2007年12月10日月曜日

interview with - ailko

 昨年8月にリリースされた7枚目のアルバム『彼女』から約9か月、aikoから待望の新曲『シアワセ』 が届けられた。のびやかなソウルネスを感じさせるメロディー、豊かな深みをたたえたバンドサウンド、そして、恋人同士の何気ない日常の風景から、“シアワ セ”の在り方を描き出すリリック。この曲には、彼女のなかにある表現者としての本質がストレートに表れているといっていいだろう。


■『シアワセ』、何度も何度もリピートしたくなる曲ですね。

aiko:ありがとうございます。ホンマですか?


■ホントです。人生そのものを肯定したくなるというか……僕もこれまでの人生のなかでいろんな別れと出会いを繰り返してきたんですが。

aiko:ええ、ええ(笑)。


■今まで体験したすべての出会い、別れをポジティブに受け止められるようになる、そういう力があって。

aiko:うれしいです。そうそう、大事ですからね、そういうことは。あの、私、好きな人と一緒にいると「この人が死んでしまった ら……」っていうのを考えてしまうクセがあって。「じゃあ、バイバイ」って言うでしょ? その次の瞬間、交通事故にあったらどうしよう、とかって思ってし まうんですよ。電話がつながらないと「どうしよう、家で倒れてたら」とか。


■その人を好きになればなるほど、不安も大きくなる。

aiko:うん、最高のときと最悪のときが一緒にやってくる。だから、心の底からシアワセっていう時間がすごく短いんです。それこそ何秒と かで、ジワッと体に染みわたっていくんですけど、その瞬間を大事にしたいし、忘れたくないし、どんなときでも思い出したいなって思って、「ちゃんと曲とし て残しておきたいな」って。これからもきっとくると思うんですよ、「もう、絶対ムリ。ダメ」ってときが。そういうときはこの曲の歌詞を読もうと思うし。


■自分のためでもあるわけですね。大事な人に対して「もし死んでしまったら……」って想像してしまうクセは、昔から?

aiko:そうですね。小さいころ、体があんまり強くなかったんですよ。週に1回くらい高熱を出してたし、何度か入院してるし。手相を見て もらうときも、まず「私、死にませんか?」って聞いてたんです、仕事運とか恋愛運とかではなくて。でも20才を過ぎたころからどんどん丈夫になって、今は ぜんぜん大丈夫なんですけど、小さいときは「死んだらどうなるんだろう?」ってよく考えてたから……それが好きな人にも向けられてるんでしょうね、きっ と。


■情が深いんでしょうね。

aiko:そうなのかな? でも、自分が大事に思う人に対しては、「私の体はちぎれてもいい」くらいに思っちゃうんですよ。たとえば犬を預かったりすると、夜までごはんを食べなかったりするんですよ。1日中犬の世話ばっかりしてて、「あ、ごはん食べるの忘れてた」っていう(笑)。


aikoさんならではのそういうシアワセについての考え方をあらためて曲にしてみようと思ったのは、なぜですか?

aiko:いつもそれがテーマ、という言い方もできると思うんですけど、今回はそれがハッキリと出た感じがしますね。あとはね、これはみん なが感じてることだと思うんですけど、裏切るよりも裏切られたほうがいいと思ってて。たとえばひどいことをして恋人をフッたら、その人は先々、そのことを 思い出して落ち込むと思うんです。でも、フラれたほうは、そのときは死ぬほど悲しくても、ゆくゆくは笑って話せるようになるでしょ。私もそうですもん。学 生時代の失恋話とか、今はネタになってますからね。


■なるほど。

aiko:そういう自分でいたいな、っていう気持ちも入ってるんですよね、この曲には。あとね、(恋人が)寝てるときと車を運転してるときはガン見していいとき、っていうのもあって。


■“隣で眠ってるあなたののどを見て愛おしく感じる”っていう状況が出てきますよね、歌詞のなかに。

aiko:この人のツメって、こんな形してたんや? とかね。そういう細かいディテールを眺めるチャンスって、そんなにないじゃないですか。寝てるときだったら、「何見てんの?」とか言われないし(笑)。


■そういう瞬間に“シアワセ”を感じる、と。恋人との関係以外で、シアワセだなって思うときって?

aiko:いろんなときに感じてますけど、いちばんはライブをやってるときですね。あんなにシアワセな時間はほかにないと思います。バレン タインもクリスマスもいらないです、って思うくらい楽しい。だって、すごい好きな人たちが全部そろってるわけですよ。お客さん、スタッフのみんな、バンド のメンバー……。


■ライブDVDを見てると「こういうふうに歌えたら楽しいだろうな」っていつも思いますけどね。

aiko:ハハハハハ! 良かった(笑)。今回のツアー(“LOVE LIKE POP add. 10th Anniversary”)はすごい走ったりしたから、体力づくりとかも大変だったんですけど、やっと1歩階段を上ったっていう手ごたえがあって。


■では、ライブ以外のシアワセというと?

aiko:えーと、植物とかかな。たくさん植物を育ててるんですけど、夏とかね、1日でニョキニョキって伸びたりするんですよ。水をあげた とたん、パーッと葉が開いたりとか。あとは友だちとごはん食べてるときとか、好きな人が思いがけず、こっちを見ていたりとか。細かいところではたくさんあ りますね、シアワセな瞬間って。


■好きな人との細かい光景を覚えてるんですか?

aiko:覚えてますね。具体的にどんな話をしてたか、っていうのはぜんぜん覚えてないんですけど、そのときに着ていた服とか、どんなメガ ネをかけてたか、とかはわりとハッキリ覚えてて。それはうれしいことだけじゃないんですけどね。悲しいことに対しても、いつまでもネチネチとねたむタイプ (笑)。よく言われますもん、「まだそんなこと覚えてるの?」って。


■何度も話を蒸し返して(笑)。

aiko:そうそう。「それだけ私は悲しかったってこと。だから、そういうところを直してって言ってるの」とか。


■そうやって脳裏に刻まれてるエピソードって、やっぱり曲になっていくんですか?

aiko:なります。日常のなかで覚えてること、夢で見たこととかも。いつも歌詞が先なんですけど、歌詞のなかに出てくる言葉によって、自然とメロディーが決まってくるんですよね。で、とりあえず最初から最後までツルッと歌って、それをカセットテープに録っておいて……。


■え、カセットに録ってるんですか?

aiko:はい(笑)。せめてMDにしてくれ、って言われてるんですけど、嫌なんですよね。(カセットテープを)巻き戻してる時間も大事なんですよ、私にとっては。リズムマシーンとかも使おうと思わないし。


■まったくデジタル化が進んでない(笑)。そういえばインターネットの音楽サイトでインタビューを受けるのも、今回が初めてなんですよね?

aiko:そう、今までやったことがなかったんですよ。


■インターネットが好きじゃない、とか?

aiko:いや、そんなことないですよ。髪の毛を乾かすときなんかに、ちょくちょく見てますから。(ペットの)里親探しのサイトとか、料理のレシピが出てるやつとか、あと、しょこたん(中川翔子)のブログとか。ただ、私自身はぜんぜん詳しくないんですよ。自分のサイトでフォトダイアリーをやらせてもらってるんですけど、それもディレクターにきれいにまとめてもらってて。「添付って何?」っていうレベルですから、私。


■ハハハハハ! いや、いいと思います。

aiko:テレビや映画なんかは、「そろそろビデオはやめて、ハードディスクにしたら?」ってみんなから言われて、新しいものを使ったりしてますけど。曲を作るってことに関しては、まったく変わらず、ですね。


■音楽のテイストも一貫してますよね。たとえば、新しい音楽に触発されて、今までになかったアプローチを試すとか……。

aiko:怖くてできないんですよ、そういうこと。あんまりやりたいと思ったこともないんだけど、変わってしまうのが怖い、っていう感覚のほうが強いので。もちろん、新しい音楽も聴いたりはするんですけど、基本的に好きなのは70年代のものだったりするので。


■好きなものは変わらない。

aiko:食べ物もそうなんですよ。子どものころから好きなメニューが決まってて、たとえばマクド(ナルド)はフィレオフィッシュ、モスは スパイシーモスバーガー、ケンタッキーは和風チキンフィレしか食べたことない。だから、ほら、(テレビの)特番とかあるじゃないですか、改編の時期に。あ あいうのが好きじゃないんですよ。


■いつもと違う! って?

aiko:そう。お正月の空気とかも嫌だし(笑)。


■愛だったり恋だったり、歌のテーマもひとつの方向を向いてて。

aiko:友だち、恋人、親。自分が大事に思っている人に対して、みんなに「愛してるよ」って言うんですよ、私。そういうところは歌にも出てると思うし、ずっと変わらないですね。


■でも、恋愛観は変わっていくでしょ?

aiko:うん、(相手に対する気持ちが)もっと強くなってる気がする。昔は何よりも自分が先だったり、プライドが先走ってたりしたけど、 今は「どうしたら、あなたは笑ってくれるだろう」って考えることが増えてきた。そういう気持ちを相手に伝える、表現することが大事なんだってことも、やっ とわかってきたし。


■なるほど。

aiko:あとはね、好きな人だったり、だれかを思うことって、どんなことがあったとして“一生のこと”って思うんですよね。今生(こんじょう)の別れっていうのはなくて……。


■離ればなれになっても、縁はずっと続いていく?

aiko:「いつかまた会える」って思ってるところはありますね、確かに。ただ、私のなかには「一度別れてしまったら、もうあのころには戻 れない」っていう感覚もあるんですよね。だからね、たとえば高校生のときに付き合ってた人と、同窓会とかで会ったりするじゃないですか。そういうとき、 ちゃんと言えるんですよね。「あのとき実はこういう気持ちで、こういうことを言いたかったんだよ」って話を。


■あのころには戻れない、ということがわかってるからこそ、正直な気持ちが話せる。最後にひとつ。“シアワセ”と思える瞬間が……“何秒”とかではなくて何時間も続く状態って、いつになったら作れると思いますか?

aiko:うーん……。今31才だから、34、35くらいには感じていたいですねえ。でも、まだまだ先でしょうね。今は犬も飼えないですもん、「何かあったらどうしよう」って不安になっちゃって(笑)。