2007年10月19日金曜日

Interview with - 宇多田ヒカル

宇多田ヒカルが8月29日に19thシングル「Beautiful World / Kiss & Cry」をリリースする。前作「Flavor Of Life」のBallad VersionはTBS系金曜ドラマ『花より男子2』のイメージソングとしても多くの人達に支持され、約700万ダウンロードという世界記録を作った作品だったが、今作に収録された2作品も大きなタイアップが付いた事で、リリース前から注目を集めている。

まず1曲目に収められた「Beautiful World」は、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(9月1日公開予定)のテーマソング。もともと“エヴァ好き”だった宇多田ヒカルが、この映画のために書き下ろした作品だ。

宇多田ヒカル:曲調とかメロディとか歌詞とか、とにかくいろんな面でいつもの作り方と違うのね。エヴァのテーマ曲だからこうしようっていうのが何ヶ所もあるって感じ。エヴァのストーリーを知ってるから影響されないわけがないっていう意味で、いつもほど私一色じゃないっていう感じかな。

“エヴァンゲリオン”が描く家族との距離や人間と人間の間にある壁や決してぬぐい去ることのできない切なさや苦しみは、15歳でデビューし、瞬く間にビッグアーティストになった宇多田ヒカルにとって、自分の人生が抱えている問題や葛藤と重なり合う部分が多かったようだ。

宇多田ヒカル:スタジオでデモをスタッフに聞かせた時に“さすがエヴァオタ!”っていわれるくらい私はエヴァが好きだから。どっちかって言うとこの曲は、比重が宇多田ヒカルよりエヴァに行ってる曲かも。なんかね、この曲で売ろう! っていう気がぜんぜんないのよ(苦笑)。きっと(2曲目の)「Kiss & Cry」の方がシングル向きじゃない?

これまでにも宇多田ヒカルは映画『CASSHERN』(13th「誰かの願いが叶うころ」)や映画『春の雪』(14th 「Be My Last」)で、映画の主題歌を手がけている経験があるけれど、「Beautiful World」は彼女にとって特別な存在になっているのかもしれない。

宇多田ヒカル:“エヴァンゲリオン”の名台詞とか肝のシーンとか、私的に脳にきた台詞や場面とか。そういう所からヒントをもらえるっていう意味でも、「Beautiful World」はエヴァを通して書いた曲だなって思う。

一方、2曲目の「Kiss & Cry」は、「ノリのいい曲が作りたかった」という思いが発端になって生まれた軽快で明るい曲。この曲は日清カップヌードルTV-CM“FREEDOM”シリーズ新テーマソングとして、すでに耳なじみの人も多いだろう。

宇多田ヒカル:パフゥ~、ジャジャジャーン♪って感じで、舞台の上でダンスが始まっちゃうようなイントロの部分は、リア・ディゾンちゃんがスポットライトを浴びながら、かわいくセクシーに踊ってるイメージだったの。だからこの曲の仮タイトルは「ダンシング リア」だったんだよね(笑)

ところで、歌詞の中にある“natural high”や“ハイテンション”のような状態になったとき、宇多田ヒカルはどんな感じになるのだろう。

宇多田ヒカル:テンションが上がる時って急に上がるというか、自分でコントロールできちゃうんだよね。頭ん中で何かがうお~って出てる! ってわかるの(笑)。なんかアドレナリンが出やすいみたいで、どうも興奮しやすい(苦笑)。声も大きくなるし、早口になるんだよねぇ。

さて、3曲目には2000年にリリースした5thシングル「Wait & See ~リスク~」のカップリング曲を新しくミックスした「Fly Me To The Moon(In Other Words)- 2007 MIX-」を収録。この新バージョンは映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』劇場予告編のみで使用され、本編では流れない“レアもの”だ。

宇多田ヒカル:ま、この曲は“エヴァンゲリオン”のテーマ曲みたいなものではあるけど、それ以外でもこれまでにいろんな人達がカバーしている曲だからね。7年前の自分の声はめちゃくちゃ恥ずかしくて聞けないのよ! でも、歌詞のとらえ方みたいなものは7年前と今とでは別に変わってないかな。ただ、今歌ったらああいう歌い方はしないと思う。なんか、すっごくかわいいんだよ。シュビドゥパッパとか言ってるよ! 言っちゃったのかよ! 言ってみちゃったのかよ! って感じ(笑)

約7年前の宇多田ヒカルは、まだ“エヴァンゲリオン”の存在を知らなかった。つまりこの「Fly Me To The Moon」という楽曲が“エヴァンゲリオン”にとって大切な曲であるという事ももちろん知ってはいなかった。彼女は子供の頃にピアノの先生からもらったジャズの楽譜でこの曲の事を知り、その後NYでピアノ譜を探してからは、何度も練習をするくらいに「Fly Me To The Moon」が好きだった。

宇多田ヒカル:だから、「Wait & See ~リスク~」のカップリングでカバーをやろうって話になった時に、「Fly Me To The Moon」か「Moon River」をやりたい!! って言ったんだよね。

もともと3拍子の原曲を、宇多田ヒカルは“自分のバージョン”にするために、4拍子を取り入れたり、テンポを変えたり、何度も作業を繰り返しながら完成させた。当時17歳だった彼女は詞曲だけではなく、アレンジメントに関しても大いに、その才能をカバー曲という場所でも私たちに届けてくれていたのだった。その作品が、年月を越え、映画『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』の予告編で流れる。エヴァのことをまだ知らなかったあのころの彼女に、何年か経ったらヒッキーはエヴァが好きになって、そのエヴァの映画の主題歌を作って、その映画の予告編に「Fly Me To The Moon(In Other Words)- 2007 MIX-」が使われるんだよ…なぁんて、教えてあげたら、宇多田ヒカルはどんな反応をするんだろう。そんな有り得ない事を考えながらも、エヴァと宇多田ヒカルの赤い糸のようなつながりは、やはり偶然ではなく必然だったのかもしれないと思った。