名実ともにNo.1ラップグループであることのプレッシャーなどどこ吹く風。2年2か月ぶりに届いたニューアルバム『ケツノポリス5』は、過去のどの作品よりも風通しの良い、聴き終えたあと味のさわやかな作品だ。『男女6人夏物語』『旅人』『トレイン』『また君に会える』の4大ヒット曲に加え、得意の叙情派メッセージからシリアスなプロテストソングまで、にぎやかなエレクトロ・ポップチューンからドラマティックなバラードまで、リスナーがケツメイシに求めるすべてのものと、さらにその向こうに未来が見える全15曲。これが新たなスタートともいえる自信作について、RYOJIとDJ KOHNOが大いに語る!
■今回は、『ケツノポリス4』のときにはやらなかった曲作り合宿を久々に復活させたんですよね。それがいい方向に作用したんじゃないですか?
RYOJI:うん。やっぱり合宿が向いてるんだなと思いましたね。個人個人で自分の世界観を持ってる4人なので、家に帰れば家のこともあるし、各個人の友だちもいるし、誘惑の多いなかにいるわけですよ(笑)。そういうときに、合宿でカンヅメになるというのが向いてる気がします。
■しかも今回は、MC3人(RYOJI、RYO、大蔵)とトラックメーカー3人(DJ KOHNO、YANAGIMAN、NAOKI-T)の組み合わせでローテーションを組んで1曲ずつ作っていったんですよね。おかげで作業もスムーズに進んで、曲のバリエーションもどんどん増えたという、いいこと尽くしだったわけですけど。
RYOJI:とにかくゼロからのスタートだったんで、まず効率を考えて。それとやっぱり、最初に新しいものを生み出すときには、少人数のほうがいいのかなと思ったんですよ。
DJ KOHNO:ある程度までできたら、みんなで聴いて話し合うんですけど。最初から大勢の意見が入ると、何もできないで終わっちゃうんで。
■ぶっちゃけ、『ケツノポリス4』があれだけ売れたプレッシャーは感じてました?
RYOJI:いや、作り始める時点ではなかったです。もちろん、売り上げ的にいえば落ちる可能性が大なわけで、それは気にしてもしょうがない。むしろ『5』で手を抜かなければ『6』でもっと売れるかもしれないし。途中段階なのか、最終章なのか、気分的に常に両方持っているものなので、とにかく精一杯やって、あとは共感してくれる人がいればありがたいという感じですね。
■1曲目『スタート』はいきなりにぎやかなエレクトロ・ポップチューンですね。フィーチャリングのアルファもばっちりハマッて。
DJ KOHNO:最初はアルファは入ってなかったんですけど、大もとがドラムンベースっぽい曲だったので、アルファは絶対ハマるよという意見が出て、じゃあやってもらいましょうと。アルファもすごいノッてやってくれました。アルファって、一見チャラチャラしてるように見えるんですけど、すごく真剣なんですよ。終わったあとも作業に付き合ってくれて、「ここはこうしたほうがカッコいいよ」とか、いろんな意見を出してくれた。僕は同い年なんで、接しやすいんですよ。
■1曲目からフィーチャリングもので派手にどーんといくのって、ケツメイシ的には初ですよね。
DJ KOHNO:そうですね。非常に珍しいです。まぁタイトルもタイトルだし、これが1曲目だろうと。
■ちなみにKOHNOさん発信の曲は?
DJ KOHNO:メインでやったのは『スタート』と『ケツメイシ工場』ですね。『ケツメイシ工場』はRYOさんと僕のコンビで作り始めた曲で、この音を使えば絶対におもしろい曲ができると思ってたんで、RYOさんにお願いしたら、すごい早くできあがった。そういうのがいい場合もあるし、深く考えて練らないとだめなときもある。いきなりイントロでRYOさんがしゃべってるんですけど、あれも最初に録ったままで、「これは録り直せない」って RYOさんも言ってました。
■ではRYOJIさん発信で、新しいものができたなと思う曲は?
RYOJI:やっぱり『君色』とか、あと『トレイン』も好きです。『トレイン』では書きたいものが書けたというか、たどりついた感はありますね。『君色』は、東京スカパラダイスオーケストラの『蟻たちの夜』っていう歌があって、たぶんヨーロッパツアーのDVDの最後に入ってるんですけど、それに感動しちゃって、同じように全員で歌う歌を作りたいなと思って。曲調もスウィングで、マネさせてもらいました。「すみません」って、スカパラのメンバーに謝りつつ(笑)。
■ライブで聴けたら感動しますね、間違いなく。
RYOJI:やると思いますよ。まぁ全員で歌うから、歌がヘタなのもバレないと思うし(笑)。スタッフ全員、壇上に上げちゃってもおもしろいし。今回も、KOHNOは歌ってないですけど、スタッフ6~7人が一緒にブースに入って歌ってるので。
DJ KOHNO:実はけっこう難しいことやってるんですよ。分解してみるとわかるんですけど。RYOさんなんか「できねぇよ!」って途中であきらめかけてたんですけど、「これはみんなでやりましょうよ」って説得して(笑)。気楽にやったように聴こえる曲ほど、実は一生懸命だったりするんです。
■『VS』という曲で、「若者よ立ち上がれ」とRYOさんがアジテーションしてます。これはケツメイシは常に若者のサイドにいるという意思表示ととらえていいですか。
RYOJI:うん……実際は、若者よりは若者でないのはわかってるけど。ガムシャラに罵声(ばせい)を浴びせたり、ケンカをすることでは変わらないことも多いじゃないですか。闘うだけじゃだめなんだということとか、そういうことが言える立場に来たのかなとは思います。僕らも正論は言うし、若者をなだめることもある。微妙な立ち位置だと思うんですよ。ただ安定とか、裕福さを求めて音楽をやってるわけではないということを伝えなきゃいけないし、味方と思ってくれるなら思ってほしいし。そういう歌ですかね。
■そういう微妙な葛藤(かっとう)をまっすぐ歌ってくれてるから、ケツメイシは信頼できるんだと思いますよ。『さよならまたね』はエンディングとして作った曲ですか。
RYOJI:これは知り合いの飲み屋の朝方の風景みたいな、「帰りたくない」みたいなぐだぐだ感ですね。「もう1杯出せ!」「いやもう朝ですから」っていうせめぎあいを描きたいと(笑)。ライブもそんなようなところ、あるじゃないですか? 「アンコールアンコール」って、何曲やらせるんだみたいな(笑)。でももうこれで終わりなんだよっていう気持ちが、ライブと近いんじゃないかなと。
■ところでRYOJIさん。今回は歌以外のラップのパートがすごく多くないですか?
RYOJI:自分ではもっとやりたいんですけど、物理的な分数の問題もあるし、ライブでラップもサビの歌もやると息が続かなくなる(笑)。今回は大蔵がすごくいいサビを作って歌ってる曲があったので、僕の立ち位置的にラップになったりしたんですね。RYOさんがサビを歌ってる曲もあるし、別にだれがサビを歌ってもいいじゃんっていうノリとか、ラップグループがラップしなくてもいいじゃんっていうノリとか、自由なところが出てきましたね。
■では最後にひとつだけ聞きたいことが。“ケツメイシみたいな”と表現されるラップグループの流行について、そのスタイルのパイオニアとしてどう思ってますか?
RYOJI:まず、パイオニアだという自覚がないです(笑)。
DJ KOHNO:前にだれか音楽ライターの方が書いてる記事で、“夏になるとケツメイシっぽいグループが増殖する”っていうのを読んだんですけど、“っぽい”といわれても困るなぁというのはあります(苦笑)。なんでしょうね? 僕らが最初にラップ、ヒップホップに興味を持ったきっかけには必ずだれかがいたわけで、それはいいことだと思うんですけど。でも、負けちゃいけないじゃないですけど、そういう人たちがいるなら僕らはこっちに行かなきゃ、みたいな気持ちがすごくあるので。すごくいい刺激にはなりますね。
RYOJI:あまりブームっぽいふうに作らないでほしいとは思いますね。一気に盛り上げすぎると、その世界が全部つぶれてしまうので。ただ、いいグループはどんどん出てくるべきだと思うし、そこに負けたくはない。僕らは僕らのできることをやっていくだけですね。
2007年10月29日月曜日
interview with - ケツメイシ