※インタビュー日時 2007年5月7日(月)
ワンマン・オーケストラを筆頭に様々なユニットや参加作品群を誇る神保彰が1997年の『Stone Butterfly』以来10年ぶり、11作目のソロ・アルバムをリリース!
参加ミュージシャンは、ベースに、メキシコ・シティ出身でリー・リトナーを始めとした、数え切れないアーチストからのファースト・コールを受けるエイブラハム・ラボリエル。ピアノはベネズエラ出身で神保彰がブライアン・ブロンバーグと組んだユニット、JBプロジェクトの2作品にも参加したオトマロ・ルイーズ。そして初共演となる、チック・コリア・エレクトリック・バンドに参加し一躍時の人となった、オーストラリア出身のスーパー・ギタリスト、フランク・ギャンバレ。
この3人に神保彰を加えた4人編成のスーパー・カルテットが、アルバム全編において神保彰楽曲を最大に生かすため、ミュージシャン4人が偏る事なく、力を発揮している。4人とも非常に「強力な」プレイを全編で聴く事ができるのだが、テクニック最優先には聴こえさせない、非常にシンプルかつ透明度の高いサウンドが創出されている。
そこにはミュージシャンの会話が存在し、全員がパレットを持ち共同作業で絵画を完成させたイメージであり、温かく優しい色合いによる水彩画という印象を持つことができる。
Q : 1986年1st『Cotton』に始まり、1989年の2nd『Palette』から1997年の10th『Stone Butterfly』までは、ほぼ1年に1枚のペースでソロ作品を発表されていましたが、この度10年という歳月を経て新作をリリースされる経緯を教えてください。
神保彰(以下AJ) : 10年前に10作目をリリースした時、スムースジャズフォーマットの作品作りは行くところまで行ったのではないかという達成感がありました。
丁度そのころ、ドラムトリガーを使ったワンマンオーケストラスタイルでの演奏活動を始め、自分個人の活動がそちらにシフトしていったのと同時に、他アーティストとのコラボレーション活動も立ち上がり、なんとなくソロアルバムの制作から遠ざかっていました。
この10年で得た物は様々あるのですが、最も大きいのは、10年前よりも自然体で演奏が出来るようになった事ではないかと思います。(年齢を重ねたとも言えます)
スムースジャズという枠組みをいったん取り払い、楽曲と同時に演奏にもスポットがあたるような作品を作ったら面白いのではないかと思い始めたのが、今回のアルバム制作の動機です。
Q : アルバムの主題、描きたい事とはどのようなものでしょうか?
AJ : 今日の社会がかかえる様々な問題(戦争からいじめ問題に至るまで)は、異質なものを排除するという人間の性向によって引き起こされています。こういった攻撃性は誰の中にも存在し、我々のDNAに刷り込まれていると言う事も出来ます。
ところが音楽を始め芸術芸能とよばれるものは、異なる文化をリスペクトし、それと自分を融合融和させることで発展してきました。
ということは我々の中には異質なものと融和する性向もしっかりと存在するのです。圧倒的な暴力の前で音楽は全くの無力ですが、音楽には世界を変える力があるのではないかという気もします。
肌の色も異なり、文化的背景も異なる4人のミュージシャンが集まり、お互いをリスペクトしながら1つの音楽を紡ぎ出す様子に、とても美しいものを感じました。その美しさが作品にしっかりと記録されています。
それが主題であり、描きたい事でもあります。
Q : ミュージシャンの人選と、アルバムを1枚通した同一メンバーでのカルテット編成、ds,g,b,pという楽器編成の意図するところを教えてください。
AJ : この10年でレコーディングを取り巻く環境は大きく変わり、テープメディアが姿を消して、ハードディスクレコーディング主流の時代になりました。プライベートスタジオで簡単にプロクオリティーのサウンド作りが出来るようになったのは、たいへん素晴らしい事だと思います。
その反面、ミュージシャンが一同に会して、「せーの」で音を出す機会は激減してしまいました。
時間をかけて作り込む音楽にもとても興味があり、自分でそういった作品をつくっていみたい気持ちもあります。
同時に、せーのドンで一瞬のうちに魔法のように出来上がる音楽というのが、今の時代には逆に新鮮なのではないかという気もします。今作は後者を実現した作品です。
人選は圧倒的な演奏力と歌心を併せ持ち、個人的にファンであり、気心もしれている、という中で自然に決まりました。
フランクギャンバレのみ共演経験がありませんでしたが、オトマロといつも一緒に演奏しているので、コンビネーションはバッチリだろうと踏んで決めました。
Q : 今回のレコーディングはソロ以外同時録音のように聴こえますがいかがでしょうか?また、リハやレコーディングに要した時間や、その際のミュージシャン間でのやりとり、雰囲気、印象などはいかがでしたか?
AJ : ソロも含めて同時録音です。譜面は前もって送りましたが、リハーサルはしていません。レコーディングではほとんどがテイク2以内でした。3テイク以上重ねた曲はありません。
魔法のようでした。
気心も知れているので、和気藹々と順調に進行しました。
Q : これまでの作品では1stアルバムを除いて全て松居 和さんのプロデュースでした。新作ではプロデュースを含め作曲、アレンジを全て神保さんが行なっていますが、プロデュース、曲作り、アレンジ方法、サウンドを含め旧作品と違う事とはどのような点でしょうか?
AJ : まったくオーバーダビングなしの、4人だけの音というのが大きな違いです。
これまでの作品は約1ヶ月かけて音を重ねて作り込んでいましたが、今作は約1週間で完成しました。
この10年の色々な経験の中で、自分にもプロデュース力、アレンジ力がある程度培われたのではないかという自信もあったので、すべて自分でやってみようと思った次第です。
Q : M-1<Four Colors>はオープニングに相応しい超絶ナンバーですが、8ビート、16ビート、2種類の4ビート、様々なリズム、そして全員のソロ、とインパクト多大です。この曲についてお聞かせください。
AJ : これはジャムセッション的に演奏にスポットをあてるつもりで作りました。アルバムの最後にボーナス的に入れるつもりだったのですが、とても面白く仕上がったので、思い切って冒頭に持ってきました。<Trans Pacific Jam>という曲名だったのですが、アルバムタイトルとして考えていた<Four Colors>を曲タイトルとして付けました。
Q : M-4<Brisa Primaveral>ではスパニッシュ風、M-8<Phantasia>では中東風(?)と、エキゾチックな香りがするモチーフが導入されています。これら楽曲についてのアプローチ表現について教えてください。またその他楽曲についても、特筆すべき特色があればお聞かせください。
AJ : 10数年前から海外でのドラムクリニックやドラムコンサートの活動を始め、様々な国の様々な街で演奏するようになりました。旅のイメージが曲にも反映されています。
<Brisa Primaveral>は2年前にスペイン国内を9都市巡業し、帰国後に書いた曲です。その前にポルトガルのリスボンでも公演し、リスボンの街の印象を曲にしたのが<Diamond>です。<Phantasia>は昨年ドバイジャズフェスティバル出演で初めてアラブ圏を訪れ、その印象を曲にしました。<Lanikai>は今年のお正月を家族と一緒にハワイで過ごし、その思い出を曲にしたものです。
Q : これまでの作品にも言えますが、LAのミュージシャンを中心としたLA録音という事で、「神保彰が表現するサウンド」はやはり西海岸志向やこだわりがあるのでしょうか?
AJ : からっと乾いた空気感というのが、LA録音以外では録るのが難しいのです。良くも悪くも街の空気が録音に反映されます。東京の音が嫌いというわけではないのですが。過去10作品がいずれもLA録音で、ミュージシャンにも知り合いが多いというのも、ロス録音を好む理由かもしれません。
Q : ドラマーを志すプレイヤー達へのアルバムの聴き所を教えてください。
AJ : 今作では曲によって結構叩きまくっているので、ドラマー的に面白い部分も多いのではないかと思います。4人のミュージシャンの音楽を通じた会話が一番の聴き所と思います。
Q : 是非レコーディング・メンバーでのライヴを期待しますが。実現の可能性はいかがでしょうか?
AJ : 実はブルーノート東京のブッキング担当者がレコーディング中にスタジオに遊びに来ました。ライブを是非実現しましょうと盛り上がったので、可能性は高いと思います。
Q : 今作を機に「ソロ・プロジェクト」(ワンマン・オーケストラと別に)はコンスタントに制作(またはライヴ)活動されていかれますか?
AJ : これまでの10年がコラボレーションの10年だったので、これからの10年はソロ活動に軸足を移して行こうと思っています。(コラボをやめるという意味ではありませんが)
コンスタントに制作をしていきたい気持ちがまた芽生えて来ました。
2007年10月24日水曜日
Interview with - 神保 明