2007年12月7日金曜日

interview with - 河村隆一

ソロ・デビューから10年。これまでの足跡の集大成としてリリースされるのが『evergreen anniversary edition』だ。【ディスク1】:これまで発表した楽曲のセルフ・カバー、【ディスク2】:日本の音楽シーンを彩ってきた名曲のカバー、【ディスク 3】:10年間の活動を辿る秘蔵ライブ映像集…という、3枚組作品となっている。収録されている楽曲の数々から、何よりも伝わってくるのは、河村隆一の歌の持っている桁外れのパワーだ。歌声が発せられるや否や、楽曲に籠められた想い、風景、物語は、リスナーの心の中に鮮やかに映し出される。その圧倒的な表現力には、胸打たれずにはいられない。河村隆一の表現力の凄味を豊かに体感させられる今作について、本人に話を訊いた。



■セルフ・カバーと名曲のカバーを行う今回の企画は、どのような経緯で始まったんですか?

河村:今年は『ORANGE』というオリジナル・アルバムを出したんですけど、それによって“コンポーザーとしての10年”というのは、作品に出来たと思うんです。それとは別に、“シンガーとしての10年”という総括をしたいなと思って、取り組むことになりました。

■【ディスク1】のセルフ・カバーに関しては、昔のご自身の歌とじっくり向き合う機会でもあったと思うんですが、やはり変化は感じましたか?

河村:例えば「I love you」は10年前の曲ですよね。僕としては改めてレコーディングした時は、“あまり変わってないのかな”と思ったんですけど、昔のシングルを聴いたら “若いな”というのは感じました(笑)。今の方がゆとりもあるし、声が太くなってるし、シンガーとして肝が据わったというか。懐が深くなった感じはしています。

■その辺はリスナーの方々も聴き比べてみると様々なことに気づくでしょうね。

河村:そう思います。今までの 10年を上半期と下半期に分けるとすると、後半になるにしたがって、高い声を出す時のコントロールが出来るようになってると思う。高い声を出すとキンキンしてしまいがちなんですけど、そうなると耳に痛い音になるんですよね。“高い音なんだけど、癒しのある唄い方が出来ないかな”というのは、下半期にずっと自分の課題として追いかけてたんで、その辺は今にもつながってることだと思います。

■セルフ・カバーは選曲も興味深いですね。シングル曲だけじゃなくて、「彼方まで」のような熱心なファンしか知らない曲も収録されてますから。

河村:僕にとってはどの曲も可愛いですから、順位をつけられなかったんですよ。だから“RKF”っていう、僕のファンクラブの会員のみなさんに順位をつけてもらったんです。そんな中にまず「無題」っていう曲が常にトップ10に入っていて。これは4年前に初めて唄って、ずっと「無題」だったんですけど、それが今回入っている「Once again」です。「彼方まで」もなぜかいつも上位にいたんですよね。これは他の方に提供させてもらった曲なんですけど、ライブで唄った時にすごく評判が良かったんですよ。そういう曲がシングル曲の中に入っているのは、僕にとっても興味深かったです。

■そして、【ディスク2】の方が名曲のカバー集ですね。カバーしたのは一般ユーザーから選ばれた曲なんですか?

河村:そうです。スポニチさんと“RKF”の両方で投票してもらいました。“驚くような曲が選ばれるかな?”と僕も身構えてたんですけど、結果のリストを見た時は“なるほど”と思う曲ばかりでしたね。沢田研二さんの曲や、山口百恵さんの曲から、ミスチルとか中島美嘉さんの「雪の華」のような最近の曲まで唄わせてもらいました。僕のこの10年の活動時期と重なる曲もあるので、とても面白かったですよ。

■そういう中にDEAD END(80年代後半のジャパニーズ・ハードロック・シーンの最重要バンドの1つ)が入っているのが目を引いたんですが。

河村:これは実は僕のリクエストでして。自分のルーツにあるバンドの曲を、どうしても入れたかったんですよ。僕は LUNA SEAのインディーズの頃から数えると、20年近く唄ってるんですけど、自分のルーツにあるバンドの歌を、今唄ったらどうなるんだろう? と思って。“僕はこういうところから出てきたんだ”ということを確かめるためにも、もう一度唄ってみたかったんです。自分を育ててくれた名曲と向き合うのは、僕にとっても得るものはすごく大きかったですよ。

■カバーしている中で特に思い入れの強い曲はありますか?

河村:織田哲郎さんの曲も、徳永英明さんの曲も、尾崎豊さんの曲もそうだし…全曲が僕にとって大切な曲ばかりですよ。そんな中、近年の曲で心に残っていたのは中島美嘉さんの「雪の華」ですね。唄ってみて改めて名曲であることを感じました。

■今回唄った名曲のような作品を、ご自身も作っていきたいという意欲も掻き立てられたのではないでしょうか?

河村:僕は音楽家としての物差しを、常にクリアに持っていたいと思ってるんです。僕が曲を好きになるポイントって、 “キャッチーでポピュラリティがある”ってことがすごく大きいんですよ。例えば“ビートルズで好きな曲は?”と訊かれたら、人によっては隠れた名曲を挙げるのかもしれないけど、僕だったら「Let It Be」。メジャーな曲を挙げるのが恥ずかしいと思うタイプの人もいますけど、僕はそういうのは全然恥ずかしくない。だからこういうカバーをすることが出来たし、今後もそういうクリアな物差しを持ちながら、コンポーザーとして曲を作っていきたいと思ってます。今回、こういう名曲を歌って、自分の血肉にしたことで、その物差しは今まで以上にクリアになった気がしています。

■今回はこのような形で10年を総括しましたけど、来年2月3日の武道館の公演では、今までのフル・アルバムとミニ・アルバムの全70曲を唄うそうですね。

河村:“知らない自分に出会ってみたい”というのもあって、やることにしたんです。70曲唄うことで喉を少し痛めるかもしれないし、体力の限界まで行くかもしれないですけど、それを乗り越えるために自分を鍛えることは、絶対に今後の自分にとってプラスになるはずですよ。僕はハードルを高めに設定して、それに向って自分を構築していく作業が結構好きなんですよね。もともとスポーツが好きですし、唄うことってスポーツに近いことだとも考えてますから。今後も自分の知らない声とか声量とか、力強いものから繊細な表現とかも含めて、いろんなことを学んでいけたらいいなと思ってます。