2007年10月31日水曜日

interview with - YUI

リリースごとにさまざまな表情を見せてくれるYUI。次に聴かせてくれるのは、壮大なオーケストラと彼女自身が奏でるひずんだギターがからみ合う、美しいロックバラード『LOVE & TRUTH』だ。今回は、曲に込められた力強く深い思いから、カップリングに収録された勢いあふれるロックンロール『Jam』のことまで語ってもらった。


■この曲は沢尻エリカさん主演の映画「クローズド・ノート」の主題歌となっていますが、原作を読んで作られたんですか?

YUI:そうですね。まず原作の小説を読んで、そのあとに映画の脚本を読んで作りました。この物語は、3人の登場人物のせつなく、やるせない恋心が描かれているんです。最初に読んで感じたのは、その“せつなさ”なんですが、なによりもその奥にある、相手を思い抜くという力強いメッセージを表現したいなと思って書いたんです。


■「過去も全部受け入れるって決めた」という、深く力強い歌詞が印象的でした。

YUI:そこがいちばん伝えたいところ。映画の原作で感じた、すごく強い決心を込めたんです。


■YUIさんだったら、もし好きな人にどんな過去があったとしても受け入れられると思いますか?

YUI:おっと(笑)。……そうですね。相手のことを本当に好きだったら乗り越えられると思いますね。自分本位で考えてしまったら“どうして?”ってこだわるかもしれないけれど、相手のことをきちんと考えることができれば乗り越えられると思うんです。


■恋愛は自分ひとりでするものではないですもんね。

YUI:そうなんですよね。そんなに甘くないですよ(笑)。


■(笑)。では曲のほうに話を戻して。何よりも驚いたのが、ストリングスと、ひずんだエレキギターがからむサウンド!

YUI:オーケストラのサウンドは最初から最後まで転調せずに展開していくなか、ギターは音の間を縫うように半音ずつ下がっていくんです。聴いていてちょっと不思議に感じるかもしれないけど、そこで壮大さを出せていると思うんですよね。ロックとオーケストラという、相反するものを一緒に奏でるのは難しかったですが、すごく情熱的で深い曲になりました。


■『Rolling star』からの流れで、最近のYUIさんの曲にはギターサウンドにこだわりを感じますが……。

YUI:今はすごくひずんだギターの音色が好きなんですよね。楽曲を作ると、自然と入ってきちゃうんです。とはいえ、前作のカップリング曲『Understand』(『My Generation/Understand』収録)みたいに、アコースティックの曲も私のなかでは大切な部分。どちらもバランス良く作っていきたいんですよね。でも今回は映画の主題歌なので、映画の世界観を壊さないようにというのを前提に、壮大な曲を作れたと思います。


■最初に映画関係者の人に聴かせたときに驚かれたと聞いたんですが……。

YUI:そうですね。ちょっとアコースティックなイメージと違ったみたいで(苦笑)。でも、私はこの原作、脚本を読んで、絶対に譲れないと思った力強さをもとに作ったので。


■なるほど。そして付けられたタイトルは『LOVE & TRUTH』。直訳すると“真実の愛”になるけど、これもまた力強いタイトルですね。

YUI:シンプルに“真実の愛”を歌いたいと思って付けたんです。映画での“愛のうた”を考えたときに、余計なものはいっさい付けたくなかったんですよね。


■歌い方も、今までよりも情熱的というか、内部にすごく熱いものを抱えているように感じました。

YUI:そうですね。今までよりも、曲が叫んでいるイメージがあるから。そこがにじみ出たのかもしれないですね。ほんと、とにかくせつない内容なんですが、すごく愛について深く考えさせられる映画だと思います。


■歌詞も映画に出てくるセリフやキーワードがちりばめられていて。たくさん発見がありますね。

YUI:はい。だからこそ、映画と一緒に楽しんでほしいですね。


■ところで、この映画では、日記と触れることで主人公の人生が変わっていますが、YUIさん自身、何かに触れることで変わったことってありますか?

YUI:……やっぱり音楽かな。音楽に出会わなかったら今の私はないと思うし。最初にギターに触れて人生が変わったと思います。すごくいい出会いでしたね。今はもう、ギターはものではなく、自分の一部です。


■今作で映画主題歌を作るのは4作目だと思うんですが、自分で書くときと気持ちの持ち具合は違う?

YUI:う~ん……。そんなにはないかな。どちらにしても普段からいろんなことをイメージしているものを基として書くことが多いので。ただ、映画は原作や脚本を読んで、自分が感じた気持ちを足して、さらに私というフィルターをとおして書くんです。だから、自分のなかで少しでも“こうは思わないな”って思ったら絶対にその言葉は書かないんです。だってうそは書きたくないから。


■そんなしっかりとしたポリシーが聴き手を説得させるし、ひきつけるんですね。

YUI:……(照)。だと、うれしいですね。


■そして2曲目に収録される『Jam』は、またそう快なロックンロールですね!

YUI:1曲目が重いラブソングだったので、2曲目は少しハズしたものがいいなって(笑)。


■すごく楽しそうに演奏している姿が想像できて、気持ちが良かったです。

YUI:ありがとうございます! この曲は、私自身、インディーズの人たちに負けないくらい楽しんで曲を作っているんだよという思いを込めて作ったんですよ。


■みんなでセッションしている姿がすぐに想像できるような、すごくリアリティーのあるストーリーになっているけど、これは実話ですか?

YUI:実話ではないですが、普段にかなり近いですね。バイク欲しいなぁ、みたいな(笑)。


■なるほど(笑)。それにしてもYUIさんは、この曲や、アルバム収録曲『RUIDO』(『CAN'T BUY MY LOVE』収録)で書いているように、ライブハウス通いが原動力になっているみたいですね。

YUI:ほんとに大好きなんですよ。たくさん刺激をもらえるし、いい発見もあるし。最初は“え?”って思うようなバンドも、40分くらい見ていると情がわいて、大好きになっちゃうんですよね(笑)。


■あははは(笑)。情に厚いんですね。そんな素に近い曲も聴けつつ……。最後に映画(「クローズド・ノート」)を見る人に、見たくなるようなコメントをお願いします(笑)。

YUI:困りますね……(笑)。でも、本当にせつない映画なんですが、人間ドラマにもなっていて。秋にはぴったりのすてきな映画になっていると思います。もし、せつなくなってやるせなくなったら、カップリングの『Jam』を聴いてその気持ちを吹き飛ばしてもらえたらな、って思います!


■うまくまとまりましたね(笑)。

YUI:うれしいですね(笑)。あ、それと、映画を見る前に聴くのと、見たあとに聴くのではまた印象が違うと思うので、それも試してもらえたらうれしいですね!

2007年10月30日火曜日

interview with - KREVA

 “国民的ラップスター”を標ぼうし、見事オリコン1位獲得を成し遂げた前作『愛・自分博』から1年7か月、KREVA待望のニューアルバム『よろしくお願いします』が完成した。6月18日生まれの彼にとって、29才から31才までの3才分の声が刻み込まれた本作には、最近の彼の獅子奮迅(ししふんじん)の勢いと、ラップというアートフォームへの熱い追求心が凝縮パックされている。リリース・インターバル中には、結成から10年ぶりにBY PHAR THE DOPESTを再始動させたり、草野マサムネ(スピッツ)や久保田利伸とのコラボで活動領域をグンと広げた感のあるKREVA。まずは、最近の多忙な活動から振り返ってもらった。


■前作リリース以降、以前に比べて活動量が増したような気がします。無我夢中で過ごしていた感じなんですか?

KREVA:いや、刹那(せつな)に生きてた気がします。前にテレビで杉本彩さんへの密着番組みたいなのを見てたら、その日に1日のスケジュールを渡されることを制作者に指摘されて「私、刹那(せつな)に生きてるから」って言ってて。「あ、なんか似てるな」って思ったんすよ。だから、杉本彩的な生き方してましたね(笑)。


■それを自分でもおもしろがってたところはあるんですか?

KREVA:ない(きっぱり)。あんまり先を見ないで1個1個こなしていくっていう感じで、おもしろがる余裕はなかったですね。でも、1個1個は楽しいんですけどね。忙しかったっていうのも、いい思い出になってるし。


■最近はコラボワークスもありました。草野マサムネさんや久保田利伸さんとのコラボではどんな刺激を受けました?

KREVA:マサムネさんでびっくりしたのは、声の透明さ。プラス、歌が安定してるとこ。あと、久保田氏はリズムのうえで、音のうえで、すっごい楽しんでる。ラップがかっこいいか悪いかって、リズムにどうアプローチするかで決まってくるんだけど、そのリズムへのアプローチの幅をさらに広げてくれたというか、教えてくれた感じ。なにより久保田氏とは気が合うんですよ、すっごい。だから、ほんとにいい刺激をもらいましたね。


■今年7月には“ap bank fes”で、Mr.Childrenの桜井和寿さんや小林武史さんと共演しました。

KREVA:いろんな人と会ってきたなかで、桜井さんはいちばんかっこいいかな。人としてデカイというか、大らかというか。でも今出てきた人たちには、ひとりも威圧的な態度の人がいないし、みんな人としてすごく魅力的。いろんな人とつながるたびに思うのは、自分がもっと人として成長しなきゃいけないなって。小さいことでくよくよしたりとか怒ったりとかしてる場合じゃないなって。


■そうやって、いろんな人とつながっていくことや、今までとは違う世界と向かい合うことは、今作のモチベーションになってたりするんですか?

KREVA:というか、今回はひとりで作ってる曲がほとんどないんですよ。それっていうのは、アルバムが1位になったりして、今言った人たちだけじゃなくて、ヒップホッパーとか含めて、まわりの人みんながおれのことを受け入れてくれたから。そうすると自分も受け入れられるようになるっていう。ラブをすごくもらったからラブで返せる。今回のアルバムにはそういう感じが出てるんだと思いますね。


■本作を作っていくうえで気をつけたり、大切にしていたことは?

KREVA:トラックを選ぶときは、いい曲をって。“いい曲”っていうのは、いいメロディーってことじゃなくて、好きなコード感。好きなコード感で、自分の頭のなかにメロディーが鳴るトラックだけを選ぶっていうのは心がけてましたね。


■メロディアスな作風へのアプローチは、ここのところの傾向なのでは?

KREVA:いや、逆に最近はラップにすごい集中してる。ラップに集中したいから、いいトラックを選ばなきゃっていう。なんでかっていうと、CDをちゃんと買うとかレコードで買うような人だったら、1発目のドラムがかっけーとか、リズムがかっけーって反応する人もいっぱいいるんだろうけど、今は大体1発目のチェックがパソコンとかMP3の状態じゃないですか。だと、トラックがいい曲じゃないと、チェックすらしてもらえないと思うんですよ。だから、トラックとして“いい曲”を選んで、そこにラップを乗せるっていう感じになってる。


■あくまで、ラップをフロウしているのであって、メロディーを歌っているわけではない、と。

KREVA:そう。自分でメロディーを歌う、とかではない。それはもうやらなくていいかもって思ってるし。けど、やっぱりはやるのってそういうのばっかじゃないですか。自分でやっといて言うのもナンだけど、もうそういうのはやりたくなくて(苦笑)。“っぽい”ヤツは。


■最近はフックでモロに歌っちゃうようなラップグループが多いですが、そういうのはどう見てるんですか?

KREVA:おれは全然ヒップホップだと思ってない。“っぽいな”とは思ってるけど。おれが好きなヒップホップのところに、そういう人たちはいないから。で、どっちかっていうと、世間はそっちとおれが近いと思ってるのかもしれないけど、おれはそういうのはまったく聴かない。なんか違うものっていうふうに感じてる。


■KREVAがそういう作風の源流だと思ってる人も多いかもしれないけどね。

KREVA:うん。だから、こういうアルバムになったのかもなって気がするし。ラップにどんどんどんどん重きを置くようになったのかなって。最近は、ますますラップが大事だなって思うようになってきましたね。


■では、収録曲で“ラップ”の聞き逃し厳禁ポイントとなると?

KREVA:『くればいいのに feat.草野マサムネ from SPITZ』と『ため息はCO2』は、いちばん新しいリズムの取り方だと思う。今、言葉数を少なくすることをすごく考えていて、そのために、途切れ途切れのフロウになった。けっこうこれは新しいと思うし、ラップが好きな人にこそ聴いてもらいたいですね。


■『ため息はCO2』はメッセージソングとしても非常にいいできですよね。タイトルもうまいと思ったし。

KREVA:ありがとうございます。これは久保田利伸さんとやった『M★A★G★I★C』と同じネタを違う解釈で作った曲で。“ap bank fes”とか環境のイベントに出て、自分が良くなきゃ他人のことなんか考えられないなってことを自分なりに学んで。精神衛生が不潔なのに地球のこととか心配されても地球が困る、みたいな(笑)。それで、まず自分の心のCO2を減らしましょうっていうのを書いたんです。あと、次の曲にもため息って言葉が出てきたり、前の曲が“ため息”で終わってたり(笑)。そこは狙って作ったんだけど、ここの流れがいちばん好きですね。


■あと、今回はラブソングが増えたのも特徴ですね。

KREVA:日本語ラップはよく聴いてるけど、エロい歌とかはあってもラブソングってほんとねえなぁと思って。で、自分でなんとなくできたから、ちょっとその感じを意識的に多くしたところはあるんですよ。いちばん最初にできたのは『ビコーズ』で、その次が『You are my sunshine feat.千晴』だったかな。


■ひと口にラブソングといっても、どんな世界観を求めたんですか?

KREVA:恋に恋する感じっていうか。うまいこと言ってたり、素直な気持ちを言ってるのとか、そういうのはラップではないなって。


■それは恋愛の心境を丁寧に描いていく歌ってこと?

KREVA:そうかも。告白ラップつうか、なんつうか。日本語ラップにあるラブソングって、たとえば、みんなでカラオケとかに行って好きな子がいる前で歌えないようなのばっかりだなと思って。「ちょっとお前のために歌うわ」つって、歌えるような曲っていうんすかね? そういうマジ・ラブソングがあってもいいかなって思ったんですよね。


■さて、前作は1位を獲得しました。今回も当然狙っていきますよね?

KREVA:狙ってますよ、1位は。まあ、英検1級っすよ、オリコン1位は。はっきり言って、今はCDの売り上げだけじゃ、実際にみんなが聴いてる数っていうのは計れなくなってるけど、だからといって、1位を狙っていく姿勢はやめたくない。ほんと、英検みたいなもんで、あったらいいじゃないですか。「前のアルバムはオリコン1位になったですよ」といったら「あ、1位になったんだ」ってみんな認めてくれる。そういう意味で常に狙っていきたいですね。


■最後に、10月からツアーが始まりますが、今回はどんなツアーにしたいですか?

KREVA:まだ全然ナンにも決まってないですけど、気持ち的には、前回がホールツアーだったから、今度はストレートなライブを。あんまり演出とかがない、普通のライブかなと思ってるんですけど。たぶん、これで初めて来る人もいっぱいいるだろうし。


■先日のホールツアーの幕開けは、本作の1~3曲目と同じ流れでした(笑)。

KREVA:そう(笑)。それはもう、ファンへのプレゼントですね。アンド、来てない人、これからライブに来る人は、こんな感じで始まっていきますよっていう。


■それはこれから始まるツアーの大胆な予告と取ってもOKですか?


KREVA:ん? いや、まあ……たぶん、違う曲から始まると思うけど(笑)。たぶんね。

2007年10月29日月曜日

interview with - ケツメイシ

名実ともにNo.1ラップグループであることのプレッシャーなどどこ吹く風。2年2か月ぶりに届いたニューアルバム『ケツノポリス5』は、過去のどの作品よりも風通しの良い、聴き終えたあと味のさわやかな作品だ。『男女6人夏物語』『旅人』『トレイン』『また君に会える』の4大ヒット曲に加え、得意の叙情派メッセージからシリアスなプロテストソングまで、にぎやかなエレクトロ・ポップチューンからドラマティックなバラードまで、リスナーがケツメイシに求めるすべてのものと、さらにその向こうに未来が見える全15曲。これが新たなスタートともいえる自信作について、RYOJIとDJ KOHNOが大いに語る!


■今回は、『ケツノポリス4』のときにはやらなかった曲作り合宿を久々に復活させたんですよね。それがいい方向に作用したんじゃないですか?

RYOJI:うん。やっぱり合宿が向いてるんだなと思いましたね。個人個人で自分の世界観を持ってる4人なので、家に帰れば家のこともあるし、各個人の友だちもいるし、誘惑の多いなかにいるわけですよ(笑)。そういうときに、合宿でカンヅメになるというのが向いてる気がします。


■しかも今回は、MC3人(RYOJI、RYO、大蔵)とトラックメーカー3人(DJ KOHNO、YANAGIMAN、NAOKI-T)の組み合わせでローテーションを組んで1曲ずつ作っていったんですよね。おかげで作業もスムーズに進んで、曲のバリエーションもどんどん増えたという、いいこと尽くしだったわけですけど。

RYOJI:とにかくゼロからのスタートだったんで、まず効率を考えて。それとやっぱり、最初に新しいものを生み出すときには、少人数のほうがいいのかなと思ったんですよ。

DJ KOHNO:ある程度までできたら、みんなで聴いて話し合うんですけど。最初から大勢の意見が入ると、何もできないで終わっちゃうんで。


■ぶっちゃけ、『ケツノポリス4』があれだけ売れたプレッシャーは感じてました?

RYOJI:いや、作り始める時点ではなかったです。もちろん、売り上げ的にいえば落ちる可能性が大なわけで、それは気にしてもしょうがない。むしろ『5』で手を抜かなければ『6』でもっと売れるかもしれないし。途中段階なのか、最終章なのか、気分的に常に両方持っているものなので、とにかく精一杯やって、あとは共感してくれる人がいればありがたいという感じですね。

■1曲目『スタート』はいきなりにぎやかなエレクトロ・ポップチューンですね。フィーチャリングのアルファもばっちりハマッて。

DJ KOHNO:最初はアルファは入ってなかったんですけど、大もとがドラムンベースっぽい曲だったので、アルファは絶対ハマるよという意見が出て、じゃあやってもらいましょうと。アルファもすごいノッてやってくれました。アルファって、一見チャラチャラしてるように見えるんですけど、すごく真剣なんですよ。終わったあとも作業に付き合ってくれて、「ここはこうしたほうがカッコいいよ」とか、いろんな意見を出してくれた。僕は同い年なんで、接しやすいんですよ。


■1曲目からフィーチャリングもので派手にどーんといくのって、ケツメイシ的には初ですよね。

DJ KOHNO:そうですね。非常に珍しいです。まぁタイトルもタイトルだし、これが1曲目だろうと。


■ちなみにKOHNOさん発信の曲は?

DJ KOHNO:メインでやったのは『スタート』と『ケツメイシ工場』ですね。『ケツメイシ工場』はRYOさんと僕のコンビで作り始めた曲で、この音を使えば絶対におもしろい曲ができると思ってたんで、RYOさんにお願いしたら、すごい早くできあがった。そういうのがいい場合もあるし、深く考えて練らないとだめなときもある。いきなりイントロでRYOさんがしゃべってるんですけど、あれも最初に録ったままで、「これは録り直せない」って RYOさんも言ってました。


■ではRYOJIさん発信で、新しいものができたなと思う曲は?

RYOJI:やっぱり『君色』とか、あと『トレイン』も好きです。『トレイン』では書きたいものが書けたというか、たどりついた感はありますね。『君色』は、東京スカパラダイスオーケストラの『蟻たちの夜』っていう歌があって、たぶんヨーロッパツアーのDVDの最後に入ってるんですけど、それに感動しちゃって、同じように全員で歌う歌を作りたいなと思って。曲調もスウィングで、マネさせてもらいました。「すみません」って、スカパラのメンバーに謝りつつ(笑)。


■ライブで聴けたら感動しますね、間違いなく。


RYOJI:やると思いますよ。まぁ全員で歌うから、歌がヘタなのもバレないと思うし(笑)。スタッフ全員、壇上に上げちゃってもおもしろいし。今回も、KOHNOは歌ってないですけど、スタッフ6~7人が一緒にブースに入って歌ってるので。

DJ KOHNO:実はけっこう難しいことやってるんですよ。分解してみるとわかるんですけど。RYOさんなんか「できねぇよ!」って途中であきらめかけてたんですけど、「これはみんなでやりましょうよ」って説得して(笑)。気楽にやったように聴こえる曲ほど、実は一生懸命だったりするんです。

■『VS』という曲で、「若者よ立ち上がれ」とRYOさんがアジテーションしてます。これはケツメイシは常に若者のサイドにいるという意思表示ととらえていいですか。

RYOJI:うん……実際は、若者よりは若者でないのはわかってるけど。ガムシャラに罵声(ばせい)を浴びせたり、ケンカをすることでは変わらないことも多いじゃないですか。闘うだけじゃだめなんだということとか、そういうことが言える立場に来たのかなとは思います。僕らも正論は言うし、若者をなだめることもある。微妙な立ち位置だと思うんですよ。ただ安定とか、裕福さを求めて音楽をやってるわけではないということを伝えなきゃいけないし、味方と思ってくれるなら思ってほしいし。そういう歌ですかね。


■そういう微妙な葛藤(かっとう)をまっすぐ歌ってくれてるから、ケツメイシは信頼できるんだと思いますよ。『さよならまたね』はエンディングとして作った曲ですか。

RYOJI:これは知り合いの飲み屋の朝方の風景みたいな、「帰りたくない」みたいなぐだぐだ感ですね。「もう1杯出せ!」「いやもう朝ですから」っていうせめぎあいを描きたいと(笑)。ライブもそんなようなところ、あるじゃないですか? 「アンコールアンコール」って、何曲やらせるんだみたいな(笑)。でももうこれで終わりなんだよっていう気持ちが、ライブと近いんじゃないかなと。


■ところでRYOJIさん。今回は歌以外のラップのパートがすごく多くないですか?

RYOJI:自分ではもっとやりたいんですけど、物理的な分数の問題もあるし、ライブでラップもサビの歌もやると息が続かなくなる(笑)。今回は大蔵がすごくいいサビを作って歌ってる曲があったので、僕の立ち位置的にラップになったりしたんですね。RYOさんがサビを歌ってる曲もあるし、別にだれがサビを歌ってもいいじゃんっていうノリとか、ラップグループがラップしなくてもいいじゃんっていうノリとか、自由なところが出てきましたね。


■では最後にひとつだけ聞きたいことが。“ケツメイシみたいな”と表現されるラップグループの流行について、そのスタイルのパイオニアとしてどう思ってますか?

RYOJI:まず、パイオニアだという自覚がないです(笑)。

DJ KOHNO:前にだれか音楽ライターの方が書いてる記事で、“夏になるとケツメイシっぽいグループが増殖する”っていうのを読んだんですけど、“っぽい”といわれても困るなぁというのはあります(苦笑)。なんでしょうね? 僕らが最初にラップ、ヒップホップに興味を持ったきっかけには必ずだれかがいたわけで、それはいいことだと思うんですけど。でも、負けちゃいけないじゃないですけど、そういう人たちがいるなら僕らはこっちに行かなきゃ、みたいな気持ちがすごくあるので。すごくいい刺激にはなりますね。

RYOJI:あまりブームっぽいふうに作らないでほしいとは思いますね。一気に盛り上げすぎると、その世界が全部つぶれてしまうので。ただ、いいグループはどんどん出てくるべきだと思うし、そこに負けたくはない。僕らは僕らのできることをやっていくだけですね。

2007年10月28日日曜日

Interview with -MONKEY MAJIK

なんて心地が良くて、風通しのいいアルバムなんだろう。7月25日リリースのMONKEY MAJIKのニューアルバム『空はまるで』は、初めて“夏”を意識しながら制作された1枚なのだという。もちろん、メロディーを大切にした楽曲作りはいつもどおりいい感じに自然体。m-floとの『Picture Perfect』、SEAMOとの『卒業、そして未来へ。』、吉田兄弟との『Change』という、才気あふれる3組のアーティストとのコラボレーション3部作を経てたどり着いた、MONKEY MAJIKの新たな魅力に迫る。


■ニューアルバム『空はまるで』は、MONKEY MAJIKらしくすごくバラエティーに富んだ1枚になりましたね。でも全体的に統一感があるというか、歌もメロディーもサウンドもすごく心地がいい!

Maynard:今回はとにかく音がリッチなアルバムにしたくて。リッチ=いっぱい音を入れるんじゃなく、ひとつの音に対するケア、ハンドリング……ギターをいちばんリッチな音にするためにこういう部屋で録ろうとか、こういうギターやマイクを使おうとか。でもそういうテクニカルな作業はすべて、メロディーにいちばんフィットする音を作るためだから。ま、そこはいつもどおりですよね。


■そういう部分をいちばん顕著に感じたのが、アルバムの冒頭を飾るタイトル曲『空はまるで』。この曲はものすごくシンプルだけど、ギターのカッティングだけでもう、ヒップホップやフォーク、ソウル、ブルースなど、このバンドの持ついろんな要素が表現されているから。

Maynard:ほぉ~。すごい(笑)。ま、シンプルイズベストじゃないかな。そういうとこではけっこうMONKEY MAJIKっぽいというか、『SPADE』のころからいつもシンプルな音を心がけていました。あと、レコーディング中の空気感を入れたかった。空気だから見えないし、CDには入れなくてもいいのかもしれないけど。『空はまるで』はオーボエとフルートで始まってて……モーツァルトの曲にチューニングっぽい感じで入る曲があるんで、そういう雰囲気を出そうと思って(笑)。でももしかしたらオーボエはいらなくて、ギターだけでも十分キレイだったかもしれない。でもこの4人がスタジオにいる雰囲気を出したかったというか……。なんか、なんか説明しづらい(笑)。

全員:わははははは。

Maynard:リビング作品というか、もう自分の一部だから、(アルバムを)客観的に見られない感じ。

DICK:でも今回は初めて夏に出るアルバムだから、明るい感じに仕上げたかったんだよね。

Maynard:それはあったよね。リッチというか、バーベキュー・ミュージック(笑)。ドライビングしてキャンピングに行こうっていうアルバムにしたいなってね。

■今まで以上にボーカルやハーモニーが表情豊かなのも新鮮でした。Blaiseさんのラップもよりメロディアスになっていて、それもすごく染みたというか。

tax:ボーカルは、前の日どれだけ飲んだかっていうのも大きいよね(笑)。

Maynard:あとタバコもやめたしね。『フタリ』のときはまだオールドスクールMaynardだけど、ほかの曲はノンスモーキングMaynard(笑)。禁煙のおかげで3回ぐらい声が出なくなりましたけどね、なぜか。Blaiseもタバコをやめたけど彼は大丈夫で。だから僕はもう1回(喫煙を)スタートしようかと思ったぐらい(笑)。

Blaise:でも禁煙してレンジ(声域)は上がりましたね。ただスモーキング時代より今のほうがちょっとハスキー。あとパワーもね? でも今のほうが気持ちいいね。Now, I feel professional。前はやっぱりアマチュア(笑)。


■そんな新局面がさまざまな形で楽しめる『空はまるで』ですが、アルバムタイトルにはどういう思いが込められているんでしょうか?

tax:単純に今回は前回のアルバムよりも幅が広がったかなっていうイメージがあって。そういう意味でもボーダレスな雰囲気が合うかなと思って選んだんです。でも、そこ(タイトル)にはあんまり強い意味は込めてなくて。僕たちが作品を作るときはいつも、そのとき感じたことを作品のなかに落とし込むっていうスタイルでやってて。現時点では『空はまるで』は僕らにとっての最高の1枚だと思ってるし、そうやって僕らが自信を持って最初から最後まで時間をかけて作り上げた1枚だから、より多くの人に知ってもらえたらなって思ってますよね。

Maynard:“空はまるで……何のように?”って考えると、いろんなふうにイメージできるからね。“君のように”の君ってだれだろうって、みんながそれぞれ違う人を考えたりして。それぐらいの幅広い感じ、Forever Borderlessみたいな感じ。すごいFitting(ふさわしい)タイトルかなって思ってる。あと、アルバムジャケットもぜひ見てもらいたいです。どんどんハードコアエリアになってきてるしね(笑)。(楽曲は)子どもたちのためにも作ってるのに、子どもたちにはわからないジャケットになってるから(一同爆笑)。でも僕らはみんなすごく気に入ってて。ずっと好きだったスピッツとか東京事変のジャケットとかをやってるアートディレクターの方にやってもらえたんですけど、合成じゃなくて写真っていうところもすごい気に入ってます。

■今作にも収録されているm-floとの『Picture Perfect』、SEAMOとの『卒業、そして未来へ。』、吉田兄弟との『Change』。このコラボ3部作の制作は、MONKEY MAJIKにとってどんな経験でした?

Blaise:楽しかったねー。

Maynard:あと、『Around The World + Go!空』(『MONKEY MAJIK×MONKEY MAGIC』収録)では香取慎吾さんともコラボできたしね。

tax:やっぱり最初のコラボがm-floさんだったのはホントに良かったですね。『Picture Perfect』の前にm-floさんから作品に参加しないかって声をかけてもらって。そこでコラボすることの楽しさを教えてもらえたし、勉強にもなったし、これからももっといろんな人と一緒にやりたいと思ったし。やっぱり最初はコラボ自体初めてだから緊張してたし、芸能界っていうか(笑)、初めて会う大物アーティストだったから構えてたしね。

DICK:明日遠足、みたいなね(笑)。

tax:でも実際に会ってみたら、前から友だちだったみたいな楽しい雰囲気でできて。

Maynard:ふたりとも英語もペラペラだし、逆に“日本語のほうがいいですか?”なんて聞かれて変な感じだった(笑)。SEAMOさんもすごく優しくて、本当に音楽が好きでやってるのがわかって良かった。吉田兄弟は、目の前でライブ状態で演奏してくれて。あれは感動しました!

DICK:吉田兄弟さんの作品自体がいいからね。僕たちはそこに参加したっていう意識だから。

Maynard:これまでも打ち込みで三味線の音は入れてきてるんですけど、本当はずっと彼らと一緒にやりたかったから。だから今回やっと! だね。


■そんなコラボを経て、m-flo、SEAMO、FreeTEMPO、BENNIE Kという豪華メンツを迎えたMONKEY MAJIK主宰の初の野外フェス“APPI MUSIC JAM '07 MONKEY MAJIK+FRIENDS”が8月16日に開催されますね。

Maynard:この日は吉田兄弟さんだけロスでレコーディングのため共演できないんですけどね~。それはすごく残念。


■どんなイベントになりそうですか?

Maynard:大好きなFRIENDSと大事な曲を披露できるってことで、すごくハッピーな1日になると思います。コラボ曲は(共演相手が)一緒じゃないとやりませんから。


■てことは、この日これまでのコラボ曲が初生披露に?

Maynard:はい! けっこうMONKEY MAJIKっぽい感じになると思いますね。FreeTEMPOからSEAMOまでが共演してくれるっていう。ほんと、ワールドワイドなレンジの広い人たちが集まってくれてうれしいよね。もうね、バーベキュー・パーティーですよ、オンステージで(笑)。

tax:ほんと、バーベキューの話はいっぱいしてるよね。

DICK:コンロは何基用意するかとか、シェフハットをかぶるほうがいいのかとか、そういう話はいっぱいしてるのに、ライブの詳細はまだ決めてないからね(一同爆笑)。

2007年10月27日土曜日

Interview with - 山崎まさよし

カバーアルバムがブームである。さまざまなミュージシャンがさまざまな選曲とセンスと価値観で、多種多様なカバーを披露する。もともと楽曲がいいものだから、リスナーもかまえることなく純粋に音楽を楽しむことができる。だからこそお手軽な作品に出合ってしまうこともある。そんななか、山崎まさよしもカバーアルバムをリリースするのだという。“YO!”(洋楽)と“HO!”(邦楽)に分け、スティービー・ワンダーやポール・マッカートニー、堺正章や桑田佳祐ら、合わせて20曲。その中身は、カバーアルバムという形を借りた、山崎まさよしのオリジナルな音楽だった。ほかのそれとは一線を画している。


■選曲は、意外にもスタンダードな曲が多かったですね。

山崎:そうですね。邦楽(『COVER ALL-HO!』)のほうは特に、今までわざと避けてたものが多い。若いときは何かにつけて理屈っぽくて、それが好きと言えなかったり、無理して洋楽ばっかり聴こうとしてたこともあって。だからどうしても、“何がガールズポップじゃあ~”と思ってたのが、やっぱりデビューして12年もたつと、いい曲はいい曲だなって認められるようになりました。すごいものはすごい、と。作曲する人も作詞する人も。


■実際に、どのように選曲したんですか?

山崎:まず、スタッフに募りました。で、みんなが持ってきてくれたCDを見て、自分で直感的にいいんじゃないかなと思ったものをやってみたり。


■個人的に思い入れのある曲はあるんですか?

山崎:それは特に考えずに、今の自分のポテンシャルに合うということを優先させました。この曲がやりたいとかっていうのは希薄ですね。リスペクトだけで作ったカバーアルバムじゃないから。


■ということは、歌い手、演奏者としてはもちろん、アレンジャーとして、さらにプロデューサーとしての山崎さんというのも力量を問われたのではないかと思いますが。

山崎:そう、自分で作ったオリジナルを歌うっていうのは、どういう形にするにしてもシンプルな作業なんだけど、今回は“商品になる”というところに趣を置いたかもしれないですね。だって、ジャケットのアイデアとかもどんどん進んでたし(笑)。


■ユニークなジャケット写真ですね。

山崎:コスプレですよ、地味だけど(笑)。これはうちのマネージャーが考えたんですけど。撮影がレコーディングの最中だったので、楽しいとかおもしろいとか言ってられなくて。早く終わってくれって言いながら、結局撮影した店で飲んでたけどね、2日とも(笑)。あ、ここ(『COVER ALL-YO!』のジャケット写真)に写ってる人、杏子さんのお母さん。ブックレットのほうには杏子さんのお父さんも写ってる。おふたりともすてきな方なので、モデルさんとして来てもらったんですよ。

■最近は、カバーアルバムを出す人がとても多いですが、どのような思いで作ったアルバムなのでしょうか。

山崎:僕という媒体をとおして、これを買って聴いてくれた人が「いい曲だね」って思ってくれたら、それがいちばんうれしいですね。そこから、本当はどんな曲なんだろうって、オリジナルを聴いてくれたり。これがボサノバなのか? どうなんだ? っていうのでもいいし(笑)。


■純粋に、いい曲だから聴いてくれ、と。

山崎:あとは、どうしても音楽的なところを誇示したくなるよね。こんな引き出しもあるよ、とか。


■ここで、こんなことをやっちゃったりして、とか。

山崎:やっちゃったりして、許してくれるかな、みたいな楽しみ方もあると思うし。だから、今まで音楽をやってきて、その間にいろんなことを自分でも知らないうちに吸収してたんだなと思いましたね。昔だったら絶対思いつかないアイデアも多いわけで。ラテンのフレーバーは好きだが、じゃあどういうリズムなんだろう、とか。


■それをひも解くおもしろさもあったわけですね。どのトラックも完成度が高いですが、『大きな玉ねぎの下で』も、爆風スランプとは違う、オリジナルのようになってますね。

山崎:いい歌でしょ。武道館ってやっぱりミュージシャンにとっては聖域でしょ。ビートルズから始まって、ロックの歴史があって、ステイタスのある場所だし、そうあるべきだとおれは思うんですよ。2年前に武道館で、弾き語りでコンサートをやったときは、もう当分やりたくないと思った。武道館に見に来るお客さんのパワーがすごいから。「武道館でやるんだったら、いいもん見せてくれよな」っていうのが絶対あると思うし。結果、あそこは特別な会場だなと思ってて。あの歌って、(歌詞は)文通相手とロックの殿堂で初めて会うっていう、せつない話だなと思ってね。青春の歌ですよね。あのピアノは、うちのピアノの音です。非常にばらつきがある(笑)。今回はほとんど自宅の部屋で録ったからね。


■ボーカリストとしての楽曲との向き合い方はどうでしたか? “受けて立つ”といった感じですか?

山崎:いや、受けて立つというよりも、胸を借りるというよりも、“歌わせて”って感じだね。みんな、いい曲だから。いい曲は寛容だと思う。なんか知らないけど、英語で歌うと普遍的というか、すごく博愛を感じるのはなんでなんだろうね。“you”っていうのが“あなた”とか“きみ”じゃないからだろうね。“you”は“you”なんだよ。意味合い的に寛容に感じて、これはおれが歌ってもいいんだろうって思えるものがあるんだよね、英語の歌詞って。

■このアルバムを作ったことが、今後の山崎さん自身の作品作りにも影響を与えたりしそうですか?

山崎:音楽をやっていく以上、詞はオリジナルになっていくだろうし、メロディーもそうだと思うんだけど、何か越えられない壁っていうのをずっと感じながらやってきてるわけですよ。自由度も制限されたり。でもこれを作ったことで、そういうのをもうちょっと取っ払っていけるような気がしてるんですよね。ミクスチャーにしてるわけだから、カバーということで。


■服部隆之さんや、PE'Zなど、いろんなミュージシャンとのコラボも興味深いですね。

山崎:そう、いってみればトラック作りのうえで、いろんな壁が取っ払われてるんですね。


■次長課長の河本準一さんもタンバリンで『さらば恋人』に参加していますね。

山崎:堺正章さんはザ・スパイダースのころ、タンバリンをたたいてたから。今、テレビで有名でタンバリンをたたく人……って考えたら、あ、そうだ、と思って(笑)。


■そういう発想も、カバーならではかもしれないですね。

山崎:そうですね。やっぱりスタッフサイドは常にいろんなことをやらせたいっていうのがあるんだけど、今回はカバーっていうアイデアをくれて、既存の曲とおれをぶつけるっていうことをしたんだと思う。そういうことって、自分からはやらないでしょ。おれはやらないんですよ。だれかとやりたいとかはあんまりないから。嫌われたらどうしようとか思うから(笑)。自分のオリジナルという頑(かたく)ななものではなくて。これはすごくいい経験だったと思う。


■ツアーが11月から始まりますが、このカバー曲たちを中心に?

山崎:やったり、やらなかったり(笑)。


■いつもの、中村キタローさん、GENTAさんとまわるんですか?

山崎:そう、このメンバーで10年もやってるからね、おもしろいよ。


■もうパーマネントなバンドみたいになってますよね。

山崎:うん。ま、くさい話だけど、だれが音楽的に何をしたいか、どう思ってるかっていうのは、音を出してればなんとなくわかってるからね。キタローさんは、ほかの人のライブだとちゃんと弾いてるでしょ。おれのライブだとベース弾いてないときがあるからね(笑)。


■いえ、いつもとっても楽しそうに弾いてらっしゃる(笑)。オリジナルアルバムのほうは、どんな感じになってますでしょうか。

山崎:それも進めてたんですけど。


■カバーアルバムがあったから、中断していたと。

山崎:そうそうそう。


■ツアーが終わってから、また取りかかることになるんですかね?

山崎:でも、今からでももうやっておいたほうがいいかなって、大人の考えになってますね(笑)。

2007年10月26日金曜日

Interview with - 木村カエラ

自身初の日本武道館公演は、本人も涙するほどの大感動&大盛況。アルバム『Scratch』と前シングル「Samantha」も、連続で会心の仕上がりに。木村カエラの活動ぶりはデビューから3年が経過しても、スケールを大きく広げ続けている。という好状況の中では完成した新曲「Yellow」も、カエラ流ロックの新たな扉を開けたナンバー! 音楽シーンのど真ん中でますます輝く木村カエラの独特な個性と、彼女を突き動かす衝動の源を、ニュー・シングルの世界観から改めてひも解いてみる。

新曲、文句なしにカッコいいです!

カエラ:(笑)おぉ~っ。よかった~!

アグレッシブなギターとかリズムのトリッキーさとか、エッジがかなり聴いていて。

カエラ:例えば、Aメロの流れとかは、ロックのリズム感じゃなくてラップ的な縦ノリですよね。そこにわざと日本語を入れて、ちょっと気持ち悪く聴こえる感じにしたのは、シノッピ(作曲を手がけた渡邊忍/ASPARAGUS)と私の思惑なんです。あと、アコギの音とかが急にサビに入ってくるのも、“うわっ、なにこの音!”みたいに感じてもらえると思うんで…。うん! いいと思います(笑)。

気持ち悪く聴こえるって、褒め言葉なのが素晴らしいです(笑)。渡邊さんとは、まさにそういうフック的な仕掛けを狙っていた?

カエラ:うん。私、ノー・ダウトが大好きなんですけど。昔のノー・ダウトって、レゲエとロックが混ざってるようなリズム感というか、ちょっと独特な音楽だったじゃないですか。そういう感じをやったら面白いねって、ふたりでずっと話してたんですよ。シノッピも私も、 R&Bとかを聴くことも結構あったりして、そういう中で…。あの独特なノリをあえてバンドでやるのがいいのがいい、っていう。そこでデジタルな音を使ったり英語の歌詞をあてはめたら、普通のカッコいい音楽になっちゃうというか。そうじゃなくて、ちょっと気持ち悪い感じがいいねって(笑)。

キャッチーさもポップさも、もちろんありつつ。でも、いい意味でちょっと気持ち悪さもある(笑)。個性が強い曲を、シングルとしてリリースする潔さもスゴいなって思うんですよ。カエラさん自身はその、シングルの位置づけ的なことってどうとらえてますか?

カエラ:あのねぇ…。私が元々、デビューする前から、例えばインディーズの音楽だったり外国の音楽だったり。日本ではそこまでポップだとは思われてないようなものも、普通に好きで聴いてたからっていう、その流れがあると思うんですよね。日本ってそういうところ結構、分かれるじゃないですか。全部一緒にしちゃいたいっていうのがあって。

あぁ~っ。なるほど。例えば、洋楽/邦楽とか。そんなふうな分け方で音楽をジャッジする感じも、あるような気しますね。メジャーとインディー、とか。そういう変な壁みたいなものを崩したいっていう気持ちが、カエラさんの作品には表れているのかも。

カエラ:うん。日本のメジャーから出ている人で、“うおぉ~っ! これいい曲じゃん!”っていう人ももちろんいるし。そういう中であえて私が、“これ、メジャー?”っていうものを、やることに意味があるのかなって思うし。私自身が本当に好きな曲が、歌っててもやっぱり一番気持ちいいし。それと…、「TREE CLIMBERS」とかも、ちょっとメジャー感はなくないですか? 詞に英語も多いしシングルっていう感じでは、ある意味ないですよね。でも、あれを出した時に一番反応したのが、子供だったんです。幼稚園ぐらいの子。子供がね子供がねって、まわりから一番言われた曲だったんですよね。

へえぇ~っ! あんなロックな曲に、面白い反応だなぁ。でも…。あのビート感とかを聴いてパッと反応して、身体が動くみたいな感覚は何となく分かる気もします。

カエラ:そう。動くし、踊るし。♪day by day~って、歌うし。それがまずビックリしたんだけど…。子供に受け入れられれば、まわりの大人にも受け入れられるだろうっていう、単純な考えがあるので(笑)。だって、色んな人が集まってくるほうが、楽しいじゃない! 実際、今のライブはそういう感じになってるし。小っちゃい子供もいれば、着物着たおばあちゃんがいたり(笑)。会社帰りでネクタイ姿の人もいれば、原宿で見るようなキッズも盛り上がってるのが、すごい嬉しいんですよ。

サウンド面ですごくいい話が聞けましたんで、次は歌詞についても聞かせて下さい。タイトルの“Yellow”に込めているものも含めて、ここから伝えたいメッセージを。

カエラ:この曲の主人公は、強がってる女の子なんです。例えば…、(手もとのコップを指して)誰かにお茶を入れてもらったりして、素直に“ありがとう”って言えばいいのに、“別に、あとで自分でやるからいいのに”みたいに言っちゃう強がってる子が主人公。Yellowっていうのは、黄色信号っていう意味なんです。行けるのに、行かずに踏み止まっている女性って、とても多いんじゃないかな。

でも女性って、すごく心が強い人種だなって私は思っていて、だからこそもったいないなって思うんですよね。私自身なりたい女性像は、心があったかくて強い女性なんですね。子供を産んだ女の人を見るとよく思うんだけど、大きくて、包み込む力があって、話してることも優しさがあって。

あぁ~っ…。“母性”って、まさにそういうことなのかもしれないですね。

カエラ:そうですね。スッとまっすぐ立ってて安心感がある、大っきい樹みたいな女の人になりたいなって。そういう中でまた、思うのが…。それって、守るものがあるからなのかな、とか。自分で産んだ子供っていう守るべきものができると、自然と強くなれるるのかなって気もするんだけど、それがない人はどうしたらいいんだろう。仕事を一生懸命頑張ってたりして、それを持ってない人は、さっきの話みたいな、色んな場面で強がっちゃうこともあると思うし。じゃあそこで、心を強くするにはどうしたらいいのかって考えると…。素直な言葉をしゃべって、心が素直でいられるように、自分自身をしっかり分かってなくちゃいけないんじゃないかな、って思ったんですよね。だから、色んな意味で素直に生きていたいねっていうのがテーマかな。私自身そうありたいし、みんなもそうあってほしいなっていうメッセージというか、うん! 

2007年10月25日木曜日

interview with - チャットモンチー

シングル『シャングリラ』のヒットを皮切りに、『世界が終わる夜に』(『とび魚のバタフライ/世界が終わる夜に』収録)が映画「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の主題歌に起用、「スカパー!夏フェス祭り」のテレビCMでは『とび魚のバタフライ』が大量オンエア、など……。最近とみにスゴイことになっているチャットモンチーの世間への浸透ぶりの要因は、彼女たちしか作れない強烈な個性が、音楽ファンの感性を激しく刺激したからにほかならない。ついに完成したセカンドアルバム『生命力』は、そんな好状況に追い打ちをかけること確実なまさに会心の仕上がりだ。ミュージックマガジン待望の初インタビューは、唯一無二な世界観の源はどこにあるのか、音楽面&キャラ面含めさまざまな角度から3人を解析!


■タイトルの『生命力』ってインパクトがすごくあるフレーズですけど、この由来は?

橋本:由来は、あのぉ……。曲を聴きながらタイトルを考えていて、“生命力”を感じるなと思って。そのままタイトルにしました。


■直球ですねぇ(笑)。

橋本:はい(笑)。“~~力”ってつけたかったっていうのも単純にあるし、あとは……頭を使って書いた歌詞とか、手足動かして演奏したエネルギーっていうのもあるし。『耳鳴り』のときよりも曲に対して欲が出て、その力が増してるなと思ったんです。


■その『耳鳴り』から今作までの流れを、みなさん自身は改めてどうとらえてますか?

高橋:今回の曲は、ライブでやってカッコイイものっていうことを前提に作ってきたんですよ。『耳鳴り』のツアーを終えて、なんかこう……お客さんとの距離を縮められるようになってきたんですね。で、そこで、お客さんが楽しんでノレるような曲がもうちょっと増えてもいいねっていう話を、3人でして。だいぶ“ひらけてきた”っていうことなんじゃないかと思うんですけど。


■最近のライブはいくつか見させてもらいましたけど、一体感がすごくありましたね。

高橋:はい。昔は、敵対心じゃないけど、ライブはいつも“見とけ!”って感じでやっていて。ステージでは3人が常に強くいなきゃっていう。 “見せつけてやる”って感じは、今ももちろんあるんですけど。なんだけど、それがだいぶほどけてきたのが『耳鳴り』のツアーだったんです。お客さんが自分たちの曲で、笑ってくれてるのを見られたりして。

福岡:敵対心っていうか、攻撃的なライブばっかり昔はしてたし。MCも、気の利いたことも言わずにボソボソッと話して次の曲やる、みたいな感じで。とにかく、親切ではない感じ。それがカッコイイと思ってやってたんですけど、『耳鳴り』が出てから自分たちの曲を知って見に来てくれる人が増えて、ライブの雰囲気もちょっと変わってきて。だから次はノレる曲を作ろうとか、スリーピース感をもっと出そうっていう話にいたりました。

橋本:曲中に、予想外のとこでお客さんがノッてたりすると、“あっ、こんなとこでノリたくなるんやな”って思ったり。お客さんの、チャットモンチーに対する見方とか気持ちが目に見えてわかるようになったのがうれしいし、変わりましたね。私、昔はいっさい笑わなかったんです、ライブで。ミスしてエヘッていうのはあったと思うんですけど。

一同:(笑)。


■苦笑、って感じですか(笑)。

橋本:苦笑です(笑)。でも、自分から笑いかけたりとかってまったくやったことなかったんですけど、今は自然と笑えるというか……。すごいニコニコニコニコしてるのとか、うつるなぁって。お客さんの笑顔がうつる(笑)。

■今回、『素直』のピアノとクラリネットはみなさん自身の演奏だったり、曲調もバラエティーに富んでいていろいろなアイデアが盛り込まれているのもおもしろかったです。その曲作りの始まりはたしか、歌詞からなんですよね?

橋本:はい。高2のときにチャットモンチーを作ったんですけど、当時のメンバーにも書いてもらってました。詞がほしかったんです(笑)。その詞に感動したりして、曲を作りたかったんで。詞に感動して、歌ったり。だから、楽しいです! ふたりの詞を読むのが。


■いわゆる“詞先”のスタイル自体、珍しいと思います。3人とも作詞をするからそれぞれの個性が曲に表れて、サウンドのバラエティーも生まれるみたいですね。

高橋:自分の歌詞に息が吹きこまれるのが、すごくうれしいし。あと、たとえばバラードになるだろうなって私は思ってたものがすごいハイテンポな曲になったりすると、“はぁ~っ……”って(笑)。私はこういう気持ちで書いてるけど、えっちゃんにそれが渡ったらまたえっちゃんの感情で曲をつけるから、“こういうふうになるんだ!”って。それが“チャットモンチー節”というか、チャットモンチーの持ち味になってきてるなって思います。


■じゃあその、持ち味っていうところで。みなさんは、音楽的な持ち味というか、もともとの音楽ルーツが似ている3人なんですか?

福岡:あ、いや。久美子はもともと、いろんなコピバン(コピーバンド)とかやってたし。

高橋:大学に入ってからすぐ軽音部で、ボン・ジョヴィとエアロスミスと、ザ・ビートルズをやるコピーバンドを結成して。主に、アメリカンロックな感じのコピーバンドを。

福岡:スピッツもやった。

高橋:あと……あっこちゃんとは、“レオマワールド”って名前のバンドもやってました。地元の遊園地の名前なんですけど(笑)。

福岡:あったなぁ~(笑)! JITTERIN'JINNとかジュディマリ(JUDY AND MARY)のコピーとかも。あと、くるりとか……。

高橋:POTSHOTとかもやったな。


■洋楽邦楽ジャンルレスって感じですね。橋本さんは、音楽への入り口は?

橋本:自分で作詞作曲をするようになったきっかけは、BONNIE PINKさんでした。なんで、高校時代も女性ボーカルものはほぼ聴いてましたし、あと兄もバンドをやってたので、いろんな人を聴かせてもらってました。


■どんなジャンルのバンドだったんですか?

橋本:ハードコアです(笑)。なんで、兄にすすめられてエレキギターで弾いたのも、ハイスタ(Hi-STANDARD)でした。


■へえぇ~っ。ハイスタはちょっと意外ですけど、ライブ映えする迫力のあるサウンドっていうところでは、そういうパンク系の音楽がルーツにあるのもうなずけるかも……。っていうのは多少強引ですかね(笑)。

橋本:あ、いや。あると思います。そういう音は今も好きなんで、大きいと思います。


■アルバム発売後は、ツアーがまた待ってますね。フェス含めて今年はたくさんライブをやって、それ以外にもテレビの音楽番組に出たり、活動の場が広がってることは一目りょう然で。ちょっと前に「王様のブランチ」で拝見したときも、ビックリしたんですけど。

福岡:あぁ~っ(笑)。でもあれ、けっこうシュールだったでしょ? 映像的に。風ゴーゴー浴びながらで、スゴかった(笑)。


■あ、はいはい。水上バス乗ってて、髪がビュービューなびいてました(笑)。

高橋:えっちゃん、なんか怒っとるみたいな声だったし(笑)。“それでぇ!”なんて。


橋本:聞こえてないと思ったんですよ~。風がスゴくて、声が。でも、マイクがむっちゃ拾っとって。歌っとるぐらいの大きい声になってて、恥ずかしかったです……(笑)。


■超基本的な質問なんですけど。ああいう露出もメンバー的には、ありですか。

福岡:はい。ありだから、やらせてもらったんですけど……。はい(一同笑)。


■当然ですよね。失礼しました。

橋本:いえいえいえいえ。こちらこそ(笑)。何かをして、振り返って“うわぁ~……”みたいなことって、基本的に少ないんですけど。そのときの気持ちでやっているので。

福岡:だからそれは、“いい曲ができたから”ってことですよね。テレビとかに出させてもらうのは、CDを出す前じゃないですか。プロモーション期間の。だからまずはいい曲、いい作品が作れないと。自分たちに自信がないと、そういうとこには出ていかないと思います。“曲できねぇ~っ……”っていうときにテレビに出ても、笑えないですからね。


■いい音楽が作れているっていう自信があってのことですからね、すべては。そういう瞬間がこれからも増えたらいいですね。

橋本&福岡&高橋:頑張ります!


■じゃあ、最後にもうひとつ音楽からちょっと離れた質問を。制作作業がひと段落して、時間ができたりしたらどう過ごしてます?

福岡:休みがたまにポーンとあったら、みんなけっこう出かけてますね。

高橋:家におったらもったいない気がする。

福岡:あ、そう! 久美子らしいことがあったんですよ。急に休みがあって、でもそれを忘れてて、“明日休みなのにだれにも連絡してない!”って急きょ遊びを入れまくって。そしたら、ほんっっっっっまに、1日じゅう遊びまくっとったらしいんです(笑)。

高橋:(笑)。その1日を、最高の1日にしたいんで。外に出ていろんなとこにいくと、思い出になるじゃないですか、その日が。だから、休みの日ほどむっちゃ早起きしたり。

橋本:私も、外に出るんですけど……。目覚ましをかけないで寝ると、とんでもないぐらい寝るんですよ(笑)。


■わかります! 休日のだいご味ですよね~。

橋本:ですよね~。だいご味をまっとうして、すっごく寝てしまいます(笑)。

2007年10月24日水曜日

Interview with - 神保 明

※インタビュー日時 2007年5月7日(月)

ワンマン・オーケストラを筆頭に様々なユニットや参加作品群を誇る神保彰が1997年の『Stone Butterfly』以来10年ぶり、11作目のソロ・アルバムをリリース!

参加ミュージシャンは、ベースに、メキシコ・シティ出身でリー・リトナーを始めとした、数え切れないアーチストからのファースト・コールを受けるエイブラハム・ラボリエル。ピアノはベネズエラ出身で神保彰がブライアン・ブロンバーグと組んだユニット、JBプロジェクトの2作品にも参加したオトマロ・ルイーズ。そして初共演となる、チック・コリア・エレクトリック・バンドに参加し一躍時の人となった、オーストラリア出身のスーパー・ギタリスト、フランク・ギャンバレ。

この3人に神保彰を加えた4人編成のスーパー・カルテットが、アルバム全編において神保彰楽曲を最大に生かすため、ミュージシャン4人が偏る事なく、力を発揮している。4人とも非常に「強力な」プレイを全編で聴く事ができるのだが、テクニック最優先には聴こえさせない、非常にシンプルかつ透明度の高いサウンドが創出されている。

そこにはミュージシャンの会話が存在し、全員がパレットを持ち共同作業で絵画を完成させたイメージであり、温かく優しい色合いによる水彩画という印象を持つことができる。



Q : 1986年1st『Cotton』に始まり、1989年の2nd『Palette』から1997年の10th『Stone Butterfly』までは、ほぼ1年に1枚のペースでソロ作品を発表されていましたが、この度10年という歳月を経て新作をリリースされる経緯を教えてください。

神保彰(以下AJ) : 10年前に10作目をリリースした時、スムースジャズフォーマットの作品作りは行くところまで行ったのではないかという達成感がありました。

丁度そのころ、ドラムトリガーを使ったワンマンオーケストラスタイルでの演奏活動を始め、自分個人の活動がそちらにシフトしていったのと同時に、他アーティストとのコラボレーション活動も立ち上がり、なんとなくソロアルバムの制作から遠ざかっていました。

この10年で得た物は様々あるのですが、最も大きいのは、10年前よりも自然体で演奏が出来るようになった事ではないかと思います。(年齢を重ねたとも言えます)
スムースジャズという枠組みをいったん取り払い、楽曲と同時に演奏にもスポットがあたるような作品を作ったら面白いのではないかと思い始めたのが、今回のアルバム制作の動機です。

Q : アルバムの主題、描きたい事とはどのようなものでしょうか?

AJ : 今日の社会がかかえる様々な問題(戦争からいじめ問題に至るまで)は、異質なものを排除するという人間の性向によって引き起こされています。こういった攻撃性は誰の中にも存在し、我々のDNAに刷り込まれていると言う事も出来ます。

ところが音楽を始め芸術芸能とよばれるものは、異なる文化をリスペクトし、それと自分を融合融和させることで発展してきました。

ということは我々の中には異質なものと融和する性向もしっかりと存在するのです。圧倒的な暴力の前で音楽は全くの無力ですが、音楽には世界を変える力があるのではないかという気もします。

肌の色も異なり、文化的背景も異なる4人のミュージシャンが集まり、お互いをリスペクトしながら1つの音楽を紡ぎ出す様子に、とても美しいものを感じました。その美しさが作品にしっかりと記録されています。

それが主題であり、描きたい事でもあります。

Q : ミュージシャンの人選と、アルバムを1枚通した同一メンバーでのカルテット編成、ds,g,b,pという楽器編成の意図するところを教えてください。

AJ : この10年でレコーディングを取り巻く環境は大きく変わり、テープメディアが姿を消して、ハードディスクレコーディング主流の時代になりました。プライベートスタジオで簡単にプロクオリティーのサウンド作りが出来るようになったのは、たいへん素晴らしい事だと思います。

その反面、ミュージシャンが一同に会して、「せーの」で音を出す機会は激減してしまいました。

時間をかけて作り込む音楽にもとても興味があり、自分でそういった作品をつくっていみたい気持ちもあります。

同時に、せーのドンで一瞬のうちに魔法のように出来上がる音楽というのが、今の時代には逆に新鮮なのではないかという気もします。今作は後者を実現した作品です。

人選は圧倒的な演奏力と歌心を併せ持ち、個人的にファンであり、気心もしれている、という中で自然に決まりました。

フランクギャンバレのみ共演経験がありませんでしたが、オトマロといつも一緒に演奏しているので、コンビネーションはバッチリだろうと踏んで決めました。

Q : 今回のレコーディングはソロ以外同時録音のように聴こえますがいかがでしょうか?また、リハやレコーディングに要した時間や、その際のミュージシャン間でのやりとり、雰囲気、印象などはいかがでしたか?

AJ : ソロも含めて同時録音です。譜面は前もって送りましたが、リハーサルはしていません。レコーディングではほとんどがテイク2以内でした。3テイク以上重ねた曲はありません。

魔法のようでした。

気心も知れているので、和気藹々と順調に進行しました。

Q : これまでの作品では1stアルバムを除いて全て松居 和さんのプロデュースでした。新作ではプロデュースを含め作曲、アレンジを全て神保さんが行なっていますが、プロデュース、曲作り、アレンジ方法、サウンドを含め旧作品と違う事とはどのような点でしょうか?

AJ : まったくオーバーダビングなしの、4人だけの音というのが大きな違いです。

これまでの作品は約1ヶ月かけて音を重ねて作り込んでいましたが、今作は約1週間で完成しました。

この10年の色々な経験の中で、自分にもプロデュース力、アレンジ力がある程度培われたのではないかという自信もあったので、すべて自分でやってみようと思った次第です。

Q : M-1<Four Colors>はオープニングに相応しい超絶ナンバーですが、8ビート、16ビート、2種類の4ビート、様々なリズム、そして全員のソロ、とインパクト多大です。この曲についてお聞かせください。

AJ : これはジャムセッション的に演奏にスポットをあてるつもりで作りました。アルバムの最後にボーナス的に入れるつもりだったのですが、とても面白く仕上がったので、思い切って冒頭に持ってきました。<Trans Pacific Jam>という曲名だったのですが、アルバムタイトルとして考えていた<Four Colors>を曲タイトルとして付けました。

Q : M-4<Brisa Primaveral>ではスパニッシュ風、M-8<Phantasia>では中東風(?)と、エキゾチックな香りがするモチーフが導入されています。これら楽曲についてのアプローチ表現について教えてください。またその他楽曲についても、特筆すべき特色があればお聞かせください。

AJ : 10数年前から海外でのドラムクリニックやドラムコンサートの活動を始め、様々な国の様々な街で演奏するようになりました。旅のイメージが曲にも反映されています。

<Brisa Primaveral>は2年前にスペイン国内を9都市巡業し、帰国後に書いた曲です。その前にポルトガルのリスボンでも公演し、リスボンの街の印象を曲にしたのが<Diamond>です。<Phantasia>は昨年ドバイジャズフェスティバル出演で初めてアラブ圏を訪れ、その印象を曲にしました。<Lanikai>は今年のお正月を家族と一緒にハワイで過ごし、その思い出を曲にしたものです。

Q : これまでの作品にも言えますが、LAのミュージシャンを中心としたLA録音という事で、「神保彰が表現するサウンド」はやはり西海岸志向やこだわりがあるのでしょうか?

AJ : からっと乾いた空気感というのが、LA録音以外では録るのが難しいのです。良くも悪くも街の空気が録音に反映されます。東京の音が嫌いというわけではないのですが。過去10作品がいずれもLA録音で、ミュージシャンにも知り合いが多いというのも、ロス録音を好む理由かもしれません。

Q : ドラマーを志すプレイヤー達へのアルバムの聴き所を教えてください。

AJ : 今作では曲によって結構叩きまくっているので、ドラマー的に面白い部分も多いのではないかと思います。4人のミュージシャンの音楽を通じた会話が一番の聴き所と思います。

Q : 是非レコーディング・メンバーでのライヴを期待しますが。実現の可能性はいかがでしょうか?

AJ : 実はブルーノート東京のブッキング担当者がレコーディング中にスタジオに遊びに来ました。ライブを是非実現しましょうと盛り上がったので、可能性は高いと思います。

Q : 今作を機に「ソロ・プロジェクト」(ワンマン・オーケストラと別に)はコンスタントに制作(またはライヴ)活動されていかれますか?

AJ : これまでの10年がコラボレーションの10年だったので、これからの10年はソロ活動に軸足を移して行こうと思っています。(コラボをやめるという意味ではありませんが)
コンスタントに制作をしていきたい気持ちがまた芽生えて来ました。

2007年10月23日火曜日

interview with - BUMP OF CHICKEN

この夏は野外フェスに参戦、そして秋には約11か月ぶりとなるニューシングル『花の名』『メーデー』を2枚同時リリースと、しばらく水面下で楽曲制作を続けていたBUMP OF CHICKENの活動が活発化してきた。しかもこの2枚のシングルがどちらも存在感のあるすばらしい作品なのだ。映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の主題歌にもなっている『花の名』は、シンプルでありながら深みと広がりのある歌の世界がじわじわと染みてくるナンバー、『メーデー』はバンドサウンドのスリルとダイナミズムとを堪能できるナンバーと、まったくタイプが異なるという点でも興味深い。この2枚の新作について、そして近況と今後の展望について、メンバー4人に聞いた。


■今年の夏は野外フェスにも出演されましたが、いかがでしたか?


増川:ものすごく久しぶりのライブだったので、最初はお客さんがいてくれるのか、心配だったんですけど、どの会場も反応が熱くて、みんな待ってくれてたんだなって。そのことを体で感じられたのがでかかったですね。

升:時間帯もちょうど暗くなるあたりで、きれいな空が見えたし、ステージから見えるお客さんもきれいで、感動しました。

直井:ステージを見に来てるお客さんって、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、朝からいて最後まで残ってくれて、それでもまだ全力でぶつかってきてくれるわけじゃないですか。本当にすごいな、かっこいいなって思いましたね。

藤原:どこの会場でもベストアクトはお客さんだったと思います。


■フェスに参加したことが、今回の新作の曲作りに影響を与えた部分はありますか?

藤原:曲はフェス前にできていたので影響はなかったですけど、このタイミングでお客さんに会えて良かったですね。待ってくれてる人がいるんだな、早くこの人たちに自分らの歌を聴いてもらいたいなって思ったので。


■『花の名』は、映画の主題歌の話が来てから作った曲なんですか?

藤原:主題歌を依頼されてから書くことになった曲ですけど、そこでゼロから作ったわけではなくて、前から歌いたかったこと、メロディー、使いたかったコード進行など、新旧織り交ぜて、合体させて作りました。


■映画を念頭において、作ったんですか?

藤原:いえ、僕らは映画の主題歌だからこうしなきゃいけないとか、そういう制約のあるタイアップはできないんですよ。僕らは僕らで作りたい音楽を作り、映画サイドは映画サイドで撮りたい映画を撮り、その結果として絶妙なマッチができるのでなければ、タイアップはやれない。だから曲を作るにあたって、映像のことは考えてませんでした。自分の曲にうそがあったら、逆に映画に失礼になるので、歌いたいことを歌わせていただきました。


■『花の名』のデモを最初に聴いて、どう思いましたか?

直井:びっくりしましたよね。こんないい曲、聴いたことがないよ、すげぇいいじゃんって。家に持って帰っても、ベースの演奏ができないんですよ。弾けないんじゃなくて、感動しちゃって、つい聴いてしまう。しばらくの間は目の前がくもって前が見えなかった(笑)。3、4日たって、ようやく手をつけられるようになりました。演奏に関しては、最大限シンプルなものを選択したつもりです。そうすれば絶対に響くだろうなって。


■確かに音数は少ないですが、そのひとつひとつの音にメンバーの思いがしっかり詰まっていることも伝わってきました。

升:最初に考えていたリズムがあったんですけど、みんなで話しながら、どんどん音数少なくしていったんですよ。これでも成立するんだなというのは驚きでもありましたね。


■『花の名』の歌詞の一節、「会いたい人がいる」「待っている人がいる」が映画のキャッチに使われていますが、どう思われましたか?

藤原:そのワンフレーズをキャッチに使いたいと聞いて、「へ~」って思いました。というのは詞は金太郎アメみたいなものだから、どこを抜くとか僕らにはできないんですよ。そういう目で詞を読むことはできない。映画を作るサイドの観点だな、なるほどなって。


■歌詞の密度も濃くて、どの一節をとっても、すごく深いという印象を受けました。

藤原:『花の名』は携帯に保存してあった言葉を合体させた曲なんですよ。どの言葉もそこから1曲になっていくんじゃないかっていう感じはありましたね。


■『花の名』が東京を舞台にした映画の主題歌であることを考えると、カップリングの『東京賛歌』ともリンクしてきますね。

藤原:まったく偶然なんですけど、タイミングがいいなと思いました。東京って、悪く言われることが多い街なんで、なんかかわいそうだなって。おれは東京という街が好きだし、優しい街だなと思ってるんですよ。山とか海とか大自然のなかにいることで感動するのは自分にとって不自然だからなんじゃないかなって。だれにとっても日常が自然でしょ。東京って、どこに行っても車が走ってるし、空気は汚いし、うるさいけど、それが僕にとっての大自然なんですよ(笑)。


■言われてみれば、確かにそうですね。

藤原:『天体観測』を書く前のころ、メジャーデビューして、まわりの景色が変わって、テンパってた時期があったんですよ。それで環境を変えてみたらいいのが書けるかなって、自然のなかに行ったことがあるんですけど、何も書けなかった。寝て終わり(笑)。1曲書いてみたんですけど、ゲロみたいなものができてきた。その曲が教えてくれたのは、不自然な世界のなかで日常を書けるはずがないし、日常から逃げたら逃げた曲にしかならないんだなってことだった。そんな深い歴史がもとになって、こういう歌になったんですよ。


■それぞれのなかで東京という街はどんな位置にありますか?

直井:おれは東京でひとり暮らしをするようになってから、東京は空気が汚いなってぼやいたことがあったんですけど、フジくんに今みたいなことを言われたことがあって。『東京賛歌』ができてきて、こういうことだなって自分のなかでも思えましたね。

升:東京は懐の深い街だと思いますね。

増川:おれは東京に住んでて、ありがたいと感じたことはなかったんですけど、思い出してみると、地方から帰ってきてレインボーブリッジから東京が見えてくると、安心するんですよ。ということは、ここに根付いて暮らしているってことなんだなって。

藤原:たまたま東京と歌ってますけど、結局、今自分が住んでいる場所こそが日常なわけで。帰りたくても帰れないのか、自分の意志で帰らないのかわからないですけど、そこに住んでいる人に届けたい歌なんですよ。


■今回、『花の名』と『メーデー』という2枚のシングルが同時にリリースされますが、どうしてそうしたんですか?

升:スタッフの意向で決まったんですよ。僕ら的にはどの曲がシングルになってもいいというスタンスなんですが、どう届けるのがいちばんいいのか考えてくれているスタッフの出した結論なので、信頼してお任せしています。

藤原:僕らとしては、単純に今現在、自分たちが作っている曲を聴いてもらえる機会が増えるのはうれしいことだなって。


■『メーデー』は疾走感と高揚感と開放感あふれる曲ですね。

藤原:曲の始まりはまさにその高揚感からだと思います。要はリズム遊びですね。家で打ち込み作ってたんですよ。曲作りというより趣味の意識のほうが強かった。そしたらかっこいいのができて、かっけーって思って、ベースも打ち込んで、コードが乗っかって、歌までできちゃったっていうのが始まりで。


■打ち込みから始まってるのに、実に気持ちいいグルーヴを備えたバンドサウンドになっていますね。

藤原:そこがバンドのおもしろさですね。人間がたたいて、人間が音を乗せていくので、僕が打ち込んだ高揚感とはまったく別なものになってます。


■升さん、ドラムはどんなイメージで?

升:仮歌とギターの入ったプリプロ(※注)の音源に合わせてドラムをたたいたので、僕はその歌に乗っかったという感じなんですよ。だから自分から作ったというよりは、自分を通過して出てきたものがテイクになっているという感じですね。


■歌詞の水たまりに潜っていくという設定はどんなところから出てきたんですか?

藤原:これはずっと昔から思ってたんですよ。心を水たまりにたとえたら、詞を書くことってそのなかに潜る作業みたいなものだなって。ここまで歌を作り続けてきて、だんだん潜るのが上手になってきた。肺活量が向上してるのか、ほかに技術があるのかわからないですけど、自分の深いところまで潜れるようになってきて、こんな生き物が住んでたんだ、みたいな物をとってこられるようになった。僕のなかでは非常にスタンダードなたとえですね。


■『メーデー』というタイトルは“ヘルプ・ミー”っていうことですよね。

藤原:そうですね。救難信号ですよね。子どものころ、漫画かなんかで覚えたんだと思うんですけど、歌にしたいモチーフだな、いつか歌にするんだろうなって、ずっと思ってました。


■歌そのものがレスキュー隊みたいな存在という印象も受けました。

藤原:例えば、『メーデー』のカップリングの『ガラスのブルース』は10年以上前の曲なんですけど、あの曲を書いたときにまずおれがあの歌に救われているんですよ。あの曲に限らず、ミュージシャンにとって自分の作った曲がそういう存在になっているケースはいくらでもあるんじゃないかな。


※注 / プリプロダクション。レコーディング前に曲の構成やアレンジを詰める作業のこと


■『メーデー』のカップリングの『ガラスのブルース』は、なぜ今リアレンジして再録することにしたんですか?

藤原:このアレンジは2年前にやったアコースティックライブのときのものなんですよ。それで終わりでも良かったんですけど、スタッフさんからレコーディングしないかって言われて、実現したということですね。


■今回レコーディングしてみて、発見したり、再確認したことはありますか?

藤原:曲がものすごく成長してきたんだなということですね。この曲と僕らは本当に会話してきたんだな、10年以上の長い間、ずっと一緒にやってきたんだなって。一緒に感動したし、くやしい思いもしたし。そうやって一緒に歩んできたこの曲と僕らのきずなをまず確認しましたね。あと、懐が深かったですね。まだつかみきれてないところがある。これから先、もっともっとこの曲と会話していきたいと思いました。いつか100%わかり合える瞬間がくるのかなって。

直井:『ガラスのブルース』はおれらにとっては切り込み隊長みたいな曲なんですよ。いつも先陣切ってやってたし、この曲しかなくて、後は全部コピーという時代もあったし(笑)。インディーズで出したので、知らない人もいると思うんですけど、これを機会に触れてもらえたらすごいうれしいですね。表現するスキルは上がってるんだけど、根本的にあるものは変わらないバンドなんだなって再確認させられた部分もありますね。

増川:この曲、10年以上前ですからね。音楽に対する付き合い方は変わってきたかもしれないけど、本質的なことは変わってないなって思いました。


■升さんは今回やってみて、どうでしたか?

升:楽しかったです。急に録ろうってことになったんで、探り探りだったんですが、どうにでもできるというか、懐が深い曲だなと。貴重な体験ができたし、こういう形でちゃんと出せてうれしいですね。


■今後の活動予定は?

直井:今アルバムを制作しているので、引き続きその制作をして、来年1月からツアーという流れですね。


■ツアーはどんなものになりそうですか?

直井:まだアルバムも完成してないし、それまでに完成するかどうかもわからないので、どういうツアーになるか皆目見当つかないですけど、ともかくみんなに曲を届けたいなと。

増川:久しぶりにライブハウスまわるんで楽しみですね。ただもうそろそろ練習しないと、やばいなと、今気がつきました(笑)。


■ツアーは約2年ぶりですよね。

升:フェスはフェスで楽しかったんですけど、ツアーはツアーの良さがありますから、本当に楽しみですね。

藤原:お客さんにすげぇ会いたいなと思っていますね。この間フェスで会ってきたばっかなのに、また会いたくなっています。

2007年10月22日月曜日

Interview with - スピッツ

今年で結成20周年、デビュー16年、メンバー全員生誕40年。という、ちょっとした節目の年にリリースされる12枚目のオリジナルアルバム『さざなみCD』。前作『スーベニア』から2年9か月、間にシングルコレクション『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』をはさんだ新作は、みずみずしくも豊潤。なおかつ活きがよくて明るい。20年という歳月を経て、ブランドカラーはさらに揺るぎないものとしながら、こんなにもフレッシュな手触わりの作品を作り上げたスピッツ。またしても、聴けば聴くほど何度でもほれ直したくなる、名曲ぞろいの好盤である。


■前作『スーベニア』から2年9か月もたっていたことに、まずちょっとビックリしました

草野:その間に『CYCLE HIT』があったり、シングルをちょこちょこ出したりしていましたからね。でもレコーディングにかけたトータル時間自体は、そんなに長くもなくて。

田村:もしかしたら、今までのレコーディングでいちばん短かったかもしれない。

草野:過去11枚アルバムを作るなかで、かなり要領が良くなってきたから。変なところで遠まわりせずに、事前にちゃんと準備をして集中してさっと録るっていう。デビューのころなんて、スタジオに入ってからアレコレやりすぎて、いざ録る段階になったときに飽きちゃってたり(笑)。

崎山:録るときにテンションがピークになってなきゃいけないのにね(笑)。

田村:しかもおれらももう40才なんで。そんなことしてると疲れちゃって、ここぞというときに集中力が続かない(笑)。でも、今回、集中度は今まででいちばんだったんじゃないですかね。だってレコーディングとなると、みんな顔色が変わってたから。それまでは人に見せられないくらい、ゆる~い感じだったくせに(笑)。


■オンとオフがハッキリしてた、という。

草野:うん。そこらへんは前作と大きく違いましたね。前作のレコーディングはとにかくキツかったから。

崎山:アルバムの3分の2を1か月で録ったんで。

草野:でも今回はインターバルをおいて、2~3曲ずつ録っていくやり方だったんで。だけどそれが、曲作りの面でも良かったみたいで。間隔をあけて曲を作ることで、結果、曲にもバリエーションが出たというか。

田村:で、レコーディングの前に、そのつど草野が持ってきた曲を聴いて、“今スピッツは何をやりたいか”ってことを基準に曲を選んで。その段階でアレンジを詰めて、スタジオに入ったらサッと録るっていう感じだったから。そういう意味じゃ、気持ちとやっていることに、ブレはなかったですね。しかも今回、(レコーディング)エンジニアが高山(徹)さんと牧野(英司)さんのふたりで。日本のロック界のエンジニアトップ2が並んだわけですからね。


■やはりエンジニアによって、かなり違うものですか?

草野:声を生かすも殺すもエンジニアしだいですからね。

田村:イメージどおりの音にしてもらえると、気分が盛り上がるし。当然、プレーも違ってくるし。

三輪:弾くフレーズまで変わるといってもいいから。すごく重要だよね、おれらにとっては。


■今回、アルバム全体に対するビジョンなどは、事前にあったのでしょうか。

草野:特にはなかったですね。新機軸を打ち出そう、みたいなこともほとんど考えてなかったし。だから、あんまり新鮮味のないアルバムになっちゃうかなと思ってたんですけど、ひとつにまとめてみたら、わりと新しい感じのものになってる気がして。


■その意味で印象に残っている曲というと?

三輪:おれは『点と点』ですね。もともと、ライブで演奏してからレコーディングするっていうのが、本来あるべき姿じゃないかなと思ったりするんですけど。メジャーデビューしてからは、それが逆になってて。でも、今回『点と点』と『P』に関しては、レコーディング前にファンクラブのツアーで演奏できたので、ちょっと良かったかなと。

田村:印象に残ってるってことだと『僕のギター』かな。最初に草野が持ってきたときは、いい意味でひとりよがりな曲だと思ったんですね。だけどバンドで演奏していくうちに、スピッツらしいひとりよがりな感じになっていって。その変わり方がけっこう劇的で、おれのなかでは、今回最も変わった曲なんですよね。


■草野さんも、そう思いましたか?

草野:アレンジで変わったというより、これがアルバムの1曲目にきたことで曲の印象が変わりましたね。作ったときは、すごい寂しいストリートシンガーの曲っていうイメージだったのが、1曲目になったら、これからやるんだってことを宣言するような意味合いの曲に思えてきて。それがおもしろかったですね。でもおれにとって印象に残ってるのは『不思議』。すごく天気のいい日の午前中とかに、車を運転しながらボーイズ・タウン・ギャングの『君の瞳に恋してる』みたいな曲を聴くのが好きなんですけど。その感じで作った曲で。


■すると、この曲のヒントは『君の瞳に恋してる』?

草野:昔はディスコっぽい曲って、あんまり好きじゃなかったんですよ。でも最近は明るくていいなぁと思うようになって。だからこの曲も、ノーテンキなディスコをヒントに作りつつ、そこにスピッツ的なメロディーと歌詞を乗せられないかと思って作ってみたんですよね。マスタリングでロサンゼルスに行ったときに車のなかで聴いたら、午前中の晴れたカリフォルニアの景色にわりと合ってたんで。スピッツ版『君の瞳に恋してる』になったかなと(笑)。

崎山:おれは『桃』が印象に残ってますね。ある意味、スピッツっぽいアンサンブルっていうか。サウンド的にもいい感じに仕上がってるしね。なんかこう、いろんな曲の音の基準になるくらいの曲じゃないかと思って。


■明るくなりすぎない、ポップになりすぎない、そのバランス感がすごくいい曲ですよね。

崎山:そうそう、バランス感がね。自分では絶妙なところだと思ってるんですけど(笑)。


■ところでアルバムタイトルの『さざなみCD』なのですが。

草野:日本語のタイトルにしたい、というのが前提としてあって。バンドを結成してからずっと日本語にこだわって歌を作ってきて、しかも今回は結成20周年ってことでもあるので、そういったことをタイトルにも表せたらいいなと思ったんですよね。


■“さざなみ”という言葉は、曲の『漣』から?

草野:今回の曲のタイトルのなかでは、“さざなみ”がイメージをいちばん限定しない言葉かなって。すごく静かなイメージでとらえる人がいるかもしれないし、ざわざわしたノイジーなイメージでとらえる人もいるかもしれないし。ネガティブでもポジティブでもない、とってもニュートラルな言葉という気がしたので。


■その“さざなみ”という言葉に“CD”を付けたのには、何か理由があるんですか?

草野:なんか“さざなみ”だけだと弱い気もして。オチみたいなのがほしいということで、CDには“CD”を付けることにしました。


■じゃ、アナログ盤は。

草野:『さざなみLP』がタイトル。ただし『さざなみDL(ダウンロード)』ってのはありません(笑)。


■しかし結成20周年って、あらためて考えるとスゴイことですね。

草野:そういう実感はほとんどないですけどね。たしかにいろんなことがありましたけど、振り返ってみればツルッときたなぁと。それより20年もバンドを楽しませてもらえてホントにそれはラッキーだと思いますね。


■またスピッツは活動のあり方も、基本的に20年間変わってないですよね。

田村:テレビにもあんまり出ないし(笑)。

三輪:レコーディングとライブしかやってないから(笑)。


■しかもツアーは、毎回ものすごい本数で。

草野:デビューしたときは、こんなにいっぱいライブをやるバンドになるとは思わなかったんですけど。事務所の先輩が浜田省吾さんだったこともあって(笑)。でも今となっては、このやり方で良かったなぁと本当に思いますね。


■この20年間のなかで、バンドとしてのターニングポイントというものはありましたか?

田村:ないといえばないし、あるといえばあるしって感じですね。おれらのなかではアマチュアのころから出会った人すべてが、おれらにとってターニングポイントだったから。この人と出会って、そしたら次の出会いがあって、みたいに全部がつながって今にいたってるんで。

草野:だからこうして20年やってこられたのも、おれらの頑張りだけじゃなくて、まわりの人たちの支えや理解あってこそだと思うんですよね。


■とはいえ20年ともなると、変化したことも思い出の数も半端ではないと思うのですが。

草野:まずおれらをとりまく物が、すごい変わりましたね。20年前はインターネットも携帯電話もなかったし、コンビニエンスストアだって今ほどいっぱいないし。だってデビューシングルとか、短冊型でしたもん。ウチら、シーラカンスかって(笑)。

三輪:おれ、デビューするまでCDというものを持ってなかったもん。

草野:えっ!? うそ~。

三輪:うそです(笑)。

田村:でも結成したときは持ってなかったよね。

三輪:うん。それにCDなんて、CDウォークマンで聴くもんだと思ってたし。こんなもん、絶対普及しないと思ってた(笑)。

草野:またたく間に普及しましたが(笑)。だけどやっぱり、アマチュア時代のことのほうをよく覚えてるなぁ。ツアー先のホテルに土鍋とカセットコンロを持ち込んで、鍋やったりね。

三輪:あれ、よく火災警報器が鳴らなかったよね。

草野:ホントだよね。クリスマスイブに仙台に行ったとき、夜中で店とか開いてないから、野菜と鶏肉を買って。でも土鍋とカセットコンロは車に積んであったんだけど、小皿はなかったんで紙コップで食べてね。

三輪:で、土鍋のフタが割れててさ。

崎山:白菜をフタの代わりにしたの(笑)。

草野:アマチュアのころって、今思い出しても笑える話が多いよね。ベッドが4つ並んでる大阪の安いホテルに泊まったり(笑)。

三輪:尽きないね、そういう話は。

田村:でもね、楽しいってことでは、常に今がいちばん楽しいと思ってるかも。

草野:それはあるね。


■でもメンバーチェンジもなく、活動を長期間休むこともなく20年、というのはやはり大変なことだと思います。

草野:去年『CYCLE HIT 1991-1997 Spitz Complete Single Collection』と『CYCLE HIT 1997-2005 Spitz Complete Single Collection』を出したときも思ったんですけどね、こんなに長くやっちゃうなんて、ロックバンドとしてはカッコわり~なぁって(笑)。僕はセックス・ピストルズみたいなのがカッコいいと思うんで。


■ザ・ローリング・ストーンズみたいなロックバンドもいますが。

草野:あー。ストーンズはそんなに好きじゃないから。

三輪:AC/DCっていうのもいるよ。

草野:あ、それならいい。好きだから。

三輪:でもボーカルが死んでる。

一同:ハハハハハッ(爆笑)。

草野:やっぱり元気じゃなくちゃね、バンドも長続きしない(笑)。けっこう体力いりますからね、レコーディングもライブも。


■12月からは待望の全国ツアーも始まりますから。それこそ体力勝負なのでは。

草野:寒い時期なので、とにかく風邪に注意しないと。ノド直撃ですからね。なのでお酒は控えて。

三輪:スキーも禁止。

崎山:料理も包丁は使わない。

田村:基本はお客さんもおれらも楽しめることなので。その場でしか味わえないライブをする、そこに向かっていくだけですね。

2007年10月21日日曜日

Interview with - 加藤ミリヤ

加藤ミリヤ、本領発揮。両A面となった今作『LALALA feat.若旦那(湘南乃風)/FUTURECHECKA feat.SIMON, COMA-CHI & TARO SOUL』は、湘南乃風の若旦那をトータルプロデューサー、MINMIをトラックメーカーに迎えた『LALALA feat.若旦那(湘南乃風)』と、日本のヒップホップ・クラシック『PARTEECHECKA』(ZEEBRA&DJ KEN-BO)をリメイクした『FUTURECHECKA feat.SIMON, COMA-CHI & TARO SOUL』という強力曲をダブルパック。彼女がもともと持つ音楽性と“今”を読み取る敏感なきゅう覚がばっちりハマった、フロアで話題になること間違いなしの一品となった。今年6月で19才になり10代最後の1年を全力疾走中の彼女に、曲作りの裏話と今のモードを語ってもらった。


まずは若旦那、MINMIと知り合ったきっかけから教えてください。

加藤:若旦那さんが私が行ってた高校の先輩だったんですよ。2年くらい前にライブイベントで一緒になったときに、「お前、おれの後輩なんだよ」って言われて、初めてそこで「え、そうなんスか?」みたいな感じで。それで、そのあと、いろいろ気にしてアドバイスをくれるようになって。MINMI さんは、私と若旦那さんが同じ高校出身だって知っていて、m-floのライブとかで一緒になったりして話すようになったっていう。

最初は若旦那をフィーチャリングするだけのプランだったとか。

加藤:そう。でも、お願いしたら、フィーチャリングだけじゃなくて、プロデュースもやりたいって言ってくれて。しかも、「MINMIさんにトラックを頼みたいけどどう?」って。前のシングルまではタイアップ用に書き下ろした曲が続いていたし、これからは自分がそのときやりたいと思ったことをやってみようっていう流れに変えようとしていたんですね。じゃあ、せっかくだからまったく新しいものに飛び込んでみようって。だからもう、こっちとしては願ったりかなったりっていう(笑)。

そのふたりが参加しているのに、今回の曲はレゲエやソカになってないっていうところがおもしろいですね。

加藤:ふたりに頼んでおいてアレなんですけど、「私はレゲエがやりたいわけではないんです」って最初に言ったんですよ。しかも、「今回は R&Bもヒップホップもやりたくない。ジャンルの壁を超えたものを作りたい」って言ったんです。そしたら、若旦那がウチらも同じ考えだって。MINMIさんも、私もレゲエっていうイメージがあるけど、いろんな音楽を聴くし、いろんなタイプをやりたいと思ってるって。そういうところでも、ふたりとは息が合ったんです。

結果、ソウルの雄大さとロックの力強さとカリブ音楽の躍動感が三位一体となった曲になってますよね。ドラムの独特な音色も印象に残るし。

加藤:ドラムの音色は、最近のヒップホップでいうと、リアーナの『アンブレラ』(『グッド・ガール・ゴーン・バッド』収録)みたいな感じ? トラックを聴いたときは、最初から“あ、いい!”って思いましたね。展開がころころ変わるところとかはMINMIさん節だなぁと思ったし、加藤ミリヤ的にも新しいし。今回は、ただ純粋に「いい曲だなぁ」っていうのができればいいなと思ってたんですよね。

『LALALA feat.若旦那(湘南乃風)』の歌詞でテーマにしたのは?

加藤:いわゆる愛だの恋だのっていうラブじゃなくて、それよりももっと深い、精神的な愛情を歌いたいなっていう話になって。お互い、すごく深いところでつながってるものって何かな? って考えたときに、私が「犬です!」って(笑)。ちょうどそのころ、若旦那さんも犬を2匹買い始めたんですよ。で、「ウチも!」「それ、共通点じゃないスか!」みたいに盛り上がって。そしたらMINMIさんが「犬の曲作ったらぁ?」って言い出して、ふたりで「えー!?」っていう感じだったんだけど(笑)、よく考えたら、飼い主と犬との愛を書いたらものすごく泣ける曲ができるんじゃないか? ってことになって。で、若旦那さんが犬の目線、私は飼い主っていう設定で書いていったら、こんな1曲ができあがったっていう(笑)。いろんな聴き方のできる、深い愛を歌った曲にしたかったので、あえてただのラブソングではない手法で詞を書いたんです。

ちなみに、ミリヤちゃんの愛犬の名は?

加藤:ララです。だから、タイトルも『LALALA~』なんです(笑)。

なるほど(笑)。ただ、そういう歌だとは知らなかったので、これは同せい中の若いカップルとか夫婦を描いた歌なのかなと思ってました。まだハンパで仕事も満足にできないけど、でも、愛する人を守ろうと毎日忙しく一生懸命生きている男性と、そんな男性に付いていくことを決めた女性の歌なのかなって。

加藤:あぁー。それは正しい(笑)。私のスタッフのなかにも、すごく忙しいけど同せいしてる人がいて、彼が「彼女を待たせてる気持ちがちょっとわかった」とか言ってたし。あとは子どもをひとりで待たせてるシングルマザーの歌に聴こえるとか。自分と自分の大切なものとの関係に当てはめて聴いてほしいですね。

でも、当人たちにとっては……。

加藤:犬なんですよ(笑)。私にとっては、ララが見返りを求めずに愛す“大切なもの”なので。

さて、もう一方の曲『FUTURECHECKA』についても教えてください。なぜ今回、こういう曲を作ろうと思ったんですか?

加藤:デビュー当時から、(ブッダ・ブランドの)『人間発電所』か『PARTEECHECKA』かっていうくらいに思ってたんです。結局、『人間発電所』を使って『夜空』(『Never let go』収録)を作ったんですけど、そのときから温めていたアイデアで。で、今回は『Parteechecka』と『Dancehall Checker』(※編集部注)があって、『FUTURECHECKA』っていう流れにしたかったし、『Dancehall Checker』みたいにいっぱい人を入れてマイクリレーみたいなのをしたかったんで、それで、次世代っていうキーワードで3人を集めて。タイトルにも、次世代っていわれてる私たちが未来をねらってるぞ、っていう意味を込めたんです。

SIMON、Coma-Chi、TARO SOULというのは、今、ドンピシャな人選ですよね。客演も多く、今、若手でほんとに注目を集めている人たちだし。

加藤:そう。“今!”っていうね。この3人を集められてすごいラッキーでした。で、やっぱうまい。もうげんなりするくらいうまいっていうか(苦笑)。度肝を抜かれた感はすごくあったし、評価されてるだけあるなって思いましたね。

※注 / 日本のストリート系映画のサウンドトラック盤『'hood』(1998年)に収録されているZEEBRA&DJ KEN-BO名義の『Parteechecka』がオリジナル。翌1999年にはBOY-KENなどを擁する日本の老舗レゲエレーベル“VIP”が同曲のリミックスを集めたオムニバス盤『Dancehall Checker』を制作。豪華な顔ぶれでのミックスが収録されており、そのなかの“LONG MIX”にはPUSHIM、BOY-KEN、ZEEBRA、YOU THE ROCK、Sugar Soul、TWIGY、DEV LARGEらが参加している。

本作は両A面の2曲に加えて、3曲目に『honey』も収録。この曲の聴きどころは?

加藤:ハッピーな甘いラブソングに聴かせつつも、裏では歌詞にミリヤ節を入れたつもりなんです。「あなたのことを信じてる」っていうのが歌詞のポイントなんですけど、「あなたのこと、私はこんなに大切に思ってるのよ」とか「あなたのことを信じてるから……」って言われるだけで、言われたほうは身動きが取れなくなると思っていて。っていうので、ちょっと相手にくぎを刺すっていう歌なんです(笑)。

ところで、今回のシングルは、3曲とも久々にクラブや現場を意識した曲作りになっていますよね。

加藤:はい。このあいだの9月にデビュー3周年を迎えて、ちょっと自分のことを考えたんですけど。やっぱり変わっていかないと聴いている人たちはつまらないと思うんですけど、でも、変わっちゃいけない部分も絶対必要だと思っていて。アーティストによっては、シングルごとにコロコロとキャラが変わっていく人もいるけど、やっぱり私にはこれだって思ってる音楽性が1個あるし、それがあったうえで好きなことをやるっていうのが私のやり方かなって。だから、変わっていくものと、絶対変わらないものっていうのを1枚に表現したかったっていう気持ちがあって。その“変わらないもの”っていうのが『FUTURECHECKA』であり、“変わっていくもの”を『LALALA~』で表現したっていう感じなんです。

デビュー3周年も節目ですが、この1年は10代最後の年にもなりました。10代最後の年に突入して、何か思うところはありますか?

加藤:10代が終わるなっていうのはすごい節目を感じるし、次のアルバムで10代に区切りを付けたいっていう部分はありますね。10代だから、若いからっていうので許される部分はすべて網羅したいなっていう気持ちがあって。言いたいことは言っちゃえー、みたいな(笑)。若いからスイマセン! みたいな(笑)。10代最後はそういうのをメッセージとして発したい。10代だから思う、オトナじゃないけど子どもでもないなりのメッセージを今残さなきゃっていう。高校に行ってたときは、女子高生のカリスマっていってもらえましたけど、最後は、10代のカリスマっていわれて終わりたいなっていう気持ちはあります。

じゃあ、10代最後は言いたいことを言って、暴れてやろうと。

加藤:そうですね。この1年はぶっ飛ばしていきたいなって気持ちはすっごいありますよ(笑)。19才を迎えたときに、振り返ってみたら15 才で上京して16才でデビューして、すーごい青春ぽい青春ってできなかったなぁ、なんか遊べなかったな、とか思ったりして。そのぶん得たことっていっぱいあるんですけど、なんかすっごいもったいないことしてるかなって。だから、今年1年はある程度はっちゃけたいというか(笑)。ある程度、そういう遊びもしたいなって思ってます。


2007年10月20日土曜日

Interview with - 東京事変

ポピュラリティと芸術性の狭間で、音楽は時に難しいものになる。聴き手あっての音楽という側面が強まると、聴き手に合わせることで理想の表現から脱線することもあるし、芸術性ばかりを追求することで、聴き手との距離が離れていってしまう。また、その均衡は常に変動しているし、一貫した法則もない。それゆえに作り手にとって音楽は難しく、同時に尽きない喜びを与えてくれるものなのだろう。

過去のインタビューにおいて、椎名林檎は「音楽は芸術であってはいけない」と語ってきた。その言葉は自ら言い聞かせるように繰り返されてきたし、実際、過去の作品において、彼女は絶妙なバランス感覚を発揮してきた。しかし、作品を重ね、音楽性が成熟を迎えつつある状況下において、聴き手のために表現世界を抑制することは尋常ではないストレスを伴うはずだし、セールスの減少が作品世界の抑制に拍車をかけ、瑞々しさを失いつつある音楽シーン全体の傾向を踏まえると、彼女はそろそろ新しい一歩を踏み出す時なのかもしれない。

椎名林檎:良かれと思ってやってしまいましたけど、『りんごのうた』で独りの活動に区切りをつけたあと、いきなりモードを切り替えれば良かった。徐々に変化していく過程を見せていくことで、親切どころか余計ややこしく見えたのではないかしら。でも、このアルバムでようやくスタート地点に立てたような、そんな気分です。

彼女がそう語る東京事変のサード・アルバム『娯楽(バラエティ)』は、バンド結成当初の構想が、注釈や説明抜きでストレートに突き詰めた、初めての作品である。クロスオーバーな感性と、それを具現化するスキルを持ったメンバーが楽曲を持ち寄り、その場の盛り上がりをバンド一丸となって録音すること。このアルバムでのトライアルはいたってシンプルだ。

椎名林檎:バンドって、一人一人に役割が決まってて、ギタリストはかくあるべしっていうような倫理があって、それに則ってやる伝統芸能みたいなことになる危険と、常に背中合わせですよね。ただ面白くて自由なものをやりたいんです。

ただし、このシンプルなアプローチは、同時にショック療法的でもある。そもそも、圧倒的な人気を誇るソロ・アーティストが、パーマネントなバンド結成に向かったこと自体、非常に稀なことであるのに、詞曲を高く評価されている彼女がその一翼を手放して、詞作に専念するばかりか、過剰包装を排して、素材をそのまま差し出しているのだから、驚きが大きいのは当然だろう。ただ、その驚きの大きさは、本来、形にとらわれることなく、自由に広がり解釈されるべき音楽を型にはめ、その息吹を奪ってきた現在の音楽産業の不健全さをも映し出している。

椎名林檎:私は子供の頃から、テレビを付けてもやってないような音楽ばっかり好きだったから、それはしょうがないというか、反骨的な気持ちはずっとあります。そもそも、今のメンバーにオファーした私の気持ちからして、そういう意味合いがあります。

浮雲:僕らは以前と変わりませんけどね(笑)。林檎さんには申し訳ないですけど、そういう状況があるだけに、逆に僕らの無責任な感じがいいんじゃないかって思うんですよ。

しかし、翻せば、その驚きは自由の高い音楽へ至る通過儀礼のようなものでもある。一端くぐってしまいさえすれば、開け放った扉の向こうには、日常と地続きのカラフルでハートフルな作品世界が広がっている。そんな本作は“気の赴くままにレコーディングされた様々なタイプの楽曲を、リモコン片手に居間でバラエティ番組を観るような感覚で楽しんで欲しい”という意向を反映して、『娯楽(バラエティ)』と題されているが、そのタイトル通り、本作は決して難しい作品ではない。

浮雲:前作では焦燥感を煽られるような、戦いながらレコーディングしているような感じがあったんですけど、今回はすごくゆるかった。全員納得しているような、一緒に進んでいるような、そんな雰囲気が良かったです。」

刄田綴色:僕は予習するのが大好きだし、自分で制約を作っちゃう方なんですけど、このメンバーになってから、予習が意味なくなってきてるんですよ。

伊澤一葉:前作よりも、自分の呼吸に近い音数だと思います。レコーディング期間も今回の方が短かったですしね。

本作にあっては、椎名林檎同様、クラシックの教育を受けた、端正なソングライティングが特徴と言えるキーボード伊澤一葉、カントリーからソウル/ジャズまで、驚くべき表現幅を洗練されたマナーで行き来するギターの浮雲という、2人が作曲を担当。一流プロデューサーの顔も持つベースの亀田誠治が、「私生活」を楽曲提供しつつ、プレイに徹して静かにバンドを見守れば、怪我から復帰したドラマーの刄田綴色は、以前と比べて、しなやかさを増したプレイを展開。そして、ボーカルと詞作に専念する椎名林檎は、音楽を音楽として自由に解き放ちながら、拡散的な作品をその歌声で見事にまとめあげている。

椎名林檎:今回の作品で、曲や詞を提供することはあっても、本来、ドラマやストーリーを提供する職業じゃないってことを、1回はっきりさせることが出来たら、今後がやりやすくなるんじゃないですかね。

役者は揃い、そして、機は熟した。2007年、晩夏の東京から日本の音楽シーンを揺るがす事変がいよいよ始まる…。

2007年10月19日金曜日

Interview with - 宇多田ヒカル

宇多田ヒカルが8月29日に19thシングル「Beautiful World / Kiss & Cry」をリリースする。前作「Flavor Of Life」のBallad VersionはTBS系金曜ドラマ『花より男子2』のイメージソングとしても多くの人達に支持され、約700万ダウンロードという世界記録を作った作品だったが、今作に収録された2作品も大きなタイアップが付いた事で、リリース前から注目を集めている。

まず1曲目に収められた「Beautiful World」は、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(9月1日公開予定)のテーマソング。もともと“エヴァ好き”だった宇多田ヒカルが、この映画のために書き下ろした作品だ。

宇多田ヒカル:曲調とかメロディとか歌詞とか、とにかくいろんな面でいつもの作り方と違うのね。エヴァのテーマ曲だからこうしようっていうのが何ヶ所もあるって感じ。エヴァのストーリーを知ってるから影響されないわけがないっていう意味で、いつもほど私一色じゃないっていう感じかな。

“エヴァンゲリオン”が描く家族との距離や人間と人間の間にある壁や決してぬぐい去ることのできない切なさや苦しみは、15歳でデビューし、瞬く間にビッグアーティストになった宇多田ヒカルにとって、自分の人生が抱えている問題や葛藤と重なり合う部分が多かったようだ。

宇多田ヒカル:スタジオでデモをスタッフに聞かせた時に“さすがエヴァオタ!”っていわれるくらい私はエヴァが好きだから。どっちかって言うとこの曲は、比重が宇多田ヒカルよりエヴァに行ってる曲かも。なんかね、この曲で売ろう! っていう気がぜんぜんないのよ(苦笑)。きっと(2曲目の)「Kiss & Cry」の方がシングル向きじゃない?

これまでにも宇多田ヒカルは映画『CASSHERN』(13th「誰かの願いが叶うころ」)や映画『春の雪』(14th 「Be My Last」)で、映画の主題歌を手がけている経験があるけれど、「Beautiful World」は彼女にとって特別な存在になっているのかもしれない。

宇多田ヒカル:“エヴァンゲリオン”の名台詞とか肝のシーンとか、私的に脳にきた台詞や場面とか。そういう所からヒントをもらえるっていう意味でも、「Beautiful World」はエヴァを通して書いた曲だなって思う。

一方、2曲目の「Kiss & Cry」は、「ノリのいい曲が作りたかった」という思いが発端になって生まれた軽快で明るい曲。この曲は日清カップヌードルTV-CM“FREEDOM”シリーズ新テーマソングとして、すでに耳なじみの人も多いだろう。

宇多田ヒカル:パフゥ~、ジャジャジャーン♪って感じで、舞台の上でダンスが始まっちゃうようなイントロの部分は、リア・ディゾンちゃんがスポットライトを浴びながら、かわいくセクシーに踊ってるイメージだったの。だからこの曲の仮タイトルは「ダンシング リア」だったんだよね(笑)

ところで、歌詞の中にある“natural high”や“ハイテンション”のような状態になったとき、宇多田ヒカルはどんな感じになるのだろう。

宇多田ヒカル:テンションが上がる時って急に上がるというか、自分でコントロールできちゃうんだよね。頭ん中で何かがうお~って出てる! ってわかるの(笑)。なんかアドレナリンが出やすいみたいで、どうも興奮しやすい(苦笑)。声も大きくなるし、早口になるんだよねぇ。

さて、3曲目には2000年にリリースした5thシングル「Wait & See ~リスク~」のカップリング曲を新しくミックスした「Fly Me To The Moon(In Other Words)- 2007 MIX-」を収録。この新バージョンは映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』劇場予告編のみで使用され、本編では流れない“レアもの”だ。

宇多田ヒカル:ま、この曲は“エヴァンゲリオン”のテーマ曲みたいなものではあるけど、それ以外でもこれまでにいろんな人達がカバーしている曲だからね。7年前の自分の声はめちゃくちゃ恥ずかしくて聞けないのよ! でも、歌詞のとらえ方みたいなものは7年前と今とでは別に変わってないかな。ただ、今歌ったらああいう歌い方はしないと思う。なんか、すっごくかわいいんだよ。シュビドゥパッパとか言ってるよ! 言っちゃったのかよ! 言ってみちゃったのかよ! って感じ(笑)

約7年前の宇多田ヒカルは、まだ“エヴァンゲリオン”の存在を知らなかった。つまりこの「Fly Me To The Moon」という楽曲が“エヴァンゲリオン”にとって大切な曲であるという事ももちろん知ってはいなかった。彼女は子供の頃にピアノの先生からもらったジャズの楽譜でこの曲の事を知り、その後NYでピアノ譜を探してからは、何度も練習をするくらいに「Fly Me To The Moon」が好きだった。

宇多田ヒカル:だから、「Wait & See ~リスク~」のカップリングでカバーをやろうって話になった時に、「Fly Me To The Moon」か「Moon River」をやりたい!! って言ったんだよね。

もともと3拍子の原曲を、宇多田ヒカルは“自分のバージョン”にするために、4拍子を取り入れたり、テンポを変えたり、何度も作業を繰り返しながら完成させた。当時17歳だった彼女は詞曲だけではなく、アレンジメントに関しても大いに、その才能をカバー曲という場所でも私たちに届けてくれていたのだった。その作品が、年月を越え、映画『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』の予告編で流れる。エヴァのことをまだ知らなかったあのころの彼女に、何年か経ったらヒッキーはエヴァが好きになって、そのエヴァの映画の主題歌を作って、その映画の予告編に「Fly Me To The Moon(In Other Words)- 2007 MIX-」が使われるんだよ…なぁんて、教えてあげたら、宇多田ヒカルはどんな反応をするんだろう。そんな有り得ない事を考えながらも、エヴァと宇多田ヒカルの赤い糸のようなつながりは、やはり偶然ではなく必然だったのかもしれないと思った。

2007年10月18日木曜日

Interview with - Jennifer Lopez

最新アルバム『BRAVE/ブレイヴ』が大ヒット中のジェニファー・ロペス。2007年は映画のプロデューサーとして、『エル・カンタンテ』と『ボーダータウン』の2本を手掛け、初のスペイン語アルバム『ジェニファーの愛の11カ条~コモ・アーマ・ウナ・ムヘール』も制作と、プエルトリコ系の両親を持つ自らのアイデンティティを意識した活動に専念。そんなプロセスを経て完成させた最新作だけに、新境地の表現に成功している。また、夫であり歌手のマーク・アンソニーとジョイントで実施している初の全米ツアーも好評だ。


初日の9月28日(アトランティック・シティ)の公演、すごく盛り上がりましたね。

ジェニファー・ロペス:サイコーのファースト・ナイトだったわ。みんなとってもハッピーで、終了後朝の5時まで盛り上がったほど。マーク(マーク・アンソニー)のパートから私のパートまで、ずっと演奏してくれたバンド・メンバーもすごくエキサイトしていた。「オレたち、やり遂げたぜ」なんてね。

最初だったから、ナーバスになったでしょう。

ジェニファー・ロペス:それが不思議なの、とっても面白くてね。コンサート中に着替えのためにドレッシング・ルームに戻ると、なぜかとても落ち着いていてね。マークが私に「彼女、少しもあがってないよ」なんて大笑いしたりして。納得出来るまでリハーサルしていたし、マークのソロ・パートの時、ステージ・サイドで彼の歌を聴いたり観たりしていたので、すごく落ち着いて自分の歌や踊りに集中出来たのだと思う。正直、ツアー生活っていうのは楽じゃない。でも、嬉しいわ。マークと一緒に回っているから。一緒にツアーするなら彼ほど最高なパートナーはいない。本当にすごいもの。彼からたくさんのことを学んでいるのよ、毎日ね。私たちの人生の中で、今この時点でツアーが出来るっていうのはとにかく素晴らしいわ。今、魔法みたいな時なの。

ニュー・アルバム『BRAVE/ブレイヴ』ですが、2人のジェニファーが向き合うジャケットのイメージが強烈ですね。

ジェニファー・ロペス:私自身だけに向き合うだけでなく、リスナー全員が自分に向き合ってほしいというメッセージを込めてみたの。彼も彼女も彼ら全員も、何に向って何をやるのかってね。もちろん、私自身が何をすべきかも提示しているわ。ジャケットのイメージを提案したのは私自身。今回のアルバムでは、歌詞など色んな面で自分が納得出来る表現を追求してみた。そんな過程で「ブレイヴ」というキーワードが明確になってきて、そのものずばりの曲も生まれてタイトルになった。アルバムを聴いてくれる人たち全員への勇気を提示してみたの。

その「ブレイヴ」の由来は?

ジェニファー・ロペス:これまで私生活でも仕事でも辛いことも経験してきたけど、アルバムを作ってみて、今はそれを乗り越えた場所にいるんだと気付いたの。そして、そんな経験をしても、まだ希望もあるし、信じることも出来る。私にまだ愛が残ってる、って信じることが出来たの。それってね、私はすごく勇気あることだって思うのよ。このアルバムの中の曲はどれもそれを投影していると思うわ。だから『ブレイヴ』っていうタイトルにしたの。

素晴らしい曲がずらりフィーチュアされています。

ジェニファー・ロペス:アルバムを完成させるために、2年半ぐらいかかっているのよ。その間、スペイン語のアルバムもレコーディングもしているわ。今回の新作の特徴は、長い時間をかけて曲を厳選したことね。一つのアルバムにしてみて思ったのは、ポジティブであり、決してくじけなかったり、愛にひたむきであったり、人と人との関係をリスペクトしたりするような、リンクする様々なテーマの曲が集まったこと。私のメッセージを強く投影することが出来たわ。

新しいタイプのサウンドからボーカル表現にぴったりの正攻法な曲まで、とにかく盛り沢山な内容ですね。

ジェニファー・ロペス:当初は前から付き合いがあるピーター・ウェイドとミッシェル・ベルと共同で曲作りをしていたのだけど、もっとダンサブルな曲とかアップ・テンポの曲を入れようなんてしている間に、新しいプロデューサーの曲も取り入れてみたの。もちろん、愛とか人間関係を描いた歌詞も重要な選択ポイントだった。とにかく、すごく楽しいレコーディングだったわ!

音楽、映画の分野以外に、香水やファッション業界でも活躍していますね。

ジェニファー・ロペス:もう何年も前、私のマネージャーが提案してくれたの。私が他にどんなことが出来るか、いろんな可能性を見いだしてくれたのよ。彼にはファッション・センスがあるし、あれも、これもってね。それで、新しいことにいろいろチャレンジするための機会を探してくれたの。そうやって、ポップ・アーティストや女優として以上に、枠を広げるための道を切り開いてくれたわけ。彼はそういう意味で、先見の明があった人なのよ。私自身クリエイティブなアイディアに溢れていたし。そうやって始まったのよ。彼がキッカケを見つけてくれて、私はその中から、自分で、本当になにか提供できるものがあるなって思える物だけを選んでやることにしたの。ファッションに関しては、自分なりのスタイルがあると思っていたし、自分にとっても、新しい形で自分の創造力を表現出来るって思ったし。フレグランスにしても同じこと。提案はされても、興味なかったものもあるわ。「あなたの人形を作りましょう!」とか。それはないわね。面白そうじゃなかったわ。クリエイティブではないし、達成感も得られないと思ったから。(笑)

今回の全米ですが、ぜひ日本でも再現してほしいですね。

ジェニファー・ロペス:もちろん、望むところよ。いつ実現出来るか言えないけど、日本のファンにはずっとサポートしてもらっているし、私自身すごく好きな国だから!

2007年10月17日水曜日

Interview with - FooFighters

またしても、過去最高作。2nd以来となるギル・ノートンをプロデューサーに迎え、フー・ファイターズが完成させた 6thアルバム『エコーズ、サイレンス、ペイシェンス・アンド・グレイス』は、作品ごとにバンドとして大きな前進、進化を遂げてきた彼らが、まさにネクスト・レベルと呼ぶべき新たなステージに突入したことを知らしめる、圧巻の大作だ。フロント・マンのデイヴ・グロールと、ベースのネイト・メンデルに話を聞いた。


2005年に2枚組の大作『イン・ユア・オナー』を、そして去年はアコースティック・ライブ盤『スキン・アンド・ボーンズ』を出されて、今年またオリジナルの新作と、音源リリースが続いていますが、それだけ創作意欲とかアイディアに満ちあふれている状況なのですか?

デイヴ:そういうことだね。2枚組を作ったことで、新しい目的とか、衝動とも言えるような新しいエネルギーが得られたと思う。それと初めてアコースティック・ツアーに出たことにも、すごくインスパイアされた。まるで新しいバンドに生まれ変わったみたいなんだ。12年もバンドをやってると、時には注射を打ってギアを入れ直すようなこともしないとさ。それが『イン・ユア・オナー』だったってわけ。おかげで曲を楽に書けるようなったし、よりクリエイティブになれたよ。

どんなアルバムにしたいか、イメージみたいなものはあったのでしょうか?

デイヴ:それはないんだ。前作の時は、2枚組にして、アコースティックの曲を1枚に、エレクトリックの曲をもう1枚に入れようっていう、すごく明確なビジョンがあったけどね。今回はコンセプトはなくて、曲が主体。ベストな曲を選んだんだ。歌詞、メロディ、アレンジ、曲構成の面からベストなものを選ぶっていう、まあ普通は当たり前とされることをやっただけなんだよ。

ネイト:今回は選ぶ曲がいつもより多かったし、どういう方向性にするためにどれを選ぼうとかいった心配もなかったから、ただベストな曲を選ぶことに専念できたんだよ。

このバンドはどこまで進化するんだろう、どこまでビッグになるんだろうと怖くなるくらいに、さらなるスケール・アップを果たしたアルバムになっていると感じたのですが、本人の手ごたえはいかがですか?

デイヴ:オレたちは同じことを繰り返すようなバンドじゃないってことだね。常に新しい方向性を試しながら、自分たちらしさを失わずに成長できてる。そのことが確信できたよ。今のオレたちは、怖がることなく何でもできるんだ。いい状態だよ。成長するってことに対して恐れを抱かないっていうさ。

ネイト:このレコードは本当に大好きなんだ。とにかく早く聴いてもらいたいよ。

今作にはアコースティック・ギターのインストや、メロウなピアノ・バラードもありますね。そういうサウンドは本人としても新機軸という感覚なのでしょうか?

デイヴ:きっかけは、オレの奥さんが誕生日にピアノをくれたことなんだよね。ピアノの弾き方なんか全然わからなかったんだけど、ピアノで曲を書き始めるようになってさ。うん、だからオレにとっては、まったく新しい領域だったよ。

でも、そんな振れ幅の広い楽曲が1枚に収められているのに、全然とっ散らかっていなくて、すごくまとまっているんですよね。

デイヴ:それはギル・ノートンのおかげだね。彼が最高のプロデューサーだってことは間違いない。彼はピクシーズとか、パティ・スミスとか…オレたちも大好きな素晴らしいバンドをたくさんプロデュースした人で、オレたちの2ndアルバムも手がけてくれた。彼が一番得意とするのは、アルバムをアルバムらしくすることなんだ。すべてが自然にまとまって、すごくリアルで誠実なアルバムに仕上がったと思うし、アルバム自体がひとつのストーリーみたいになってる。始まりと終わりがあってさ。すごく満足してるよ。

自分でも、バンドのキャパというか、懐がどんどん広く深くなっているような、そんな実感があるのではないかと思うのですが、いかがですか?

デイヴ:うん、自分でもバンドの成熟を実感してるよ。まあ、まだ子供みたいなところもあるけどね(笑)。オレたちはずっと前に進み続けて、本当に一生懸命、努力してきたんだ。ライブはもちろん、ソングライティング、プロダクションなどすべての面でね。ここまですごく長い時間がかかったけど、うん、今のオレたちは、かなり強いと思うよ。

タイトルの『エコーズ、サイレンス、ペイシェンス・アンド・グレイス』には、どんな気持ちが込められているのでしょうか?

デイヴ:いろんなムードやテクスチャーを含んだアルバムだから、タイトルが難しかった。『エコーズ、サイレンス、ペイシェンス・アンド・グレイス』っていうのは、最後の曲の歌詞から来てるんだ。ビジュアル的な感覚を持った、美しいフレーズだと思ったんだよね。ラウドでへヴィーな曲もあるけど、同時にデリケートで美しい曲も入ってる今作のタイトルとして、クールだと思うよ。このアルバムはたぶん、これまでのどの作品よりもディープで、そして美しいからね。

今回のアルバムを通して、どんなものを受け取ってもらえたら嬉しいですか?

ネイト:そうだね、この作品を聴いてくれたすべての人と、心で繋がることができたらいいなと思うよ。

デイヴ:いろんなサウンドが楽しめると思うから、聴いてくれた人のマインドがオープンになって、あらゆる種類の音楽を受け入れられるようになってくれたらいいね。たとえば、オレたちの作品を好きになったことで、60年代の音楽にも興味を持つようになって、ゾンビーズのレコードを買ったりさ(笑)。

Interview with - Underward



5年ぶりに5thアルバム『Oblivion with Bells』をリリースしたアンダーワールド。MSNミュージックでは、新作をリリースするまでのこの5年間、彼らの動向に注目。そこから自ずと解き明かされる『Oblivion with Bells』の全貌。“アナザーサイド・インタビュー”とも言うべき、興味深いリック・スミスとカール・ハイドへの一問一答!

なぜ、今回V2 Recordsを離れ、新しい環境を求めたのですか?

カール:V2との契約完了後、新たな仕事の手段を追求したいと思ったからさ。それが具体的にどういうことか、言葉では説明できなかったので、実際に自分達でやってみるしかないということもわかっていた。実際にやることで、周囲の理解を得て、いずれ新たなレコード会社と契約した時、色々な手段を使って作品を発表できるからだ。インターネットを使った音楽ダウンロード、本の出版、自分達のスタジオから生放送で送るウェブラジオ、Quicktimeを使ったウェブテレビのコンテンツ制作、5種類の12インチのリリース、即座に世界中のオーディエンスとコミュニケート可能なフォーラムの立ち上げ…そういったことすべて1980年~81年くらいからやりたいと考えていたことなんだ。それがインターネットによって可能となったのさ。

ガブリエル・ヤレドと発表した『BREAKING and ENTERING』(詳細はこちら)を経て、制作スタイルに何か変化はありましたか?

カール:ガブリエルは素晴らしいよ。オスカーも受賞するような男だが、新たなアイディアに対して常にオープンマインだ。彼とは良い友人になれたね。僕らとやっていた時期は、彼にとってのインプロヴィゼーション(即興)期だったんだよ。実際に3人が部屋に集まって演奏を行うこともあれば、ネットでオーディオ・ファイルやMIDIファイルを交換しあい、バーチュアルなレコーディング・スタジオで互いのアイディアを行き来することもあった。そのあと、アビーロード・スタジオに場所を移し、そこでも即興と演奏を続けた。この場合の演奏とは、いわゆる昔ながらの楽器と、エレクトロニクスの両方だ。ガブリエルは僕らに、それぞれのメインの楽器を弾くことを勧めたんだ。僕の場合はギター、リックの場合はピアノ。ガブリエル自身も素晴らしいピアノ奏者なので、彼にも弾くように勧めたよ。ロンドン交響楽団とロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラとも仕事ができた。僕とリックにとっては初めてのオーケストラとの共演だった。その経験は、今回のアルバムに大きな影響を与えてくれたと思うよ。今後もYaredworldとして一緒に何かを作るつもりだ。彼は映画音楽の世界では超一流なので、常に何かに取り掛かっていて、とても忙しい。でも連絡は取り合っているし、時期が訪れたら、また3人でスタジオに入ることになるだろう。

リック:ああ、彼との仕事は本当におもしろかったし、素晴らしい経験だった。ガブリエルの才能はものすごいよ。いくつかの新しい経験をした。たとえばアビーロード・スタジオで15~20年ぶりに仕事をして、とても楽しかったんで、2本のサントラ製作のあと、『Oblivion With Bells』のレコーディングでもアビーロードを使ったよ。ガブリエルとは数年内にアルバムを作る予定だ。今度はサントラではなく、フルアルバムをね。彼とは知人の紹介で知り合ったんだが、とてもオープンで寛容で、僕らと仕事をすることで負うかもしれないリスクへの準備もできていた。そういう些細なことが大切なんだ。言葉で何を学んだかは説明できないが、一つ一つの小さな経験が『Oblivion』に引き継がれ、生かされたことだけは間違いないよ。何よりも、素晴らしい人に囲まれて仕事をしていると、自信がつく。つい、僕らは「リズムがどうだ、Raveのスタイルがどうだ、ドイツのテクノシーンがどうだ」という話ばかりしがちだ。そういうことも勿論重要だが、基本は心がどれだけ動かされるかだ。どれだけパッションを持てるか、ということだから。

ここ最近のアンダーワールドは、作品の発表スタイルが、パッケージよりも配信に重きを置いているように思うのですが、今後もパッケージ化にこだわらずに、配信で発表していくのでしょうか? また、パッケージに残したい楽曲と、配信のみで発表する作品に大きな違いはあるのでしょうか?

カール:ああ、続けていきたいと思っているよ。そしてそれらが今回、物理的なアルバムである『Oblivion with Bells』の“バーチュアルなカウンターパート”となり、ウェブ上での存在性を発揮し、さらに成長を続けてくれることを望んでいる。これは僕らがかなり前から、頭の中で考えていたことだ。『Everything Everything』のDVDがそうであったように、「形ある」レコードがバーチュアルな世界への入口になってほしいんだ。

パッケージに残したい楽曲、配信のみの楽曲、とわけて考えているわけではない。ただ、ダウンロード・オンリーの曲の方が、今回のアルバムよりはrawで洗練度は低く、手が加えられていない。それは作り終えたらなるべくすぐに配信したい! という気持ちがあったからだ。ウェブラジオなどでは、あえて完成途中の曲をリックが流すこともあった。最終的にそのままの形でリリースされることはないとわかっていても、その過程は聴く価値があるとリックが判断したからだ。そういうものは惜しみなく、発表する。Rawでもマジカルな何かがそこにはあるわけだから。

つまり今の僕達には、完成の度合いによって、それぞれを発表できる複数の発表手段がある、ということさ。これまでにはなかったことだよ。

パッケージもとても重要だ。パッケージは79年以来、Tomatoの創設メンバーの一人であるジョン・ウォリカーが手がけている。彼はオーストラリア、メルボルンに住んでいるので、3人での作業はバーチュアルなアート・スタジオで行う。毎日、僕らは彼に写真や絵、言葉を送る。それをジョンが編集、再編集し、同時進行でリックはアルバムをプロデュースする。そしてアートワークと連動させていく…という具合なんだ。

僕らのウェブサイトだが、まさにこの24時間以内に新装開店される予定だ。そこには僕らとアートとのコラボレーションも数多く含まれているよ。そういった色とりどりのパレットの中から、「これはレコードのパッケージ、これは本、ライブ用の映像、アートギャラリー用に・・・」というように選んでいくんだ。ここ5年間、舞台裏ではそういったことが活発に行われていた。それがようやくインターネットによって、その姿を見せ始めることになるのさ。

現在、アンダーワールド・チルドレンとも言うべき、若手ダンス・ミュージックのアーティストが続々とデビューを果たしシーンを盛り上げていますが、このような現状をどのように捉えていますか?

カール:素晴らしいことだよ。新しく、若い世代のアーティストが登場してきていることは嬉しいことだね。彼らは、僕らのやってきたことに挑み、チャレンジすると同時に、さらに発展させて違うところに持っていこうとしているよ。必ずしも、ダンスではないかもしれないが、エレクトロニック・ミュージックということでいえば、今一番おもしろいのは“Efterklang”だね。彼らのことは何年も前から気に入っているんだ。他にも“Simile Mobile Disco” 、“120 Days”、“Mathew Johnson”、“Ricardo Villalobos”、“James Holden”、“Pig & Dan”、“Dominik Eulberg”はおもしろい。Cocoon、Shitkatapult、Compactといったレーベル、UKのDextro(aka Ewan MacKenzie)など面白いグループが沢山出てきているね。

リック:そんな風に言ってもらえるのはとても嬉しいよ。確かに年齢的には、本当の子供達くらい若い子もいるけど(笑)。そんなことを言ったら、彼らから嫌がられるんじゃないかな。なかなかおもしろい音楽を作っている子達はいるよね。James HoldenとかTiefschwarzとか。いつもエイドリアン・シャーウッズの動向にはいつも注目しているよ。ちょっと前にもすごくいいテクノ~エレクトロニック・ミュージックを耳にしたよ。アコースティックな音楽もエスニック・ミュージックも大好きだけど、ピュアなエレクトロニック・ミュージックにはやはり惹かれるんだよ。たとえばAdam Bayerの「Stereotypes」というトラックは…最新ではないが、めちゃくちゃ気にいっている。リズムの可能性を感じさせてくれたトラックだね。最近ではダンス・ミュージックをやってるバンドもいいのが多いね。“LCD Sound System”とか“Simian Mobile Disco”とか。

来日公演の予定がありますが、その際、企んでいる事、やってみたい事があれば教えてください!

カール:これまでもそうだったが、日本でのライブでは世界の他の国ではやっていない、それ以上のことをやろうと思っているよ。日本からは、そういうインスピレーションをいつも感じるんだ。一つ、言えるのは、Tomatoの映像がこれまで以上に多く使われる。おそらくこれほどTomatoの存在感の大きさを感じるライブは、久しぶりになるんじゃないかな。ショウ自体、毎晩のように変わっていくものなので、他の国とまったく同じということはまずない。東京でのショウは他よりは大きいので、プロダクションの部分で僕らも頑張らないとならないんだ。

リック:11月に日本に行く予定だけど、それまでとは違う、新しいことを実験し、挑戦するつもりだ。もちろん古いものもやるけどね。日本のオーディエンス相手ならそれが出来るので、いつも僕らとしても楽しんでいるよ。日本のオーディエンスはコンサートでちゃんと聴いてくれる! バンドにとって、それはとても嬉しいことなんだよ。すでにヨーロッパでウォームアップ用のショウを何度か終え、9月から始まるワールドツアー、そして日本には11月に行くよ。