自分の気持ちに正直に、恋愛も社会的な問題も同じように歌ってきたAI。2007年はロック系の夏フェスにも出演し、もはやヒップホップ・ソウルのディーバという形容は窮屈そうだ。そして、さまざまな熱や感動に触れた今の表現として、6枚目のアルバム『DON'T STOP A.I.』が完成。なかには土屋アンナ、PUSHIM、ANTY the 紅乃壱という女性ばかりをフィーチャリングしたナンバーなども収録。“私の意見”から、人とのつながりのなかで見いだした“大きなメッセージ”への開かれたシフトを実感できるはずだ。
■なんか『What's goin' on A.I.』が昨日のことのように思えるんですが。ってことは、作ってるほうはもっと早いワケですよね。
AI:確かに。だけど、まだなんか『I Wanna Know』 歌ってる感じとか残ってる。このアルバムを作り始めたのはちょうど去年のツアーが終わってからだから、最初のほうはまだライブ感が残ってるっていうか、 “ライブで今度こういうことしたいから、こういう曲作りたい”とか。例えば『BRAND NEW DAY』のこういうビート選んだのも、そういうのがあったと思うし。で、時間がたって制作系だけになってくると、スタジオにこもることが多いから、今度は だんだん自分の気持ちがマイナー系になっていって(笑)、バラードとか選んでたりして。で、途中くらいまで作ったときに『DON'T STOP』っていうアルバムタイトルがついたから、それに決めてからはまた“来年のライブどうする?”って話もしてたから、そういうのを考えたらまたアッ プテンポを選んでいったり。そのときの感情や気持ちや、自分のやってることによって作る曲が変わっていったと思う。しかも、今年はサマーフェスティバル系 まわっててそういう時期に作ってたから、ライブを意識した曲がいっぱいあるかもね、前のアルバムよりは。
■じゃあ具体的に曲のことを聞いていきますね。『DON'T STOP』、これはなぜディープ・パープルの『ハッシュ』のサンプリング(※編集部注1)を使うことになったの?
AI:これはですね~、サンプリングされたトラックを聴いて。いろんなトラックのなかでもやっぱ目立つんだよね。♪ナーナナ、ナーナナ ~♪って、“どっかで聴いたことあるけど、こーれはヤバイ!”と思って。全然ディープ・パープルの超ファンとかってワケじゃないけど、ちょっと変わった感 じのことしたいなと思って。まぁ、もしかしてディープ・パープルのファンの人が聴いたら、“おまえ、オリジナル変えやがって!”みたいな(笑)、そういう のもあるかもしれないけど。やっぱ今の音では出せないザラッと感とか、オルガンの音とか、いいなぁと思って。でも、サンプリングの曲って有名であればある ほどできる確率が低くなるから、最後まで“ちょっと待って”ってホールドされてたんだけど、私はもういい曲を見つけたらすぐ歌詞とか考えたいし、メロ ディーも考えたいし。
■この曲じゃないと意味がなかったんだ。
AI:うん、そう。それが、たまたま来年ディープ・パープルが来るらしく。で、サンプリングの件もタイミングが良くて、それだったらプロモーションにもなるかもしれないからいいよ、みたいな。
■すごいタイミングですねぇ。
AI:そうなんだよね。
※編集部注1 / 既存の楽曲の一部を抜粋・引用し、別の楽曲を作り出すこと
■今回のアルバムはトピックも多くて。『BUTTERFLY』にはANTY the 紅乃壱、土屋アンナちゃん、PUSHIMが参加していますね。
AI:これは超大変だった。それぞれにまず自分で電話して、本人たちに確認とって。やっぱり本人が「う~ん、あんまり……」って言ったら別に事務所同士で話す必要もないし。
■みんな友だちなんですか?
AI:そうですね。何年か前に名古屋でライブ帰りにクラブ行ったら、ANTYがそこでライブしてて。名古屋弁でラップして、“すごいなこの 子、ヤバイ!”と思って。で、話してみたらいい子で人柄も良くて、いつかなんかやりたいなとは思ってて。あとアンナちゃんは撮影や映画だったり、ちょこ ちょこいろんな場所で会うことが多くて。ちょうど連絡したとき、アンナちゃんは居酒屋かなんかにいて飲んでて。「一緒にやりたいんだけど」「あ? いい よ。やろうよ」って、即OKで。PUSHIMは、レゲエでずーっとやってきててさ。久々にしゃべったんだけど。昔は一緒にショッピング行ったことあるけど (笑)。
■3人3様の景色になりますよね。
AI:そうなんだよね。ジャンルは違っても一緒にできるんだっていうのを見せたかったし、それぞれ私がリスペクトしてる人たちでもあるし、そういう部分がすごい良かったかな。で、女の子をフィーチャリングするのも初めてだったのね。
■AIさんはプロデューサー的な部分もあったんですよね、この曲は。
AI:そうですね。やっぱり自分の曲でっていうのはなかったから、レコーディングの現場で聴いて、“ヤバイ、楽しい……”とか思って。それにしても強い女の人たちだなぁと思った(笑)。
■中盤以降にはロックっぽい、どころか“ロックじゃん!”っていう曲もあって。
AI:『THE ANSWER』ね。
■こういう感じの曲がほしかったんですか?
AI:これはホントのこと言うとドラマ「医龍 Team Medical Dragon2」のために作った1曲なの。歌詞もすごく「医龍」っぽいと思うし、心臓の音が入ってたりとか、やっぱりドラマの曲だからっていっても、自分も好きな曲にしないと自信持ってやれないから。
■これがシングルになってたらけっこう問題作だったかも。
AI:そうそう。でも全然好きですね。なんかドキッとするような感じもあるし、やっぱり手術シーンで終わったあとに、バラードじゃないなと 私は思ってたの、ずっと。だけど、みんなに「ドキッとしたあとに安らぎがほしいんだ」って言われて、そう言われると「まぁね」って思っていったというか。 それで『ONE』を作ったんですけどね。
■でもこの両極端な2曲が入ってることで、アルバムの幅は広がったんじゃないですか?
AI:確かにこの2曲が入ったことで、さらに広い感じになったし、今思うとすごい良かったんだよね。『ONE』も『THE ANSWER』もいいし。もし自分の好みだけでやってたらこの2曲はなかったかもしれないし。
■だから前作『What's goin' on A.I.』は大きいテーマがあったけど今回はいい意味で幕の内弁当的なんですよね。
AI:ホントそうだと思う。去年のはやっぱり“ニュース”だったから。まぁ家で歌詞書いてる時間も、テレビつけてる時間も長かったり、朝方 帰ってきて、結局見られるのはニュースだけだったから。事件がもうヒドイのばっかりで、“なんだよ、これは?”っていう疑問が多かったからね。それに本も 事件を扱ったノンフィクションとか、カウンセリング系とかばっか読んでたから。で、自分で曲とか作っちゃえばさ、人に言うわけじゃなくて、まず自分が変わ れたりするから。
■すごくそういう年だったんだよね。
AI:うん。で、今年は逆にもっと人を笑わせたいし、喜ばせたいし、テンション上げさせたい。やっぱりフェスティバルまわったのは大きかったですね。
■フェスティバルといえば、『I'll Remember You/BRAND NEW DAY』の取材のときマキシマム ザ ホルモン見たいって言ってたけど、見られました?
AI:結局、出演日が違ってて見られなくて、それがもう残念でね。でも、ROCK IN JAPAN FES.のバックステージでナヲちゃんに会って。「ファンなんです。写真撮ってもいいですか?」みたいな。そしたらあっちも「ファンなんです」みたいな (笑)。で、「は!? いや、悪いけど私のほうが好きだから!」とか言って。
■告白し合い、みたいな(笑)。
AI:うん。「やった~! うれしい~」。
■(笑)。でもホントにフェスで広がったんですね。
AI:だからこういうアルバムになったとも思うし。自分がいつもやってる場所も大事だけど、やっぱりたまには全然違うとこへ行って、例えば 日本でみんな好きだって言ってくれたら、たまには違う国へ行ってやってみるとか。むしろブーイングがとんでくるぐらいの恐ろしいとこに行ったら、“今度は その人たちを納得させるようにどういう曲を作ればいいんだろう?”とか、すごくいい勉強になるから、そういう意味でフェスには出て良かったと思う。
■ちなみにマキシマム ザ ホルモン以外で、AIさんが“この盛り上がりスゴイ! くやしい!”って思うアクトはありました?
AI:くやしいっていうのはなくて……、ELLEGARDENとか良かったね。お客さんのはねてる感じがすごいわかるんだよね。ただ、自分の選ぶトラックはそういうのじゃないけど、そういう気持ちになれるような曲は作りたいなって、そういうライブ見て思ったり。
■来年のツアー、長いじゃないですか。アンケートとかも楽しみですね。夏フェスで見た人も来るかもしれないし。
AI:そうそうそう。夏に見ておもしろかったから、ぐらいの人にもぜひ見てほしいし。
■来てくれると思うなぁ。さて、最後にベタなんですが、このアルバムをみんなが聴き込んでるころって、クリスマスシーズンだと思うんですが。
AI:クリスマス、ヤバイですね。
■今年はどう過ごしてそう?
AI:クリスマスはたぶんどっかのツリーの下で歌ってそうだな(笑)。なんか何もなくないような気がするんだよね。なーんかありそうなんだよね(笑)。
■人のクリスマスを盛り上げる……。
AI:私も盛り上げてほしいわ(笑)。
2007年12月5日水曜日
interview with - AI