2007年10月23日火曜日

interview with - BUMP OF CHICKEN

この夏は野外フェスに参戦、そして秋には約11か月ぶりとなるニューシングル『花の名』『メーデー』を2枚同時リリースと、しばらく水面下で楽曲制作を続けていたBUMP OF CHICKENの活動が活発化してきた。しかもこの2枚のシングルがどちらも存在感のあるすばらしい作品なのだ。映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の主題歌にもなっている『花の名』は、シンプルでありながら深みと広がりのある歌の世界がじわじわと染みてくるナンバー、『メーデー』はバンドサウンドのスリルとダイナミズムとを堪能できるナンバーと、まったくタイプが異なるという点でも興味深い。この2枚の新作について、そして近況と今後の展望について、メンバー4人に聞いた。


■今年の夏は野外フェスにも出演されましたが、いかがでしたか?


増川:ものすごく久しぶりのライブだったので、最初はお客さんがいてくれるのか、心配だったんですけど、どの会場も反応が熱くて、みんな待ってくれてたんだなって。そのことを体で感じられたのがでかかったですね。

升:時間帯もちょうど暗くなるあたりで、きれいな空が見えたし、ステージから見えるお客さんもきれいで、感動しました。

直井:ステージを見に来てるお客さんって、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、朝からいて最後まで残ってくれて、それでもまだ全力でぶつかってきてくれるわけじゃないですか。本当にすごいな、かっこいいなって思いましたね。

藤原:どこの会場でもベストアクトはお客さんだったと思います。


■フェスに参加したことが、今回の新作の曲作りに影響を与えた部分はありますか?

藤原:曲はフェス前にできていたので影響はなかったですけど、このタイミングでお客さんに会えて良かったですね。待ってくれてる人がいるんだな、早くこの人たちに自分らの歌を聴いてもらいたいなって思ったので。


■『花の名』は、映画の主題歌の話が来てから作った曲なんですか?

藤原:主題歌を依頼されてから書くことになった曲ですけど、そこでゼロから作ったわけではなくて、前から歌いたかったこと、メロディー、使いたかったコード進行など、新旧織り交ぜて、合体させて作りました。


■映画を念頭において、作ったんですか?

藤原:いえ、僕らは映画の主題歌だからこうしなきゃいけないとか、そういう制約のあるタイアップはできないんですよ。僕らは僕らで作りたい音楽を作り、映画サイドは映画サイドで撮りたい映画を撮り、その結果として絶妙なマッチができるのでなければ、タイアップはやれない。だから曲を作るにあたって、映像のことは考えてませんでした。自分の曲にうそがあったら、逆に映画に失礼になるので、歌いたいことを歌わせていただきました。


■『花の名』のデモを最初に聴いて、どう思いましたか?

直井:びっくりしましたよね。こんないい曲、聴いたことがないよ、すげぇいいじゃんって。家に持って帰っても、ベースの演奏ができないんですよ。弾けないんじゃなくて、感動しちゃって、つい聴いてしまう。しばらくの間は目の前がくもって前が見えなかった(笑)。3、4日たって、ようやく手をつけられるようになりました。演奏に関しては、最大限シンプルなものを選択したつもりです。そうすれば絶対に響くだろうなって。


■確かに音数は少ないですが、そのひとつひとつの音にメンバーの思いがしっかり詰まっていることも伝わってきました。

升:最初に考えていたリズムがあったんですけど、みんなで話しながら、どんどん音数少なくしていったんですよ。これでも成立するんだなというのは驚きでもありましたね。


■『花の名』の歌詞の一節、「会いたい人がいる」「待っている人がいる」が映画のキャッチに使われていますが、どう思われましたか?

藤原:そのワンフレーズをキャッチに使いたいと聞いて、「へ~」って思いました。というのは詞は金太郎アメみたいなものだから、どこを抜くとか僕らにはできないんですよ。そういう目で詞を読むことはできない。映画を作るサイドの観点だな、なるほどなって。


■歌詞の密度も濃くて、どの一節をとっても、すごく深いという印象を受けました。

藤原:『花の名』は携帯に保存してあった言葉を合体させた曲なんですよ。どの言葉もそこから1曲になっていくんじゃないかっていう感じはありましたね。


■『花の名』が東京を舞台にした映画の主題歌であることを考えると、カップリングの『東京賛歌』ともリンクしてきますね。

藤原:まったく偶然なんですけど、タイミングがいいなと思いました。東京って、悪く言われることが多い街なんで、なんかかわいそうだなって。おれは東京という街が好きだし、優しい街だなと思ってるんですよ。山とか海とか大自然のなかにいることで感動するのは自分にとって不自然だからなんじゃないかなって。だれにとっても日常が自然でしょ。東京って、どこに行っても車が走ってるし、空気は汚いし、うるさいけど、それが僕にとっての大自然なんですよ(笑)。


■言われてみれば、確かにそうですね。

藤原:『天体観測』を書く前のころ、メジャーデビューして、まわりの景色が変わって、テンパってた時期があったんですよ。それで環境を変えてみたらいいのが書けるかなって、自然のなかに行ったことがあるんですけど、何も書けなかった。寝て終わり(笑)。1曲書いてみたんですけど、ゲロみたいなものができてきた。その曲が教えてくれたのは、不自然な世界のなかで日常を書けるはずがないし、日常から逃げたら逃げた曲にしかならないんだなってことだった。そんな深い歴史がもとになって、こういう歌になったんですよ。


■それぞれのなかで東京という街はどんな位置にありますか?

直井:おれは東京でひとり暮らしをするようになってから、東京は空気が汚いなってぼやいたことがあったんですけど、フジくんに今みたいなことを言われたことがあって。『東京賛歌』ができてきて、こういうことだなって自分のなかでも思えましたね。

升:東京は懐の深い街だと思いますね。

増川:おれは東京に住んでて、ありがたいと感じたことはなかったんですけど、思い出してみると、地方から帰ってきてレインボーブリッジから東京が見えてくると、安心するんですよ。ということは、ここに根付いて暮らしているってことなんだなって。

藤原:たまたま東京と歌ってますけど、結局、今自分が住んでいる場所こそが日常なわけで。帰りたくても帰れないのか、自分の意志で帰らないのかわからないですけど、そこに住んでいる人に届けたい歌なんですよ。


■今回、『花の名』と『メーデー』という2枚のシングルが同時にリリースされますが、どうしてそうしたんですか?

升:スタッフの意向で決まったんですよ。僕ら的にはどの曲がシングルになってもいいというスタンスなんですが、どう届けるのがいちばんいいのか考えてくれているスタッフの出した結論なので、信頼してお任せしています。

藤原:僕らとしては、単純に今現在、自分たちが作っている曲を聴いてもらえる機会が増えるのはうれしいことだなって。


■『メーデー』は疾走感と高揚感と開放感あふれる曲ですね。

藤原:曲の始まりはまさにその高揚感からだと思います。要はリズム遊びですね。家で打ち込み作ってたんですよ。曲作りというより趣味の意識のほうが強かった。そしたらかっこいいのができて、かっけーって思って、ベースも打ち込んで、コードが乗っかって、歌までできちゃったっていうのが始まりで。


■打ち込みから始まってるのに、実に気持ちいいグルーヴを備えたバンドサウンドになっていますね。

藤原:そこがバンドのおもしろさですね。人間がたたいて、人間が音を乗せていくので、僕が打ち込んだ高揚感とはまったく別なものになってます。


■升さん、ドラムはどんなイメージで?

升:仮歌とギターの入ったプリプロ(※注)の音源に合わせてドラムをたたいたので、僕はその歌に乗っかったという感じなんですよ。だから自分から作ったというよりは、自分を通過して出てきたものがテイクになっているという感じですね。


■歌詞の水たまりに潜っていくという設定はどんなところから出てきたんですか?

藤原:これはずっと昔から思ってたんですよ。心を水たまりにたとえたら、詞を書くことってそのなかに潜る作業みたいなものだなって。ここまで歌を作り続けてきて、だんだん潜るのが上手になってきた。肺活量が向上してるのか、ほかに技術があるのかわからないですけど、自分の深いところまで潜れるようになってきて、こんな生き物が住んでたんだ、みたいな物をとってこられるようになった。僕のなかでは非常にスタンダードなたとえですね。


■『メーデー』というタイトルは“ヘルプ・ミー”っていうことですよね。

藤原:そうですね。救難信号ですよね。子どものころ、漫画かなんかで覚えたんだと思うんですけど、歌にしたいモチーフだな、いつか歌にするんだろうなって、ずっと思ってました。


■歌そのものがレスキュー隊みたいな存在という印象も受けました。

藤原:例えば、『メーデー』のカップリングの『ガラスのブルース』は10年以上前の曲なんですけど、あの曲を書いたときにまずおれがあの歌に救われているんですよ。あの曲に限らず、ミュージシャンにとって自分の作った曲がそういう存在になっているケースはいくらでもあるんじゃないかな。


※注 / プリプロダクション。レコーディング前に曲の構成やアレンジを詰める作業のこと


■『メーデー』のカップリングの『ガラスのブルース』は、なぜ今リアレンジして再録することにしたんですか?

藤原:このアレンジは2年前にやったアコースティックライブのときのものなんですよ。それで終わりでも良かったんですけど、スタッフさんからレコーディングしないかって言われて、実現したということですね。


■今回レコーディングしてみて、発見したり、再確認したことはありますか?

藤原:曲がものすごく成長してきたんだなということですね。この曲と僕らは本当に会話してきたんだな、10年以上の長い間、ずっと一緒にやってきたんだなって。一緒に感動したし、くやしい思いもしたし。そうやって一緒に歩んできたこの曲と僕らのきずなをまず確認しましたね。あと、懐が深かったですね。まだつかみきれてないところがある。これから先、もっともっとこの曲と会話していきたいと思いました。いつか100%わかり合える瞬間がくるのかなって。

直井:『ガラスのブルース』はおれらにとっては切り込み隊長みたいな曲なんですよ。いつも先陣切ってやってたし、この曲しかなくて、後は全部コピーという時代もあったし(笑)。インディーズで出したので、知らない人もいると思うんですけど、これを機会に触れてもらえたらすごいうれしいですね。表現するスキルは上がってるんだけど、根本的にあるものは変わらないバンドなんだなって再確認させられた部分もありますね。

増川:この曲、10年以上前ですからね。音楽に対する付き合い方は変わってきたかもしれないけど、本質的なことは変わってないなって思いました。


■升さんは今回やってみて、どうでしたか?

升:楽しかったです。急に録ろうってことになったんで、探り探りだったんですが、どうにでもできるというか、懐が深い曲だなと。貴重な体験ができたし、こういう形でちゃんと出せてうれしいですね。


■今後の活動予定は?

直井:今アルバムを制作しているので、引き続きその制作をして、来年1月からツアーという流れですね。


■ツアーはどんなものになりそうですか?

直井:まだアルバムも完成してないし、それまでに完成するかどうかもわからないので、どういうツアーになるか皆目見当つかないですけど、ともかくみんなに曲を届けたいなと。

増川:久しぶりにライブハウスまわるんで楽しみですね。ただもうそろそろ練習しないと、やばいなと、今気がつきました(笑)。


■ツアーは約2年ぶりですよね。

升:フェスはフェスで楽しかったんですけど、ツアーはツアーの良さがありますから、本当に楽しみですね。

藤原:お客さんにすげぇ会いたいなと思っていますね。この間フェスで会ってきたばっかなのに、また会いたくなっています。