2007年10月27日土曜日

Interview with - 山崎まさよし

カバーアルバムがブームである。さまざまなミュージシャンがさまざまな選曲とセンスと価値観で、多種多様なカバーを披露する。もともと楽曲がいいものだから、リスナーもかまえることなく純粋に音楽を楽しむことができる。だからこそお手軽な作品に出合ってしまうこともある。そんななか、山崎まさよしもカバーアルバムをリリースするのだという。“YO!”(洋楽)と“HO!”(邦楽)に分け、スティービー・ワンダーやポール・マッカートニー、堺正章や桑田佳祐ら、合わせて20曲。その中身は、カバーアルバムという形を借りた、山崎まさよしのオリジナルな音楽だった。ほかのそれとは一線を画している。


■選曲は、意外にもスタンダードな曲が多かったですね。

山崎:そうですね。邦楽(『COVER ALL-HO!』)のほうは特に、今までわざと避けてたものが多い。若いときは何かにつけて理屈っぽくて、それが好きと言えなかったり、無理して洋楽ばっかり聴こうとしてたこともあって。だからどうしても、“何がガールズポップじゃあ~”と思ってたのが、やっぱりデビューして12年もたつと、いい曲はいい曲だなって認められるようになりました。すごいものはすごい、と。作曲する人も作詞する人も。


■実際に、どのように選曲したんですか?

山崎:まず、スタッフに募りました。で、みんなが持ってきてくれたCDを見て、自分で直感的にいいんじゃないかなと思ったものをやってみたり。


■個人的に思い入れのある曲はあるんですか?

山崎:それは特に考えずに、今の自分のポテンシャルに合うということを優先させました。この曲がやりたいとかっていうのは希薄ですね。リスペクトだけで作ったカバーアルバムじゃないから。


■ということは、歌い手、演奏者としてはもちろん、アレンジャーとして、さらにプロデューサーとしての山崎さんというのも力量を問われたのではないかと思いますが。

山崎:そう、自分で作ったオリジナルを歌うっていうのは、どういう形にするにしてもシンプルな作業なんだけど、今回は“商品になる”というところに趣を置いたかもしれないですね。だって、ジャケットのアイデアとかもどんどん進んでたし(笑)。


■ユニークなジャケット写真ですね。

山崎:コスプレですよ、地味だけど(笑)。これはうちのマネージャーが考えたんですけど。撮影がレコーディングの最中だったので、楽しいとかおもしろいとか言ってられなくて。早く終わってくれって言いながら、結局撮影した店で飲んでたけどね、2日とも(笑)。あ、ここ(『COVER ALL-YO!』のジャケット写真)に写ってる人、杏子さんのお母さん。ブックレットのほうには杏子さんのお父さんも写ってる。おふたりともすてきな方なので、モデルさんとして来てもらったんですよ。

■最近は、カバーアルバムを出す人がとても多いですが、どのような思いで作ったアルバムなのでしょうか。

山崎:僕という媒体をとおして、これを買って聴いてくれた人が「いい曲だね」って思ってくれたら、それがいちばんうれしいですね。そこから、本当はどんな曲なんだろうって、オリジナルを聴いてくれたり。これがボサノバなのか? どうなんだ? っていうのでもいいし(笑)。


■純粋に、いい曲だから聴いてくれ、と。

山崎:あとは、どうしても音楽的なところを誇示したくなるよね。こんな引き出しもあるよ、とか。


■ここで、こんなことをやっちゃったりして、とか。

山崎:やっちゃったりして、許してくれるかな、みたいな楽しみ方もあると思うし。だから、今まで音楽をやってきて、その間にいろんなことを自分でも知らないうちに吸収してたんだなと思いましたね。昔だったら絶対思いつかないアイデアも多いわけで。ラテンのフレーバーは好きだが、じゃあどういうリズムなんだろう、とか。


■それをひも解くおもしろさもあったわけですね。どのトラックも完成度が高いですが、『大きな玉ねぎの下で』も、爆風スランプとは違う、オリジナルのようになってますね。

山崎:いい歌でしょ。武道館ってやっぱりミュージシャンにとっては聖域でしょ。ビートルズから始まって、ロックの歴史があって、ステイタスのある場所だし、そうあるべきだとおれは思うんですよ。2年前に武道館で、弾き語りでコンサートをやったときは、もう当分やりたくないと思った。武道館に見に来るお客さんのパワーがすごいから。「武道館でやるんだったら、いいもん見せてくれよな」っていうのが絶対あると思うし。結果、あそこは特別な会場だなと思ってて。あの歌って、(歌詞は)文通相手とロックの殿堂で初めて会うっていう、せつない話だなと思ってね。青春の歌ですよね。あのピアノは、うちのピアノの音です。非常にばらつきがある(笑)。今回はほとんど自宅の部屋で録ったからね。


■ボーカリストとしての楽曲との向き合い方はどうでしたか? “受けて立つ”といった感じですか?

山崎:いや、受けて立つというよりも、胸を借りるというよりも、“歌わせて”って感じだね。みんな、いい曲だから。いい曲は寛容だと思う。なんか知らないけど、英語で歌うと普遍的というか、すごく博愛を感じるのはなんでなんだろうね。“you”っていうのが“あなた”とか“きみ”じゃないからだろうね。“you”は“you”なんだよ。意味合い的に寛容に感じて、これはおれが歌ってもいいんだろうって思えるものがあるんだよね、英語の歌詞って。

■このアルバムを作ったことが、今後の山崎さん自身の作品作りにも影響を与えたりしそうですか?

山崎:音楽をやっていく以上、詞はオリジナルになっていくだろうし、メロディーもそうだと思うんだけど、何か越えられない壁っていうのをずっと感じながらやってきてるわけですよ。自由度も制限されたり。でもこれを作ったことで、そういうのをもうちょっと取っ払っていけるような気がしてるんですよね。ミクスチャーにしてるわけだから、カバーということで。


■服部隆之さんや、PE'Zなど、いろんなミュージシャンとのコラボも興味深いですね。

山崎:そう、いってみればトラック作りのうえで、いろんな壁が取っ払われてるんですね。


■次長課長の河本準一さんもタンバリンで『さらば恋人』に参加していますね。

山崎:堺正章さんはザ・スパイダースのころ、タンバリンをたたいてたから。今、テレビで有名でタンバリンをたたく人……って考えたら、あ、そうだ、と思って(笑)。


■そういう発想も、カバーならではかもしれないですね。

山崎:そうですね。やっぱりスタッフサイドは常にいろんなことをやらせたいっていうのがあるんだけど、今回はカバーっていうアイデアをくれて、既存の曲とおれをぶつけるっていうことをしたんだと思う。そういうことって、自分からはやらないでしょ。おれはやらないんですよ。だれかとやりたいとかはあんまりないから。嫌われたらどうしようとか思うから(笑)。自分のオリジナルという頑(かたく)ななものではなくて。これはすごくいい経験だったと思う。


■ツアーが11月から始まりますが、このカバー曲たちを中心に?

山崎:やったり、やらなかったり(笑)。


■いつもの、中村キタローさん、GENTAさんとまわるんですか?

山崎:そう、このメンバーで10年もやってるからね、おもしろいよ。


■もうパーマネントなバンドみたいになってますよね。

山崎:うん。ま、くさい話だけど、だれが音楽的に何をしたいか、どう思ってるかっていうのは、音を出してればなんとなくわかってるからね。キタローさんは、ほかの人のライブだとちゃんと弾いてるでしょ。おれのライブだとベース弾いてないときがあるからね(笑)。


■いえ、いつもとっても楽しそうに弾いてらっしゃる(笑)。オリジナルアルバムのほうは、どんな感じになってますでしょうか。

山崎:それも進めてたんですけど。


■カバーアルバムがあったから、中断していたと。

山崎:そうそうそう。


■ツアーが終わってから、また取りかかることになるんですかね?

山崎:でも、今からでももうやっておいたほうがいいかなって、大人の考えになってますね(笑)。