2007年12月3日月曜日

interview with - SEAMO

2006年は、シングル『マタアイマショウ』『ルパン・ザ・ファイヤー』の大ヒット、そしてセカンドアルバム『Live Goes On』がアルバムチャ-トの1位をゲットし、さらにはNHK紅白歌合戦初出場と、名実ともに大ブレイクを果たしたSEAMO。ヒップホップの枠を超え活躍する彼が、ついに新曲『Cry Baby』を発表。しかもこの曲は、映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!」の主題歌でもあるのだ。SEAMOとクレヨンしんちゃん……なんてナイスな組み合わせじゃないか。では今回は、新曲についてはもちろん、ブレイクした今、そしてこれからについて話を聞いてみよう。


■さあ、SEAMOさんの新シーズンの幕を開ける新曲で、映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!」の主題歌でもある『Cry Baby』がついに完成しました。

SEAMO:この曲自体は、2006年の秋からミニ合宿して作ってた曲で、それを映画のスタッフが気に入ってくれたんです。トラックや歌詞はそのままですけど、主題歌が決まってから、お子さん連れで見にきてくれるだろうし、エンドロールに流れるだろうってイメージして、イントロを長くしたり、子どものコーラスやハンドクラップとかの味付けをあとからしましたね。


■メロディーも優しい感じの、心にグッとくるナンバーですね。

SEAMO:まず、トラックありきで音楽を作って、歌詞をつけていくんですけど、僕もメロディーをつけるのにだいぶ味をしめてきまして(笑)、1年前よりウマくなりましたね。


■歌詞は、つらいことを受け入れ、乗り越えていこうというポジティブな内容です。これは、自身の経験から出たものなんですか。

SEAMO:そうですね。ネタになっている時代背景は、シーモネーターとしてうまくいかなかったときの話で、そのころって、印象的な涙がいくつかあったんですよ。テレビで、ハルウララっていう100連敗した馬のドキュメントをなにげなく見てたんです。そのなかで、おばあちゃんがハルウララに手紙を出してたんですよ。「リウマチで手足が痛い。こんなつらいなら死んでしまいたいとも思ったけど、負けても走り続けるハルウララの姿を見て、励まされて生きる勇気をもらった。ありがとう」って内容で。それが、当時の自分とクロスオーバーして号泣しちゃったんです。


■そのころは、精神的にも相当追いつめられてたんですね。

SEAMO:はい。周りの仲間に追い越され、道に迷ってましたね。あのころの涙はコンパイルしておく必要があるなって思ってたんです。でも、あのときに、こういう曲を書いてたら、たぶんグチっぽい歌になってたと思うな。でも今は、あのときがあったから今がある、あのときの涙は最高に力強かったなって思えるんですよ。それで、こういう歌にできましたね。


■苦しい時期を経て、SEAMOとして再スタートして、結果を出した今だからこそ、この曲が作れたと。

SEAMO:ホントそうです。実際、直面してるときってどうしたらいいかわからないし、道を切り開けない。世の中って楽しいことよりうまくいかないことのほうが圧倒的に多いじゃないですか。僕もみなさんと同じく、道に迷い苦労して泣いてた。だからもし道に迷ったり、見失ってる人がいたら、この曲でちょっとでも背中を押してあげられたらいいなと思いますね。あとは、ぜひ会社の管理職とか強いポジションにいる人たちにも聴いてほしくて。普段強く振る舞わなきゃいけない人ほど、いろんなものがたまってると思うんですよ。


■確かに。責任が大きい人ほど、つらさも多いですからね。

SEAMO:でもやっぱり、くやしいことから逃げちゃいけないんですよね。まずは、現状を受けとめて、自分で消化して、それで新たな一歩を踏み出してほしいです。


■壁を乗り越えたSEAMOさんの言葉だけに説得力がありますよ。

■続いては「クレヨンしんちゃん」についても聞いてみたいんですが。

SEAMO:テレビは見たことがあったけど、この仕事やるにあたって、映画を見たんです。ビックリしたのが、テレビだと下品なだけだなーって感じだけど、映画だとメッセージが深くて泣けるんです。子どもがわからないような、大人がターゲットなぐらい深かったですね。


■そうらしいですね。「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」は、映画ファンのなかでも評価が高いと聞いてます。でも、SEAMOさんとしんちゃんって、なんかイメージがダブりますよね(笑)。

SEAMO:そうですね(笑)。最初、主題歌の話が来たときは、一瞬戸惑いもありましたよ。でもよく考えたら、脱ぎキャラだし、下品なクセしてみんなに愛されてるとことか、むしろオレの目指すべきとこだな、人ごとじゃないなと。最近は、しんちゃんの着ぐるみと共演することもあって、親近感がグッと高まってます(笑)。


■(笑)。さて、カップリングの『LOVEミサイル』は、跳ねたビートの楽しいナンバーです。女の子ねらいの歌詞は、モロにシーモネーターの影が出てますね(笑)。

SEAMO:これは、あのころでもいけた曲ですね。もちろん、今の細かい技術やメロディーとかをふんだんに生かしてますけどね。それに、僕は昔を全部否定してるわけじゃないんですよ。むしろ、昔の足あとを誇りたい。くやしい思いをしてきたこと、放送禁止になったことも自信に思ってますよ。で、今は、SEAMOとして新しい技術をどんどん身に付けて、間口を広げてるつもりなんです。だから、涙流してる曲も、車に乗って女の子とイチャつきたいって曲も、パチスロやってる曲も、全部リアルな自分なんです。


■ということで『無想転生』は、パチスロ大好きなSEAMOさんならではのナンバーですね。

SEAMO:これは、「北斗の拳」というギネスブックにも載った名機がテーマなんです。あれは、演出、音楽、ゲーム性と、ズバ抜けてすごかったんです。もう、僕らの心をくすぐりましたね。スロットのコインが出る感じをケンシロウの「アタタタタ!」につなげてるのなんか最高のアイデアですよ。あんなそう快感はない! その気持ちを曲に出したんです。


■ということは、スロットやってて曲のアイデアが浮かぶことも?

SEAMO:ありますね。ルパンも昔から曲にしたいとは思ってたけど、スロットでルパンをやってて、やっぱり曲にするべきだと思いましたからね(笑)。それに、「北斗の拳」ってメガヒットした機種だったんで、それにまつわるドラマもあるんですよ。台の取り合いでケンカが起きたり、朝並んでも台が取れなくて、そこで友だちができたり。大逆転もあれば、大負けして死のうかと思ったこともあったし(笑)。


■男のロマンが詰まってますねー。今もけっこう行ってます?

SEAMO:今は忙しくて並んだりはできないですね。でも、ちょっと前までは、バリバリ現役でしたよ。『マタアイマショウ』が、初日のデイリーチャートでトップ10に入ったって電話を、パチンコ屋で聞いたのは覚えてます(笑)。


■SEAMOさんのライフスタイルと音楽が直結していることが、今のエピソードからもバッチリ伝わってきました。

■ではここで話題を変えましょう。昨年の大ブレイクを経て、変化したことってありますか?

SEAMO:音楽に対する姿勢としては、作品ごとのクオリティーや精神のぶち込み方は変わらないけど、より多くの人が聴いてくれるから、自分の言葉の責任感は重くなりましたね。あと今は、オーバーグラウンドの仕事ばかりで、クラブ行く機会も減ってるけど、今でも、毎週日曜に自分のイベントはやってるんですよ。そこでクラブの空気は吸ってるんです。そういうことを忘れちゃいけないなって。


■気持ちのなかでは、ステイ・アンダーグラウンドだと。

SEAMO:それもあります。それがなくなったらストリートアーティストじゃなくなると思ってるんです。もちろんヒップホップは大好きだけど、僕自身はヒップホップにカテゴライズされるかどうか、今は興味がないんです。ただ、クラブアーティストであることに対しては誇りを持ちたい。そのシーンのなかでホントにやってきたわけだから。上のヤツを食ってやろうとマイク1本で行ったこともある。ことあらば脱いでパフォーマンスしてきたことも誇りに思ってる。あの空気感は絶対忘れたくない。あと、今のメジャーのフィールドからも得ることはいっぱいある。来てみないとわからなかったすごい世界が存在してるんです。僕はその両方を見られてるので、アンダーグラウンドでもメジャーでも吸収できるものはして、それをより自分に生かしていきたいですね。


■では、名古屋のヒップホップシーンの“塾長”と慕われるSEAMOさんから見て、今のヒップホップの若いアーティストたちには、どんな思いを持ってます?

SEAMO:正直、僕がヒップホップ全体を代弁するというのは恐れ多くてできないですけど、ただ、僕に近いポップフィールドの若いヤツに言いたいのは「メロディーのついたヒップホップに対して胸を張ってやれ。そしたらハードコア(ヒップホップ)やロックのとこでやって度胸つけてこい、一発殴られてこい」って(笑)。


■おぉ、でもアンダーグラウンド・シーンってそういう厳しい面もありますからね。

SEAMO:僕も実際に怖い所も通ってきてるんですよ。名古屋ってそういう土地だから。でもそれは貴重な経験でしたね。


■やはり、何事も経験は大事だと。

SEAMO:そうなんです。「お前らのライブに鬼気迫るものがないのは、経験が足りないからだ」って言ってますよ。自分らの域でしかデカい顔できないヤツなんか弱いですよ。やっぱり、どんなジャンルのアーティストでも、すごいパフォーマンスができる人は、だれもが見てくれるんです。今も名古屋で、僕を煙たく思うヤツもいるかもしれない。でも一方で「アイツはアイツでやったよね」って認めてくれてるのは、やりきったってところを見てくれてるからだと思うんです。そうやってくと、結果はついてくると思うんですよね。もしかしたら、そういう僕の今が、実はヒップホップなのかなって思ったりしてますね。


■海外のラッパーも、それを実践して支持されてるわけですからね。それにSEAMOさんの将来の夢は、ウータン・クランの“ウー・マンション”(※編集部注)のごとく、仲間が集結する“シー・マンション”ですからね。

SEAMO:そうです! やっぱりヒップホップのすばらしいところって、リスペクト、フックアップの精神なんですよね。それって、ほかのジャンルにはあまりないことだし。だから僕も、それを後輩や仲間に還元していきたいんです。あとメジャーのシーンでも、どんどんいろんな人とからんでいきたいし。それでオレは名古屋の地を誇って、東京に負けないように、地元のシーンを大きくしていきたいんです。

※編集部注 / スタジオなどの設備を整えたウータン・クラン所有の建物


■今年の夏にフェスを計画してるそうですが、そことつながりそうな話ですね。

SEAMO:今って、全国にご当地のフェスってあるけど、名古屋イコールの野外フェスってないんです。それを、自分らなりに作れればなって。全国から大物を呼ぶんじゃなく、東海地区のヤツらだけでまとめられて、ほかのフェスと同じくらい全国の人が名古屋に集まって盛り上がったら痛快ですよね。自分たちの土地をレペゼン(代表)して盛り上げていく、それこそヒップホップだなって。それが継続していって、最終的に自分の手から離れてもいいと思ってるんです。地元のものになればって。それを頑張ってやりたいと思ってます。


■あと、大ブレイクを受けて、実際のところ不安ってありますか?

SEAMO:ギャグで「あとは落ちるだけです」って言うけど、でもリアルな意見ですよね(笑)。そこと常に戦ってます。確かに不安はあるけど、でも、今までやってきた経験から間違いなくわかるのは、足を踏み外すのはやっぱり自分を見失ったからだと思うんです。僕は、バラエティーの仕事も来るし興味もあるけど、でも今は違う。良い音楽を作る、良いライブをやる、これに終始してれば間違えることはないって思ってるんです。あれこれやって、曲のクオリティーが落ちたら意味がないですからね。


■自分のいちばん大事なものを忘れちゃいけないと。それはだれにでも当てはまることですね。

SEAMO:あと、今リアルに体力は気にしてます(笑)。昔は、のどが強いと思ってたけど、今は過酷なとこでせめぎあうと、良い音が出なくなってきてたりするし。スポーツのベテラン選手と一緒で、体のケアと体力作りは必要だと思ってます。どんなジャンルの先輩方でも、そうやってる人は、年とっても良い声してますよね。


■ミック・ジャガーなんか、60過ぎてるのに歌いながらステージ突っ走ってますからすごいですよね。では最後に、今年の目標を聞かせてください。

SEAMO:さっきのフェスと、あと当たり前のことだけど、しっかりアルバムを出すと。あと、今年はアリーナクラスを一発やりたいです。やっぱり、ヒップホップでアリーナクラスをやれる人って数えるくらいだし。僕も、早くそこに飛び込みたいんです。そしたら若いヤツらを呼んで、「お前ら見てろ。ここだぞいちばん上は」っていうのを見せたいですね。


■まさに、名古屋在住の全国区ヒップホップアーティストの心意気ですね。

SEAMO:で、何万人のとこでもやりつつ、200人のクラブでもやれる感覚を身につけたい。なぜかというと、音が良い悪いに関係なく、その場の環境でやれるタフさって絶対必要だと思ってるんです。どんな状況でもマイク1本で打開できるのが、ヒップホップの強みだし。それをできる人、できない人で、どっちがすごいかといったら一目りょう然ですよね。それでこそ、ストリートアーティストだと思ってるんで。