そのメリハリも効いてますね。

奥田民生:ギターをもう一本入れるというスタイルは、ここ最近ほとんどとってないんで、曲の在り方としてはシンプルにせざるおえない所もあって。そんな中、メリハリをつけたら、こんな形になったというか。“ライブではこうなるだろう”も想定して作ったし。“このフォーマットで!”と決めたら、そのフォーマットで出来る最大限のプレイとアレンジをした結果です。

■カップリング曲の「明日はどうだ」ですが、これは聴いていて気が楽になる人も多そうですね。

奥田民生:内容的にはあまり無いですよ(笑)。“なんだ、結局は行き当たりバッタリじゃねぇか!”って、ツッこまれるのがオチの曲で。自分的にも、“激しい演奏の中、こんな優柔不断なことを歌わなくても…”って思いますもん(笑)。“結局、決まってなくてもいいんじゃないの?”って歌ですから。“右か左かハッキリせい!”って人には受けが悪いでしょうね(笑)。

■こちらはかなりの疾走感とドライブ感のある曲ですが、なんでもこの曲はニューヨークで録られたとか?

奥田民生:そうなんですよ。ここ最近ニューヨークで録っていて、去年スティーヴ・ジョーダンのバンド“The Verbs”を一緒に演った面々と録りました。そのThe Verbsと並行してのレコーディングだったんで、ノリノリ感は上手く出てるんじゃないかな。レコーディングもサクッと早くて。曲に向かっての一直線感があって、かなり一丸性を感じてましたからね。

■で、3曲目にはPUFFYの2人に提供した「オリエンタル・ダイヤモンド」のデモ音源が…。

奥田民生:この曲こそ、「明日はどうだ」のスタジオや参加メンバーの豪華さとは真逆で。僕が1人で自宅で全ての楽器からエンジニアリングまでやりました。

■自宅ですか、これ?

奥田民生:もう、今やここまで録れるんですよ。“機材の進歩は凄いなぁ”と。向こう側の注文的も、“派手な曲を書いてくれ”だったんで、疾走感や荒々しさを前面に表してみました。まあ、ここまでライブ感を出したのも、“こんな感じだよ”というのを上手く伝える為で。

■作詞は井上陽水さんですが、彼の今回の歌詞を歌ってみていかがでした?

奥田民生:言葉の意味がどうであれ、歌った時のスピード感と歌っての気持ち良さは相変わらず凄いなと。もう、歌詞カードを見てもしょうがないんですよ、この曲は。是非、曲自体を聴いて欲しい。まあ、僕もよく韻は踏みますが、僕の場合は韻というよりは駄洒落。いや、おやじギャグの一種ですからね(笑)。

■最後に今作の聴きどころを教えて下さい。

奥田民生:やはり、日本、ニューヨーク、そして自宅と、全部場所も違うし、メンバーも違う所ですね。全て1人の人間から生まれた音楽ですが、そこに携わる人達や場所によって、こんなにも各曲違うところを是非聴いて欲しいですね。

2007年11月23日金曜日

interview with - スガシカオ

 初のベストアルバム『ALL SINGLES BEST』が大ヒット。デビュー10周年を迎え、その独創的な才能があらためてクローズアップされているスガ シカオから、ニューシングル『フォノスコープ』、そして、今年2月の武道館ライブの模様を収めたライブDVD『Shikao & The Family Sugar~FAN-KEY PARADE '07~ in 日本武道館』が届けられた。ライブへのモチベーションの高まり、“歌詞”に対する自負。この2作から、スガ シカオの現在がはっきりと見えてくる。


■まずはライブDVDのことからお聞きしたいのですが、まさに“デビューから10年の集大成”という作品ですよね。

スガ:武道館のときは、けっこうヘベレケだったんだけどね(苦笑)。インフルエンザにかかっちゃって、かなり厳しい戦いを強いられたので。まあ、武道館を成功させるっていうのは大きな目標でもあったわけで、それはしっかり実現できたんじゃないかな、と。伝説的なライブというか、来てくれた人たちに“あの場所にいられて良かったな”って感じてもらえるようなライブだったと思うし。


■その手ごたえは、映像からも伝わってきます。あれだけいいライブができると、10年間頑張ってきたなって思ったりします?

スガ:いや、そんなふうには思わないですけどね。武道館ライブで、とりあえずは(10周年のイベントが)落ち着いたというか……。まだいろいろ続いてるから、ぜんぜん休まる感じはしないんですけど。


■ニューシングル『フォノスコープ』からも、ここからまた攻めていこうという気合いを感じました。ベーシックはファンクなんだけど、サビではポップに展開していくという。

スガ:そうそう、“ファンキーに始まって、ポップに開いていく曲がやりたい”っていうところからスタートした曲だったので。けっこう荒技ですけどね(笑)。ここのところディスコだとかロックだとか、そういうのが多かったから、しっかりファンキーなヤツをやりたいなっていう気持ちもあったし。あとね、ライブで盛り上がる曲をやりたいんだよね、とにかく。ライブがイメージできないものはやりたくないんですよ、今のモードとして。


■なるほど。

スガ:昔は違ってたんですけどね。どっちかっていうと音源至上主義だったというか、とりあえず作ってから、さて、どうやってライブでやろうかって考えるっていう。最近は作ってるときから、これは盛り上がりそう! みたいな。


■“誰かの言葉で もう迷ったり 失ったりしたくない”という歌詞もかなりポジティブだし、精神的にどんどん開いていってるのかも。

スガ:そんなに良くないんですけどね、精神状態は。なんというか……明るくいこう、と思ってるんじゃなくて、ディープなところに行きたくないんですよ。マイナスなものを作ると、自分がそっちに引っ張られそうな気がするんですよね、今。『TIME』(2004年リリースの6枚目のアルバム)のときなんか、そのせいでツアーをやるのもつらくなっちゃったから。


■『フォノスコープ』という言葉は、辞書に載ってないですよね?

スガ:僕の造語なので。これはですねえ、言葉の真意をのぞける望遠鏡っていうイメージなんですよ。“この曲、スガさんっぽくないですね”でも何でもいいんだけど、何かを言われると、いろいろと深読みしちゃうクセがあるんです。そこに尾ひれが付いていって、自爆するっていう習性が昔からあって(笑)。そういうときに“その言葉って、ホントはどういう意味なの?”っていうのがわかる、ドラえもん的な道具があればいいなっていう。


■言葉を重ねれば重ねるほど、何を言いたかったのかわからなくなるってこと、ありますよね。特に恋愛中は。

スガ:相手の話を聞いてるときも、そうじゃないですか。どんどん話してくれるんだけど、ますますわかんなくなるっていう。そういう話をそのまま書いたんですよ、この歌詞。耳をすませば、聞きたくないところばかりが聞こえてきて、ホントに知りたいことは聞こえてこないっていう。


■なるほど。でも、ホントにあったら便利ですかね?“フォノスコープ”。

スガ:どうでしょうね……。それはそれでダメかもね(笑)。


■今回のシングルは、4曲をとおして“気持ちを上げていきたい”っていうテーマで貫かれてないですか? 2曲目の『坂の途中』にも“休まないでのぼること 君ならできるよ”っていうラインがあって。

スガ:そう……ですね。まあ、新曲は(『フォノスコープ』『SPEED』の)2曲なんだけど。『坂の途中』はもともと、ラジオ局のキャンペーンソングとして書いたんですよ。もともとは弾き語りだったんですけど、それだと少しモノクロっぽくなりすぎるんで、今回はカラー写真っぽくリアレンジさせてもらいました。


■3曲目の『SPEED』も、ブッ飛んだ疾走感が印象的。

スガ:これはちょっとディープですけどね。小説(雑誌「SWITCH」に連載された、初の連載小説「SPEED」)の内容ともつながってるから、(歌詞は)覚悟して書きました。とにかくテーマが重いんで。


■テーマというと、死生観とか“生きてる実感とは?”とか……?

スガ:そうです。生きているスピードっていうか。


■生きてる実感って得にくいですよね、特に今の時代って。

スガ:うん、時代のせいなのか、人間っていうのがそもそもそういう生き物なのかはわかりませんが。何で生きてるんだろうな、っていうことですよ、つまり。それが小説のテーマだったので。


■スガさんのなかで、その問いに対する答えは見つかりましたか?

スガ:見つかってないですよ。わかんないんじゃないですか、きっと。


■そうですよね……。4曲目の『Hop Step Dive』は『PARADE』(2006年にリリースされた7枚目のアルバム)の収録曲ですが、最近「マイナビ転職」のテレビCMソングとしてオンエアされてますね。

スガ:もともとは、僕の周りにすごくヘコんでる人がいて、その人に向けて応援ソングを書くとしたら……というところから作った曲なんですよ。その曲を(CMソングに)選んでもらったんですけど、「マイナビ転職」の人にいわせると、僕は転職のカリスマだそうですよ(笑)。


■仕事を辞めて、プロのミュージシャンになるという夢をかなえたわけですから。

スガ:僕の場合、ありえない年齢でデビューしてるからね。あきらめずに頑張れば……っていうところでしょうね、きっと。デビューのときの年齢は27とか28が限界っていわれてるなかで、僕は30才でデビューしてるわけだから。だれもが失敗するだろうって思ってたんだけど、それなりにうまくいって、それが(転職を目指す人の)勇気につながることもあるんじゃないですか。


■この10年間で、あのときはキツかったなっていう時期はありますか?

スガ:……やっぱり、スランプだったときかな。最初のレコード会社との契約がなくなって、宙ぶらりなままリリースの計画もなく、しかも曲が書けないっていう。山にこもりましたからね、いい曲が書けるまで。


■では逆に、あのときはすばらしかった! っていう体験というと?

スガ:うまくいったライブのエンディングは、いつもそう思うよ。なんていうか、世界の時間が止まってる感じがするんだよね。最後にバーンと音を鳴らすじゃない? 僕が合図してバッと音を切ったらライブが終わるわけだけど、その間の何秒間……5秒もないくらいかな……っていうのは、ホントにいいんですよね。


■それは実際に体験してみないとわからないですね……。楽曲、音楽に対する責任感も強くなってるのでは?

スガ:責任感は昔からありましたよ、もちろん(笑)。でも、最近は歌詞とかもちゃんと考えてますけどね。


■と、いうと?

スガ:たとえば、日本の歌詞の歴史を前に進めてる人っていうのが、2007年の今10人いると仮定して、僕はその10人に入って、責任を負おうと思ってるんですよ。しょうもない歌詞は書かないようしたいなっていう。


■これからの日本の音楽のために?

スガ:そういうわけでもないんですけど、その自覚があるかどうかは大事だと思いますね。注目されてるっていう自負もあるし、だったらちゃんと責任をもってヒドい歌詞を書いていこう、と。(歌詞で)ここには触れてはいけないっていうところがあって、だれかがそれを壊さなくちゃいけないんだったら、僕が壊そうと思ってますね。

2007年11月22日木曜日

interview with - Aqua Timez

 心あるミュージシャンの2作目のアルバムには、型破りな好作が多かったりする。1作目はいわゆる自己紹介。偏らないように、誤解されないように、バランスを取りつつキチンとまとめていく。そんな、ある意味礼儀正しいあいさつが済んだところで、次に見せるのは“実は、こんなとこもある人間なんですけどね……”という普段着姿のキャラクター。だから場合によっては3枚目の横顔をチラ見できたり、意外にマニアな部分を知ったりと1作目からは伺い知れない “素”に触れることもできる。
 Aqua Timezのセカンドアルバム『ダレカの地上絵』は、まさにそういう作品だ。『一瞬の塵』『ピボット』『秋の下で』などなど、知らなかった彼らがここにはたくさんいる。自己紹介後だからこその、肩の力を抜いて自分たちの音楽を自由に奏でているAqua Timez。その“やんちゃ”ぶりも耳に楽しい好作だ。


■今回の制作は、かなり忙しいなかでのことだったんじゃないですか?

mayuko:前作(『風をあつめて』)は、2か月間レコーディングに集中することができたんですけど。今回は間にツアーがあったりしつつだったんで、わりと頭の切り替えが大変でしたね。

太志:ライブの日はレコーディングのことなんてもちろん考えられないし。ライブが終わったところで、ライブの余韻に浸ってるから考えないし。次の日は移動で疲れるから、また考えないし。で、そうやってどんどん歌詞は書かないし(笑)。最終的には時間との戦いになるんですけどね。でもそこで妥協はしたくないから、ギリギリまでネバってましたね、今回も。


■“こういうアルバムにしたい”みたいな、何かビジョンのようなものはありましたか?

太志:バンドってことにこだわりたかったですね。5人でやってる意味、みたいなことに。

TASSHI:前回は自分の演奏にこだわってたとこがあったんですけど。今回は曲の世界観や、バンドとしての音にこだわったというか。

太志:こだわり方が変わったと思うんですよ。自分らがイメージしているような音に仕上がるかどうか、そこをいちばん気にしてたんで。


■そのせいか、聴いた印象が前作とだいぶ違いますね。今作のほうがやんちゃというか。

太志:前のはカチッとしてますよね、今思うと。それはたぶんビビッてたからだと思うんですよ。でも今は少し余裕も出てきたから、遊ぶこともできるっていう。今回のど真ん中の曲が『小さな掌』だとしたら『ピボット』とか『乱気流』は完全に針が振り切れてるし。そういうことも、今だからできた気がするんです。


■そこが前作と最も違うところですか。

太志:そうですね。やっぱり1枚目のフルアルバムって、自分らのことを知ってもらえる半面、“こういうバンド”って決めつけられることでもあるから。誤解のないように全部出したい、と思ったし。だからこそ、カチッとしたアルバムになったんだろうなって。だけど今回は、そういったとこから離れて作ったんで、遊べたんだと思うんですよね。


■ところで皆さんにとって今回のアルバムはどんなものとして感じられますか? また特に印象に残っている曲はどの曲になりますか?

大介:印象に残っている曲は『一瞬の塵』。この曲、レコーディングしてるときは理想としてる音になっているかどうか、まったく見えなかったんですよ。それがミックスダウンのときに“これ、これ”っていう音になってるのがようやくわかって、ホッとした(笑)。で、アルバムは、音の面で1歩先に進めた気がしますね。

TASSHI:『秋の下で』ですね。音質のこだわりがいちばんよく表現できたかな、と思える曲だから。あとアルバムに関しては、やっとロックアルバムになったと思いますね。


■ちなみに前作はロックアルバムではない?

TASSHI:あれはポップアルバム。バリエーションには富んでたんですけど、やや起伏に欠けたところがあって。ロックアルバムと呼ぶには、うまく振り切れなかったという感じかなと。

太志:TASSHIはそこらへんに非常にこだわりがあるんで(笑)。で、僕は『一瞬の塵』。この曲、今までのAqua Timezのなかでいちばんカッコいい曲だと思う。シングルじゃ絶対できない曲だから。ぜひ聴いてほしいなって思う曲でもあって。そしてそういう曲がけっこうあるところが、このアルバムのいいところでもあると思いますね。

OKP-STAR:基本は僕も『一瞬の塵』なんですけど……。今日は『ガーネット』にしてみますか(笑)。これはもう暗いというか、寂しいというか、そこが好きですねぇ。静と動をすごく意識しながら弾いた曲でもあるんですけど、中途半端に両方混じってるのが、とにかくイヤだった曲ですね。でも今回のアルバムは、そういう意味でいうと全体的に静と動みたいなものがハッキリ出た1枚になってるかもしれない。

mayuko:日によって気になる曲も変わるんですけど……、今日は『僕の場所』にします(笑)。この曲ってなんか安らぐというか、安らぎながら開けた希望も見えるとこが、アルバムの最後を飾るにふさわしい曲になったなぁって。しかもこれ、生のハープの音も入ってるんですけど、その音色がすごく美しくて、感動した曲でもありますね。そしてアルバムは、とっても流れのいいものになったと思いました。


■それ、ありますね。本当に流れがスムーズだと思いました。

mayuko:曲間決めるのも、かなり何回もみんなで聴いたりして。

太志:流れは大事なんで。僕ら、いろんなアプローチの曲をやるでしょ。だからこそちゃんと考えないと、なかなかいい感じでハマらないっていう。今回もそこらへんはすごい考えましたね。

太志:あと今回、歌詞に関しては“あなた”とか“君”とかが増えたと思う。前は“僕”とか“私”が多かったし、自分のなかの葛藤(かっとう)ばっかり書いてたんだけど。人と向き合うことでしか、自分を知ることもできないってわかったので。だって孤独だって、人と向き合ったときに生まれてくるものじゃないですか。だれにも向き合わずに逃げてるだけじゃ、自分のこともわかんないっていうか。『小さな掌』が特にそういうことを書いた曲なんですけど、自分と向き合うより人と向き合うことのほうがずっと難しいよ、みたいな。


■一見、自分と向き合うことのほうが試練のように思えますけどね。

太志:そうなんですよ。自分と向き合って悶々(もんもん)としてるのってすごくつらそうに見えるけど、実は外に出て人と向き合ってるほうがずっと大変で勇気のいることだったりして。しかもおれとか、自分と向き合うってことを、外に出たくない逃避として使っちゃったりするから。もうなかば癖になってるんで。でもそれじゃダメだっていうのを今回はかなり歌ってるんですよ。


■それは自分と向き合うことを歌った次のステップとして、そうなったわけですか?

太志:そうそう。たとえば『僕の場所』って曲もすごい昔の曲なんだけど、今のおれが歌うべき歌だと思ったし。でも今回の歌詞は人と向き合うってところで書いたものばかりだから、すごく健全だと思う、歌詞として。


するとアルバムタイトルの『ダレカの地上絵』というのも、そこらへんからのネーミングですか?

太志:これはジャケットの絵ともかかわってくることなんだけど。なんていうか、大きく見たときの人間、みたいな。大っきなとこから見たら、人間って同じようなことで悩んで、悲しんで、喜んで、だと思うんですよ。


■それを“ナスカの地上絵”になぞらえて。

太志:そう。空から見たら絵になってるわけじゃないですか、あの地上絵も。何となく、そのイメージがあって。


■それにしても去年から今年にかけて、怒とうのような日々だったのでは?

太志:相当濃かったですね(笑)。でも、いい曲を作りたくてそれを路上で歌ってて、あのときの気持ちをどれだけ強く持っていられるかが大事だなって。こうして言いながら、自分に言い聞かせてるんですけど。結局、そこが崩れたら、全部崩れていくんだと思うし。きっと曲を作りたいと思って、作った曲を聴かせたいと思って、そういう情熱を持っていられる人がずっと音楽を続けているんだと思うんですよね。


■しかし今年ももう11月ですね。あっという間の1年で。

太志:ですね。だけど冬になりかけのこの時期って、すごい好きで。空気がヒンヤリしてくると、人恋しくなるでしょ。その寂しい感じが、すっごく好き。特に夕方が好き。日射しも、なんか気まずそうじゃん(笑)。強いのと弱いのと、どっちでいこう……? みたいな。その気まずそうな感じもまた好きなんですよね。全然関係ない話で申し訳ないけど(笑)。

2007年11月13日火曜日

intervie with - 伊藤由奈

 伊藤由奈が親友のMicro(Def Tech)を迎え、初コラボレーション作品をリリース! ハワイ出身の彼女が、ハワイを愛するサーファーでもあるMicroと完成させたスペシャル・ジャワイアン・サウンド。伊藤由奈with Micro of Def Techとして世にドロップされる8枚目のシングル『Mahaloha』の誕生秘話に迫ります!


■Micro氏との出会いは、いつごろ、どんなふうだったんですか?


伊藤:仕事で一緒になったのは、2005年の紅白歌合戦。Def Techといえばハワイのイメージで、私もハワイ出身ですから、ずっと気になっていて。でも、その紅白のときには、ちゃんとごあいさつできなかったんですよ。


■それは、残念!

伊藤:実は、共通の友だちにAIちゃんがいるんですけど、ある晩AIちゃんから突然、電話がかかってきて。「由奈、何してる? 今すぐ出てきなよ」って。私はもうパジャマに着替えちゃってたし、面倒だなぁ~と思って「AIちゃん、うちくる?」「それじゃダメ」「なんで?」って聞いたら、「会いたいって言ってる人がいる」「だれ?」「Def TechのMicro」「すぐ行く!」って(笑)。不思議なんですけど、はじめましてって感じではなかったですね。


■何だか、運命的ですねぇ。

伊藤:ホント、すぐに打ち解けて。そのときはミュージシャンがたくさん集まっていたんですけど、ミュージシャンが集まると、歌うか、セッションするか、そういう感じになるんですよね。静かにしてられない(笑)。結局その日は、みんなで朝の5時までカラオケして。で、いつか一緒にやろうね、って話に自然となったんです。


■具体的にコラボで作品を作ることになった段階で、コンセプト的なものはあったんですか?

伊藤:もちろん! 話していてすぐに、ラブソングだけど、大きな愛を歌っている歌にしたいよね、っていうテーマになって。異性の間でも、彼氏、彼女という関係だけじゃなく、性別を超えた大切な友だちっていますよね。そんな存在のこと、というか。「つらいときはいつもそばにいるよ」って言えるし、言ってよ、みたいな関係かな(笑)。そんなイメージがコンセプトでした。


■詞はMicro氏と50:50で書き上げた、とのことですが。具体的にはどんな感じで進めたんですか?

伊藤:Microくんのプライベートスタジオがすごくリラックスできる空間なんですけど、そこのソファに寝転がりながら、最初は全部英語で書いて。前半を自分が書き終えたところでMicroくんに渡して、彼が後半を書いて、一緒に日本語も入れて。メールとかではなく、直接意見を交わしながら作りました。


■曲は、Def Techの作品にも参加しているギタリスト、下山亮平氏を加え3人での共作とのことですが、サウンドはハワイに縁のあるふたりらしく、ハワイアンな雰囲気が漂ってますよね。

伊藤:ジャワイアンですよね、ジャパニーズハワイアン。曲選びは、Microくんからのデモのなかに、この曲の原型(下山亮平の『Water Dance』)があったんです。聴いた瞬間、もうすぐに“これを歌いたい!”と思って。実際に歌いながらメロディーを作りました。


■ハワイにおけるハワイアンって、どのように生活にとけ込んでいるんですか?

伊藤:音楽そのものが、ハワイではなくてはならないものなんです。学校では友だちが普通にウクレレを弾いていたり、ストリートではローカルミュージシャンが普通にライブをしていたり。ハワイの音楽シーンはメインがヒップホップ、R&Bで、次がハワイアン。ロックやポップスよりもハワイではハワイアンのほうがメインストリーム。だから、まだデビューしていないすごく上手なローカルミュージシャンがたくさんいるんですよ。


■タイトルの“Mahaloha”とは?

伊藤:これはハワイ語のスラングなんです。“マハロ”は“サンキュー”、“アロハ”は“愛”。このふたつがくっついて“愛を込めてありがとう”という意味です。


■どんな場面で使うのがベスト?

伊藤:例えば手紙やメールの最後に書くとか、感謝の気持ちをたくさん、愛を込めて伝えたいときに使ってもらえたらうれしいです。


■ところで、今年の春に行ったファーストツアーは、全国5か所(大阪、福岡、名古屋、札幌、東京)、追加公演も出て合計7公演、大反響だったようですね!

伊藤:各地でみなさんが温かく、ウェルカムな空気で迎えてくださっていることがものすごくうれしくて。7公演全部で、泣いちゃった(照笑)。もう本当にみなさん、ありがとうっていう気持ちでいっぱいで。あぁ~、今思い出しても泣く~!(実際にウルウル。目頭を押さえる)


■聴きたいと思ってくれている人がいるってことは、ミュージシャンにとって“幸せ”の極みですよね。

伊藤:ホント、ファーストツアーでは、人はひとりじゃない、って実感しました。私の“歌いたい歌いたい”って気持ちを、“聴きたい聴きたい”って気持ちで受けとめてくださって、また返してくれるから、まるで大きな波が起きているようで。この感謝の気持ちは、今回の『Mahaloha』の歌詞に込めた思いですね。


■ということは、『Mahaloha』はファーストツアーがあったからこそ完成した作品?

伊藤:そうですね。この曲を単なるハッピーハッピーなパーティーソングにしたくなかったのは、“何かがあったからこそ、今は幸せだよ”っていう気持ちを伝えたかったから。私はデビューしたいっていう願望がすごく強くて、とにかく歌いたくて歌いたくて、どこでもいいからチャンスをちょうだいって思っていた時期がありました。時には、その気持ちが強すぎてうまくいかなかったり、寂しい気持ちになったり。ハワイから日本に来て、本当にデビューができて、私の声を聴いてくれた、チャンスをくれたのが日本だったんです。だからファーストツアーでは、“人はひとりじゃない”ってことを改めて実感しました。


■歌詞のなかに“ひとりじゃない”って言葉が表れている理由は、そこにあったんですね。伊藤由奈さんのその思いを知ったうえで『Mahaloha』を聴くと、さらに心に響くメッセージがあるように思います。では最後にこの夏、ハワイに遊びに行く予定がある読者に、由奈さんとっておきのハワイのおすすめスポットを教えてください!

伊藤:自然に関しては、ノースショアのほうとか、マカプー。やっぱり田舎のほうが絶対にいいですよ。ショッピングだったら、アラモアナショッピングセンターもいいけど、夏用にリーズナブルにいろんなトップスがほしい人は、アラモアナSCの反対側、ケンタッキーフライドチキンの隣にある “Everblue”というお店がオススメ。私もこの前ミュージックビデオの撮影でハワイに行ったとき、そこでたくさん買っちゃいました。


■ちなみに、由奈さんの今夏のご予定は?

伊藤:どこかのイベントで歌っているはずです! あとオフィシャルサイトではブログも頑張っているので、ぜひのぞいてみてください!

2007年11月12日月曜日

intervie with - 絢香

 絢香としては久々のリリースとなる新曲『Jewelry Day』は、過ぎ去った日々への単なる郷愁ではなく、むしろ今の自分にとって糧となっている強い思いをつづった、彼女自身の強い意志を明確に感じる楽曲に仕上がっている。彼女自身が、2006年のデビュー以来怒とうのような日々を経てきたからこそ、感じるリアリティーとでもいおうか。単なるラブソングという言葉では片づけることができないほど、美しくまっすぐな楽曲だ。そんな絢香自身にこの新曲に秘めた思いを語ってもらった。


■この1年の状況の変化はすさまじいものがあったんじゃないですか? まさしく怒とうの日々というか。

絢香:そうですね。ずっとなりたいって思い続けてきたものだったりはしたんですけど、まさかこんな日々が続くとは……ってぐらい怒とうのような毎日で。歌をやりたいっていう思いだけだったんですよね。じゃあ、それがかなったとき、どんな毎日を過ごすんだろうってところまでは想像もしてなかったものですから。例えば、私ひとりの仕事の流れのなかでも、いろんな人がつながってお仕事を進めていくので、そういう部分も驚きだったし、いろいろと学んだ1年でもありましたね。


■コブクロとのコラボレーションだとか、ホントに短期間で広がっていきましたもんね。テレビドラマの主題歌とかもそうですけど、ひとつひとつを見ればデビュー前に“あんなふうにやれたらいいな”っていうあこがれの対象だったかもしれませんけど、実際は数珠つなぎのように続いたわけですもんね。あまりの忙しさに記憶がない、とかそういう状況だったんじゃないですか?

絢香:記憶は常にあるんですけど(笑)、でも立ち止まる余裕のない感じだったんで、とにかくもうがむしゃらに……明日、明日、明日っていう。もうそれすらできないこともありましたけどね。明日のことを考えなきゃいけないのに、その先を見てあせってしまうこともありましたし。


■そんななかでも楽曲はしっかり制作し続けてきたわけですが。

絢香:そこはしっかりやっておかないと逆に何にもできなくなってしまうので。リリース予定はなくても、制作活動だけは必ずやってたんですよ。だからそのスタンスは変えずにいてホントに良かったなと。忙しい日は特に思いましたね。あせらずに済んだこともありましたし。


■去年の怒とうの日々のなかで、音楽やってて良かったなって思う瞬間みたいなものはありましたか。

絢香:瞬間瞬間でそう思うことはありましたね。あとはいろんなアーティストの方たちとの出会いも大きかったですし。先輩アーティストの方からアドバイスをいただいたり。同じ立場に立たないとわからないことってあるんですよね、やっぱり。そういうことが聞けたりしたのは自分にとっても大きいことでした。


■安藤美姫さんとの共演もありましたし。

絢香:お互い忙しい時期ではあったんですよね。安藤選手は安藤選手でトリノがあったり、お互い大事な時期でもあったんで、ゆっくり話したりはできなかったんですけど、ライブを見に来てくれたりとか、そういう行き来はあって。やっぱりすごい刺激になるんですよね。彼女が頑張ってる姿とかを見ると私は私でパワーをもらったし。


■そういうことができたのも、がむしゃらに頑張ってきた自分へのご褒美、みたいな思いってありましたか。

絢香:そういうのもありましたけど、とにかく彼女に対して“おめでとう!”って気持ちのほうが強かったですよ。それだけであの場所に行ったというか。普段はライブとかでもみんなにパワーを与えたいっていう思いが強いほうなんですけど、あの日はひとりの人に“おめでとう!”って気持ちを伝えたいっていう。新鮮でしたね、そういう意味でも。


■でもたった1年なんですよね(笑)、デビューして。

絢香:そうなんですよね。自分でもそう思います。


■それだけ濃密な活動を続けてきたんですよね。そんななか、新曲が出るんですが。映画(「ラストラブ」)の主題歌なんですよね。

絢香:はい。でも曲自体は映画の話をいただく前からあった曲で、1年ぐらい前にできあがっていたんですけど。お話をいただき、映像を見せていただいたときに、この曲の世界観とリンクしているなぁって思ったんですよ。ぴったりだなぁと。もちろん書き下ろすっていうことの楽しさもあるんですけど、偶然のリンクが決め手になったというか。


■映画自体はすごく大人っぽいイメージですよね。

絢香:ですよね。田村正和さんと伊東美咲さんの、親子ほど年の離れたふたりの物語ですけど、男女の恋愛だけじゃなくて、人と人との愛情の形というか、そういう深い物語なので。そこに私自身も共感したんですよ。今回の曲は“キラキラとした、宝石のような日々”っていう、そういうニュアンスを伝えたくて、言葉を紡いでいったんですけど。なんかこう…… 過ごしてきた道や時間って、人それぞれ全然違うんですけど、だれにでもあって、そしていい思い出ばかりじゃないし、つらかったり悲しかったりするのって当たり前だと思うんですよ。


■確かにそうですね。

絢香:でも、そのとき与えられた試練を理解できないまま抜け出してしまうことのほうが多いような気がするんですよね。でも、時間がたって、 “あのときつらかったな”って振り返ってみるのって悪いことじゃないというか。あのときの意味ってこうだったのかなって……そうなったときにやっとつらい日々もキラキラと輝くような気がするんです。この曲って、つらい日々を思い返すなかにも気づく幸せな日々があるっていう歌なんですけど、それってすごく大事なことだと思うし、過ごしてきた日々と今って切っても切れないものだと思うし……。だからこそ振り返る時間に意味があるというか。私自身もね、去年全速力で走ってきて、今ようやく少し振り返る時間が持てたっていうこともあるので。


■じゃあ、今この曲を歌う意味ってすごくありますよね。

絢香:ありますねぇ。書いてはいたけど、ホントに振り返れてるかっていえば、そのときはそんな余裕はなかったと思うし。タイミングとしては、ホントに今って感じですね。


■映画の話があったとはいえ、まさにジャストタイミングですよね。今の心情そのまま、というか。

絢香:本当にそう思いますよ。また、そう感じられる自分も幸せだなって。つらいときやしんどいときって必然だと思うんですよ。絶対に意味があると思うし、そういうときって「これは何かがある」と思いながら過ごすことにしているので。


■例えば絢香さんにとって、そういうつらい時期ってあったりしたんですか?

絢香:17才のときに大阪を出てきたことが自分にとっては大きなことで。家族と離れて暮らすのも初めてだったし。すごい不安だったし寂しかったんですけど、離れてみてわかることってありますよね。普段はそばにいるからあまり意識することすらなかったものの大切さというか。そういう意味では得たもののほうが大きかったですよね。だから東京出てきたばかりのころはつらかったですよ。だれに何を相談したらいいのかもわからなかったですし。どうしていいのかわからなかった時期がありましたね。


■でも、音楽だけは続けようと。

絢香:ですね。そのために東京に出てきたので。


■そのつらさを克服するための努力みたいなものってありましたか?

絢香:努力ってほどのものではなかったですけど、感じたことを言葉として書きとめておこうってことは意識して続けてましたね。そのとき感じたことはその瞬間しか感じることができないものじゃないですか。


■そうやって思ったり感じたりすることが後々歌詞を書くときのヒントになったりすることってあるんじゃないですか?

絢香:ありますね。やっぱりそのときに思ったことって曲に出てくるんで、とにかく形にしますね。私の場合、アンテナを張りたくなくても張ってしまうんですよ。いくら休みの日で友だちと遊んでいても、何か感じてしまったら書きたいって思ってしまうし、きれいな景色を見たら言葉が出てくるし。だから仕方がないんでしょうね(笑)。逆に書かなきゃって思ったら、書けなくなってしまうタイプかもしれませんけど。


■いつもは自然に言葉が出てきてしまうんですか?

絢香:わりと日々過ごすなかで、残しておいたりとか……とにかくメモですね。いざ形にするときにそれが生きるというか。人と話していて感じたことがあれば書きたくなってしまうし、腹が立つことがあればそれはそれで書きたくなりますし(笑)。


■やっぱりそういうことはあるんですか?

絢香:もちろんありますよ。人間ですから(笑)。

2007年11月11日日曜日

Interview with - 倖田來未

昨年夏にリリースされ大ヒットを記録した『4 hot wave』。この夏も、それに負けないぜいたくなシングル『FREAKY』をドロップアウト。収録されているのは、疾走感あふれるロックチューンからキャッチーなポップスまで……、違う色を持った4曲。幅広いサウンドを乗りこなす彼女の歌声と新しい挑戦による“衝撃”の数々に注目!!


■昨年夏にリリースされた『4 hot wave』も4曲収録でしたよね。今作はそれを意識して同じ形式にしたんですか?


倖田:今回は4曲A面ではなく、『FREAKY』を軸にしてカップリングという気持ちで残りの楽曲を決めていきましたね。収録曲を選ぶ段階でいい楽曲が4曲そろってしまったので、「じゃあ、全部入れちゃおう!!」と(笑)。周りからは「次まで取っておいたら?」なんて声も上がったんですけど。倖田來未は出し惜しみするような女じゃない、常に“今”のベストを尽くす女だぞ、と。“全部入り”で勝負しました!!


■『FREAKY』はパワフルなロックチューンですね。

倖田:これは、デモを聴いた瞬間に「カッコイイ! アガる!」って即決した曲なんですよ。この4曲のなかでも、いちばん“倖田來未らしい”サウンドだと思う。リリックには“つらい状況から抜け出そう”っていう前向きなメッセージが込められています。


■倖田さんも“つらい状況から抜け出したい!”ともがくことはあるんですか?

倖田:もちろん、ありますよ~!! そんなときはね、自分ひとりで考え込まないようにしていますね。友だち、家族、スタッフ……周りにいる人に相談します。また、落ち込んだり心がモヤモヤしたときは、ひたすらガールズトークですね!! 言いたいコトを全部吐き出す!! 自分のなかにため込まず口に出すことで、出口が見えてくるんです。


■2曲目の『空』はガラリと優しいサウンドに変わりますね。

倖田:これは“聴く人の心をあたためたい”って考えながら作った曲なんですよ。今の時代、頑張ってる人がすごく多いと思うんですよね。なかには、泣きたいときに泣けない、つらい気持ちを押し殺して作り笑いをする……そんな人もたくさんいると思う。そんなすべての頑張ってる人に“大丈夫、わかってるよ”って声をかけてあげたくて作った曲なんです。


■3曲目の『Run For Your Life』では、また新しいサウンドに挑戦していますね。

倖田:新しいサウンドに挑戦してみたかったんですよね。この曲には、「人によって、良いところも悪いところも好きな男の子のタイプだって違う……。それぞれが“自分だけの魅力”を持っているんだから、“自分らしく”恋愛してほしい」……そんな思いがこもっています。


■ラストの『girls』は今までにない“振り切れたノリの良さ”がいい意味で衝撃的でした。

倖田:この曲は、ある意味“冒険”。サウンドもリリックも。いつもリリックを書くときは、日記みたいに伝えたいことをウワッと文章にして、それを曲に合わせて削っていくんですけど。今回は、女友だちとガールズトークしながら“夏っていえば海だよね?”なんて“夏”を彷彿(ほうふつ)とさせるキーワードをどんどん出していって。そこから曲を組み立てていったんです。


■その作業は楽しそうですね~(笑)。

倖田:もうね、夏の思い出話から恋バナまで……脱線しまくり(笑)。そんな環境で作ったので。ガールズトーク中は「今度、彼に会ったらこう言ってやるわ!!」なんて強気な発言で盛り上がるけど、いざ彼を前にすると……言えない(笑)。そんなリアルな乙女心も満載です。


■今作をとおしてのコンセプトはあるんですか?

倖田:“夏らしいものを”という思いはありました。泣きのバラードや、黒っぽいビジュアルの印象が強いせいか、倖田來未って“冬”なイメージが強いみたいなんですよね。それを変えたいなって思いました。


■毎年恒例の“a-nation”はじめ“LIVE EARTH”……この夏はイベント出演も盛りだくさんですね。アッパーチューンが多いのは、それを意識して?

倖田:そうですね。ライブで盛り上がる曲を増やしたいっていう気持ちももちろんありました。


■そんなイベントへの意気込みを聞かせてもらいたいのですが。

倖田:“a-nation”は1回目からステージに立たせてもらっているイベント。回を重ねるごとに、曲の構成、衣装……すべてのこだわりがどんどん強くなってきていますね。今回も力が入っているので期待していてください!


■“LIVE EARTH”はまた違ったタイプのイベントですよね。

倖田:環境をテーマにしたイベントなので、軽々しく参加はできないな、と。環境への配慮、環境への自分なりの考えをまとめるために、事前に本やインターネットで勉強したんですよ。そして、深刻な環境問題に触れれば触れるほど“アーティストとして何か貢献できれば”って強く考えるようになりました。歌をとおしてひとりでも多くの人に“遠い未来というのは私たちにとって無責任なものではなく、今このときから責任を感じなければいけないものなんだ”ということを伝えられたらって思っています。


■この夏はイベントに大忙しですが、プライベートな時間を楽しむことはできそうですか?

倖田:昨年の夏は、時間を見つけては愛犬のラムをつれて湘南・江ノ島方面によくドライブに行ったんですよ。今年も海には行きたいですよね。ラムと行くのもいいけど、女同士で出陣して、海の家で焼きソバをつつきながらガールズトークもアリかな(笑)。


■ドライブはよくするんですか?

倖田:大好きです! 友だちと家でまったりしてるときも“退屈だし、行っとく?”ってノリでドライブに行くことも多々。こないだも、1日オフをいただいたので、その前日の夜から友だちと箱根の温泉まで車で行ってきたんですよ。1泊2日で。観光地をまわったり、温泉に入ったり……かなりリフレッシュできました。


■今作のビジュアルでは、バッサリ切った金髪のショートカットに驚かされました。

倖田:私のなかでは“髪型”もまたエンターテインメントのひとつで。髪型でもみんなにサプライズを届けたいと思っていたんですが、それを今やっと実現することができました。金髪のショートにしたら“ファッションの幅が狭まるんじゃないか”って不安があったんですけど、いざやってみたら逆に幅がすごく広がった。エレガントなドレスも、マニッシュスタイルも、ブレイクデニムを腰ではくようなボーイズスタイルも……意外と何にでもハマるんですよ。また、小麦色の肌と金髪にカラフルな色がすごく似合うんですね~(笑)。ロスでカラフルなアイテムを大量に入荷してきました!


■髪型もファッションもすごく倖田さんに似合ってます!

倖田:ありがとうございます! 自分でも気に入っているんですよ。


■そのビジュアル、そして楽曲からも“自分らしさを大切にしようよ”というメッセージが伝わってきたのですが。

倖田:そうなんです。実は、今作には“自分らしくっていいじゃない。恋愛も人生も自分に合った歩き方をしようよ”っていうメッセージが込められているんですよ。“こうじゃなきゃいけない”って狭い世界に自分を縛って苦しむことって多いと思うんです。例えば、ボーイッシュなスタイルをしたほうが輝く女のコですら“巻き髪と白いワンピースじゃなきゃモテない”と思い込んでいたり。他人に押し付けられた生き方を歩もうとするがゆえに苦しんだり……。思いきって1歩外に出てしまえば、広い世界が広がっている。そこに気づき、そして飛び出そうとする勇気を持ってもらえたらうれしいですね。


■倖田來未さんにとっての“自分らしさ”とは何ですか?

倖田:常に“素直であること”ですね。自分が間違っていたら素直に謝るし、楽しいことがあれば大きな声で笑う。悔しいことや悲しいことがあったら人目を気にせず泣くことだってあるんですよ。自分自身にうそはつかないのが“私らしさ”なのかな。まあ、うそをつかないっていうか、つけないんですけどね(笑)。

2007年11月10日土曜日

Interview with - 槇原敬之

愛犬の死を通してに、命の大切さを痛いほど実感したという槇原敬之。オリジナルアルバムとしては約1年9ヶ月ぶりとなる『悲しみなんて何の役にも立たないと思っていた。』は、そんな自身の体験をタイトルに掲げ、“悲しみ”を乗り越えていく心の変化を捉えた、ポジティブなメッセージあふれる一枚に仕上がった。その心の変化、制作過程を聞いた。


■ニュー・アルバムには、槇原さんの原点回帰みたいなものを感じたんです。先行シングル「GREEN DAYS」も青春一直線ってイメージで。

槇原:今回は、素直に自分の好きなものを作っていったんです。前のアルバム『LIFE IN DOWNTOWN』は趣味性が強いというか、シンセサイザーを多用したものを作っておこう、という作品。ただデビュー前から数えて20年以上曲作ってると自分でも、“槇原敬之のメロディってこんなんやん”というのが分かってきて(笑)。なのでその反対を行ったんです。そうすると面白いもので、ゴムを強く引っ張った時みたいに前に戻ろうとするんですよ。「GREEN DAYS」はその象徴みたいな形。今回はアルバム全体を通して、メロディーも自分の心の行きたい方に行ったし、すごく伸び伸びと曲作りできたんです。そういう意味の原点回帰はあるかもしれません。

■槇原さんはつね日頃、YMO好きという話をされてますが、彼らも含めた'80'sのエッセンスが随所に感じられました。

槇原:ユーミンや小田和正さんとか何でも聴いてました。もちろん、彼らがリスペクトしていたアーティストも。音楽ってそういう流れがあるから楽しいですよね。当時は恋愛みたいに音楽と接してましたし。毎日のように新しい音楽と出会って夢中になって、朝から晩まで音楽をやり続けてという時期。いまは仕事にしてることもあって、音楽を仕事目線で見ちゃう。若いコを見てると“このコたち、まだそういうことがあるんや~”とワクワクする反面、自分は少なくなったなぁ、という変な寂しさも(笑)。

■やっぱり青春時代に聴いた音楽って、ずっと持ち続けますからね。先ほどもおっしゃってましたが、今回はそれが素直に出た、と。

槇原:ファッションの世界で“新作コレクションのテーマは'80's”っていう感じです。そのまま持ってくるんじゃなくて、21世紀からの視線で'80'sをリファインしたというか。まぁ、そういうと計算し尽くしてるみたいですけど、恥ずかしいぐらいしてなくて(笑)。

■やっぱり「どんなときも。」にもありますけど、“好きなものは好き”と。

槇原:そうですね。今回は流行にこだわらずに、自分の好きなものを作ることができたと思います。ちょうど、とあるセレクトショップのオーナーが、“ずっと成功し続けてる秘訣は流行りに振り回されないこと。自分が何が好きかだけは見失わないで、自分の好きなものを考えるだけよ”と、インタビューに答えていたのを雑誌で読んで。その言葉が僕のアルバム作りを支えになりました。流行ってるものじゃないといけない、とか他人からの見られ方を気にしがちですけど、自分の好きなものを忘れちゃいけない、と。

■おっしゃる通り、アルバム全体が槇原さんらしいポップでキラキラしてるようなサウンドに仕上がってますね。けれどタイトルが『悲しみなんて何の役にも立たないと思っていた。』。逆にいうと“悲しみ”が作品作りのきっかけになったんですか。

槇原:いつも詞のテーマって、ぼんやりしたところから始まるんですけど、今回はかなり明確にならざるを得なかったというか…。

■というのは?

槇原:じつは5匹飼っていた犬の1匹が死んだんです。自分がミルクやご飯あげて育てたのが2年ちょっとで死んでしまったていう、すさまじい辛さがありました。“悲しい”っていう言葉の使い方、間違ってたんじゃないかっていうくらい、ほぼ毎日泣いてましたね。自分がこういう悲しさ、辛さを知らなくちゃいけない自分だと思うしかしょうがない。そんな悲しさを1年ぐらい突き詰めて行くうちに、自分がいままでわかり得なかったことが見えてきたんです。ほかの犬が普通に歩いているのを見てるだけで、涙が出てきたり、抱っこして身体があったかいのに“生きてるんや”と感じたり。なんかバカみたいですけど、こんな気持ちになれるなら他人からバカみたいっていわれてもいいや、と。そんな気持ちを聴いてもらいたかったんです。

■命の大切さを痛いほど実感されたんですね。そういう意味で“悲しみは役に立つものだ”と。

槇原:そう教えてくれた、死んだ“ゆんぼ”という犬に感謝ですよね。“悲しみ”もイヤなものだけど、じつは生きていくうえで大事なものかもよ、と。人間って生まれてきた以上、誰もがいつかは家族や大切な人との別れがある。そんなときに“もっとああしておけばよかった…”という悔いが少しでもないように。このアルバムを聴きながら、自然にそのヒントに出会えたらいいな、と。

■随所にポジティブで力強いメッセージを感じますけど、そういう悲しみを乗り越えていく心の変化があったんですね。

槇原:けっこう時間がかかりましたけど。最初は言葉にできない気持ちばかりあふれてきて。それが言葉にできるようになるまで待って、待って…1年ぐらいかかりましたね。でも、そんな心の変化があって作っていったら、暗いどころか明るいアルバムになりました。

■アルバム全体の流れもいいですね。インストの「introduction」で始まって、何気ない毎日の小さな幸せへの感謝を込めた「五つの文字」で締めくくる。その間に映画や短編集のようにいろんな形の幸せが描かれていて。この曲順はすんなり?

槇原:いつも曲順決めるのは大騒ぎなんですけど、今回はすんなり(笑)。たぶん、時間をかけながらゴールとしてひとつのテーマがあったからでしょうね。「五つの文字」の曲じたいは、いわゆるアルバムレコーディングの前に作ってた曲なんです。「めざにゅ~」(フジテレビ系)のために書いた曲なので。でも、不思議なことにこのアルバムを予想して、しかも総括するような曲になりましたね。

■いまはいろんなイヤなニュースであふれかえってますけど、このアルバムを聴いてると、世の中も捨てたもんじゃないなって気になってくるんです。

槇原:久しぶりに、いつでも聴いてもらえるようなアルバムができたかな、と思ってます。ふつうに流しても聴けるんですけど、辛いときや悲しいときも力になれるような。聴いてくれる人とは、友達みたいな関係でいたいし。ゴディバのチョコとか2段重ねになってて、食べ終わったと思ったら“まだ残ってた”ということってあるじゃないですか。困ったときにそんな感じで聴いてくれたら、まだ一粒二粒、役に立つものが残ってるような。形もないし重さもないけど、そういうときに支えてあげられるような歌を書いていきたいと思ってるんです。人生は変えられないけど、お手伝いはします、と。

2007年11月9日金曜日

Interview with - セリーヌ・ディオン

世界を代表するディーヴァ、セリーヌ・ディオンがワールドツアーに向けて、アルバム『テイキング・チャンセズ』を完成させた。セリーヌといえば、映画『タイタニック』の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」や、日本のTVドラマ『恋人よ』に使われた「トゥ・ラヴ・ユー・モア」といった、ラブバラードの女王として知られるが、今回はNe-Yo、リンダ・ペリー、ベン・ムーディといった、意外な面々が参加している。さっそく、新たな意気込みで制作した新作について聞いた。


■シングル「テイキング・チャンセズ」を歌うようになったきっかけは?

セリーヌ:本当に美しい曲で、歌わないかとオファーを受けた曲なの。25年のキャリアの中でオファーを受ける曲は、いつ も決まってバラードだから、とても嬉しかったわ。バラードは大好きだけど、過去のどのアルバムにも、私はアップリフトな曲をせめて2曲は入れたかった。で も、いつの間にかバラードシンガーというイメージがついてしまって、なかなかそういう曲をもらうことができなかったのよ。


■そういえば、今回はベン・ムーディ(元エヴァネッセンス、アヴリル・ラヴィーンなどに曲提供)や、リンダ・ペリー(P!NK、クリスティーナ・アギレラなどをプロデュース)が参加していますね?

セリーヌ:そうなの。今回はアルバム全体が、少しエッジを効かせたものになりつつあって“ワーオ!”って驚きを隠せな かったわ。カバー曲でもハートの「アローン」を取り上げているけど、子供の頃から大好きな曲だったし、ロックを歌う要素は常に自分の中にあったの。突然新 しいアーティストに生まれ変わった、というわけでも考えを変えたわけでもないのよ(笑)。ただそういう機会に恵まれなかったの。それが今回、素晴らしいタ イミングで巡ってきたわけ。


■R&B界からはNe-Yoも参加していますね? これはあなたからのリクエストですか?

セリーヌ:私からのリクエストじゃないわ。今まで人生の中で、私から何かリクエストしたことなんて…、ほとんどないと思 う。忙しすぎて今までそんな時間はなかったから! でも、私からのリクエストではないけど、今回は1000曲近い曲が送られてきたから、その中で素晴らし い曲を選んだだけなの。


■ではその中で、今まで感じたことのない感情を、思い起こさせた曲はありますか?

セリーヌ:「ザッツ・ジャスト・ザ・ウーマン・イン・ミー」ね。実はずいぶん前にオファーを受けた曲だったの。ものすご く気に入っていたけど、既に映画の主題歌といったバラードシンガーのイメージが私にはあって、いつもその時のアルバムのコンセプトから離れすぎているか らって、収録することができなかった。でも、今回は歌うことができて最高だったわ。


■どんな感じで歌ったのですか?

セリーヌ:私が出した叫び声は、どうやったらあんな声が出せたのか、わからないほどのものだったわ(笑)。汗が出るほど の厳しいワークアウトで、最高にワイルドなもので、テクニックもなければ、歌い方を忘れてしまったと思えるほど。それに、痛みを感じるほどだったわ。ボー カル的なところではなくて、曲全体の魂と気持ちという面でね。歌い終わった後、ものすごい疲れに襲われて、エネルギーを吸いとられたようだったし。…た だ、ものすごく嬉しかったの。この曲は、これまでのセリーヌ・ディオンに歌えた曲ではなかったから。ジャニス・ジョップリンのように、テクニックなどな く、自分の魂に手を突っ込んで奮い起こして外に出す、とでも言うのかしら。魂が顕わになったのよ。


■他にも思い入れの強い曲はありますか?

セリーヌ:どの曲もそうだけど、「ア・ソング・フォー・ユー」という素晴らしい曲を、素晴らしいピアニストと生演奏で録 音したことかしら。私は小さなレコーディングブースにいて、隣の大きな部屋でピアノを録音していたの。彼が弾き始めたら、ピアノの息使いが聞こえた。それ を聞いた時、とても嬉しくなって「これこれ! 昔、同時録音をしていた頃は、みんなこんな感じだったわ! これほど素晴らしい事はないわ! 」と思ったの。私の時代は曲が出来上がってから、歌入れをするのが当たり前だったから。同時録音を始めた時、自分の吐息がマイク越しに聞こえるから、ピア ノの息使いを聞くためにマイクから少し離れたわ。でもそのお陰で、最高なムードで歌えたのよ。


■約5年の間、お子さんがまだ小さいこともあって、ラスベガスに移住して、ここでショウを展開しながら、家族としての生活を充実させてきたわけですが、この5年間で、どんな面が一番成長したと思いますか?

セリーヌ:公演と直接関係はないけれど、この5年間、何よりも母親として成長したわね。息子の誕生日を、公演が始まって 以来5回もお祝いしているの。だから母親としての責任を、果たせる機会に恵まれたわ。家に毎日いて、ホームスクーリングを受けさせ、安定した生活を送り、 1歳、2歳、3歳という年齢であるうちに、母親らしいことがしてあげられた上に、公演にも出演し続けられたことは、両世界(プライベートと仕事)を存分に 満喫することができたと思う。キャストの素晴らしい人たちと巡りあえたし…。この5年は本当にろいろあったわ。3年前に父親が亡くなったこともあるけど、 意味のある旅になったわ。


■来年2月から予定されているワールドツアーはどんな感じになりますか?

セリーヌ:ドカン! と大きいことをやりたいわ(笑)。ジェイミー・キング(マドンナのステージで有名)がステージ監修 をするの。ライブ自体はもっとモダンな感じになる予定だわ。ロックまではいかないけど、エッジを利かせる感じ。とにかく大きなステージよ。うーん…言い過 ぎない程度にどこまで言えばいいのかしら(笑)。ダンサーを8名連れて行くわ。はじめは「ダンサーはちょっと…」って感じだったんだけど、結局連れて行く ことにしたの。あと17年間ずっと一緒のバンドも同行するわ!



2007年11月8日木曜日

Interview with - 中孝介

 ひびわれた大地にしみこむ慈雨のように、聴く者の肩をそっと抱くような歌唱で“地上で最も優しい歌声”とも評される歌い手、中孝介(あたり・こうすけ)。今も暮らす故郷・奄美大島の島唄仕込みの裏声と、こぶしを駆使した歌唱が極めて個性的なボーカリストだ。4月に出したシングル『花』がロングセラーを続けるなか、国内初となるフルアルバム『ユライ花』をいよいよ7月11日にリリース。日本だけでなく、アジアにまでその歌声が流れ始めているボーカリストの音楽への思いは、どこまでもひたむきで純粋だ。まるで故郷の海のように。


■まずは音楽とのかかわりから。もともとは小さいころからピアノを学んでいたんですよね。島唄(民謡)との出会いやひかれた理由は?

中:ピアノをやりつつ、ヒットチャートに入っている曲を聴いて歌う感じでした。高校1年生のとき出かけたクラシックのコンサートで、ゲストの元ちとせさんが島唄を歌って、初めて生で島唄を聴き、お年寄りが歌うものという概念がひっくり返って、それから聴き始めました。


■島唄の世界では逸材と期待されていたにもかかわらずポップスの道を選んで、2005年『マテリヤ』でインディーズデビュー。当時の心境はどんな感じでした?

中:島唄の歌詞には奄美の歴史や昔の出来事が詰まっていました。奄美大島はしいたげられてきた島なので、人々は苦しみをいやすために歌い、明日への糧としたんです。そんな音楽の島唄をよそに持ち出して形を変えるのは違うと思って。でも、それでも自分は歌を歌いたい。島唄ではなく、自分にしかできない新しい音楽をやってみたいと思ったんです。


■確かに島唄の歌詞は方言だから、ポップスのほうがより多くの人に届きやすい。

中:そうですね。でも、ポップスでも、郷愁にかられる気持ちや、きれいなものを見たり、聴いたりしたときの琴線に触れる瞬間の感情……奄美でいう“なつかしゃ”を歌いたかったんです。


■歌唱には裏声やこぶしなど島唄の影響が残っていますね。この歌唱はどうやって生まれたんですか?

中:インディーズでデビューする前に、1年間ぐらいデモテープをいろいろ録って、自分なりの歌い方を探っていきました。そのなかで『それぞれに』も生まれたんです。


■その『それぞれに』で昨年3月メジャーデビュー。どんな気持ちでしたか?

中:人に聴いてもらえる幅が広がる場所に行くわけですから、喜びもあったし、改めて、ちゃんと歌に対して自分のなかで消化して伝えないといけないと思いました。


■中華圏にも進出し、2006年11月には台湾でフルアルバム『触動心弦』を先行発売。チャート上位に食い込んで、現地開催の大規模イベントにも出演しましたね。この経験は自信につながりましたか?

中:台湾のイベントでは、僕がステージに上がると、観客がどーっと集まってくれたんです。こんなに自分を知ってくれているんだと思うと驚いたし、うれしかったです。


■そして今年4月、森山直太朗さん作曲、御徒町凧さん作詞のシングル『花』を発表。この曲を歌うことになったときの心境は?

中:デビュー前から、森山さんの曲は好きでリスペクトしていたんです。いつか会えたらと思っていました。曲を聴いたら、まさに僕が伝えたい“なつかしゃ”を感じましたね。情緒を感じるし、心が温かくなる。


■歌い手は人によっては曲に近づき、人によっては曲を自分に近づけますよね。中孝介くんはどっち?

中:どうすかね。自分が近づく感じかな。まずデモテープで訴え方とかを決めていく。この曲を歌うときも試行錯誤がありました。森山さんが歌ったテープを何度も聴いてメロディーを覚えて、でも覚えたら、もういっさい聴きませんでした。自分の歌にするために。


■そんな曲が今までのなかで最も愛され、息長く支持されていることをどう受け止めていますか。

中:曲もそうですが、歌詞が普遍的だからでしょうね。だれがどう聴いても、その人なりの受け取り方ができる。


■そんな普遍的な曲を歌うのに中くんの歌唱や声は向いている気がしますね。

中:僕も、そういう歌が歌いたい。伝えたいのは、やっぱり“なつかしゃ”なんです。ブログのコメントにも「わけもわからず、泣けてくる」なんて書き込みがあるんですが、それですね、まさに。


■勢いに乗って、国内では初のフルアルバム『ユライ花』を発表。これまでのシングルも収められ、ベスト盤という趣きも感じられますね。

中:そうですね。この1年間の成果、瞬間瞬間が詰まっています。全体で意識したのは、心のわだかまりや不安を解放し、安心して明日も頑張ろうという気になるような作品です。


■新曲の河口恭吾さんによる『サヨナラのない恋』や、編曲が今っぽいアップテンポの『Goin'on』なども収録されていますね。

中:河口さんにもいつかお願いしたかったんです。『サヨナラのない恋』は、河口さんならではのメロディーで歌詞が優しいですよね。『Goin'on』は、やってみたいと思っていた曲です。これまでやってこなかった曲調を、新作には入れたかった。というのは、僕も島唄ばかり聴いてきたわけじゃないんで。ポップスやR&Bも聴いてきた、そういう要素が出せたらなと。ジャンルを問わず、いろんなタイプの曲を歌いたいです。母親が歌謡曲好きで、子守歌代わりに聴いてきたんですけど、今でもカラオケに行くとそんな歌ばかり。あとで履歴を見ると、普通の26才は歌わないだろうなという曲ばかりですよ(笑)。


■中孝介くん自らが作詞した『星空の下で』も含まれています。都会の生活のなかで故郷での日々を忘れていく寂しさをつづった歌詞には、自らの体験や思いが投影されている気がします。

中:歌詞に書かれているような自分にはなりたくないと思って作りました。奄美大島を離れて、いろいろな地方に行って歌を歌っている。奄美を忘れるわけはないけど、歌詞にしたためておくことで意味があるんじゃないかと。


■その奄美大島にメジャーデビュー後も暮らしていますよね。奄美大島とはどんな存在ですか? また、奄美を離れていていちばん故郷を思い出すのはどんなときですか。

中:やっぱり心やすらぐ場所ですね。家族がいたり、友だちがいたり。地元の子で奄美を盛り上げるために頑張っている人たちの姿を見ると、自分にも励みになります。奄美をいちばん思い出すのは、なぜか歌っているときですね。


■デビュー後、各地でさまざまな形でライブを経験してきたと思いますが、印象に残るライブはありますか? また、初めての全国ツアーも7月から始まりますが、期するところは?

中:恵比寿ガーデンルームでのライブは、自分のなかでもいちばん大きかったです。“やればできるんだな”という手応えがありましたね。今回のツアーもそうですが、いつも思うのは、手作り感を出したいなということ。アットホームな雰囲気というか。大きいところでもやりたいですけど、それよりも、声がきちんと届くところでやりたい。少ない音数で声がちゃんと届くところ。声をまず聴いてもらいたいんで。


■インディーズデビューから3年目。歌や音楽に向き合う姿勢や思いに変化はありますか。

中:デビュー前から比べると、歌の聴き方が変わりましたね。いろいろな先輩、たとえば、元ちとせさんや、同じレーベルの仲間でもあるアンジェラ・アキさんやCrystal Kayさん、そういった人たちの歌を間近で聴けて、時には話もできる。その意味では(僕の感性が)研ぎ澄まされる。だから、積極的にライブに出かけ、また映画も見ています。


■今後挑戦してみたいことはありますか?

中:せっかく中華圏に行くことが多いので、中国の楽器とコラボレーションしてみたいです。実際自分でも奏でてみたいですね。

2007年11月6日火曜日

Interview with - AI

AIの歌には、それに対峙(たいじ)する人にも同じように自分をさらけ出させるパワーがある。もはや日本でのヒップホップ / ソウルのトップランナーという形容を超えて、ジャンプアップ真っ最中の彼女の音楽は、これからどこまで届くのか? そんな彼女が、両A面のニューシングル『I'll Remember You/BRAND NEW DAY』をリリース。レゲエやゴスペルのクラシカルなたたずまいを持つ名曲『I'll Remember You』とCMでも話題の『BRAND NEW DAY』、そして初挑戦のロック系夏フェス出演などについて、今回も大放談!


■前アルバム(『What's goin' on A.I.』)にけっこうシリアスなメッセージがあったから、そのあとのシングルということで、何か考えたことはありますか。

AI:そうですね。そのあとのシングルだから、やっぱりはっちゃけたいし、楽しい曲を作りたいなと思って。あとは、ライブの感じも残ってたから、「もっとアップテンポほしいな」「こういうのも作りたいな」っていうのがあって。で、ちょうどいいときに、まず『BRAND NEW DAY』のトラックがきて。「全然暗くない! こーれは疲れがふっとぶ!」みたいな(笑)、そういう曲に久々に会ったなっていうか。


■これはJALのCMにも起用されて、プロゴルファーの宮里藍ちゃんと結果的に“ダブル・アイ”になりましたね。

AI:そうですね。CMのコンテで藍ちゃんが出るのを知って、こう、頑張って次に向かっていく、新しい始まりとかそういうテーマだったから、そこからもインスパイアされて。うん。


■藍ちゃんとはやりとりあるんですか?

AI:たまーにメールでやりとりしたりとか。なんか彼女にとっては世界をツアーしてるのは普通のことみたいで。何がヤバイって、彼女って常に試合があるような感じがするじゃないですか? テレビとか「また出てる!」って。「どんだけ試合してるんだよ!?」みたいな。でもそんな忙しいなか、わたしの情報とか見て、アワード受賞したら「おめでとうございます」ってメールくれたりね。


■なんかお互い刺激になっていそうですね。じゃあ、曲は『BRAND NEW DAY』のほうが先だったんですね。

AI:そうですね。2006年のライブ終わり、での1発目か2発目くらいの曲だから、ライブのテンションは残ってる、うん。で、この曲を作ってるときに『I'll Remember You』のトラックがきて。「この曲もヤバイな」って、これもびっくりして。


■このトラックはどこがヤバかったですか。

AI:聴いたことのある感じなんだけど、だけど私はやったことないような曲というか。たぶんどんな人もいいトラック、気持ちいい曲と思えるんじゃないかって。


■アレンジにはレゲエっぽい感じもありつつ、ムードはゴスペル的でもあるという。

AI:うんうん。今回はメロと歌詞がほぼ同時進行かな? ぐらいの珍しい感じで。Bメロ(※サビへと展開する部分)とかは英語でいろいろ歌ってるうちに「ひとりじゃない~」って聴こえてきて。こう、歌ってるうちに次の言葉が聴こえるときってあるじゃないですか? そんな感じで、聴こえそうな言葉をどんどん書いていった感じですね。


■『I'll Remember You』は、まわりの変化に戸惑いながらも、自分自身は進まないといけないときがある、っていう歌ですよね。

AI:そうですね。自分のまわりではすごいものが動いてる、私の頭のなかでは地球がまわってるのが見えるというか。自分のまわりは絶対崩れないワケでも動かないワケでもないじゃないですか。で、そういうことが起こったときにそれに巻き込まれてほしくないっていうのがあって。


■自分の力でどうにもできないことだけど、っていう?

AI:そうそう。でももっと身近なことで考えていくと、いろんな人に出会うじゃないですか。そこで「あの人いなくなるんなら、もっとこういうことしておけば良かった」とか、「こういう話したかったな」とか、自分が後悔したことからきてるのかもしれない。


■でも「あなたを忘れない」って言われるのって、「ありがとう」もいいけど、もっとうれしい気がする。

AI:そう。でもね、これはただの感謝で「ありがとう」って言ってるんじゃなくて、感じた愛情とかを自分のなかで大事にするっていうかさ。そういうのを今回は歌詞でうまく言えたらなぁと思って。


■しかしここのところのAIさんの歌詞はずっとていねいというか、テーマがデカイですよね。

AI:いや、こういう歌詞はずっとはできない。そこに注ぎ込むパワーがけっこうヤバイから。毎回書いてたら逆にウソでしょ。


■そう思う。ところで、この曲歌ってるときに、いちばんだれを思い出しますか?

AI:そりゃ難しいね……。でもやっぱり私を発見して、日本でデビューしない? って言ってくれた人かな。ソウル大好きな人で、「絶対、グラミーだからなっ!」てずっと言ってたの(笑)。


■彼氏のことは思い出さない?

AI:くっ(笑)。いや、もう、彼氏には失礼かもしれないけど(笑)、全然これ恋愛と思って書いてないから。第一、もう歌詞はホントに時間がないなかで、自分を追い込んで……、ほかの曲のレコーディングを朝までしてて、帰ってきたときに出てきたんですよ、朝方。もうね、気分転換にクラブに遊びに行くとか、ショッピングすらしない。もう疲れてたのね、すっごい。だけど、「うわーん!」とか泣いたあとポッて書けたりして。


■なんで泣いたんだろう。

AI:疲れたとか、寂しいとか、「私もなんかしたい!」とか、あとは「ちょっとどうしよう?」って迷ってるとか、だれでも一瞬感情的になるときってあると思うんですけど、だれに言えるワケでもなく、気持ちが詰まり過ぎて、詰まり終わって……だけどそのあとスゴイんですよ。鼻血が出きったみたいな感じになって。


■書かなきゃ進まない、みたいな感じ?

AI:そうそうそうそう(笑)。もうね、書けるとうれしくて、「二重人格か?」ってくらい。


■さて、今年の夏はちょっとアウェイなイベントとか……。アウェイじゃないか(笑)。

AI:いや、私もそう思います(笑)、ぶっちゃけ。だけどすごい楽しみなんですよ。自分がどんだけアウェイなのか(笑)。


■(笑)。まぁ、ロックフェスとかが多いですからね。

AI:でもいい意味でも悪い意味でも、私のことを知らない人たちっていうのが、いっぱいいるだろうし。でもそういうヤバイ現場じゃないけど(笑)、そういうところに出て自分にまたどういうパワーがつくのかとか。自分のやったことのないイベントとかは常に軽く緊張感を与えてくれるし。私は見たことないから想像できないけど、絶対自分のためになると思うし、それをやることで次の自信につながるものがあるかもしれないし。ま、そこで「AIちゃーん!」って言われても最高にうれしいし、別に「はんっ!」みたいな感じでも……。


■それはないと思うけど(笑)。

AI:万が一、そういう反応をうけたとしても(笑)! 逆にもうどこへ行っても大丈夫よ、みたいな。やっぱりデビューしたてのころっていちばんキツイじゃないですか。だれも私を知らない、だれも見てないし、東京の友だちもまだいないからだれも来ないし。それにやる場所もクラブっていっても、パラパラとかトランスとかのハコで歌うワケで。みーんなナンパしてましたね(笑)。


■じゃ、それに比べたら全然今年はアウェイじゃないですね。

AI:全然そうですね。まぁ、自分で「アウェイ、アウェイ」言ってるけど、自分の曲って全然いろんなジャンルが混じってる感じがするし、私も別にロック好きだし、R&Bでもヒップホップでも、ヤバかったらクラシックとかも好きだし。とにかく自分は初めて出るイベントで、どれだけ盛り上げられるかな? っていうのが勝負というか、それはありますね。


■こう、たとえば“ROCK IN JAPAN FESTIVAL”とかで、同じ日に出る人で見たい人います?

AI:いや、いっぱいいすぎて、もう1回タイムテーブル見ないと。あのね、マキシマム ザ ホルモン、大好きなんですよ!


■なんか共通するもん感じた、今(笑)。

AI:だーいすき! ◎ק*∞★◇!!(意味不明) ロックは叫びが好きなんですよ。だけど、彼らのはちゃんと歌になってるじゃないですか? そこがすばらしいなと思って。センスもいいし、いや~、楽しみです。もちろん自分のステージもね(笑)。もしかしたらまだまだリリースされない新曲とかも歌っちゃうので!

2007年11月5日月曜日

Interview with - 大塚 愛

約1年9か月ぶりとなる大塚 愛のニューアルバムは、タイトルを『LOVE PiECE』という。13編の楽曲たちは、それぞれが愛(LOVE)をたたえたカケラ(PiECE)。それらがひとつに集まって、めくるめく壮大な世界を構築している。これまで以上に喜怒哀楽をハッキリ描き出した極上のカケラたちによって、僕らはまた激しく大塚 愛のトリコになる。


■前作『LOVE COOK』は生音をふんだんにちりばめた温かなアルバムでしたが、今作はそれをふまえつつも、またさらに広がりをみせる内容になっているなぁと思いました。

大塚:そうですね。やっぱ年を取ったからですかね(笑)。今までいろいろやってきたことを混ぜてみたり、で、そこからいらないところは削ぎ落としてみたりとか、そういうことをやっていった結果だと思うんです。もちろんそれも3枚目までがあったからこそできたことだと思います。


■シングル曲が多数収録されているのも特徴ですね。

大塚:いろんなシングル楽曲が入っているんですけど、アルバムのなかに収まるとそれらに意外と一体感があって、それぞれが前向きに強く存在している感じがします。全体的にオシャレになったなぁって思ったりもするし。今までの大塚愛のイメージしかなかった人には、きっとまた新鮮な感じもすると思います。


■で、そこに5曲の新曲が入っているわけですけど、それらも違和感なく溶け込んでいて。

大塚:今回はシングルが多かったので、シングルが集まったときのカラーを考えつつ、全体的にひとつになっていけるような新曲を選んでいきました。結果的にすごく聴きやすい、いいアルバムになったなって思います。


■大塚さん的に、新たな試みだった楽曲ってありますか?

大塚:オープニングの3曲(『未来タクシー』『ユメクイ』『Mackerel's canned food』)は、歌詞の書き方として若干、女性目線ではなく男性目線で書いているんです。なので、最初に中性ソングが集まっているんです。


■あぁ、なるほど。一人称が“僕”になってますもんね。映画「東京フレンズ The Movie」で使用されていた『Mackerel's canned food』なんかは、さわやかなバンドサウンドですしね。

大塚:その曲は映画のタイミングで作ったんですけど、そのときからなんとなくアルバム曲っぽいなぁと思っていたので、今回入れてみました。タイトルや歌詞にたくさん英語を使ってるのも珍しいと思います。なんで使ったんだろう? 気まぐれです(笑)。たぶん最初の3曲は、「アレ!? 大塚 愛ってこんな曲を歌う人だっけ?」って思ってもらえるパートだと思います。


■『クムリウタ』はどうですか? この楽曲が今作のなかでも特に重要なんじゃないかなって思ったんですけど。

大塚:これは自分でも今までに出したことのない曲だなってすごく思います。自分っぽくない曲っていうのもあるので、すごく新鮮だったというか。強い1曲です。


■大塚さんの強い決意が感じらました。

大塚:なんか、いろんなことはあるんだけど、もうやれるだけやろうみたいな感じというか。今にも雨が降りそうなくもりのときの歌なんだけど、「雨なんか降るな!」っていう気持ちを歌ってますから。


■サウンドもすごく胸を打つ感じで。

大塚:ドラムとかベースで土くささみたいな部分を出して、あとはストリングスで空を表現しました。楽曲として空が必ず見えていてほしいっていうイメージがすごくあったので。


■本当にさまざまな楽曲が詰まった今回のアルバムで、大塚 愛という個性はよりくっきり、はっきりしてきたような気がします。

大塚:それはどうでしょう(笑)。でも、迷いはまったくないです。もう行くしかないっていう気持ちが表れているアルバムだと思います。


■そこには、この先も行けるぞっていう自信があったりもするんじゃないですか?

大塚:いや、それは行ってみないとわからないです。結果として願いがかなうかかなわないか、それはまだわからない。でも、行くんだっていう。


■強い覚悟ですね、それは。

大塚:そうです。『クムリウタ』に「二つある扉」っていうフレーズが出てくるんですけど、それはもう生きるか死ぬかなんです。そこで生きることを選ぶからには、頑張ろうっていう。なんか、人間っていちばん危機感がないと思うんです。動物たちは毎日が闘いというか、いつ食べられてしまうかわからないところにいるわけじゃないですか。でも人間はそんなことない。だから、こんなにも地球を破壊したりするんだとも思うんです。だから人間も、もっといろんなことを大事にして、覚悟をもって生きていかなきゃいけないと思うんです。


■まさにそのとおりだと思います。

大塚:とはいえ、私自身はみんなに影響を与えるすごい人とか、そういう人に別になりたいわけじゃないんです。もっともっと深く日常のことだったりとかを作品にしていきたいっていう……。ずっとただの音楽愛好家でいつづけたいんです。音楽をただ好きでいる人として、これからも生きていきたいなって思います。

2007年11月4日日曜日

Interview with - the brilliant green

「ストレートに音楽を楽しんだ」と語ったアルバム『THE WINTER ALBUM』を発表後、なぜかリリースが途絶えたまま、気がつけば4年半。その間、TommyはTommy february6、Tommy heavenly6、松井亮はmeisterとしてソロプロジェクトを展開。そのおかげでthe brilliant green本体不在の過剰な寂しさは免れていたものの、久々の新曲『Stand by me』を聴くと、やはり“待ってました感”が込み上げてくる。3人が活動休止を経てたどり着いた境地、再始動への意欲に満ちたキラーチューンに込めた思いとは……?


■気がつけば『THE WINTER ALBUM』をリリースしてから、もう4年半ですね。活動を休止した理由は何だったんですか?

奥田:特に活動休止というわけじゃなかったんですよね。

Tommy:そう。流れに身を任せていました。『THE WINTER ALBUM』のときは“5周年”、でもそのあとに(Tommy february6に)タイアップの話が来たのでソロを再開することになりました。私はソロをもっとやりたかった時期だったので、すごくうれしかったなぁ。“これもやりたい、あれもやりたい”で、そのままずるずると……みたいな感じで、気がつけば“10周年”。ビックリです。

松井:自然な流れなんですよね、全部。何かを我慢したわけでもないし。だから僕も何かできることないかなって、いろいろやってたんですけど。3人ともそういう時期だったんですよ。自由にやる時期っていうか。

Tommy:バンドを避けていたからソロをやってたっていうわけでもなかったしね。


■確かにthe brilliant green本体は休止中でも、みなさん忙しそうでしたよね。TommyはTommy february6とTommy heavenly6、奥田さんはそれらふたつのプロジェクトのプロデュース、松井さんもmeisterで活動なさっていて。

Tommy:私は“忙しい”っていう感覚はそんなになかったんですけどね。

奥田:僕はもう、ずーっと家にこもって作ってた感じでしたね。Tommy february6もTommy heavenly6もレコーディングから編集まで、ほぼひとりでやってたんで。その流れのまま気がつけば4年半(笑)。

松井:僕は楽しませてもらいました。いろんなボーカリストを迎えて歌ってもらったことで、あらためて気づいたこともあるし。


■気づいたこと?

松井:生まれ持った声質って強いんだなぁとか。


■声質……ですか?

松井:うん。meisterで歌ってくれた人、みなさん良かったんですよ。良かったんやけど……どう言うたらいいんかなぁ?

Tommy:どうやら私を立ててくれてるみたいですよ。


■Tommyの声の魅力を再確認したと。

松井:いや、まぁ、そういうことです(照れ笑い)。

Tommy:うれしいことです(笑)。


■それはソロ活動の成果のひとつですよね。the brilliant greenを客観的に見ることができたという。ほかに、ソロ活動を経たことで、the brilliant greenに対する思いや、バンドとしてのビジョンに変化はありました?

Tommy:“the brilliant green”という聖域を侵しちゃいけないんだな、っていうのは思いましたね。バンドだけやってるころはやっぱり、自分のなかのブームとか、そのときにやりたいことを出していきたいと思うんですけど、それをやっていくとバンドがどんどん姿を変えていくじゃないですか。長く続けていると違うこともしたくなるし。でもそうじゃなくて、遊びたくなったら外でやる、ソロでやるのがいちばんいいなぁと。the brilliant greenはthe brilliant greenとしてのスタンダードを追求したり、守っていく方向がいいんじゃないかなと、久々に3人で話し合いましたね。


■“らしさ”にこだわる、ということですよね。そう思った理由は?

Tommy:待っててくれた人に対して……ですね。待っててくれる理由ってやっぱり、the brilliant greenのサウンドが聴きたいからだと思うんですよね。それが突然、たとえばフュージョンとかになってたらイヤだろうし。

松井:それはすごすぎるけど(苦笑)。

Tommy:でも、なんかイヤじゃないですか。ちょっと毛色が違う感じになってただけでも。そこは責任感としてすごく思っていた部分で。

松井:たとえば毎回方向性が変わるバンドもありますけど、逆に、長年変わってへんバンドってありますよね。僕らはそういう感じなのかなぁと思います。


■とすると、3人にとっての“the brilliant greenらしさ”とは?

Tommy:はっきりとはわからないんですけど、具体的なところでいうと、たとえばアナログで録るとか。アレンジと音色の面だと思いますね。

奥田:the brilliant greenは昔ながらのやり方でやる、という感じですね。それぞれソロをやってたときには、最新の録音方法を駆使しつつ……みたいなこともさんざんやったんですね。でも3人に戻ったときに、the brilliant greenはそうじゃなく、もっと手作りで、荒さがあって、手間をかけてじっくり理想を突き詰めていくようなやり方をしていこうって話したんです。

Tommy:そのやり方のほうがゴージャスだしリッチだし。

奥田:そういう音作りを、聴いてくれる人はもちろんなんですけど、音楽を作ってる人にも知ってほしいと思うんですね。「ヘンな音が鳴ってるけど、何の音やろ?」とか「この生ドラム、どうなってるんだろう」とか、そういうところにも興味を持ってもらえたらうれしいなぁって。シンセサイザーでピコピコやってるようなのだけが音楽じゃないので。

Tommy:そういうのもやるんだけどね。

奥田:そういうのもバリバリやる(笑)。でも“ブリグリの奥田”としては、そうなんやと。ややこしいんです(苦笑)。


■そんなこだわりを反映したのが新曲『Stand by me』なわけですが、まさに再始動のまなざしの強さがうかがえるキラーチューンですね。来た来た! って感じでした。

Tommy:あ~、ありがとうございます。ドラマのタイアップがあったので、シングル候補の数曲をドラマ側の方に聴いていただいて、この曲がいいということで決まったんです。デモの段階ではもうちょっとソリッドな感じだったんですよ。それをアナログで全部録り直して、丁寧に仕上げていって。

松井:相変わらず音作りには悩みましたけど、それも仕方ないという感じですね。the brilliant greenって“これだ!”という音が見つかりにくいバンドやから(苦笑)。


■その不安定感みたいなところも“らしさ”ですよね。

奥田:そうですねー。

Tommy:あいまいにあいまいに、っていうのはつねに意識してやってるから。

奥田:あいまいに、ノリで、とか言ってやってるんですけど、なぜかノレなくなったりするんですよねぇ。

Tommy:ラフとは違うんですよね。計算されたあいまいさに持っていくのがすごい大変で。まあ、すべてはまたこれからですね。アルバムあたりでしっかりと。


■アルバムという言葉が出ましたけど、今年はデビュー10周年でもありますよね。ベスト盤の用意もあるんですか?

奥田:たぶんあると思います。まだ決定ではないんですけど。

Tommy:でも(ベスト盤より)フルアルバムを出したいなっていう気持ちでやってますね。

奥田:10周年だからというよりは、また手探り状態でイチからやっていくという感じなので。


■新作に向けてもう動き出してるんですか?

Tommy:まだです。

松井:全然です。

奥田:イメトレ(イメージトレーニング)中です(笑)。

Tommy:正直なところ、まだ再始動の実感がわいてないんですよ。だからアルバムを作り始めてみたら、言ってることもまた変わるかもしれない(苦笑)。

奥田:何しろまだ2曲しかやってないんで。レコーディングでも一緒に演奏したわけじゃないですし。一緒にやってる感が出てくるのは、もっといっぱい曲をやってからですね。

Tommy:そこをイメトレ中。

松井:わはははは(笑)。


■つまり、これからに期待! って感じですね?

奥田:そうですね。

Tommy:メインディッシュはこれからです(笑)。

2007年11月3日土曜日

Interview with - ASIAN KUNG-FU GENERATION

約1年ぶりのニューシングル『アフターダーク』のリリースとともに、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新しいシーズンがいよいよ幕をあける。ここ数年、日本のロックバンド・シーンをリードし、海外のバンドや若い世代との交流をとおして磨き上げてきた、センスとスキルと勢いとをダイレクトに詰め込んだ会心の一撃だ。バンドの現在位置、シーンの現状、楽曲制作、そしてきたるべきツアーに臨む気持ちまで、充実感あふれる4人の生の声をお届けしよう。


■去年までとは違って、今年はかなり余裕を持って制作に取り組んでいるのではないですか?

後藤:今年は、そうですね。わりとゆったり曲を作ったりしながら、リリースの予定を何も立てずにやっていたので。制作が短期間だと、精神的に入り込みすぎちゃうというか、スイッチがオンのままで3か月とか暮らしちゃうから、消耗がすごくて。『ファンクラブ』とか、作ってるときはそんなに大変だとは思わなかったけど、終わってからドッと疲れたので。今はリフレッシュの時間もあるし。精神的にゆとりがあります。


■恒例の“NANO-MUGEN FES.”も、今年はやらなかったですね。

後藤:はい。まぁちょっと、このままやり続けるとわれわれのスタッフがイベンターになってしまいそうなので(笑)。難しいですね、なかなか。夏フェスに出たかったというのもあるし、アルバムを腰を据えて作りたかったので、“NANO-MUGEN FES.”をやると精神的にも体力的にもキツイかなという判断だったんですけど。


■価値の高いフェスですからね。日本のバンドと海外のバンドとの交流の場でもあるし、あの場所をひとつのきっかけにストレイテナーやELLEGARDENが広く知られるようになったわけだし。大事に続けてほしいと思ってます。

後藤:まぁいろんなところに分断があると思うし、洋楽と邦楽とかね。そういうものの架け橋になればいいかなというのはあるので、そういうことも含めて、また新しい挑戦や課題はあると思うし、これからもやっていけたらいいねという話はしてます。ただ、その前に自分たちの表現自体がしっかりしていかないといけない。それがないと何を言ってもしょうがないし、自分たちが作っているものが良くなければだれも聴いてくれないから。まぁでも、シーンに対する責任感はそんなにあるわけじゃなくて、自分がいいと思う楽しい方向になってくれればいいなと思うだけで、はっきり言えば自分たちのためですよ。これが文化的にちゃんと根付いていけば、われわれはその恩恵をすごく受けますからね。ぼーっとしてたら、音楽があまり必要とされないものになってしまう可能性があるんですよね。CD自体が、まぁいいじゃんレンタルでとか、携帯で聴けるじゃんとか。そうなるのも寂しいなと思うし、もうちょっと根付いてほしいなとは思う。そのためには、シーンが盛り上がって見えたほうがいいと思うし。そう見えないと、飛びついてくれない人たちもいるしね。広げるのも掘るのも、両方やんないといけない。そこはちゃんと葛藤(かっとう)しながらやりたいと思ってます。


■そして1年ぶりのニューシングル『アフターダーク』がついに出ます。これはどんなふうに?

後藤:スタジオに行ったら、山ちゃんがすごい暗いベースを弾いていて、潔に「こうたたいてほしい」というめちゃくちゃなリクエストをしているところに居合わせて(笑)。何かおもしろいなと思ったんですよ。暗いベースラインだけど、こういうところから広がったらおもしろいなというのがあったし。ベースラインをギターに置き換えて、そこにベースで別のコードを当てればいいんじゃないの? って。基本的に山ちゃんの曲だから、「リズムはどうしたい?」ということを聞きながら作っていった。

山田:喜多くんが風邪を引いて休んでる日で、全員で演奏ができないから、ネタを探そうと思ったんですよ。さっき言ったみたいに、ベースラインをギターに置き換えて、別のコードを乗せればおもしろいかなというアイデアまではありました。まぁ確かに、最初は“山ハード”とかいう仮タイトルをつけられたし(笑)。でもそれに、メロディーがさらっと乗っちゃったのがビックリです。バックの演奏はわりと好き勝手なことをやりつつ、メロディーがちゃんと責任をとってるから、すごくポップに聴こえる。よくできた曲だなと思います。

後藤:今までのなかでは、めちゃめちゃやってる部類に入る演奏だから。よくできたよね。


■確かに。ドラマー的にはどう?

伊地知:僕にとっては暗いというか、ハードに聴こえたんですよ。僕、ハードロックとかメタルが大好きなんで、これは楽しいことになりそうだなと。もっとハードにしたいと思って、Bメロ(※サビへと展開する部分)の決め決めのリズムが出てきたりして、だんだんできていきました。


■ギタリストとしても楽しい曲でしょう。

喜多:そうですね。潔が言ったBメロのところとか、演奏していてカッコイイ気分になれる。

後藤:ほんとに? ほんとに楽しめる? ライブでも。

喜多:……すごい忙しいけどね(笑)。ギター的には。


■次は詞について。今までにない新しさをすごく含んでいるので、深く聞きたいところなんですけど。

後藤:宮沢賢治の「よだかの星」をモチーフにしてます。みんなにばかにされていたよだかという鳥が、空高く舞い上がって星になる話があるんですけど。夕方、街のなかを鳥が飛んでいくイメージが何かいいなと思って。Bメロのところとか、いろいろ意味はあるんだけど……。街角、甘いにおい、よだれが出てきて、だけど遠くから聞こえてくるのはだれかの鳴き声、それは仲間なんじゃないか? とか、ちょっと意味深な。そこで“血のにおい”とかそういう言葉が出てきてしまうのは、どうしても時代ですね。あまり感覚的なものに逃げないで考えて書いているというか、それなりの考察があるんですけど。でも最後の“進め”があれば、いいっちゃいいんですよ。


■強い言葉ですよね。最後にたった1行“進め”と。

後藤:それが書ければ良かった。やっぱり、何かをやり遂げたような気になるのは良くないというか、自分たちがやってきたことに酔っていてもしょうがない。これから何をやるか? が、いつだって大事なわけで。それは年をとればとるほど身につまされるというか、だんだん刻一刻と、これから生きていく時間より生きていた時間のほうが増えていく、というかね。どこまで生きられるかわからないけど、ミュージシャンとして、こういうバンド形態で、こういう曲想でやっていくのであれば、完全に折り返し地点を過ぎてるはずだし。そういう意味で、今しかできないことはたくさんあるから、焦りもあるし。“進まなければならない”というのは、年をとるごとに自覚が強くなりますね。自分を奮い立たせてる曲ではあります。


■暗闇のあと、ですからね。すごく前向きなイメージがある。

後藤:でもこれは、闇のあとというよりは“陽が暮れたあとに”ということなんですよ。僕のなかでは、夜明けはまだ来ない。わりとみんな、夜明けを感じてくれてるみたいで、ジャケットもそういう感じですけど。でも、もう少しで夜明けだということは自分でも感じているので。


■そして12月からはツアーが始まります。この前はアリーナツアーだったけど、あえてZeppとかクアトロでやるのはどんな意図が?

後藤:このぐらいがいちばんやりやすいんですよね。もうちょっと狭くてもいいぐらい。

山田:前回のツアーは、今までの活動の総括的なことをやったので。それ以降にいっぱい曲もできてるし、初お披露目できるものもあると思うし、うまいバランスでできたらいいなと思ってます。あとオープニングアクトもあって、みんなすごいバンドなので。


■OGRE YOU ASSHOLE、lostgae、OCEANLANEの3バンドがサポートしてくれますね。楽しみです。

喜多:アリーナツアーとか、今年の夏フェスとか、広い場所が多かったじゃないですか。そういうところでどうやったら伝わるかな? と思って 1本1本やってきたんで、不安はないです。フェスよりも時間は長いから、体力作りはしっかりやらなきゃいけないけど、絶対に楽しませることができる自信はあります。

後藤:でもメンタル面がね。

伊地知:ジャムセッションをしてるときにはすごくいいギターを弾くんですけどね。

後藤:メンタル面が日本でいちばん弱いギタリストですね(笑)。

喜多:頑張ります!

伊地知:バンド自体が、メンタル面がちょっと弱いので(笑)。でもたぶん、今回のツアーでそれが吹っ切れるんじゃないかと思います。アジカン、レベルが上がったなと。そう言わせたいので、楽しみにしていてください。

2007年11月2日金曜日

Interview with - 中島美嘉

中島美嘉のニューシングル『LIFE』は話題の深夜ドラマ「ライフ」の主題歌ということもあり、ダンサンブルなサウンドに乗せて、前向きなエネルギーを感じることができる楽曲に仕上がっている。そしてカップリングの『IT'S TOO LATE』は中島のオリジナリティーあふれる言葉がちりばめられたラブソング。今回は、そんな新曲の話から中島自身の恋愛観まで、幅広く語ってもらった。


■久々にダンサブルな曲調ですよね。

中島:はい、そうですね。自分でもチャレンジ感はありますね。


■アルバムではけっこうアップナンバーもありましたけど、シングルでは久々ですよね。歌ってみて違和感はありましたか。

中島:うーん。そこまではなかったかな。


■今回のシングルっていうのはドラマの主題歌ですよね。しかもいじめをテーマにした。けっこうハードな内容のドラマだとのことですが。

中島:ですね。原作や脚本は読ませていただいたんですけど、この時代にこういうものを書いているのはすごいなと思いましたね。


■昔からいじめってありますけど、ここ最近はまた社会的にも問題になってますもんね。

中島:うん。だから、ってことかどうかはわからないんですけど、怖がらずにこういうものをやるスタイルはカッコいいなって思いましたね。


■中島さん自身はいじめの経験ってありますか?

中島:どうなんでしょうね。たぶんいじめられた経験ってあったと思うんですけど、覚えてないんですよ。


■覚えてない(笑)。それは忘れたってことなんですかね?

中島:うーん。忘れたというか、ホントに覚えてないんです。私が思うのは、いじめって気持ちの持ち方次第のような気がするんですね。もしくは性格次第ともいえるかもしれませんが。


■いじめられている側がどうそれを判断するかってことですね。

中島:はい。いじめられて、それをどう受け取るかで陰惨なものになるのか、大したことではなくなるのか。そこって人によってだいぶ変わってくるんでしょうけど。ある人はいじめとしか受け取れないでしょうし、ある人はけんかと受け取る。それによってだいぶ変わるんじゃないかな。


■じゃあ、中島さんの場合は?

中島:私は言い返すか、けんかしちゃうほうだったので。だから覚えてないんでしょうし、エスカレートせずにすんだと思います。


■何事にもいえることですよね。いじめに限らず。

中島:うん、そう思いますね。マイナス志向で物事をとらえちゃうとマイナスのままだし。私の場合はそうはならないし、その場で判断してけんかなり無視なりしてきたので。忘れた、っていうよりも自分のなかで消化されて、覚えてないものになってるんです。やっぱり何か言われたりすれば、言い返しちゃうタイプなんで。


■2曲目の『IT'S TOO LATE』なんですが。歌詞は共作で中島さんも書いてますよね。この歌詞の世界って、わりと中島美嘉さんなりの恋愛観が出ているのかな、なんて思ったんですけど。

中島:いえいえ。そんなことないと思いますよ。


■あ、そうなんですか。

中島:私の場合、歌詞を書くときって、あまり自分のこととか、それこそ今おっしゃったような自分が体験してきたことってほとんど書かないんですよ。全部想像なんで。


■実体験とかがどっかで反映されているのかなとも思ったんですけど。

中島:はい。でも、今回の歌詞にしても、すべてが想像ってわけではないですよ。部分的には自分の体験した気持ちとかが反映されていたりはしますけど、すべてを詞に表現するってことはないですね。例えば、昔の自分の恋愛を歌詞に書いてみるなんてことはないんですよ。あのときの恋愛を歌詞にしてみようとか。


■なんか意外な感じですね。

中島:そうですか? 私の場合は、例えば歌詞は絶対自分が書きたいっていう思いはあまりないんですね。今回、『LIFE』はほかの作家さんに書いてもらった歌詞ですけど、人に作ってもらった詞を歌いたくないかといえばそうじゃないんです。別に歌詞をすべて私が書かなくても、自分の気持ちを楽曲に入れ込む方法ってあると思うんですよ。


■まあ、そうですね。それこそストレートに歌唱に入れ込めばいいわけだし。

中島:はい。歌詞もまず楽曲があって、何か自分のなかでインスパイアされるものがあれば書きたいなとは思いますけどね。『IT'S TOO LATE』は同時にほかの作家さんにも依頼してまして、それぞれ別で書き上げたものなんですよ。


■あ、そうなんですか。

中島:最後にふたつの歌詞をパズルみたいに組み合わせて完成させたんです。


■そういう共作をやってみて刺激を受けた部分とかはありました?

中島:刺激というか、おもしろいなと思えるのは、例えば語尾ですね。私には絶対書けないようなフレーズがあって。またそれが気持ちよく音にハマっているんですよ(笑)。歌っている側としても気持ち良く歌えますよね。


■なるほど。この歌詞に中島さんの恋愛観が出ているかどうかは別にしてですね、人間性のようなものはにじみ出ている気はするんですよ。

中島:そうですか?


■はい。

中島:少数派の恋愛を書いてみたいなっていうのはありますけどね。大多数が納得するような恋愛の形ではなくて、少数派の人たちに「わかる、わかる」って共感していただけるような。


■そういう意味での恋愛観は出てるんですね(笑)。

中島:確かに。こういう歌詞はバンバン出てくるんですよね。潜在的にSなんだと思います(笑)。


■中島美嘉さんがSかどうかはこの際置いておいて(笑)、Sな女性を好きな男性って多いような気がするんですけど。

中島:どうなんでしょうかね。


■言われなきゃダメ! な男は多いですって。

中島:ははは(笑)、それってご自分のことですか? 怒られなきゃ安心しない、みたいな。


■さぁどうでしょうか。この際僕がSかMかはかなりどうでもいいんですけどね(笑)。

中島:でも私の場合は、SかMかどっち? って聞かれたら、そのときによると思います。潜在的にはSなんでしょうけど、どこかで男性はちゃんと立てなきゃって思ってるんです。九州育ちだし、実際そういう人が多いですし。


■あぁ、九州女の美学ですね。

中島:はい。今、父と住んでいるんですけど、ご飯をよそうのはお父さんが先、とか。そんなふうにすることが普通だし、小さいころからずっとそうしてきたんで。すっごくうるさいんですよ。東京に住んでるとあんまりそういうのがないですけど。


■基本的には男性を立てつつ、なんですね。

中島:男性らしさっていうのにやっぱりこだわるようになりますしね。例えばですけど、街で男の人が女の子のブランドの紙袋とか持ってあげてる姿を見たりするけど、自分はイヤなんです。ふたりきりのときに荷物を持ってくれたりするのはうれしいけど、人前でそれをされるのはイヤなんですよ。


■すごくわかりやすいですね。九州女の典型じゃないですか。それでいて、ちゃんと男性を操縦しているってことですよね。

中島:育ってきた環境がずっとそうでしたからね。


■僕の知人に福岡出身の歌手の方がいらっしゃって、その方の言葉が今でも印象的すぎて覚えてるんですが……。

中島:え? どんな言葉ですか?


■えっと、「女は土、男は木。男ひとりを大木に育てられない女はダメ!」と。

中島:すごい! カッコいい(笑)。


■ウケましたか(笑)。

中島:ウケたというか、カッコいいですよ! まさに理想ですね、それが。女が男を育てる。ホント九州女ってそういう思想なんですよ。あぁ、一気にその人が好きになりました。今度どこかでお仕事が一緒になったら話しかけてみたい(笑)。「女は土で男は木なんですよね?」って。参考になりました! ありがとうございます(笑)。

2007年11月1日木曜日

interview with - 桑田佳祐

じわじわと体のなかに染みこんでくる。桑田佳祐の『明日晴れるかな』に続くニューシングル『風の詩を聴かせて』の歌声にはそんな表現がぴったりだろう。懐かしくて、優しくて、温かくて、でもどこかはかない。その繊細で豊潤な歌の世界につい耳をそばだててしまった。この曲は2005年にがんで亡くなったプロウインドサーファー、飯島夏樹の半生を描いた映画「Life 天国で君に逢えたら」の主題歌にもなっている。つまり、映画によってインスパイアされた作品ということになる。と同時に、これは潮風や波の音をそのまま音楽に変換した作品でもありそうだ。


■新曲『風の詩を聴かせて』はどういう流れで生まれた曲なんですか?


桑田:前のシングル『明日晴れるかな』が音の壁で固めていくようなサウンドだったので、それとはちょっと違うシェイプアップされたシンプルなものがいいかなと思って、作り始めたんですよ。


■映画「Life 天国で君に逢えたら」の主題歌の話が来て、どう思われましたか?

桑田:映画のお話をいただく前の段階から、天国や魂といったイメージが漠然とあって作り始めていた曲だったので、こういう話をいただくのも何かの縁なのかなって。


■飯島夏樹さんのことは?

桑田:以前、飯島夏樹さんのドキュメンタリー番組をたまたま見たんですが、僕も海が好きだし、逗子、鎌倉といった身近な場所が出てきたこともあって、グッと来たというか。今回、映画のお話をいただいて、飯島さんがサザンオールスターズを好きだったとうかがったので、これはなんとかさせていただくしかないなと思いました。


■海を愛している点でも桑田さんと飯島さんとは共通する部分も多そうですよね。

桑田:飯島さんがウインドサーファーということもあって、風について、いろいろと思いを巡らせたりもしました。風がうごめく感じやたゆたう感じが人間っぽいなって。もし好きな男性が風とたわむれていたら、女性はしっとするかもしれないし、海を愛してやまないということはヤキモチの対象になりうるかもしれない。これは“私とあなたの物語”というだけでなくて、“私の手の届かないものをあなたは持っている”というストーリーも成り立つんじゃないかということは考えていましたね。


■この歌から大きくて優しいまなざしも感じました。

桑田:台本も読ませていただいたんですけど、これは飯島さんの物語であると同時に、飯島さんを見守り続けた家族の物語でもあるなと。だから家族の思いになり代わってというか、奥さんからの目線も意識しました。


■思い出に浸る歌ではなくて、未来へのまなざしがあるところもいいですよね。

桑田:残されたご家族は悲しいでしょうけど、どこかで守ってくれているんだという気持ちを力にかえて、もう1回前に進んでいくことが大事だと思うんですよ。人の死を無駄にしないってよくいいますけど、そういうことなのかなと。


■飯島さんの生き方をどう思われましたか?

桑田:きっと無念だったでしょうけれど、愛してくれた家族と海と風があったというのはすてきな人生だったんじゃないかなと思うんですよ。自分の立場を忘れて本気でたわむれるものがある人生って、幸せなんじゃないかなって。


■この曲から潮風の気配も伝わってきますが、桑田さんがサーフィンをやっていることも曲作りに影響を与えているのでは?

桑田:僕はサーフィンでぴちゃぴちゃやってるだけなんですけどね。この曲に関しては、僕のなかで海の映像が浮かんで、それに合わせて作っていったんですよ。これがもし雪山が舞台の映画だったら、きっと資料をそろえたりしたんでしょうけれど。飯島さんのお話、映画に影響されましたけど、同時に、今の自分における海の物語でもありますね。


■歌詞のなかからも日本的な無常観やはかなさみたいなものを感じました。

桑田:同じ海でも、僕はハワイやカリフォルニアの海はそんなには好きじゃないんですよ。どうしても自分が生まれ育った環境への思い入れがある。松があって、ススキがあって、月見草があって、ウミウシがいて、わかめくさい日本の沿岸がいい。鎌倉ってお寺が多いから、海に入っていても、夕方になるとゴーンって鐘の音が聞こえたりするんですよ。そういう音や松林に懐かしさを感じますね。


■この歌の背景には日本人ならだれもが持っているような死生観があるとも感じました。

桑田:海って、台風が来たりすると荒れ狂うし、刻一刻表情が変わるでしょ。そういう海を見ていると、自分もこの世の中から消えていくんだなと感じることもあるんですよ。と同時に、人間は生まれる前は母親の羊水のなかにいるわけで、海は大きくいってしまえば懐かしい場所であり、やがて帰る場所でもあるのかなって。そんな感覚もこの歌のなかに入っていると思います。


■サウンド面でポイントとしたことは?

桑田:最初はもっとシンプルにアコギ1本にフィンガーシンバルが入るくらいにしようかと思っていたんですよ。最終的にコンガやトライアングルやグィロなどのパーカッション類、アコースティックベース、ドラムのブラシ、シンセなども入れましたが、基本的にはアンプラグドなものにしたいな、自分の声やブレスがそのままストレートに出ていくものがいいかなと考えてました。


■歌うときにイメージしたことは?

桑田:歌で伝えたかったのは、自分の思う静寂なんですよ。歌詞のなかに“盆の花火は妙に静寂”という言葉があるんですが、花火がドンドンドンって鳴る音や祭りの笛や太鼓の音、虫の鳴き声なんかを日本人は夏の静寂の一部としてとらえると思うんですよ。そういう音と同じように、自然のなかにそっと自分の歌声を忍ばせていけないかなって。今回はそうした静寂の表し方が好きだったってことですね。


■2曲目の『NUMBER WONDA GIRL~恋するワンダ~』は一転してバンドサウンドの楽しさが伝わってくるロックナンバーですね。

桑田:すごくいいミュージシャンがいてくれるので、彼らの顔を見ているだけでもインスパイアされますよね。今回は“エリック・クラプトンの『恋は悲しきもの』を聴いておいて”というキーワードを出していたんですよ。そういうことは照れずに、恥ずかしがらずにいこうかなと。きっとみんな、こういうのがやりたいんじゃないかな、ほほえんでくれるんじゃないかなって(笑)。


■みんなで楽しく演奏している様子までもが伝わってきました。

桑田:この年で音楽を一緒にやれる仲間がいて、楽しい楽しいって言ってられるなんて、幸せだなと。だからこそいい加減なことはできないという。でも同時にアマチュア精神というか、ワクワクする気持ち、初期衝動を持ち続けていたいですね。


■レゲエも音頭も一体となった3曲目の『MY LITTLE HOMETOWN』も、楽しさと明るさ、はかなさやせつなさが表裏一体となっているすばらしい曲ですね。

桑田:ジャマイカと茅ヶ崎がグジャグジャになってますよね(笑)。淡々と時が刻まれるイメージが浮かんで、それがレゲエの裏打ちのリズムにつながっていったというか。ボブ・マーリィの叫びから、せつないという印象を受けたんですよ。ロックンローラーというのは、悲しみを自分の音楽に乗せて大声で叫ぶことなんじゃないかなって。自分のなかでボブ・マーリィとお祭り、故郷のイメージがつながっていった。それで最後に茅ヶ崎のみこしの音を入れたりしました。


■後半の歌詞はいろいろと考えさせられる要素もありますね。

桑田:これは茅ヶ崎の歌だし、日本の行政や教育問題がどうとかひと言も言ってないんですけど、本当の豊かさとは何なのかということとか、環境問題とか、グローバルに話が広がっていくかなという気はしてます。


■焼きそば屋さんのソースのにおい、手あかで汚れた少年漫画といったディテールの描写もとてもいいなぁと思いました。

桑田:この歌で歌ってるのはすごくアナログなことなんですよ。世の中がデジタルになってくると、どんどん便利になるんだけど、そこで失われてしまうこともある。家の柱に名前を掘ったこととか、その柱に虫をつぶしたシミがついていることとか、今でも覚えてるけど、そういうささいで取るに足らないディテールが、自分の人生にとってはかけがえがないことだったりするんですよ。そういうものを失っていって、さてこれからどうするんだろうっていう歌でもありますよね。


■11月21日からはアリーナツアーもスタートしますが、どんなものにしたいですか?

桑田:年々シンプルにやりたいという思いが強くなってきてまして。もの珍しいことをやるつもりはないし、ソロの集大成的なものでありつつ、わかりやすいものをやりたい。すばらしい仲間がいてくれるので、音楽的にいいものにはなると思うので、あとはシンプルにお客さんと一緒に楽しめたらいいなと思っています。


■今年の夏は海に入ったりは?

桑田:いや、ライブの準備とプロモーション活動で手いっぱいになると思いますね。創作活動もありますし。


■ソロ作品の次の予定はどうでしょうか?

桑田:いや、まだですね。作れたらいいなとは思っているんですけど、なかなかできなくて。こればっかりはわからないですから。