今年で結成20周年、デビュー16年、メンバー全員生誕40年。という、ちょっとした節目の年にリリースされる12枚目のオリジナルアルバム『さざなみCD』。前作『スーベニア』から2年9か月、間にシングルコレクション『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』をはさんだ新作は、みずみずしくも豊潤。なおかつ活きがよくて明るい。20年という歳月を経て、ブランドカラーはさらに揺るぎないものとしながら、こんなにもフレッシュな手触わりの作品を作り上げたスピッツ。またしても、聴けば聴くほど何度でもほれ直したくなる、名曲ぞろいの好盤である。
■前作『スーベニア』から2年9か月もたっていたことに、まずちょっとビックリしました。
草野:その間に『CYCLE HIT』があったり、シングルをちょこちょこ出したりしていましたからね。でもレコーディングにかけたトータル時間自体は、そんなに長くもなくて。
田村:もしかしたら、今までのレコーディングでいちばん短かったかもしれない。
草野:過去11枚アルバムを作るなかで、かなり要領が良くなってきたから。変なところで遠まわりせずに、事前にちゃんと準備をして集中してさっと録るっていう。デビューのころなんて、スタジオに入ってからアレコレやりすぎて、いざ録る段階になったときに飽きちゃってたり(笑)。
崎山:録るときにテンションがピークになってなきゃいけないのにね(笑)。
田村:しかもおれらももう40才なんで。そんなことしてると疲れちゃって、ここぞというときに集中力が続かない(笑)。でも、今回、集中度は今まででいちばんだったんじゃないですかね。だってレコーディングとなると、みんな顔色が変わってたから。それまでは人に見せられないくらい、ゆる~い感じだったくせに(笑)。
■オンとオフがハッキリしてた、という。
草野:うん。そこらへんは前作と大きく違いましたね。前作のレコーディングはとにかくキツかったから。
崎山:アルバムの3分の2を1か月で録ったんで。
草野:でも今回はインターバルをおいて、2~3曲ずつ録っていくやり方だったんで。だけどそれが、曲作りの面でも良かったみたいで。間隔をあけて曲を作ることで、結果、曲にもバリエーションが出たというか。
田村:で、レコーディングの前に、そのつど草野が持ってきた曲を聴いて、“今スピッツは何をやりたいか”ってことを基準に曲を選んで。その段階でアレンジを詰めて、スタジオに入ったらサッと録るっていう感じだったから。そういう意味じゃ、気持ちとやっていることに、ブレはなかったですね。しかも今回、(レコーディング)エンジニアが高山(徹)さんと牧野(英司)さんのふたりで。日本のロック界のエンジニアトップ2が並んだわけですからね。
■やはりエンジニアによって、かなり違うものですか?
草野:声を生かすも殺すもエンジニアしだいですからね。
田村:イメージどおりの音にしてもらえると、気分が盛り上がるし。当然、プレーも違ってくるし。
三輪:弾くフレーズまで変わるといってもいいから。すごく重要だよね、おれらにとっては。
■今回、アルバム全体に対するビジョンなどは、事前にあったのでしょうか。
草野:特にはなかったですね。新機軸を打ち出そう、みたいなこともほとんど考えてなかったし。だから、あんまり新鮮味のないアルバムになっちゃうかなと思ってたんですけど、ひとつにまとめてみたら、わりと新しい感じのものになってる気がして。
■その意味で印象に残っている曲というと?
三輪:おれは『点と点』ですね。もともと、ライブで演奏してからレコーディングするっていうのが、本来あるべき姿じゃないかなと思ったりするんですけど。メジャーデビューしてからは、それが逆になってて。でも、今回『点と点』と『P』に関しては、レコーディング前にファンクラブのツアーで演奏できたので、ちょっと良かったかなと。
田村:印象に残ってるってことだと『僕のギター』かな。最初に草野が持ってきたときは、いい意味でひとりよがりな曲だと思ったんですね。だけどバンドで演奏していくうちに、スピッツらしいひとりよがりな感じになっていって。その変わり方がけっこう劇的で、おれのなかでは、今回最も変わった曲なんですよね。
■草野さんも、そう思いましたか?
草野:アレンジで変わったというより、これがアルバムの1曲目にきたことで曲の印象が変わりましたね。作ったときは、すごい寂しいストリートシンガーの曲っていうイメージだったのが、1曲目になったら、これからやるんだってことを宣言するような意味合いの曲に思えてきて。それがおもしろかったですね。でもおれにとって印象に残ってるのは『不思議』。すごく天気のいい日の午前中とかに、車を運転しながらボーイズ・タウン・ギャングの『君の瞳に恋してる』みたいな曲を聴くのが好きなんですけど。その感じで作った曲で。
■すると、この曲のヒントは『君の瞳に恋してる』?
草野:昔はディスコっぽい曲って、あんまり好きじゃなかったんですよ。でも最近は明るくていいなぁと思うようになって。だからこの曲も、ノーテンキなディスコをヒントに作りつつ、そこにスピッツ的なメロディーと歌詞を乗せられないかと思って作ってみたんですよね。マスタリングでロサンゼルスに行ったときに車のなかで聴いたら、午前中の晴れたカリフォルニアの景色にわりと合ってたんで。スピッツ版『君の瞳に恋してる』になったかなと(笑)。
崎山:おれは『桃』が印象に残ってますね。ある意味、スピッツっぽいアンサンブルっていうか。サウンド的にもいい感じに仕上がってるしね。なんかこう、いろんな曲の音の基準になるくらいの曲じゃないかと思って。
■明るくなりすぎない、ポップになりすぎない、そのバランス感がすごくいい曲ですよね。
崎山:そうそう、バランス感がね。自分では絶妙なところだと思ってるんですけど(笑)。
■ところでアルバムタイトルの『さざなみCD』なのですが。
草野:日本語のタイトルにしたい、というのが前提としてあって。バンドを結成してからずっと日本語にこだわって歌を作ってきて、しかも今回は結成20周年ってことでもあるので、そういったことをタイトルにも表せたらいいなと思ったんですよね。
■“さざなみ”という言葉は、曲の『漣』から?
草野:今回の曲のタイトルのなかでは、“さざなみ”がイメージをいちばん限定しない言葉かなって。すごく静かなイメージでとらえる人がいるかもしれないし、ざわざわしたノイジーなイメージでとらえる人もいるかもしれないし。ネガティブでもポジティブでもない、とってもニュートラルな言葉という気がしたので。
■その“さざなみ”という言葉に“CD”を付けたのには、何か理由があるんですか?
草野:なんか“さざなみ”だけだと弱い気もして。オチみたいなのがほしいということで、CDには“CD”を付けることにしました。
■じゃ、アナログ盤は。
草野:『さざなみLP』がタイトル。ただし『さざなみDL(ダウンロード)』ってのはありません(笑)。
■しかし結成20周年って、あらためて考えるとスゴイことですね。
草野:そういう実感はほとんどないですけどね。たしかにいろんなことがありましたけど、振り返ってみればツルッときたなぁと。それより20年もバンドを楽しませてもらえてホントにそれはラッキーだと思いますね。
■またスピッツは活動のあり方も、基本的に20年間変わってないですよね。
田村:テレビにもあんまり出ないし(笑)。
三輪:レコーディングとライブしかやってないから(笑)。
■しかもツアーは、毎回ものすごい本数で。
草野:デビューしたときは、こんなにいっぱいライブをやるバンドになるとは思わなかったんですけど。事務所の先輩が浜田省吾さんだったこともあって(笑)。でも今となっては、このやり方で良かったなぁと本当に思いますね。
■この20年間のなかで、バンドとしてのターニングポイントというものはありましたか?
田村:ないといえばないし、あるといえばあるしって感じですね。おれらのなかではアマチュアのころから出会った人すべてが、おれらにとってターニングポイントだったから。この人と出会って、そしたら次の出会いがあって、みたいに全部がつながって今にいたってるんで。
草野:だからこうして20年やってこられたのも、おれらの頑張りだけじゃなくて、まわりの人たちの支えや理解あってこそだと思うんですよね。
■とはいえ20年ともなると、変化したことも思い出の数も半端ではないと思うのですが。
草野:まずおれらをとりまく物が、すごい変わりましたね。20年前はインターネットも携帯電話もなかったし、コンビニエンスストアだって今ほどいっぱいないし。だってデビューシングルとか、短冊型でしたもん。ウチら、シーラカンスかって(笑)。
三輪:おれ、デビューするまでCDというものを持ってなかったもん。
草野:えっ!? うそ~。
三輪:うそです(笑)。
田村:でも結成したときは持ってなかったよね。
三輪:うん。それにCDなんて、CDウォークマンで聴くもんだと思ってたし。こんなもん、絶対普及しないと思ってた(笑)。
草野:またたく間に普及しましたが(笑)。だけどやっぱり、アマチュア時代のことのほうをよく覚えてるなぁ。ツアー先のホテルに土鍋とカセットコンロを持ち込んで、鍋やったりね。
三輪:あれ、よく火災警報器が鳴らなかったよね。
草野:ホントだよね。クリスマスイブに仙台に行ったとき、夜中で店とか開いてないから、野菜と鶏肉を買って。でも土鍋とカセットコンロは車に積んであったんだけど、小皿はなかったんで紙コップで食べてね。
三輪:で、土鍋のフタが割れててさ。
崎山:白菜をフタの代わりにしたの(笑)。
草野:アマチュアのころって、今思い出しても笑える話が多いよね。ベッドが4つ並んでる大阪の安いホテルに泊まったり(笑)。
三輪:尽きないね、そういう話は。
田村:でもね、楽しいってことでは、常に今がいちばん楽しいと思ってるかも。
草野:それはあるね。
■でもメンバーチェンジもなく、活動を長期間休むこともなく20年、というのはやはり大変なことだと思います。
草野:去年『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』と『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』を出したときも思ったんですけどね、こんなに長くやっちゃうなんて、ロックバンドとしてはカッコわり~なぁって(笑)。僕はセックス・ピストルズみたいなのがカッコいいと思うんで。
■ザ・ローリング・ストーンズみたいなロックバンドもいますが。
草野:あー。ストーンズはそんなに好きじゃないから。
三輪:AC/DCっていうのもいるよ。
草野:あ、それならいい。好きだから。
三輪:でもボーカルが死んでる。
一同:ハハハハハッ(爆笑)。
草野:やっぱり元気じゃなくちゃね、バンドも長続きしない(笑)。けっこう体力いりますからね、レコーディングもライブも。
■12月からは待望の全国ツアーも始まりますから。それこそ体力勝負なのでは。
草野:寒い時期なので、とにかく風邪に注意しないと。ノド直撃ですからね。なのでお酒は控えて。
三輪:スキーも禁止。
崎山:料理も包丁は使わない。
田村:基本はお客さんもおれらも楽しめることなので。その場でしか味わえないライブをする、そこに向かっていくだけですね。
2007年10月22日月曜日
Interview with - スピッツ