2007年10月30日火曜日

interview with - KREVA

 “国民的ラップスター”を標ぼうし、見事オリコン1位獲得を成し遂げた前作『愛・自分博』から1年7か月、KREVA待望のニューアルバム『よろしくお願いします』が完成した。6月18日生まれの彼にとって、29才から31才までの3才分の声が刻み込まれた本作には、最近の彼の獅子奮迅(ししふんじん)の勢いと、ラップというアートフォームへの熱い追求心が凝縮パックされている。リリース・インターバル中には、結成から10年ぶりにBY PHAR THE DOPESTを再始動させたり、草野マサムネ(スピッツ)や久保田利伸とのコラボで活動領域をグンと広げた感のあるKREVA。まずは、最近の多忙な活動から振り返ってもらった。


■前作リリース以降、以前に比べて活動量が増したような気がします。無我夢中で過ごしていた感じなんですか?

KREVA:いや、刹那(せつな)に生きてた気がします。前にテレビで杉本彩さんへの密着番組みたいなのを見てたら、その日に1日のスケジュールを渡されることを制作者に指摘されて「私、刹那(せつな)に生きてるから」って言ってて。「あ、なんか似てるな」って思ったんすよ。だから、杉本彩的な生き方してましたね(笑)。


■それを自分でもおもしろがってたところはあるんですか?

KREVA:ない(きっぱり)。あんまり先を見ないで1個1個こなしていくっていう感じで、おもしろがる余裕はなかったですね。でも、1個1個は楽しいんですけどね。忙しかったっていうのも、いい思い出になってるし。


■最近はコラボワークスもありました。草野マサムネさんや久保田利伸さんとのコラボではどんな刺激を受けました?

KREVA:マサムネさんでびっくりしたのは、声の透明さ。プラス、歌が安定してるとこ。あと、久保田氏はリズムのうえで、音のうえで、すっごい楽しんでる。ラップがかっこいいか悪いかって、リズムにどうアプローチするかで決まってくるんだけど、そのリズムへのアプローチの幅をさらに広げてくれたというか、教えてくれた感じ。なにより久保田氏とは気が合うんですよ、すっごい。だから、ほんとにいい刺激をもらいましたね。


■今年7月には“ap bank fes”で、Mr.Childrenの桜井和寿さんや小林武史さんと共演しました。

KREVA:いろんな人と会ってきたなかで、桜井さんはいちばんかっこいいかな。人としてデカイというか、大らかというか。でも今出てきた人たちには、ひとりも威圧的な態度の人がいないし、みんな人としてすごく魅力的。いろんな人とつながるたびに思うのは、自分がもっと人として成長しなきゃいけないなって。小さいことでくよくよしたりとか怒ったりとかしてる場合じゃないなって。


■そうやって、いろんな人とつながっていくことや、今までとは違う世界と向かい合うことは、今作のモチベーションになってたりするんですか?

KREVA:というか、今回はひとりで作ってる曲がほとんどないんですよ。それっていうのは、アルバムが1位になったりして、今言った人たちだけじゃなくて、ヒップホッパーとか含めて、まわりの人みんながおれのことを受け入れてくれたから。そうすると自分も受け入れられるようになるっていう。ラブをすごくもらったからラブで返せる。今回のアルバムにはそういう感じが出てるんだと思いますね。


■本作を作っていくうえで気をつけたり、大切にしていたことは?

KREVA:トラックを選ぶときは、いい曲をって。“いい曲”っていうのは、いいメロディーってことじゃなくて、好きなコード感。好きなコード感で、自分の頭のなかにメロディーが鳴るトラックだけを選ぶっていうのは心がけてましたね。


■メロディアスな作風へのアプローチは、ここのところの傾向なのでは?

KREVA:いや、逆に最近はラップにすごい集中してる。ラップに集中したいから、いいトラックを選ばなきゃっていう。なんでかっていうと、CDをちゃんと買うとかレコードで買うような人だったら、1発目のドラムがかっけーとか、リズムがかっけーって反応する人もいっぱいいるんだろうけど、今は大体1発目のチェックがパソコンとかMP3の状態じゃないですか。だと、トラックがいい曲じゃないと、チェックすらしてもらえないと思うんですよ。だから、トラックとして“いい曲”を選んで、そこにラップを乗せるっていう感じになってる。


■あくまで、ラップをフロウしているのであって、メロディーを歌っているわけではない、と。

KREVA:そう。自分でメロディーを歌う、とかではない。それはもうやらなくていいかもって思ってるし。けど、やっぱりはやるのってそういうのばっかじゃないですか。自分でやっといて言うのもナンだけど、もうそういうのはやりたくなくて(苦笑)。“っぽい”ヤツは。


■最近はフックでモロに歌っちゃうようなラップグループが多いですが、そういうのはどう見てるんですか?

KREVA:おれは全然ヒップホップだと思ってない。“っぽいな”とは思ってるけど。おれが好きなヒップホップのところに、そういう人たちはいないから。で、どっちかっていうと、世間はそっちとおれが近いと思ってるのかもしれないけど、おれはそういうのはまったく聴かない。なんか違うものっていうふうに感じてる。


■KREVAがそういう作風の源流だと思ってる人も多いかもしれないけどね。

KREVA:うん。だから、こういうアルバムになったのかもなって気がするし。ラップにどんどんどんどん重きを置くようになったのかなって。最近は、ますますラップが大事だなって思うようになってきましたね。


■では、収録曲で“ラップ”の聞き逃し厳禁ポイントとなると?

KREVA:『くればいいのに feat.草野マサムネ from SPITZ』と『ため息はCO2』は、いちばん新しいリズムの取り方だと思う。今、言葉数を少なくすることをすごく考えていて、そのために、途切れ途切れのフロウになった。けっこうこれは新しいと思うし、ラップが好きな人にこそ聴いてもらいたいですね。


■『ため息はCO2』はメッセージソングとしても非常にいいできですよね。タイトルもうまいと思ったし。

KREVA:ありがとうございます。これは久保田利伸さんとやった『M★A★G★I★C』と同じネタを違う解釈で作った曲で。“ap bank fes”とか環境のイベントに出て、自分が良くなきゃ他人のことなんか考えられないなってことを自分なりに学んで。精神衛生が不潔なのに地球のこととか心配されても地球が困る、みたいな(笑)。それで、まず自分の心のCO2を減らしましょうっていうのを書いたんです。あと、次の曲にもため息って言葉が出てきたり、前の曲が“ため息”で終わってたり(笑)。そこは狙って作ったんだけど、ここの流れがいちばん好きですね。


■あと、今回はラブソングが増えたのも特徴ですね。

KREVA:日本語ラップはよく聴いてるけど、エロい歌とかはあってもラブソングってほんとねえなぁと思って。で、自分でなんとなくできたから、ちょっとその感じを意識的に多くしたところはあるんですよ。いちばん最初にできたのは『ビコーズ』で、その次が『You are my sunshine feat.千晴』だったかな。


■ひと口にラブソングといっても、どんな世界観を求めたんですか?

KREVA:恋に恋する感じっていうか。うまいこと言ってたり、素直な気持ちを言ってるのとか、そういうのはラップではないなって。


■それは恋愛の心境を丁寧に描いていく歌ってこと?

KREVA:そうかも。告白ラップつうか、なんつうか。日本語ラップにあるラブソングって、たとえば、みんなでカラオケとかに行って好きな子がいる前で歌えないようなのばっかりだなと思って。「ちょっとお前のために歌うわ」つって、歌えるような曲っていうんすかね? そういうマジ・ラブソングがあってもいいかなって思ったんですよね。


■さて、前作は1位を獲得しました。今回も当然狙っていきますよね?

KREVA:狙ってますよ、1位は。まあ、英検1級っすよ、オリコン1位は。はっきり言って、今はCDの売り上げだけじゃ、実際にみんなが聴いてる数っていうのは計れなくなってるけど、だからといって、1位を狙っていく姿勢はやめたくない。ほんと、英検みたいなもんで、あったらいいじゃないですか。「前のアルバムはオリコン1位になったですよ」といったら「あ、1位になったんだ」ってみんな認めてくれる。そういう意味で常に狙っていきたいですね。


■最後に、10月からツアーが始まりますが、今回はどんなツアーにしたいですか?

KREVA:まだ全然ナンにも決まってないですけど、気持ち的には、前回がホールツアーだったから、今度はストレートなライブを。あんまり演出とかがない、普通のライブかなと思ってるんですけど。たぶん、これで初めて来る人もいっぱいいるだろうし。


■先日のホールツアーの幕開けは、本作の1~3曲目と同じ流れでした(笑)。

KREVA:そう(笑)。それはもう、ファンへのプレゼントですね。アンド、来てない人、これからライブに来る人は、こんな感じで始まっていきますよっていう。


■それはこれから始まるツアーの大胆な予告と取ってもOKですか?


KREVA:ん? いや、まあ……たぶん、違う曲から始まると思うけど(笑)。たぶんね。